カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

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これが私なりのリョナです!
この辺がゆるふわほのぼのガールズラブコメディとしての限界だと思っています。
カード同士の絆とか愛を感じてくれたら嬉しいです……。



ガチクズのステージ

 

「まだまだ準決勝は続くゼーイ!まずは観衆に恐怖と絶望を植え付けたサイコロリの登場だー!傾奇町の鬼か!?新十区の悪魔か!?いや!世界最高峰の狂気、神引スルメ選手だー!」

 

 最終調整が終わり、バトルアリーナの壇上にあがったら、実況に意味不明なことを言われた。

 鬼?悪魔?私が?なんで?

 

「むむ……なんて不愉快な。事実無根であり、誠に遺憾である」

『妥当な評価だと思うよ……』

 

 なんでじゃい。これから戦うイカれ女の方がよっぽど狂ってるだろうが。

 やれやれと首を振るアホムラにデコピンをくらわせて対戦相手の方を向く。すると、見るからに負のオーラで満ちたイカれ女、公荘が壇上にあがってきた。両腕をだらんとさせて、ゆらりゆらりと身体を揺らしながら歩く姿は、さながら幽霊のようだ。

 

「そして悪魔退治をするのが小売りチェーン『SinEよっしゃ』のご令嬢!親の七光りで入った新十区・区役所で天下を取り区政を乗っ取った暴君!これぞ流行りの悪役令嬢!?公荘レジィ選手だー!……なんか、見るからに化け物じみていて怖いんだゼーイ……」

「クケケケ……イヒヒヒ……コロスコロスコロス……」

「は?あいつが新十区を実質的には支配してんの?マジ?」

『もう終わりだよこの区……』

 

 本当だよ。あんな黒い靄が身体にまとわりついた変人、とっとと追放しろ。

 それにしても、まさかアイツが「SinEよっしゃ」創業者の孫娘だったとは。SinEよっしゃは、ハイパートーキョーの西部で食品スーパーとカードショップを多店舗展開している企業だ。そんな企業の創業家一族の娘が、3年ほど前に新十区の区役所に入職し、職員や区議会の政治家たちを全員カードバトルでボコボコにした、とまとめサイトで話題になっていた記憶がある。この世界、カードバトルが強ければ大体の無茶が通せてしまうので、こういった頭のおかしいハプニングが起きたりするのだ。

 

「あとちょっと……あとちょっとだったのに……」

「……なにが?」

「あとちょっとでッ!トーナメント出場者登録の締め切りがきてッ!登録に失敗したカンナちゃんのお店にッ!不利益処分が出されてッ!路頭に迷ったカンナちゃんを強引に支配する計画だったのにッ!お前のせいでッ!お前のせいでぇッ!」

 

 いや、知るかよ!てか、カンナさんの店に嫌がらせしていた区役所のダチってお前かい!

 そういえば、さっきまで私の応援で大騒ぎだったヤツらがシンとしている。よーく見ると、そこには目立たないようコソコソとスズの後ろに隠れるカンナさんがいた。屈強な男たちも団扇や太鼓で必死に顔を隠している。イカれ女のことが怖いんだ……元ヤンのくせに。

 ダサくて情けない有様に失望していると、さきほどまで俯いていたイカれ女は勢いよく顔をあげた。気のせいか周りの黒い靄が膨張していて、目も赤く光っているような。

 

「ハラワタ引きずり出してブチのめしてやるぅッ!私のターン!ドローッ!」

「あっ……」

『うん……ドンマイ、マスター』

 

 そんな……また先行をとられた……。今度こそ先にドローしようと思っていたのに。

 

「私はノーマルグレードアタッカー【M&A(マーダー・アンド・アサシネイト)真魔マウス】を召喚ッ!」

『なんか怨念のこもった家電だね……心なしか黒い靄もまとわりついているし……』

 

 イカれ女が宣言すると、場に有線コードが血まみれになったマウスがあらわれた。またまた見たことがないカードだ。ホムラの言う通り、イカれ女の周りの黒い靄が何かしらの力を与えていそうだ。カチカチと威勢の良いクリック音がステージ上で鳴り響く。

 

