朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~   作:末末

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もっと料理描写と食事風景を学ばないといけませんな。
そのために飲み歩かないといけない(使命感)。


銀ベロ5回目 月下の仔と厚揚げ鶏そぼろ

 

 

深夜の朝陽食堂は、いつもなら夜の仕事終わりの従業員や店主に、職人に自由業の者達。

そして、夕方から深夜の、深夜勤帰りの衛兵や冒険者ギルドの職員等達で賑わっているのだが──(冒険者は、用がない場合は意外と早寝するので、深夜帯はほとんど来ない)──今日は珍しく、深夜の客は一人も訪れていない。

「大将~、今日は店仕舞いしても、い~いんじゃない~?」

くわぁぁ、と大きなあくびをしながら、猫族の娘が云う。

カウンター席に座り、だらしなくカウンターに身を持たせかけながら、眠たそうにしている猫族の娘。

「……そうだなあ」

そんな彼女に苦笑しつつ、煙草に火をつける大将。

 

壁掛け時計を見る──時刻は深夜をとうに過ぎていた。最後の客が帰ってから、だいぶ時間が過ぎている。

ここ朝陽食堂は、基本的には夕方から朝方にかけてが営業時間だ。

陽が落ち、陽が上がるまで──それが朝陽食堂。 だが、たまには早く店仕舞いをする事はある。

時刻は二時少し。明け方までは、まだまだあるが……「シャーリィちゃん、三時まで客来なかったら暖簾下ろそうか」

シャーリィと呼ばれた猫族の娘が、カウンターに持たれたまま、あ~いと気だるく返事をする。

(平和だねえ……)

苦笑しながら、煙草に火をつける──カラリ。戸が静かに開く。

「今晩は。今夜は良い月夜ですよ」

深夜の、最初の客が訪れて来た。

 

全身黒ずくめの女性だった。艶のある漆黒の修道服。頭部の頭巾、綺麗に磨かれた靴も。恐らく肌着も──唯一、首元のカラーのみが、銀色だった。

黒ずくめの女性は、暗黒神殿に勤めるシスターだ。

身長は高い。修道服の上からでも、肉感的かつ引き締まった体格が、見てとれる──シスターは獣人。灰銀(シルバーグレイ)の毛並みをした狼族だ。

年の頃は、三十を少しばかり越えたくらいだろう。ぱっちりとした目と、長い睫毛が彼女を若く見せている。

その容姿が、年頃の少女の様な可憐さを醸し出していた。

 

「いらっしゃい。シスター・ルュシア。今日は遅いですね」

「はい。今日は……その、どうも、なかなか寝付けなくて」

恥じらう様に云うシスター。微かに顔が赤らんでいる様だ……その様子を見た大将は、ふと思った──シスターが店に入って来た時、“良い月夜”と云っていたな……?

大将は、シャーリィにちょっとした合図を出しつつ、シスター・ルュシアに注文を聞く。

「……そう、ですわね。最近、よく噂に聞く銀ベロというのをお願いしますわね」

ニコリと、可憐な笑みを浮かべながら注文をするシスター・ルュシア。

唇の端から、微かに犬歯の尖端が覗き見えた──

 

「銀ベロですね。一杯目は、何にしましょう?」

「……たまには黒ワイン以外のお酒にしますわね。ええと、オウルリバーの炭酸割りをお願いしますね」

はいよ、オウルリバー炭酸割りね。と応えながら、大将がシスターの前に小鉢を出す。

「お通しの、鶏皮大根おろしです」

お通しは、素揚げした鶏皮に大根おろしを乗せ、酢を強めにした酢醤油をかけ回したものだ──

「……お酢の薫りが、とても良いですわね」

嬉しそうに云いながら、シスターが小鉢に箸を伸ばす。

大根おろしごと鶏皮を摘まみ上げ、口に運んだシスターの顔に笑みが浮かんだ。

 

大根おろしの、さっぱりとした口触りに酢醤油が爽やかな風味をもたらし、揚げられた鶏皮のパリッとした表面と、柔らかな皮の中身の歯応えが、何とも言えない味わいを感じさせる──

 

