朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~   作:末末

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銀ベロ14回目 小鍋とまかない飯の反響

 

 

「大将ー、小鍋仕立て用の鍋って四つだけど、早い者順で作るのー?」

シャーリィが、四つの小鍋をテーブルに乗せた。

四つ共に、黒色の陶器の鍋。大きさは直径約二十四、五センチほど。

「……そうだな。とりあえず先着四名様ってとこから試すか。それと、材料次第かな」

鍋を見ながら、大将が云う。

鍋の大きさから見て、一、二人前ほどの鍋物になるだろう。

 

「よし。小鍋用の食材を見に行くか」

開店まで時間はある。今ある食材でも鍋は作れるが、せっかくの小鍋料理だ。それ用の食材を見てみようと思った。

「私も行くよー。魚か鶏がいいかなー」

いそいそと準備を始めるシャーリィに、苦笑を浮かべる大将。

「戸締まり頼むよ」

大将の言葉に、あーい、と朗らかに応えるシャーリィ。

 

 

大将の足は自然といつもの商店街へ向かう。通い慣れた道だ。

時刻は夕方を少し過ぎた頃。この時間帯の商店街の品揃えは、行ってみなければ分からないというものだ。

大概が売れ残りで、その分安く買える。鮮度は、その日の内に消費するのが推奨されている様な物で、特に肉や魚類がそうだった。

いつもは早い内に商店街に出向き、各商店で品定めをしながら食材を仕入れるのだが、夕方少し過ぎの時間は品定めの時間はそれほど無い。

 

「まずは魚だな……後は野菜か。それとも……ふむ」

小鍋の具材は、シンプルな物が良いだろう。ニ、三品といった所か……。

「よう、大将。今の時間に仕入れかい?」   

常連客である八百屋の店主に声をかけられた。今から仕入れられる物があるかな──と云い掛けた矢先、店主が言った。  

「良い白菜が少し残ってるよ?」

「うん、貰おうかな」

店主の言葉に即決する。小鍋に使って余れば、酢漬け野菜にすればいいし、煮物にも使える。白菜は便利なのだ。ともかく、小鍋の具材が一つ決まった。

次は魚だな……魚と白菜の小鍋仕立て。もう一品追加するなら、何がいいだろうか?

 

大将の顔に笑みが浮かぶ。こういう風に、メニューを考えている時が一番楽しいのだ……。

 

 

仕入れる事が出来た食材は、白菜に白身魚。そして豆腐だ。

三品あれば、小鍋としては充分だ──

 「シャーリィ、すこし濃い目に鍋用の出汁を取ろうか」

 「あーい、濃い目だねー。つけダレはどうするのー?」

つけダレか……ふむ。鍋の出汁を濃い目にする場合──あっさり目がいいか?

いや、つけダレじゃ無くて柑橘類を使うか。味がくどく感じたら、取り皿に取った具に柑橘類を絞って、爽やかに味変をして貰う……これだな。よし。

 「シャーリィ、つけダレは止めとこう。シュボスがあったよな? それを使おうか」

 「シュボス? あーの酸っぱいやつだよねー?」

顔をしかめるシャーリィ。シュボスの名を聞いた瞬間に、あの酸っぱさが思い浮かんだのだろう。

シュボスの実。濃い緑色の果実で、大きさは手のひらにチョコンと乗るほど。夏は甘味が強く、冬は酸味が強くなる果実だ。

 

 「あたしはちょっーと、苦手だけどねー」

保冷庫から、シュボスの実を四つ出すシャーリィ。

鮮やかな緑色の果実。鮮度の良さが見て取れた。

 「今の時季、酸っぱいからな。酒の割りか、刺身とかマリネに使うくらいかな」

 「ふーん……大将ー、出汁を取る準備始めるよー」

シュボスの実をちらりと見て、水を張った鍋に火にかけるシャーリィ。

 (鶏ガラで出汁を取って、濃い目の塩味にするか……)

小鍋塩出汁仕立て──限定四名の小鍋料理が決まった。

白菜に白身魚。そして豆腐が具材のシンプルな鍋。

鍋の〆は……まあ、いいか。小鍋は飯や麺を入れての〆にするには合わない。

小鍋は、酒をちびりとやりながらつつくのが、本来の楽しみ方だ。

少し贅沢を云うなら、いい女と差しす指されつで静かにやるのが、粋ってものだけどな──さて、この世界で小鍋仕立ては通用するだろうか……?

