朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~   作:末末

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銀ベロ8回目 新たな飯屋との出会い

 

 

打ち合わせが、こんな時間にまでなるとは……もう食事所は皆閉まっている。

開いている店は、酒場くらいしかない。

酒場でも食い物は出すが、違うんだよな。酒場で腹一杯にはなりたくないんだよ……やはり、飯屋だ。

宿で取る食事もいいが、せっかくなので外食したいんだ。

今の俺に必要なのは、飯屋だ──腹が、減った……。

 

繁華街の喧騒が周囲に溢れ、腹の虫の切ない訴えが喧騒にかき消されていく──飯屋が見当たらないまま、繁華街も端の所まで来てしまった……。

ええい、もうそこらの酒場で済ませようか……うん?

繁華街の中央通りまで戻る気になっていたところ、すぐ近くの店が目に入った。

 

店構えはそれほど大きくない。

店先に掛かる暖簾(のれん)には、“飯処(めしどころ)”の文字……店名では無いっぽいな。

暖簾の間から店内を伺うと、中の喧騒が外にまでよく通って聞こえて来た。

そして、銀ベロと書かれた外看板が出ている。

看板の説明には、銀貨一枚で酒三杯にお任せ料理二品──とある。

少なくとも帝都では聞いた事無いな……お手軽に一杯やれる店という訳か。

うん、よさそうだ……いやいや、今は飯だ。飯。よし、入るぞ……!

 「はい、いらっしゃい!」

 

 

からり、と戸が開き客が入ってきた。

その客は中の様子を伺う様に、ちらりと店内を見回す──初見さんだな。

年の頃は、三十半ばといったところか。きちんとした身なり。スーツ姿。多分商人か宮仕え……いや、宮仕えでは無いな。雰囲気を見るに、堅苦しい印象は受けず、身軽な感じだ。

まあ何であれ、お客さんだ──「はい、いらっしゃい!」

「あーい、いらっしゃーい!」

シャーリィの声かけに少し戸惑う、初見の客。

「あのお……食事出来ますか?」

「大丈夫ですよー。お席に案内しまーす!」

シャーリィの案内を受ける初見の客。

食事を当てにした客か。この時間珍しいな。今の混み具合なら……ラザロさんの横だな。

 

「えとねー……ラザロさん、ちょっとつめてもらえるー?」

出迎えてくれた猫族の店員に、カウンター席に案内される。

その先は、鶴の様に痩せた老人の横だ。

「ん?おお、構わんよ」

老人は、ほいよ、と気安く応えて椅子をずらし、余裕をもって座れる充分なスペースを作ってくれた。

「あ……どうも、すいません」

何の、と黒ワインをちびりとやる老人に軽く頭を下げる。

 

さて……メニューを手に取り、眺めてみる。各種酒類と、豚、鶏、野菜と茸、豚汁の各定食の他に、丼物に豚汁単品……か。

そして、惣菜や酒のつまみになる一品料理が幾つか……うん?

メニューをざっと見ていると、違和感を感じた。ふと、店内を見回す──ああ、そうか。違和感の理由が分かったぞ。

メニューに無い注文をしている客がちらほらいるんだ。

チーズ入り玉子焼きや、イカと玉ねぎ炒めなんてメニューに無いぞ?

 

「お冷やどーぞ。ご注文、何にしますー?」

案内してくれた猫族の店員に尋ねられる。おっと……思わず銀ベロを注文しようとしていた。

「えっと……焼鳥丼お願いします。あと、野菜と茸炒めを単品で頼めます?」

反射的に、焼鳥丼とやらを注文してしまった。本当は、野菜と茸炒め定食と言うところだったんたが……。

 

「野菜と茸炒めの単品、出来ますよー。ご注文は焼鳥丼と野菜と茸炒め、以上ですかー?」

「あ、はい。お願いします」

「あーい、大将ー! 焼鳥丼と、野菜と茸炒めの単品でーす!!」

猫族の店員の声に、はいよっ! と大将が応えた。少しお待ち下さいねー、と猫族の娘。彼女は、他の客の注文を聞くために離れていった──

注文を終えたので一息つけるな……お冷やを手にし、口に含む。

良く冷えているし、何より美味い。さすがグレイオウル領の水。帝国随一の名水の産地だ。

この地で造られる酒が美味いのも当然だな……いかん、飯を食う前に酒が欲しくなってきたが、まずは腹ごしらえが先だ……銀ベロか。

 

