朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~   作:末末

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銀ベロ13回目 外食での贅沢とは

 

 

朝陽食堂の近くで、一人の男が壁に寄りかかり立っていた。

褐色の、鍛え抜かれた体格と整った口髭が特徴的な、グレイオウル領の衛兵隊副隊長リカルドだ。

「……ううむ」

銀ベロを頼む事は決まっている。だが、その前に腹拵えをしたいのだ……。

朝陽食堂は、メニューに無い物も頼めば大概作ってくれる。

だが、以前聞いた話で、ある客が山葵を使った料理を頼んだところ、大将が『出来ない』と云った事があったとか……それから大将は、店に山葵を置くようになったそうだ……まあ、それはいい。

さて、腹拵えの料理は何がいいか……。

 

「おい、あれ……リカルド副隊長だよな?」

「だ、な……何してんだろう?」

若い衛兵二人。早上がりの今日、明日が非番という事で、夕食がてら飲みに行こうと二人して朝陽食堂に足を運んだのだが……そこで見たのは、壁に寄りかかり、険しい目で朝陽食堂を見つめている、副隊長の姿だった。

 

 

 

「……副隊長、何をしてるんですか」

「む……!」

リカルドは、不意の声に目を見開いた。

声の方を向くと、声をかけてきたのは若手の衛兵、狼族のバリーだった。

不覚──考え事をしていたとはいえ、気配に全く気付かなかったとは……むう。

「副隊長、端から見ると朝陽食堂を見張っている様に見えますよ……」

バリーと共にいるのは、人族のテリー。二人共に若手の有望株で、鍛えがいのある若手だ。衛兵としての心構えは充分であり、まだまだ伸びるだろう──いや、今はそういうのはいい。

 

「そうか、見張っている様に……か。誤解だからな?」

肩から力を抜きながら、太い溜め息とともにリカルドが云った。

「何であんな怖い顔で朝陽食堂を睨み付けていたんですか……?」

呆れ顔のバリーが尋ねてきた。私はそんな顔をしていたのか……下手をすれば、営業妨害になっていたかもな──

「副隊長、はっきり言わせてもらうと、営業妨害になりかねませんでしたよ」

くちさがない、テリーの言葉。

む……こうもはっきり言われるとは。反省せねばな──

 

「……お前らも、夕食がてらに一杯やりに来たのだろう?」

照れ隠しの様に、自慢の髭を撫でながら云うリカルド。

「はい。明日は非番ですので、一杯やりながら食事でもと」

テリーの言葉に、同じく、とばかりに頷くバリー。

そんな二人を見ながらリカルドが云う。

「立ち話も何だ。銀ベロくらいは奢ってやろう。入るぞ」

リカルドは部下二人に言い放ち、朝陽食堂に歩を進める。

バリーとテリーは顔を見合わせると、何とも逞しい副隊長の背を追った──

 

 

「通りで、妙に暇だと思ったんですよ」

煙草片手に、大将が苦笑を浮かべながら云う。

「何か変だなーって大将と話してたんだよー」

猫耳をピコピコと動かしながら、シャーリィが呆れ顔をする。

「む……面目ない」

自慢の髭に手をやりながら、謝罪を口にするリカルド。そんな副隊長を、苦笑を浮かべながら見やる二人の若手。

リカルド達は、二人掛けのテーブル席に椅子を一つ出してもらい、三人で座っている。

「構いませんよ。それより、御注文どうします?」

笑みを浮かべながら云う大将に、リカルドが応える。

「まずはこの二人に、銀ベロを頼む。私の奢りでな」

リカルドの言葉に、バリーとテリーがご馳走になります、と揃って頭を下げる。

はい、銀ベロ札ですねー、とシャーリィが札三枚ずつをバリーとテリーの前に並べると、リカルドが銀貨二枚をシャーリィに差し出した──

 

「リカルドさんは、御注文どうしますー?」

銀貨を受け取りながら、シャーリィがリカルドに尋ねる。

リカルドは、酒の〆に銀ベロを頼むのを知っているのだ。

「……そうだな。まずはオウルリバーの炭酸割りを頼む」

あーい、と明るく応えるシャーリィ。

さて、何を注文するかといった風に壁のメニューを眺めるリカルド。

 

(……ふむ。悩みどころだな)

腹拵えをするには、魅力的なメニューが並んでいる。

特に、(ライス)系のメニューに目を引かれるのだ。丼物に定食、腹拵えをするに充分な料理──

いっそ単品料理を幾つか頼み、そこに(ライス)と汁物を注文して、好きに定食を作るという手もあるか……うむ。

自分好みの単品を頼み、そこに米と汁物を合わせる。何とも贅沢なものではないだろうか?

待てよ。贅沢か……外食における贅沢とは何だろうか。高級品? まあそれも贅沢だろう。

だがな、そうではない気もする……ふむ。

ちと大将に尋ねてみるか。外食における贅沢とは何か、と──

 

 

「外食での贅沢、ねえ……」

リカルドの質問に、煙草片手の大将がぷかり、と煙を宙に吹き付ける。

「副隊長は、高級品とはまた違う意味で聞いているんですよね」

大将の言葉に、うむ、と頷き、グラスを呷るリカルド。

「食べたい料理を、好きなだけ頼んで食べる。それも贅沢の一つですね」

「分かっているな……さすが大将だ」

今日のお通しは、やや大きめの肉団子。それを箸で半分に割り、口に放る。

ピリ辛な味付けが何とも酒に合うな……美味い。

さて……ここ朝陽食堂には、魅力的な単品料理はいくつもあるではないか。

それらを頼み、飯を食うか──よし、ならば……。

リカルドが、早速注文に入ろうとした矢先、大将がさらに続けた。

 

「俺が思う、外食の贅沢ってのは、家でも食べられる料理を外で食べる……という事ですね」

ふう、と煙草を吹かし、大将が云った。

バリーとテリーは、グラスに口を付けたまま大将に注目している。

「家でも食べられる料理を外で……か」

むう、と唸り、グラスを一息に干すリカルド。

それを見たバリーとテリーは、思い出した様にグラスを呷り、ふう、と大きく息を吐いた。

「はーい、今日の銀ベロのお任せ料理、一品目だよー」

シャーリィが、二人の前に出したお任せ料理──野菜の炊き合わせだ。

「おお、野菜か……」

二人が呟く様に云った。

肉を欲する年頃であり、若手の衛兵ならばなおさらだろうが、その声に失望感は無い。

 

「美味いな……たまにはこういうのも悪くない」

「ああ、宿舎の食堂だと肉が多めだからな」

人参、大根、椎茸、筍に青菜等が柔らかく煮られた、さっぱりとした味付けの炊き合わせ。

若手二人は嬉しげに目を細めながら、野菜の炊き合わせに舌鼓を打つ。

(野菜の炊き合わせか……それもまた。うむ)

そんな二人を横目で見ながら、オウルリバー炭酸割りのお代わりを頼むリカルド。

 

「だから、そんなに難しく考える事無いですよ」

大将の優しい言葉に、リカルドの肩から力が抜けた。

家でも食べられる、料理か……色々あるが、時おり妻が朝食に出すあれだ。あれにしよう。

 

「大将、ベーコンエッグを頼む。ベーコンは軽く火を通すだけで、玉子は固めでな。それと、飯に何か汁物を頼む」

迷いの無いリカルドの注文に、はいよ、といつも通りに応える大将。

さて、大将の作るベーコンエッグは如何な物か?

 

 

妙に心が浮き立つのを、リカルドは感じていた。




ソーセージエッグ何て物、出す店あるのかね?


( ´-ω-)y‐┛~~
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