「言うならば……殺人家電?」

「そうよッ!これがメスどもを排除してきた私の栄光の軌跡ッ!カンナちゃんとの愛を深める冒険譚の思い出の証ッ!今日!こいつらをあんたの血で染めてやるわよッ!キヒヒヒヒッ!」

 

 えぇ……怖い。ただAPは400ポイントとそこまで打点は高くない。変な効果とかないと良いけど。

 

「そしてスペル2枚をセットしてターンエンドッ!さぁ来いッ!下劣な泥棒猫ッ!」

「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行。私は手札から【JKガールズ・聡慧のアイリ】を召喚する」

 

 カードをバトルユニットにセットすると、ARビジョン上に三つ編みの眼鏡っ子があらわれた。少し痩せぎすな茶髪の魔法少女は、大きな本を抱えて周囲をキョロキョロと見渡している。自信なさげな表情からは少し陰のある印象を受ける。

 このアイリこそ、シズクがとても気にかけている幼馴染だ。引っ込み思案で自己主張が苦手なアイリは、幼少期から公明正大で冷徹な印象を与えつつも根は優しいシズクの後ろをついて回ってきた。そうしたバックストーリーを反映した効果なのか、【JKガールズ・水麗のシズク】が場にいれば【JKガールズ・聡慧のアイリ】は特別召喚できる。まぁ、手札にシズクがいないので今は発動しようがないのだけど。

 

『おー!アイリじゃん!久しぶりー!』

 

 クラスメイトであり友人だと思っているホムラは、元気よくアイリに声をかけた。すると、びくりと肩を震わせた後、引き攣った笑みを浮かべてホムラに軽く会釈した。たしか引きこもり気質でガチ陰キャなアイリは、明るくてグイグイくるホムラが苦手だったはずだ。

 ただデリカシーのないアホムラは、そんなことつゆ知らずで積極的に絡もうとしてきた。そして幼馴染がビビっているのを知るシズクは、ホムラを幾度となく追い返そうとしている。そうした事情があって、よくホムラとシズクは喧嘩しているらしい。

 

「ファイトシーンに移行。【JKガールズ・聡慧のアイリ】で、【M&A真魔マウス】を攻撃する」

 

 私の言葉を聞いて慌てて駆け出したアイリだったが、焦りのあまりか途中で躓いてしまった。その結果、抱えていた分厚い本がすっぽ抜けて、場に浮かんでいた殺人マウスに激突した。そして衝撃に耐えられなかったマウスはなぜか爆発四散した。こんなのリコール対象だろ。

 【JKガールズ・聡慧のアイリ】はAP700なので、イカれ女のELは3700ポイントに減少した。

 

「ふんッ!場の【M&A】アタッカーが墓地に送られたことで、カウンタースペル【下取り裏離々ズム】を発動ッ!これにより私はデッキからAP500以下の【M&A】アタッカーを特別召喚できる!あらわれよ【M&A来雷ライト】!」

 

 ただ、イカれ女がカウンタースペルを発動したことで、電撃を帯びたデスクライトが出現した。びりびりと電気を散らして威嚇している。こうなると次のターンにハイグレードアタッカーを召喚されてしまいそうだ。カウンタースペルで防御を固めておかねば。

 

「私はスペル1枚を伏せてターンエンド」

「無駄よッ!なんたって私の【M&A】アタッカーが攻撃するとき、相手はカウンタースペルが発動できないからねぇッ!」

「なっ……!?」

「さぁ~てカンナちゃんに張り付く汚物は掃除しなきゃッ!私のターン!場の【M&A来雷ライト】を生贄に捧げて、ハイグレードアタッカー【M&A罵刃バキューム】を生贄召喚ッ!」

 

 イカれ女の場にコードレススティック掃除機が出てきた。掃除機は血まみれのヘッドを激しく上下に振っており、騒々しい吸引音を奏でている。どうやら吸引部には刃がついていて、そこで吸い込んだモノを粉々に砕いているようだ。

 

「ファイトシーンよぉッ!私は【M&A罵刃バキューム】で泥棒猫の出した茶髪のクソメスに攻撃ぃッ!」

 