「焼鳥丼、お先でーす。野菜と茸炒め、もう少しお待ち下さいねー!」

お冷やのお代わりを頼もうかと思っていた矢先、注文の品。焼鳥丼が先に来た。

 

さて、改めて焼鳥丼を見る。丼に盛られた焼鳥に、その間から見えるぶつ切りの白葱──それぞれには軽く焦げ目が付いている……鳥と白葱を炙り焼きにしたんだな。うん。美味そうだ。

丼物には、小鉢に汁物も付くらしく、小鉢は筍の煮物。汁物の具は鳥肉と大根。

鳥肉が重なったな……まあ、いい。美味いならヨシ、だ。

 

まずは汁物を……うん、いいな。あっさりとした出汁が効いていて、良い味だ。

空きっ腹に優しく染み渡り、何とも暖まる。

次いで、大根を一口。汁に浸って柔らかくなっていると思ったが、中は意外とシャキッとした歯触り。煮込みの大根とはまた違った美味さだ。

次は皮付きの鳥肉。皮はぷるりと柔らかく、肉も弾力がありよい歯応えで、出汁が染み込み美味い。

もう一口汁を啜る……ふう、人心地ついた……さて、いよいよ焼鳥丼だ。

甘めのタレの薫りが、さっきからたまらないんだよな。

では、改めて──「いただきます」

 

 

 (なかなかの、食いっぷりじゃな……)

黒ワインを傾けながら、ラザロは呆れと感心半々の表情で、隣席の客を横目で見て呟いた。

初顔の客。スーツ姿の、身なりの整った三十半ばの男──おそらく、商人。身軽そうな雰囲気から見るに……個人商と見える。

その客は焼鳥丼、野菜と茸炒めを丁寧に口に運び、噛みしめる様に味わいながら食べているのだが、一口一口が多い。

グヮツグヮツと、飯や肉。野菜と茸を頬張り、美味そうに食べる姿は何とも豪快で、見ていて気持ちが良いものだった。

 

食いっぷりに感じ入っていたのか、玉葱の酢漬けを口にして一息ついているその客に──「焼鳥丼と、野菜と茸炒め、美味かったかい?」

大将が嬉しそうに声をかけた。

大将の言葉に、ラザロは笑みを浮かべながらグラスを傾ける。

 

 

焼鳥丼と野菜と茸炒めを平らげ、口直しに玉葱の酢漬け野菜を摘まむ。

良い具合に漬かった玉葱の歯触りと酢の酸味が、口に残る油を爽やかに中和してくれる……ふう、美味かった……腹も充分に満足してくれた。まあ、腹七分といったとこだが。

さて、この後はどうするかな? このまま宿に戻ってもいいけど……あ、銀ベロだ。

そうだよ。飲み屋に来たのだから、酒を飲まないとな。気になっていた銀ベロを試そう。

そう思った矢先に──「焼鳥丼と、野菜と茸炒め、美味かったかい?」

 

大将に声をかけられた。改めて、酒場の主に目をやる──引き締まった体付きをした、穏和な顔付きの五十代少しといった男だ。頼もしさを感じさせる雰囲気をしている──「あ、はい。とても美味しかったです」

ううむ……美味い物への感想がどうも上手く言えないんだよな。

 「そりゃあ良かった。まだ足りなかったら、何か注文していいよ。メニューに無くても、食材があれば大概の物は出来るからね」

大将はそう云うと、厨房に戻って行った。

大概の物は出来る、か……良い意味で、俺を惑わせてくれるな。

まあ、まずは銀ベロだ。お任せの料理が二品付くというしな──よし。

 

 「すいませーん! 銀ベロ、お願いしまーす!」

 「あーい、ベロ一つですねー!」

 

 

銀ベロを注文すると、席に案内してくれた猫族の店員が、嬉しそうに尾を振りながらやって来るのが見えた。

さて、一杯目は何にするかな……。

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