朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~   作:末末

17 / 17
第219話 武門街──風物詩(お祭り騒ぎ)と滅甲虫(ドゥームボウル)討伐の報酬

 

 

 ノースヒル村を去る際に、先ずは衛兵隊長のジェロームさんに挨拶をする事になった。

 「ジェロームさん、色々世話になったわよ。ありがとう」

レンディアの礼を受け、ジェロームさんは少しばかり慌てたように云う。

 「ああ、やるべき事をやっただけさ。礼には及ばんよ」

実際、ジェロームさんは衛兵のみならず、俺達冒険者を的確な指示で指揮した。ジェロームさんの能力以外に他ならないだろう。

 「村の損害も微々たるものだし、何より村の連中や家畜に被害が出なかったからな」 

ジェロームさんが云う。その口調から、ノースヒル村はほとんど被害を受けなかったのだという事が、充分に分かった──

 

 「ほとんどの冒険者連中は武門街に引き揚げたが、お前さん方は?」

 「そうねえ……昼過ぎには戻るわよ。風物詩(お祭り騒ぎ)の報酬は、参加した冒険者(連中)が全員戻らないと支払われないのよ。最も、その額は今は分からないのだけれどもね」

 レンディアがジェロームさんに応える。報酬か……気にならないという訳では無いが、正直なとこ何の不安も無いんだよな。

 ロングスウォード伯は風物詩(お祭り騒ぎ)には太っ腹と聞いているしな……それと、滅甲虫(ドゥームボウル)の魔石。ラーディスさんが云うところの“魔虫の核”は、かなりの額で買い取るとの通達があったからな。

 

 「お昼ご飯を食べてから、武門街に戻るんだよー」

シェーミィの明るい声に、ジェロームさんが笑みを浮かべる。

 もちろん、あの店(・・・)だ。シェーミィは特に気に入り、武門街に戻る前に立ち寄ろうと云ってきた。

 「今から行くのだけれど、ジェロームさんも一緒にどう?」

レンディアの誘いに、ジェロームさんは村中央に設置されている時計を見た。

 「お誘いは嬉しいが、今から魔術兵達と滅甲虫(ドゥームボウル)の素材と雪甲虫(スノーボウル)の魔石を選別しなきゃいけないんだ」

 そうか、“魔虫の核”以外の素材も扱いが難しいらしいな。何しろ大物だったから、素材を下手に扱えないのだろう……まあ、あの店(・・・)に行ったら店員さんや女将さんに、堅物として見られるだろうからな。理不尽な話だけど……。

 

 ジェロームさんと別れ、店に向かう。

 「じゃあ、またね。ジェロームさん」

 「……ああ、またな」

レンディアとジェロームさんが、改めて挨拶を交わす。

 短い付き合いだったが、気持ちが通い合ったのだろう。それは俺達“碧水の翼”も同じだ──

 「お腹空いたー、行こー?」

シェーミィの明るい声に、ジェロームさんが苦笑する。湿っぽくなりそうな気配が消し飛ぶ。

 「さて……私達は行くわ。元気でね、ジェロームさん」

 「ああ、“碧水の翼”に武運あらん事を」

ジェロームさんが敬礼で応えた。衛兵もまた、軍人なのだ。  

 「そうだ、忘れるところだったわよ。ジェロームさん、前に差し入れをする約束したわよね? 近い内に届けるから楽しみにしといてね」

 レンディアが、微笑みながらジェロームさんに云った。

 差し入れの約束か……そういえばレンディアが云っていたな。雪甲虫(スノーボウル)の魔石を回収してくれた礼をしないとね、と──

 「そんな事云ってたな……楽しみにしてるよ」

ジェロームさんが、ぎこちなくレンディアに応える。

 

 じゃあまたねー!! とシェーミィが明るく手を振り、ジェロームさんも笑みを浮かべ手を振り返す。

 別れは笑みで、か……さて、ノースヒル村の滞在も終わった。ふざけた風物詩(お祭り騒ぎ)も終わりだ。

 この後の予定は、武門街に戻って報酬を受け取り、ヒルダに会う。そして、いよいよ暗黒都市ダーンシルヴァスに向かう事が決まっている──

 

 

 去って行く“碧水の翼”をしばし見送り、ジェロームはため息を付く。あれだけいた冒険者達もあらかた戻って行った。村の雰囲気も、少しばかりの余韻を残しながらすでに日常に戻りつつある──

 風物詩(お祭り騒ぎ)後に残るのは、妙な寂しさ……毎年、そうなのだ。住民達もその事は分かっているだろう。

 ……さて、仕事はまだ残っている。幸い田畑等に被害は無く、住民達は衛兵と共に雪甲虫(スノーボウル)と滅甲虫(ドゥームボウル)が踏み荒らした道の整備に取り掛かかり始め、避難した家畜を戻す等している。