 

 

 「ねえ大将。デュワンの棟梁がつついている小鍋?何だけど、あれは──」

 「ああ、すまないね。もう品切れなんだよ」

お試しの限定四人前で出した小鍋で、もう終了したと云う事を何人もの客に告げる事となった……やはり、呑兵衛共は目敏かった──

熱燗をちびりとやりなが鍋をつついている、“ 石と木の砦(フォートオブストーンウッド)”の棟梁、デュワン。

目を細め、満足そうに小鍋を楽しんでいる貫禄ある初老のドワーフの姿は、呑兵衛共から見て何とも様になっていた。

が、それはそれとして──

 「……もう具材は無い、という事か?」

未練がましい目をデュワンと小鍋に向けながら、オウルリバー炭酸割りを口にするグレイオウル領の衛兵隊副隊長リカルド。

 「少しだけ残っていたけど、鍋にするほどじゃなかったんでね。米と一緒に煮込んで雑炊にして、まかないにしたよ」

 「濃い目の出汁で煮込んだ雑炊、美味しかったなー。あのまかない、メニューに出したらー?」  

飲み屋のまかない飯──大将とシャーリィの会話に呑兵衛共が惹きつけられた。

 

「まかないをメニューには出来ないな。あれは客に出す様な物じゃないよ」

大将は、“前世”の事を思い出していた。

色々巡った飲食店で、店のまかないを特別メニューとして出している店があった事を……まかないなんてのは、金を取る様な物では無い──

 

 「まかない飯、か……気になるな」

鍛冶屋ブレイズハンドの親方、ドルヴィスが蜂蜜酒(ミード)の炭酸割りを呷り、云った。

 「大将、まかない飯というのは、他にどういった物があるんですか?」

商人ギルドの職員ロスが、オウルリバー炭酸割り片手に大将に尋ねた。

 「うん? どんなのって云われてもなあ……まかないは余った食材や早く使わないといけない物で、ささっと作る物だからその日その日で決まってないよ」

 「前に食べたハムポテトサンドとー、照り焼きササミ丼、美味しかったなー」

パタパタと尻尾を揺らしながら、楽しそうに云うシャーリィ──メニューに無く、初めて聞いた(少なくともこの店では)料理に呑兵衛共はざわめいた。

 「……ふむ。そのハムポテト──」

 「リカルドさん、材料無いのは出来ないんですよ。あと、照り焼きササミもね。スイマセンね」

大将の無慈悲な宣言に、呑兵衛共から悲嘆のため息が上がる。

 「あとね──」

 「シャーリィちゃん、それくらいにしときな」

まかない飯の魅力をさらに語ろうとする猫娘に、釘を刺す様に云う大将。

 

 

 「ふう……大将、小鍋は充分に堪能させて貰った。熱燗とこれほど合うとはなあ……ありがとよ」 

常連客達のごたごたを、他人事の様に聞いていたデュワンの棟梁が、くい、と杯を干して云った。 

 「そう云って貰えると嬉しいね。シュボスの実はどうだった?」

 「うむ。あの酸味がほどよく口の中を爽やかにしてくれたのでな、濃い目の味が気にならなかったわい」

それでな、とデュワンは徳利をつまみ上げ、猪口に酒を注ぐ。

 「さらに酒が進んだ訳だ……大将、もう一本付けてくれ」

徳利を振るデュワンに、はいよ、と応える大将。

 

大将と棟梁のやり取りに、何か釈然としないものを感じながらも、呑兵衛共にはある種の納得という物があった──

 「……棟梁は、まかない飯には興味無いのか?」

誰が云うとも無く、デュワンに尋ねた。

 「無いわけではないがの、大将が客には出せんと云っておるのだ。ならば仕方あるまい?」

デュワンの正論に、呑兵衛共は納得する……。

 

 「どうしても“まかない飯”が食べたければ──」

大将が、煙草に生活魔法で火をつけて吹かす。

 「うちで働くしかないなあ」

にやりと笑う大将。にひひ、と笑うシャーリィ。

 

 




 まかない飯をメニューに出している店。
どれくらいあるんだろうか?


( ´ー`)y-~~
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