「お通しでこれだけの物が味わえるなんて、本当に贅沢ですわね……」

よほど気に入ったのか、シスターの箸が進んでいる。

ほんの少しの間、店の外に出ていたシャーリィがいつの間にか戻って来ていた。

「……大将、今日はやっぱり“満月”だよー」

大将に耳打ちする様に、シャーリィがぼそり、と囁いた。

そんな二人の様子に気付く事なく、シスターはお通しを味わっている。

 

やっぱりか──シスター・ルュシアの雰囲気がいつもと違う事に、入店時にすぐ気付いた。

シスター・ルュシアは狼族の中で、少々特殊な“血族”の生まれと聞いている。

曰く──“月下の仔”……月明かりの、特に強い夜に産まれた者の通称。

満月の夜になると、血が昂り、身体能力が上昇するそうだ。

その昂る血と身体能力を制御する為に、相当な訓練が必要だという──通りでな……妙に昂っている訳だ。

 

「はいよ。オウルリバー炭酸割り、お待ちどうさま」

グラスに注がれた、オウルリバー炭酸割りがシュウと鳴る──お通しを平らげたシスター・ルュシアが、両手のひらで包み込む様にグラスを取る。

「オウルリバーは初めてですが……良い薫りですわね。炭酸割りだからでしょうか?」

シスター・ルュシアが、嬉しそうに目を細めながら云う。

「まあ、それもありますね。炭酸が弾けながら薫りを広げているんですよ」

なるほど、と大将の言葉に頷きながら、ルュシアがグラスを呷る──ほとんど一息に、グラスの半分を干した。

(炭酸、強め何だがな……)

強炭酸を、ものともせずにオウルリバーを呷るシスター・ルュシアに、感心とも呆れともつかない感想を抱く大将。

 

「……大将ー、そろそろ厚揚げ、良い具合に温まるよー」

今日のお任せ一品目の様子を見ていたシャーリィが、大将に告げる。

よし、と頷き、大将が一品目の用意に取りかかる──

シスター・ルュシアが、二杯目の酒を何しようかと思案中に、お任せ一品目が運ばれて来た。

 

「はいよ、お待たせ。今日のお任せ一品目です」

シスター・ルュシアの前に置かれた一品目は、刻まれた白菜がぱらりと振られた、少し大きめの豆腐の厚揚げだった。

それを見たルュシアは、何とも嬉しそうに微笑む。

厚揚げは好物なのだ。煮汁に少し浸った厚揚げに箸を通した時、湯気と共に立ち上る豆腐と煮汁の匂いは、たまらなく食欲をそそる──「あら?」

厚揚げに箸を付けようとしたルュシアが、不思議そうに呟いた。

見慣れた厚揚げよりも、少々厚めに感じたのだ。

「気付きましたか。今日の厚揚げ、中に鶏そぼろを詰めているんですよ」

 

──厚揚げ鶏そぼろ。これをつくる際、厚揚げを二つに切り、鶏肉を挟むか。それとも切り込みを入れ、中に鶏肉を詰めるかを少々考えた。

「食べれば同じでしょー?」と、その時シャーリィから言われ、この娘は料理人に向いていないな、と思った今日の一品だ──

 

「ちと、熱いので気を付けて下さい」

「ええ、分かりましたわ」

大将の言葉に頷く、シスター・ルュシア。その目は厚揚げ鶏そぼろに釘付けになっている──

(……ほんとに厚揚げ、好きだねえ)

はふほふ、と、熱い息を吐きつつ厚揚げ鶏そぼろを味わい楽しむ、シスター・ルュシアの姿を見ながら──何とも料理人冥利に尽きる……そう思い、大将は嬉しげに笑みを浮かべた。

 

「銀、ベロ二杯目を、お願いしますわ」

箸を片手に、熱い息を吐きつつオウルリバー炭酸割りのお代わりを注文するシスター。

あいあーい、ただいまーと明るく応えるシャーリィ。

そんなやり取りを見ながら、いい月夜でも見てみるかな──と、煙草片手に店の戸に手を掛ける大将。

 

夜明けまで、まだまだたっぷり時間はある──

 

 




感想あればどぞ。


(`・з・)ノU☆Uヽ(・ω・´)
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