 「隊長、魔術兵の滅甲虫(ドゥームボウル)と雪甲虫(スノーボウル)の素材選別が終わったそうです。検分をお願いしたいとの事」

 「ああ、直ぐ行く」

部下に応えるジェローム。ふと空を見上げると、冬晴れの空が清々しく感じられた──

 

 

 後日──レンディアの差し入れが届いた。ノースヒル村の衛兵達に行き渡るには、充分過ぎる酒樽。

 「呑みきるのに、何日かかるかな……」とは、食堂に運び込まれる酒樽を前にした、ジェロームの言葉だったという。

 

 

 

 いつもの(・・・・)店で昼食を済ませた際に、思った通りの事が起きた。

 「……もう、戻るんですね……」

俺の前に立つ店員さんが俯きながら云う。多分、涙を見せまいと顔を伏せているのだろう……その涙声に、妙な罪悪感を感じてしまう。

 というか女将さんや他の店員が、温かい目で俺と店員さんを見ているこの状況……何だこれ? 

 ちなみに、レンディアとグランさんは半ば呆れ顔のまま微笑みを浮かべ、シェーミィは大あくびをしている。何の興味も無いんだろうな……猫め!

 

 「はい、武門街に戻って風物詩(お祭り騒ぎ)の報酬を受け取らなければいけないんです──」

 「また……ノースヒルに……?」

俺の言葉に被せる様に、店員さんが尋ねてきた。

 どうかなぁ。ロングスウォード領を拠点にするならともかく、今現在の“碧水の翼”の拠点は帝都だからな。ここノースヒル村にまた来るかと、云われたら……。

 「縁があれば、また逢う日があります。それまで、お元気で」

 ここまでは、良かったんだが……邪神(親父)の加護が発動した──

 

 

 予定通り、昼過ぎに武門街に向かう。到着は夕方になるとの事だ──

 揺れの少ない六人乗りの馬車の中は快適だ。スペースも充分にあり、ゆったりとした空間なのだが……俺は今、レンディアとグランさんからちょっとした小言を受けていた。

 「……クレイ、あんな娘(店員さん)にああいう事したら、一生ものの想い出(・・・)になるわよ?」

 「レンディアの云う通りだ。あんな事をされたあの娘がどんな顔をしていたか、分からなかっただろう?」

 二人の呆れ顔を前に、俺はただ黙っているしかない……邪神(親父)の加護が発動した後、俺が何をしたか?

 二人があんな事というのは、店員さんをそっと抱きしめた事だ。ただそれだけ。ただそれだけだったのだが──

 何故か知ってもいない(・・・・・・・・・・)店員さんの名前を言い、耳元で改めて別れの言葉を告げた──何と告げたのかは、思い出したく無い。邪神(親父)め!!

 「行く先々であんな事していたら、あれよ。また、変な通り名付くわよ」

 「レンディアの云う通りだ……もう少し、あれだ。うん」

 変な通り名って何だよ……グランさんの歯切れの悪い言葉も気になるし──邪神(親父)め!!

 

 レンディアとグランさんの小言を他所に、席に丸まりすやすやと寝入るシェーミィがくわぁ、と欠伸をした。

 その姿に、俺も眠気を誘われる。武門街の到着まで、もう少し掛かるだろう……俺も少し眠るかな──

 

 

 

 

 武門街に到着した俺達は、直ぐに冒険者ギルドに向かった。

 風物詩(お祭り騒ぎ)は参加した冒険者全てが集まらないと報酬額が提示されないからだ──レンディアは、少し用があるといい、後からギルドで合流する流れになった。

 

 

 冒険者ギルドは思った通り賑わっていた。その賑わいを他所に、ギルドマスターのアルバートさんが書類を手に、副ギルドマスターのセリオスさんと二階に続く踊り場で話込んでいる。

 「よお」

 “疾風の牙(ゲイル・ファング)”の長兄ヴァルガスさんに声を掛けられた。

 「うん? 一人なの?」

ヴァルガスさんの背後を見て、レンディアが云う。

 「ああ、兄貴が話を聞いて来てくれとよ。まあ、正直云うと二人ともへばってんだ」

 「中々に無茶をしたらしいな。衛兵達が云っていたのを聞いたよ」

グランさんがヴァルガスさんに云った。その言葉に肩を竦めてヴァルガスさんが応える。

 「オルヴルの奴は、誰かさん(暗黒騎士)の隣で張り切り過ぎて酷い筋肉痛になってんだ。ミーシャもミーシャで、群れて来る雪甲虫(スノーボウル)相手に暴れ回って同じく筋肉痛だ」

 やれやれと微笑むヴァルガスさん。その笑みに、長兄としての思いやりの様なものが見えた──兄妹仲、良いんだろうな……ふと、前世の家族の事を思い出す。

 

 