 攻撃宣言とともに、殺人掃除機が騒音をたてながら空気を吸い込み始めた。竜巻のように強大な吸引力で、ホムラに抱きしめられた私でさえその場に立っているのがやっとなくらいだ。観客席のゴミや誰かがかぶっていた帽子などがドンドン掃除機に吸い込まれていく。

 通常、ARビジョンではカードバトルの臨場感を出すために、アタッカーの攻撃などに合わせて強風や軽い衝撃が発生したりする。当然ながら、これでプレイヤーが負傷することは決してない。

 しかしながら、台風のような衝撃を起こした今の攻撃エフェクトは、いくらなんでも度が過ぎている。現に恐慌状態に陥った観衆が悲鳴をあげながら逃げ惑っている。

 そうした状況下で、【JKガールズ・聡慧のアイリ】は足をとられてしまい、殺人掃除機に吸い込まれていった。そしてヘッドに身体が入った瞬間、この世のものとは思えない絶叫をあげながら大量の血を噴き出した。それはまるで消火ホースから吐き出される水のようで、ステージと掃除機はアイリの血で赤く染まっていく。映像的には世間で放送できないくらいにグロテスクで凄惨だ。

 なんてひどい……人の心とかないのか?それはさておき【M&A罵刃バキューム】のAPは1800ポイントなので、私のELは2900ポイントに減ってしまった。

 

「……場の【JKガールズ・聡慧のアイリ】が墓地に送られたことで効果発動。私は山札から武装カードを2枚まで手札に加えられる。そして相手のELを500ポイント減少させる。これでイカれ女のELは3200ポイント」

「よくあれだけの光景を見ておいて冷静に効果処理できるわねぇッ!だいたいッ!あんなグロテスクな演出これまで見たことがないわッ!やっぱりお前は悪魔なんだッ!お前のせいでみんなおかしくなるんだッ!そうやって私からカンナちゃんを寝取るんでしょこの淫売ッ!許せないゆるせないユルセナイッ!」

 

 だから勝手に寝取った判定をするな!私とカンナさんの間には何もないっての!これ以上、スズに変な疑念を抱かせるようなデマを流すんじゃない!

 というか、久しぶりに言われたな。お前のせいでおかしくなる、か。普通であれば、先ほどのショウタとライバル君の試合のように、カードバトルの演出は子供だましなゲームのようにショボいものになるはずだ。そりゃあ老若男女がプレイするのだから当然の配慮といえよう。

 ところが、どういうわけか私がバトルユニットを使ってカードバトルすると、たちまちエフェクトがリアルでグロテスクになるらしい。パパとママに確認してもらい、念のためメーカー修理にも出したが、原因不明で対処しようがなかった。不思議なこともあるものだ。

 それにしても、気のせいかイカれ女の周りの黒い靄がさらに膨張している気がする。場に伏せていたカードを愛しげに触ると、イカれ女は獰猛な笑みを浮かべた。

 

「この瞬間、カウンタースペル【ナイトメア・トラジェディ・ルイン・ランス】を発動ッ!相手のELが減少したとき、相手の場のカード1枚のコントロールを奪い取るとともに、1000ポイントの直接ダメージを与えるッ!死にやがれクソメスがぁッ!」

「私のスペルがッ!?」

『マスターッ!危ないッ!』

 

 …………え?

 あ、死んだかもしれない。直感的に私はそう思った。

 イカれ女がカウンタースペルを発動した瞬間、黒い靄が巨大ランスのように固まり、私の心臓を目がけて飛んでくる。見るからに禍々しく、風の振動から質量を伴っていることがわかる。身体に刺されば絶命すると確信できるような凶器だった。

 そっか。死ぬ直前ってこんなにもスローモーションになるんだ。

 ホムラがぎゅっと抱きしめて庇っているが、おそらく焼け石に水だろう。あれほどに長い槍先のものが刺されば2人仲良く御陀仏となるに違いない。

 パパやママ、スズ、ホムラなど色んな人との思い出がすべて走馬灯のように頭の中を駆け巡っていく。思い返せば悪くない人生だった。ただ、まぁ何かを忘れている気がする。最近、徐々に薄れていっている前世の記憶とはまた違って、ホムラと出会う前の今世の記憶がすっぽり抜けているのだ。いくら思い出そうとしても無理だ。

