カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

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もうちょっとだけシリアスな雰囲気が続くかもしれません……ごめんなさい。
一応、どんよりフェーズは次回で終わるはずです……。
ところで、リスペクトしているライバルの技を拝借するのって熱い展開ですよね?ワイトはそう思います。
絵面は、まぁ……良くはないかもしれませんが。



生贄のロープをほどかないで

 

「さっきから心洗わずみたいなツラしやがって!どうしたんだよ一体!カードバトルするときのお前はキラキラしてたじゃねぇか!」

『心洗わず……?』

『心ここにあらず、とおそらく言いたいのだろう。なんてアホガキなんだ、まったく』

「……ショウタは、怖くないの?人を傷つける、カードバトルが……」

「はぁ?何言ってんだおめー」

「だって!さっきの試合では命の危険を感じたッ!カードが私を襲ってきたッ!」

「スルメ……」

「おかしいよっ!世界のすべてがカードバトルで決まって!闇の力まであって襲い掛かるなんて!私はッ……カードが……怖いッ……!」

『マスター……そんな……』

 

 本当は怖かった。カードゲームがすべてを支配する世界が。カジュアルなプレイヤーだった自分が生き残れるとは思えなかったし、世界の命運をかけた展開になったら荷が重すぎると思った。

 

『そうだねマスター。だから恐怖心を隠すために無感情であろうとした』

 

 本当は寂しかった。前世の記憶がドンドン薄れていくのが。家族も友達もみんな思い出せない。もう私がどんな人だったのかも覚えてない。

 

『そうだねマスター。だからもう傷つかないために周りを寄せ付けたくなかった』

 

 本当は嫌だった!前世とは全然違う世界で価値観もおかしいし!何度も周りから変だって言われた!

 

『そうだねマスター。だからこの世界に相応しいキャラクターを演じようとした』

 

 そうだ。きっとこの世界は、カードゲームを売るためのホビーアニメの世界で、私は登場人物の一人に違いない。

 そうでなければ、おかしいじゃないか。前世では所詮お遊びだったカードゲームが、ありとあらゆることの命運を握っているなんてありえない。だからずっと無表情系クールキャラを演じていたのに、トーナメントで闇のカードに襲われたのは、目の前の主人公ではなく私だった。

 この世界が怖い。カードたちが怖い。カードゲームが怖い。

 不安と恐怖と焦燥感で胸がいっぱいになり、どんどん気持ちが落ち込んでいく。

 そんな私を、ショウタの言葉が現実へと引き戻した。

 

「いや……お前の方が怖いだろ。誰がどう見ても」

「………………は?」

「だってそうだろ?誰も思いつかないすっげーコンボ使ってさ、カードを使いこなすんだからな。しかもARビジョンで毎回やべーバトルを見せつけられるんだぜ?圧倒的な力と恐怖!まさに悪夢そのものじゃねぇか!」

『……ぷぷぷ、たしかに!マスターの方が数倍、恐怖の大魔王っぽいや!邪悪そのもの!』

「おい」

『くくく……すまない。だが平然と幼馴染を喰わせるマスターの方が、たしかに邪悪で恐怖の対象だろうさ』

「おい」

 

 なんなんだこいつら。マスターである私があんなに怯えていたのに、バカにして。2人の尻に精一杯の力でビンタを食らわせたら、良い音が鳴った。キーキーと怒る2人を適当にあしらう。

 不思議だ。この感覚、なんだかとても落ち着く。どんよりとした気持ちが少しだけ晴れた気がした。

 

「やっと笑ったな、スルメ!そっちの方が可愛いぜ!」

「はえっ!?」

『すごっ!?このガキ、命知らずすぎでしょ!』

『マスターのあの幼馴染をも恐れぬ唐変木な回答。無知とはここまで恐ろしいものなのか』

 

 観客席にいないはずなのに、どこからか「スルメちゃんに色目を使うなクソオスがあああ!四肢をもいで蟲みたいに殺すぞおおお!」と聞こえた気がした。発言内容はともかく、なんだかいつでもスズが近くにいてくれるような気がして、嬉しかった。

 

「さてオレのターンだぜ!オレはカードをドローして【小さな馬車の魔法使いミレイ】を召喚!」

「は?は?は?」

『うわぁ……なにあれ。今までの鍛冶屋とか修道女が霞むくらいのデカさなんだけど……』

『信じられない……あれが同い年くらいの少女の姿か……?』

 

