朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~   作:末末

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銀ベロ15回目 朝陽食堂と奇妙な魔術師

 

 

 「大将、明日何ですが、少し変わった客を連れて来ます。テーブル席の予約お願い出来ますか?」

 “魔導卿”──ラーディスの若が、昨日夜半に二名席の予約を取りに来た。時間は、開店に合わせてとの事。

珍しいな、と思いながら了承したのだが──若が連れて来た客は、想像以上に変わっていた(・・・・・・)

 

 

 「うん? お主。あれか、転移──」

 「大将、オウルリバー炭酸割りを二つ。つまみはお任せで頼みます。あと、酢漬け野菜も」

洗いざらした濃い灰色のローブに、同色の旅人帽(トラベラーズハット)。瘤だらけの木の杖──魔術師然とした、褐色の肌の年齢不詳の男性を伴ってやって来たラーディス。

 その魔術師は席に着く前に、大将の顔を見て開口一番に極少数の人間しか知らない事を言い放とうとし、ラーディスはそれに言い被せる様に注文をした。

 「オウルリバーか。うむ、あれは良い酒だ」

ラーディスの注文に、直ぐに気を逸らされる魔術師。

魔術師は席に着くと同時に、旅人帽(トラベラーズハット)をテーブル下の手荷物入れに無造作に放り込み、瘤だらけの木の杖を壁に立て掛けた。

 

 あとの事になるが──帽子と杖を忘れて店を出て、 シャーリィに届けられたものの、「私のではない」と頑なに言い張り、ラーディスとシャーリィが納得させるのに、多少の時間を要する事になる──

 

 

 「ふむ。グレイオウル領か。相変わらず精霊(・・)の力が強いな。大地、湖、森……お主の父御(ててご)、灰色の翼に包まれておるしなあ」

わっははは、と何とも嬉しそうに笑う魔術師。

 「まどーきょー、お酒と酢漬け野菜お待たせー!」

尻尾をパタパタ揺らし、満面の笑みを浮かべたシャーリィがやって来た。

 テーブルに、酒と酢漬け野菜を並べると同時にラーディスにしがみつき、頭を擦り付けながらクルルと喉を鳴らすシャーリィと、その背を優しく撫でるラーディス。その様子を、微笑ましく見る大将と呑兵衛達──

 

 「ふむ。大分に愛されとるな、魔導卿よ」

わはは、と笑い、炭酸割りを呷る魔術師──ラーディスに抱きつくシャーリィを見る魔術師の顔から、茫洋とした表情が消え、慈しみがその顔に浮かんだ。

 「ふむ……第二夫人、な。愛は勝つというが……さあて? うむ、よう漬かっている様だな」

玉ねぎの酢漬け野菜に箸を伸ばし、パリパリと食べる魔術師。

 「ぎにゃッ……!?」

第二夫人という言葉にシャーリィが目を見張り、微かに叫んだ。

大将は煙草を咥えたまま微動だにしない──

 「第二夫人……? 何の話です、老師よ」

不審げに云うラーディスの手の中で、グラスの中の氷が鳴る。

 「うむ。強いていうなら、ささやかな野心だな……それより大将、煮込みがいい頃合いではないか? あと、酢漬けのお代わりをな」

魔術師の言葉に、我に返ったように煙草を揉み消して煮鍋に向う大将。

ラーディスに未練に残しながらも、客に呼ばれて忙しなく戻って行くシャーリィ。

 

 「酢漬け野菜が美味い店に外れは、無い……とは良く云ったものだな。うむ」

ほどよい喧騒に満ちている店を見回し、酢漬け野菜と炭酸割りを機嫌良く口に運ぶ魔術師。

 (第二夫人、なあ……何の事やら。ま、いい……)

 「老師、今宵はゆっくり()りましょうか」

 「うむ。いい酒のつまみが期待できそうな店だ。魔導卿、注文はお主に任す」

酢漬け野菜を全て平らげた魔術師が、グラスを干す。

 「大将、煮込みと酢漬け野菜の追加を。あと、酒のお代わりを頼みます」

ラーディスの注文に、あいよ、と気安く応える大将。チラリと魔術師に目をやる──魔術師はニコニコと、機嫌良さそうに店内を見回していた……。

 

 (得体がしれない人だな……ってのは、失礼かな?)

頭を切り替え、改めて今日の煮込みを味見する──

 (良し。いい具合だ)

今日の煮込みは味噌仕立て。具材は大根、豆腐、皮付きの鶏肉のシンプルな物。器によそったなら、その上にネギを少々散らすのだ。

味噌出汁で時間をかけて煮込んだ、我ながら上出来な品だ──さて。呑兵衛達と、奇妙な魔術師殿の口に合うだろうか?

 

 

 「そしてな、私は奈落の貴族(ヘルマスター)に、こう言ってやったのだ。『お前は次に、これもキサマの手の内か、と云う』とな──」

ショットグラスに満たされたウィスキー、オウルリバーの十年(一般的で求めやすい値段)をグッ、と呷る魔術師。

 「そしてあやつは、言った──『この結界! キサマの手の内だったのか!!』と……そして私は──」

パァン! と手を打ち鳴らす魔術師。その音に、数名の酔客がピクリ、と身を震わせた── 

 「張り巡らせていた結界を閉じ、地獄の騎士(ヘルナイト)を結界に押し込め、地獄に送り返したのだよ……」

んっふっふっふっ、と不敵な笑いをする魔術師。

 「ん? 奈落の貴族(ヘルマスター)じゃなかった?」

冒険者の声に、魔術師が応える──

 「まあ、同じ様なものだ。大差あるまいよ……いや、違うか……?」

ふむ、と考え込む素振りを見せる魔術師に、ラーディスが云う。

 「違いませんよ。悪魔は悪魔です……それより、結界(・・)とやらについてですが……」

冷やりとした風が、微かにテーブルに流れた。

ラーディス特有の、好奇心の発露に伴う威圧的な冷気だが──

 「ああ、それについては長くなるな。今は酒の席で、皆と酒を酌み交わす時。無粋な質問は後だ後……今宵は気持ち良く酔う時ぞ」

“魔導卿”の威圧をさらりと流し、盃を掲げる魔術師。

 

 「皆、今宵は酔う時ぞ。ここの“魔導卿”に任せると良い……そうだな?」

魔術師の勝手な発言に、ラーディスは苦笑する。

 「ま、仕方ないな……ああ、構わない。皆好きに頼め。酒も食事もな」

店内を見渡し、ラーディスは杯を掲げながら云った。

“魔導卿”の奢り宣言に湧く店内を見て、魔術師が朗らかに笑う。

 「大将、今日は忙しくなるな?」

 「ええ、おかげさまでね」

笑いながら云う魔術師に、やれやれといった感じで大将が応えた。

 

 今宵は長くなりそうだ──いつもより賑やかになる店を眺める大将の顔に、穏やかな笑みが浮かぶ。

 「大将ー、注文沢山入ったよー」

シャーリィの声に、あいよ、と応えながら、他の店から応援を頼むか……と考える大将だった。

 

 





 大衆酒場は良いぞ?

 ( ´ー`)y-~~
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