 ああ……やっぱり死ぬのは嫌だなあ。痛いんだろうなあ。苦しいんだろうなあ。ぎゅっと閉じた目の端からこぼれた涙が頬をつたっていく。

 

・・・・・・・・・

 

 

 大丈夫。ボクが必ず守るよ。マスター。

 

 

・・・・・・・・・

 

 刹那、耳障りな金属音が鳴り響き、ドスンとステージが振動した。恐る恐る目を開くと、眼前には黒みがかった半透明のバリアが広がっていた。どうやらそれは半球状に私の周りを覆っているようだ。どうやら先ほどのイカれ女による攻撃をはじいてくれたようだ。私の後方に漆黒のランスが突き刺さっていた。目を丸くしてポカンと口を開けているホムラに話しかける。

 

「これ…………ホムラが出したの?」

『えぇっ!?こんな気色悪いもの出せるわけないじゃんッ!てか何これ!?キモイ虫みたいでイヤな感じ~ッ!』

 

 私から離れたアホ女はブルブルと両肩を震わせながら腕をさすって気味悪がっている。

 たしかにバリアに張り付いている地縛霊が何体か見えるし呻き声も聞こえる。強い怨念のようなものを感じる不気味なシロモノだ。

 それなのに、なぜか暖かみがあって懐かしいと感じてしまう。この感覚にはおぼろげながら既知感があった。

 正直、黒い靄による直接攻撃を受けそうになったときは恐怖のあまり足がすくんでしまった。でも、今は対戦相手を倒してやろうという勇気に満ちている。まだ少し怖いけども、不思議と安心感があって精神的に満たされている感覚があった。

 立ち上がってお尻についた埃をはたくと、目の前のイカれ女を睨みつけた。

 

「悪に染まったイカれ女め。カードバトルで成敗してやる」

『お……おぉぉぉっ!!いけいけマスター!ようやく正義の味方っぽいことできるねっ!相棒として鼻が高いよ!』

「やれるもんならやってみなさいよォ!私はこれでターンエンドォ!」

「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行。手札からスペル【ガールズ・エマージェンシーコール】を発動する」

「させるかぁッ!アンタから奪ったカウンタースペル【呪術禁止令】を発動ッ!スペルの発動を無効にして破壊するッ!」

 

 くそ……面倒な。本当は肉壁(アホムラ)を手札に加えたかったのに……。

 だが、手札にはちょうどいいカードが既にそろっている。あのイカれ女に慣れ親しんだコンボを喰らわせてやる。

 

「私は手札からアタッカー【JKガールズ・闇夜のマナ】を召喚。そして場にこのカードが存在するとき、手札からアタッカー【JKガールズ・雷撃のヒカリ】を特別召喚できる」

『あっ……マスターもしや……』

 

 カードを掲げると同時に、思いつめたような顔をしたマナがあらわれた。大人しくて気弱なタイプではあるものの、ここまで暗い表情ではなかったはずだ。対して、幼馴染を守るようにポーズを決めたヒカリは、いつも通り元気溌剌だ。

 すると、愛しの幼馴染が登場したのを見るや否や、マナは大粒の涙をボロボロと流してヒカリに抱きついてしまった。突然、大声で泣き出したのでヒカリも困惑気味だ。

 まぁ、いいや。さっさと効果を発動しよう。

 手札のスペルを使おうとした瞬間、ドンと軽い衝撃を足元に感じた。目線を下げるとそこには、マナが必死の形相で私の足をつかんで首を横に振っているではないか。

 

「……は?なに?」

『お願いします……お願いします……どうかそのスペルは……そのスペルだけは使わないでください……』

「安心して。墓地に行くのは貴女じゃなくてそこのアホ2号だから」

『…………え゛っ!?』

『あー、ドンマイ!ヒカリちゃんっ!』

 

 私の言葉に青ざめるヒカリ。仕方ないじゃないか。貴女の効果があまりにも都合がよいのだから。

 ほら、ホムラもいい笑顔でサムズアップしているし受け入れろ。

 だが私の言葉を受けて、なぜかマナが私の足をつかむ力が増した。

 

「痛いんだけど?なんなの一体?」

『私を……してください……』

「はぁ?」

『私を……!スペルのコストに……!してくだざい゛ッ!』

『なっ……!?』

『マナちゃん、うそでしょ……』

 

