朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~   作:末末

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銀ベロ4回目 熱燗と貝の酒蒸し

 

 

「ええと……何だったか。ほれ、あの醸造酒の飲み方よ。冷える夜には、何より美味い飲み方の」

銀ベロを頼み、酒の注文をしようとしていたドワーフが、大将に訊ねた。

「……ああ、熱燗ですか?」

煙草片手に、大将が答える。おうおう、それだそれ、とドワーフが云う。

「熱燗、ちょっと時間貰いますよ」

「おう、構わんよ……ふむ、今日のお通しは肉団子か」

大将に応え、お通しに箸を伸ばすドワーフ。肉団子は柔らかく、すうっと箸で切り分けられる。

肉団子を口にするドワーフの顔に笑みが浮かぶ。

「お通しの良くないところは、お代わりが出来ないという事だな」

甘めのタレが絡んだ肉団子を、何とも美味そうに食べるドワーフを、微笑ましく見る大将。

 

石と木の砦(フォートオブストーンウッド)”──グレイオウル領にある、老舗の工務店。

その工務店の棟梁、デュワン。陽に焼けた、どっしりとしたビア樽体型。ドワーフのお手本の様な筋肉質の体付き。

太い眉をした厳つい顔付きだが、瞳には柔和なものを湛えている。

髪はつるりと剃り上げており、胸元まで伸びた豊かな茶色の髭を、二つの三つ編みにしている。歳は百五十ほど。ドワーフとしては、中年期を越えた初老だ。

ドワーフの人生の折り返し地点を迎えたデュワンは、半分隠居状態となっているが、今だ現役時代と変わらぬ体力と技術を保っている。

デュワンが現場に出る事は少なくなっているが、大きな案件の際には、棟梁として現場に出る事も珍しく無い──

 

「棟梁、熱燗お待ちどーさまー!」

猫族の娘が、デュワンの目の前に、盆を運んで来た──盆の上には陶器製の、首が細く、下部が少しばかり膨らんだ酒の入れ物と、指で摘まめる程度の大きさの、同じく陶器製の杯が乗っていた──徳利と猪口という物だ。大将が、これを街の工房に注文した際、説明になかなか苦労した──「おう、これよこれ」

相好を崩し、うきうきと徳利を掴み上げて、猪口に酒を注ぐデュワン。

猪口を持ち上げ、くいっ、と一息に呷ると、デュワンは沁々と息を吐いた。

 

「……いや、美味い。こんな小さな入れ物の一口で、満足出来るとはな」

「薫りと風味でしょうね。他の酒とはちょっと違うんですよ」

大将の言葉に、ううむと唸るデュワン。

「直接、酒を火にかけてはいかんのだったか?」

「ええ、そうすると風味が変わるんですよ。それに、酒精もほとんど飛びますね」

咥えた煙草にパチリ、と指先で火をつける大将。

「それで、酒を入れた陶器を湯煎だったか。なかなかに手間だな。まあ、手間をかけるだけはあるな」

猪口に酒を注ぎ、今度はちびりと飲むデュワン。

 

「はいよ、お任せ一品目お待ち……っと、そういえば、熱燗に似合いの品になったな……貝の酒蒸しです」

デュワンの前に出された一品目。平皿に盛られ、パラリと刻み葱が散らされた、煮汁に浸かった貝だった。

開いた殻から、ぷっくらと肥えた身が見えている──「貝の酒蒸し?……ふむ、いい匂いだな」

デュワンが、身を乗り出す様に平皿を見る。煮汁の薫りが鼻をくすぐるのか、小鼻がぴくりとヒクついている。

 

「貝を手掴みにして、身を吸い出す様にすると食べやすいですよ」

「ほう、なるほどの……では早速」

ゴツい指先で貝をつまみ上げ、ちゅるりと貝の身を吸い込むデュワン。

二、三咀嚼し、飲み下すと猪口に口を付け、酒を干す──「熱燗に似合うと言ったが……うむ、まさにだな。貝の出汁がこんなにも美味いとはな、味もそうだが、何より薫りがよいわ」

何とも嬉しそうに云うデュワン。猪口に酒を注ぎ、くいっ、と呷る。

 

「さて、次の酒は……いや、熱燗もう一本つけてくれ。まだ酒蒸しは残っているからな」

徳利を振りながらデュワンが云う。猫族の娘がベロ札を回収すると同時に──

「はいよ、熱燗二本目ね」

大将が、空になった徳利を回収し、二本目の徳利を盆の上に置いた。

「んむ? ちと時間がかかるのではなかったか?」

デュワンが、訝しげに大将を見やる。

「棟梁のねー、徳利を空ける時間を見計らって、燗を付けていたんだよー。貝の酒蒸しなら、二杯目も熱燗もう一本付けるだろうってねー」

にひひ、と笑う猫族の娘。その言葉に、デュワンが大将に云う。

「酒好きの気持ちはお見通し、という訳か。全く……たまらんな」

妙に嬉しそうに云うデュワン。大将は微笑みながら徳利を手にすると、デュワンの猪口に酒を注ぐ。

すまんの、と礼を云い、猪口を呷るデュワン。

「……美味い」

満面の笑みで、大将に答えた。その笑みを受けた大将も、微笑みで返す。

 

 

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