 「……よし、皆集まったみてえだな」

アルバートさんが書類から目を離し、踊り場から俺達冒険者を見やる。

 「今回の風物詩(お祭り騒ぎ)の報酬が決まった。一人当たり、金貨二十枚だ」

 冒険者達の少しの沈黙──そして、どよめきが起こる。破格の報酬といってもいい。

 「この報酬は、ギルドとロングスウォード伯からのもんだ……それとは別に、追加報酬がある」

アルバートさんが、ふう、と一息付くと云った──

 「“魔導卿”からの追加報酬何だが……お前ら、腰抜かすなよ。一人当たり(・・・・・)、金貨百枚だ。もう一度云うぞ……金貨、百枚だ」

 金貨百枚──アルバートさんの言葉に、ギルド内が沈黙した。

 異例の報酬額。引退を考えてもおかしくない程の額だった──

 

 

 ざわめきというより、もはや大騒ぎとなっているギルド内。

 それはそうだろう、金貨百枚はあまりにも破格の報酬だ。帝都内は難しいにしろ、郊外や帝都領内に小さな土地家屋を買えてもおかしくは無い程の金額。

 「これはな、“魔導卿”が滅甲虫(ドゥームボウル)の魔石を買い取った額から出たもんだ。それをノースヒル防衛戦に参加した連中で、きちんと分けろとの事だったんだ。よし……騒ぎもいい加減にしな!!」

 アルバートさんがピシャリと云うと、ギルド内の騒ぎが少々落ち着いた。その横でセリオスさんが苦笑を浮かべている。

 

 今だざわついているギルド内。俺達とヴァルガスさんは、喫茶室に移動する。報酬受け渡しで混んでいる受付けカウンターから離れたかったのだ。

 「……そういえばレンディア。ギルドに来る前、用があると云ってたよな。あれって──」

 「そうよ。報酬について兄上(魔導卿)と話を付けたのよ」

俺の疑問を読んだレンディアがさらりと云い、ティーカップに口を付ける。

 グランさんとシェーミィ。ヴァルガスさんもレンディアを見た。

 三人共に、何か呆気に取られた表情を浮かべ、カップを手をしたまま身じろぎ一つしていない……。

 「皆から預かっていた、滅甲虫(ドゥームボウル)の魔石。兄上が云う所の……ああと、“魔虫の核”の買取値が金貨三千枚だったのよ」

 金貨三千枚──それだけの額で何が出来るか。簡単に想像する事は、冒険者には無理だろう……俺も分からん。

 

 「ここだけの話だけれど──」

砂糖をまぶした焼き菓子を摘みながら云うレンディアの言葉は、中々に衝撃だった。

 レンディア曰く、ラーディスさんは金貨三千枚をそっくりそのまま“碧水の翼”の口座に振り込もうとしていたそうだ……いや、アカンやろ。

 「……グッ、フ」

ヴァルガスさんが茶を吹き出しそうになり、シェーミィは焼き菓子を咥えたまま動かなくなった。

 「いくら何でも……それは、なあ……」

呆れ顔のグランさんは、手にしたカップを受け皿に置き、云った。

 「ま、そういう訳でノースヒル防衛戦に参加した冒険者達に分配しましょうよと云ったのよ。少々足りない分は、兄上が出したわよ」

 焼き菓子を上品に摘みながら、レンディアが何でも無い事の様に云う。

 それを見て、俺達も改めてお茶と茶菓子に手を付けた──

 

 騒ぎが収まり、静かになった受付けカウンターに向かい金貨百枚(破格の報酬)を受け取る──直ぐに、グランさんがパーティー口座に入金の手続きをした。

 俺達の手持ちにしたのは、金貨二枚。こんなものだろう。

 「入金前に、二人(妹弟)にこれだけのお宝を見せてやらないとな」

 ヴァルガスさんが、金貨の詰まった袋を宙に放り投げ、指先で摘みながらくるりと懐にしまった。

 「また会おうぜ。“碧水の翼”」

ニイッ、と牙を見せながらヴァルガスさんが去って行く。

 

 「さあて、と……この後は?」

ヴァルガスさんの背を見送りながら、俺はレンディアに尋ねる。

 「ヒルダの様子を見に行きましょうか。その後、ダーンシルヴァスに向かうわよ」

 レンディアの言葉に俺達は頷く。暗黒都市ダーンシルヴァス──暗黒神のお膝元か……そう思った瞬間、妙な感覚と同時に声が聞こえた──“我が甥よ、待っているぞ”、と。

 グランさんを見やると、首を傾げていた。聞こえたのだろうか? 今の声が……まあ、いい。

 今から俺達はヒルダに会いに行き、近況を話し合う。

 その後、ダーンシルヴァス神王国に向かうのだ──

 

 





 感想あれば、どぞ。

 ( ´ー`)y-~~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。