 額が地面にめり込みそうなくらいに深々と土下座をしてきた。その哀れな姿にヒカリとホムラは息をのむ。

 マナは鼻水をすすりながら涙ながらに訴えかけてくる。

 

『もう限界ですッ!これ以上、私の目の前でヒカリちゃんを殺さないでくださいッ!こんなのッ!耐えられないッ!私を助けに来たヒカリちゃんが苦しんでッ!痛めつけられてッ!晒し物にされるなんてッ!もうやめてくださいッ!私おかしくなっちゃいますッ!どうかッ!どうかお願いしますッ!お願い……します……!』

『マナ……っ!もういいっ!もういいよっ!』

『うぅ……なんて尊い幼馴染愛なんだ……』

 

 感動のあまり泣き出した2人に触発されてか、観客席から僅かながらすすり泣く声が聞こえてくる。どうやら先ほどのイカれ女による攻撃から立ち直り、残った観衆によるもののようだ。

 なるほど。たしかに感動的だ。お涙頂戴のシーンで、安っぽいポルノみたいになんとも直接的で無意味ではないか。

 私は精一杯の力を込めてマナの顔を蹴飛ばした。

 

『ぐはっ……!?』

『マナッ!大丈夫ッ!?』

「カードのくせに口答えするなカス」

『うん!前言撤回!やっぱりマスターはガチクズの邪悪ロリだ!正義なんてクソくらえだねっ!』

 

 お前はお前でなんなんだよ。勝手に人を正義の味方扱いしたと思ったら、即座に前言撤回しやがって。

 もういいもん。知らない。延々とくだらない茶番で時間を無駄にしやがって。さっさと惨たらしく死ね。

 せっかくカンナさんから貰ったまだ見ぬグロカードだというのに、演出にかけられる時間が減ったらどうしてくれるのか。まぁ、これで邪魔者が視界から消えたので、心置きなくスペルが発動できる。

 

「私は手札から【ハラワタチェーンソーのグランギニョル】を発動!場の【JKガールズ・雷撃のヒカリ】を墓地に送ることで、山札からアタッカー1枚を手札に加えるとともに、相手ELを500ポイント減らす!」

 

 スペル発動の宣言と同時に、どこからともなく飛来してきたチェーンソーがヒカリの腹に突き刺さった。勢いよく血を吐く魔法少女。刹那、エンジンを吹かしたチェーンソーが張り巡らされた回転刃を勢いよく回し始めた。けたたましい轟音とともに、金属のきしむ音と肉を切り刻む音が、メロディを奏で始めた。口から大量の血をこぼしながら痙攣して言葉にならない声をあげるヒカリもあわせて聞けば、さながらオペラのようだ。

 びちゃびちゃびちゃ。

 地面にへたり込んだマナの顔面にヒカリの体液が、チェーンソーの動きにあわせて、ぶちまけられる。それは血液であり、尿であり、胃液であった。それらが入り混じった液体がシャワーのようにマナの顔に降り注ぐ。池から顔を出した鯉のように意志を失ってただただパクパクと口を動かすマナは、そうした汚らわしい液体を受け入れるほかなかった。音も出さずにこぼれていた乙女の涙は、いつしか赤く変色している。

 ぶぉんと音を鳴らし刃を引き抜くと、殺人チェーンソーは私に1枚のカードをもたらして消滅した。それはお目当ての【JKガールズ・炎激のホムラ】で、カード上でなんともいえないアホ面をさらしていた。

 場には横たわったヒカリの死体と、腹部から飛び出た体液と内臓の数々が残されている。放心状態のマナは何度もヒカリの名前を呼びながら物言わぬ死体を揺らしているが、返事はない。

 さてと。私はできる限り素敵なスマイルを浮かべて、ホムラに向かってサムズアップしてやった。

 

「ほら、ホムラのカードが手札に加わったよ!これで次のターン以降に活躍できそうだねっ!」

『喜べるかァッ!最ッ低だよマスターッ!ここまで外道だったなんてッ!もう信じられないッ!』

 

 キーキー怒り出すホムラ。なんだよ、さっきまでノリノリだったじゃないか。一貫性のないヤツめ。人間らしいと言えばそうなのかもしれないけどさ。

 ちらりとホムラから視線を逸らすと、マナが大泣きしながら、地面にぶちまけられたヒカリの内臓をかき集めていた。ポロポロと大粒の涙を流して、小腸などのハラワタを腕に抱えて拾い集めるサマはなんとも哀れだ。そんなゴミ集めたって特殊勝利なんかできないよ?