 魔法使いミレイは、セーラー服を着た高校生くらいの少女だった。おそらく異世界転生がテーマなのだろう。ただ、特筆すべきは胸の大きさだ。もはや奇乳というべきほどに膨張したそれはロケットのようだった。

 

「こいつが場にいるとき、ハイグレードアタッカー【小さな馬車の勇者シュン】を特別召喚できるぜ!異世界召喚された少年勇者よ!恋焦がれし年上の幼馴染とともに不条理に立ち向かえ!」

 

 ショウタの宣言とともに、気弱そうな学ラン姿の少年が登場した。小学校高学年か中学生くらいのシュンは、おどおどしながらミレイの近くに寄った。そんなシュンの頭を、ミレイは愛しそうに撫でた。幼馴染と言っているが、おそらく相思相愛だろう。そんな甘酸っぱい青春のような雰囲気が2人によって醸成されている。

 だが、そんな少年誌ラブコメディ的な世界観を崩したのが、目の前の主人公様であった。

 

「そして場に【小さな馬車】アタッカー2体が場に存在するとき、スペル【魔法使いのコピー・マジック】を発動できる!スペル名を1つ宣言して同名のカードがお前の山札にあれば、そのカードをお前の墓地に送り、オレはその効果を発動できる!」

『なにそれ!?他人のカードを奪うとか泥棒だよっ!?』

「オレが宣言するのは【道連れスーサイド・ロープ】だ!……よし!山札にあるな!オレはこいつの効果を発動するぜ!」

「…………え?」

『おい待て少年!マスターならまだしも!なぜお前にグロテスクなスペルで殺されなければならんのだ!?』

「知ってるか?どんなプレイヤーでも、自由自在に使えるのがカードなんだぜ?なにせカードにはキセンってのがないらしいからな!」

『うわ……熱血バカがグロカード使うのって違和感バリバリで気持ち悪ぅ~』

『い、嫌だ!マスター以外のヤツのスペルで首吊りなんか御免だっ!まだロープの跡が首筋に残っているというのにっ!こんな奴のスペルで上書きされたくないっ!』

「問答無用!カードの効果は絶対だぜ!」

 

 ショウタの掲げたカードから禍々しい縄が飛び出した。意志を持ったそのロープは、場のシズクとミレイに勢いよく襲い掛かる。

 シズクの抵抗も虚しく、首に巻きついた縄は彼女の身体を力強く空中へと吊るし上げた。縄をつかんで必死に足をばたつかせているが無意味だ。少しずつ顔色が悪くなっていき、最終的に藍色の魔法少女は動かぬ首吊り死体となった。

 ロープと爪の跡が生々しく残った首は紫に変色しており、だらしなく開いた口からは舌がだらんと出ている。スプリンクラーのように、股下からは排泄物を含めた様々な汁が放出された。

 ちょろちょろちょろ。

 最初は勢いよく噴出していたのに、命が奪われるとともに、その力は失われていく。水を操る魔法少女が、尊厳を破壊されて汚物をまき散らす姿は、奇妙なことにとても美しいと感じた。

 とくんとくんとくん。

 先ほどまでは冷えていた私の心が再起動する。精彩を失っていた景色が輝き始め、痛々しいほどのビビッドカラーで満ちていく。それはピカソが描いたシュールレアリスムの世界のようだった。頭の中を満たす脳汁が、鼓膜を揺らす心臓の鼓動が、熱さとともに感じる胸の高まりが、私を突き動かす。

 

『ぐっ……ぅ……かはっ、くる……し……たす……け……』

『やめろぉぉぉ!やめてくれッ!このままじゃミレイ姉さんがッ!』

『……ひゅっ……ひゅっ……、にげ……て……しゅ……く……』

『うわあああああああッ!!』

 

 ショウタの場では、悲劇が起きていた。

 昔から大好きだった幼馴染の年上少女が、敵だらけの異世界で唯一の理解者かつ保護者であったミレイが、空中に吊るされ苦悶の表情を浮かべている。それでも、まだ覚醒していない少年勇者には何もできない。

 天を仰ぎ祈るように絶叫するが、それだけでは状況は好転しない。最後の力を振り絞ってミレイは、愛するシュンに語りかける。

 逃げて、シュン君。

 その言葉にどれほどの意味があるだろうか。少年勇者はその使命からは逃れられない。魔王を倒し平和をもたらすまで苦しみは続く。それを分かち合うはずだった愛する少女も、今まさに眼前で奪われてしまった。彼には異世界召喚されたことで与えられた使命以外に、もう何も残されていない。

