朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~ 作:末末
(`・з・)ノU☆Uヽ(・ω・´)
霧雨の来客──
出来る事をやったつもりだが……さて、満足してもらえるだろうか?
カウンター越しに見る淑女は、穏やかな笑みを湛え、旺盛な食欲を見せてくれている──
(美味しそうに食べてくれているな……料理人冥利に尽きる、というやつだ)
丁寧かつ上品にナイフやフォーク、スプーン。そして、箸を使いながら、旺盛に食を楽しんでいる淑女を、少しの緊張と和やかな気持ちで見守る──
魚と貝の煮込みには、刻んだ香草で香り付けをして、濃い味付けに柔らかな風味を加えている。
野菜は大根のみで、少し多目に。魚と貝より先に煮込み、味を充分に染み込ませていた──
以前、玉子と大根、魚の練り物を“おでん”風にして出したところ、たいそう大根をお気に召し、大根のみをお代わりした事があるのだ。
恥じらいつつもお代わりを頼み、追加の大根が運ばれて来た時の淑女の何とも嬉しそうな顔は、気持ちを温かくさせたものだった──
「魚と貝の煮込み。とても美味しかったです。香草の香りがほど良く合っていましたわ……それと私が、その、大根を気に入っていた事を覚えていて下さったのですね……ありがとうございます」
煮込みを綺麗に平らげた
何とも愛嬌のある笑みに、気持ちが和やかになるのを大将は感じた。
「どういたしまして。次の料理をお出ししても?」
「ええ、お願いしますわ。あと、お酒のお代わりも……オウルリバーの炭酸割りを」
注文を受け、直ぐに酒の用意に取りかかる。
氷は少な目。オウルリバーと炭酸水の割合は六‥四がいい案配だろう。
次の料理は、“大輪の華”──マリネだ。
「まずは、お酒からどうぞ……料理をお出しするまで、こちらを摘まんでいて下さい」
オウルリバーの炭酸割りとともに出したのは、塩を少しばかり多めに塩茹でした白菜。それだけでは寂しいので、彩りの意味も込めて、刻んだ唐辛子を少量散らす。シンプルだが、料理の繋ぎとしては充分な物だ。
オウルリバー炭酸割りを口にし、ふう、と満足げに息を吐く淑女。
次いで、赤色が散りばめられた白菜の小鉢に、微笑みを浮かべながら箸を伸ばした──
大将はその様子を横目で見ながら、保冷庫に入れていた特製ダレの容器と、みじん切りにしたニンニク、そして“大輪の華”を取り出す。
皿に並べた薄切りの魚の白身が身崩れしない様、保湿用に乗せた薄紙を丁寧に取る。
華を一切崩さず、薄紙を取る事が出来、よし、と頷く大将。
「お待たせしました。白身魚のマリネです」
平皿に咲いた“大輪の華”──華の中央には、みじん切りのニンニクが小さく盛り付けられている。
「……まあ、これは……」
大輪の華を見た淑女の瞳が輝く。
「タレをそのままかけてもいいですが、小皿にタレを分けて、刻んだニンニクと一緒に召し上がるのもいいですよ」
特製ダレと小皿をカウンターに置く。
「ううん……箸を付けるのが、勿体無いですわね……」
淑女が、大輪の華を前に、うっとりした表情を見せる。
その淑女の様子を見る大将は、心の内で大きく息を吐いた──安堵の、息だった。
(さて、ひとまずは気に入ってもらえたか。後は……)
しばしの観賞の後、淑女は小皿にタレを分け入れ、少しばかり迷いつつも大輪の華に箸を伸ばした。タレをかけ回す前に、まずはタレに付けて一口、という事にするらしい。
刻みニンニクは使わず、シンプルにタレのみで口にすると決めた淑女が箸を取った。
魚の白身は、フォークでも箸でも上手く掬い取る事が出来る様に、ほどよい厚さに切り分けられている。
その白身を箸で摘まみ、小皿のタレにほどよく付けて口に運んだ──
淑女の顔に、何とも優しい笑みが浮かぶ。
「……とても良い歯応えですね……何といいますか、歯応えの中に舌の上で柔らかく溶けるような──」
もう一度、白身をタレに付け口に運ぶ淑女。歯応えの中にある、柔らかな舌触り。新鮮だからこその味わい。
淑女はそれを充分に感じているという事だ──変わらずの優しい笑みを浮かべながら、マリネを味わっている淑女。
刻みニンニクを器用に白身で包み、口にする──ニンニク独特の辛味と風味を味わう様に、目を細めている。
マリネはすでに半分を残し、ニンニクは無くなっていた。ニンニクを充分に堪能した様だ──「あの……お酒のお代わりを頼めるでしょうか?」
恥じらいつつ、淑女が空のグラスを手に頼んできた。
「はい。オウルリバーの炭酸割りでいいですね?」
「ええ。お願いしますわ」
さっきと同じ様に、氷少な目。オウルリバーと炭酸水の割合六‥四。手早く準備にかかる。
淑女が半分残ったマリネに、さあっ、とタレをかけ回すのが横目に見えた。
「オウルリバー炭酸割り、お待ちどうさま」
運ばれて来た炭酸割りに目をやり、微笑みながら頷く淑女。
頬が、もくもく、と動いている──タレをかけ回した白身を味わっているのだ。
白身もすでに少なくなっている。最後の料理の準備にかかる大将。
最後の品は、グレイオウル領で収穫された野菜と果物のサラダ。
ドレッシングはほんの少しの香辛料と果物の絞り汁を混ぜ合わせた物──香辛料の辛味と果物の甘さがほどよく合わさった味わいのドレッシングだ。
野菜と果物を保冷庫から取り出し、用意した皿に丁寧に野菜と果物を盛り付け、ドレッシングを全体にかけ回す──
タイミング良く、淑女は“大輪の華”を綺麗に平らげ、オウルリバー炭酸割りを楽しんでいた。
目を細めながら、静かに炭酸割りを口にしている淑女に安堵を感じる大将。
「最後は、グレイオウル領で収穫された野菜と果物のサラダです」
サラダを淑女の前に置く。
「……綺麗な盛り付けですね……良い薫りもします」
はあ、と感嘆のため息を吐き出しながら淑女が微笑んだ。
その笑みが、何とも料理人冥利に尽きるのだと、大将は強く思った──
「では、いただきます」
と、淑女がフォークを手にした。