 不意に会場の僅かな観衆からどよめきが起こった。なんとマナが、ヒカリの内臓を一心不乱に掻き込み始めたのだ。嗚咽を漏らしながらも咀嚼せずに飲み込んでいく。ちゅるちゅる、ずるずると音をたてて。ハイライトを失った目で狂気に満ちた表情で貪るマナは、まるで餌にたかる豚のようだった。うわぁ……。

 

「引くわ……。いくら好きだからって、幼馴染の臓物を食べるとかイカれてるでしょ……」

『どう考えてもマスターのせいだよっ!目の前でヒカリちゃんを何度も惨殺したせいでマナちゃんがおかしくなったんだっ!』

 

 はいはい。私のせい、私のせい。

 そうやって全部マスターである私のせいにして楽しい?違うからね?きっとこれがマナの性癖なんだよ。案外、ヒカリのハンバーグを食べて味にハマったんじゃないの?

 効果処理を終えたせいか、ヒカリの死体がいつの間にか消えていた。幼馴染を失ったマナも悲しくて泣いているだろうと思いきや、なぜか恍惚とした表情だった。

 

『フフ……ヒカリちゃんこれでずっと一緒だよ大好きだよヒカリちゃんもう離さないからねヒカリちゃんねぇヒカリちゃん返事してヒカリちゃんどうしたのヒカリちゃんどうしてヒカリちゃんどこにいるのヒカリちゃん私の中にいるねヒカリちゃんこわいよヒカリちゃんさびしいよヒカリちゃんここにいるのヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃん』

「ホムラ、あのカード壊れちゃった。新しいの頂戴」

『もしかして人の心とかお持ちでない?』

「だって所詮はカードじゃん」

『そっか~、じゃあまずはカードにも心があって人間と同じなんだよってことから学ぼっか~』

「知ってる」

『なら何でこんな酷いことができるのさッ!?頭おかしいのかッ!?この外道サイコパス邪悪ロリッ!』

 

 だからカードに人権はないんだって。

 それに私だってバカじゃない。散々アホムラに詰られたから、ちゃんと今世の両親におかしくないか確認したよ。そしたらママってば「カードは道具」って言うし、パパも否定はしなかったんだもん。つまり、私は間違ってない。

 それにしても、今のマナはだいぶ猟奇的だ。血のついた口元に弧を描き、愛しそうに自分の腹を撫でているのは、おそらくヒカリの存在を感じているからだろう。それって気のせいだと思うけど……まぁ、本人が幸せならそれでいいか。頭のおかしいヤツには何を言っても無駄だ。

 

「効果処理をする。【JKガールズ・雷撃のヒカリ】が場から墓地に送られたとき、相手の場のアタッカー1体を墓地に送り、相手ELを500ポイント減らす」

「だぁれが悪に染まったイカれ女よぉ!お前の方が邪悪でッ!イカれててッ!他人の女を寝取る腐れメスじゃないのぉッ!くたばれぇぇええッ!」

 

 こわ。急に発狂しないでよね。

 とにかく、これでイカれ女のELは2200ポイントだ。そして、血まみれの掃除機が爆発四散したことで相手の場はがら空きになった。

 

「ファイトシーンに移行。【JKガールズ・闇夜のマナ】で直接攻撃。精神崩壊ヤンデレアタック」

『ヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃんヒカリちゃん』

「ぐああッ!クソッ!クソッ!クソッ!絶対にぶち殺してやるッ!クソメスと電波女がぁッ!」

 

 それってどっちが私でどっちがマナに対する罵倒なの?

 まぁ、どうでもいいか。これで相手のELは1700ポイントになった。

 上手くいけば次のターンに決められそうだが、どう出てくるか。

 





いつも以上に1話で色々と盛り込み過ぎました。すみません……。
もしよければ感想などお聞かせください。
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