 力を失ったミレイはだらんと手足を伸ばす。これが死だ。運命の悪戯か、これが少年勇者の初めて経験した離別だった。

 突然ショウタが繰り出したグロコンボに、会場は静寂につつまれる。そして次の瞬間、悲鳴が爆発した。誰かが喉を引き裂かれたような声をあげ、観衆たちは混乱と恐怖に呑まれた。

 

「これで戦闘破壊できないシズクを墓地に送ってやったぜ!まぁ、その代わりオレはELが500ポイント減るし、お前はワンドローできるんだけどな!」

『こいつマジ?幼馴染コンビの悲劇をガン無視して進行してるんだけど……。人の心とかないんか?神引スルメかよ』

「おい」

 

 人の名前を罵倒に使うな。

 抗議の意味を込めて尻を叩いたら、むっとした顔で睨まれた。は?やんのかアホ。

 

「な、なんてこったー!ここでショウタ選手、まさかのスルメ選手の得意技である外道コンボを我が物にしたー!?信じられないんだゼーイ!」

「外道?違うな!勝つための最強コンボだ!」

『えー……何言ってんの、このクソガキは……』

「簡単なことさ!ミレイはAP300ポイントしかないノーマルグレードアタッカーだが、墓地にいる限りは場の【小さな馬車の勇者シュン】のAPを500ポイントアップさせる効果を持つ。なぁ、こういうときスルメならどうする?」

「……【小さな馬車の勇者シュン】を特別召喚するために【小さな馬車の魔法使いミレイ】を場に出して、その後いらなくなればスペルか何かで墓地に送る。だって墓地にいた方が都合のいい雑魚アタッカーだから」

「正解だ!くぅ~!やっぱお前ならそう言うと思ったぜ!」

「大好きなカードを……ぞんざいに扱ってもいいの?」

「勝つためにベストを尽くし、カードの能力を活かしたプレイングをする。それが最高のカードバトルをするためにすべきこと、だろ?お前が教えてくれたことだぜ?神引スルメ!」

「……っ!!」

「プレイヤーの想いや魂がこもったカードでなければ勝てない!そして勝てないカードは苦しみや悲しみを背負っちまう!だから、必ずあるそのカードの使い道を、プレイヤーは必死になって探さなきゃいけないんだ!」

 

 心臓が躍動する。ショウタの熱い想いを受けて、熱意を感じて、胸の奥底が暖かくなってマグマのように感情が沸き上がる。

 

「プレイヤーが信頼していてカードとの絆がある限り、どんな無茶にだってカードは応えてくれる!カードは道具でもないし、恐怖の対象でもない!かけがえのない仲間だ!」

『そうだよマスター!相棒の私と一緒にたくさん戦ったじゃん!あの激動の日々を思い出して!』

「ロープで首吊って……火炙りにして……化け物に喰わせて……」

『あっ……!っすー……、やっぱなしで!これ以上はいけない。ストップ。今までのは全部ロクでもないから、これから新しい素敵な思い出を作っていこう。うん、そうしよう』

「そうだよ!スルメ!お前が愛するカードとなら何だってできる!どんなにグロテスクなスペルでボコボコにしたってお前の勝利のために全身全霊で応えてくれるはずだ!だってカードなんだからな!」

『おいクソガキ!いい加減にしろよッ!グロカードで惨殺されたことないからって無責任なことをほざくなッ!カード虐待は重罪なんだからねッ!』

「虐待?違うな!信頼と絆のパワフルコンボだ!仲間とだからこそできるんだぜ!」

『うそでしょ……この世界のプレイヤーは狂人しかいないの……?スルメまみれじゃん』

「おい」

 

 だから、私の名前を悪口として使うな。

 もう一度、尻を叩いたら私に対してデコピンしてきた。なんて酷い相棒だ。謀反か?

 

「今からお前に見せてやるよ!進化したオレのコンボをな!場に【小さな馬車の勇者シュン】がいて、墓地に【小さな馬車の魔法使いミレイ】がいるとき、手札から【小さな馬車の魔術師ロキナ】を特別召喚できる!来るんだ!傷心の勇者の闇を埋め、依存心と愛を育み、すべてを過去の女から奪い去る異世界の毒婦よ!」

 

 ショウタがバトルユニットにカードをセットすると、ふんわりとした瑠璃色の長髪の少女が、場に降り立った。少し小柄でスレンダーな体形だが、どこか人を魅了する蠱惑的な魔術師だ。

 三角帽子の位置を整え、だぶだぶのローブについた埃を払うと、その邪悪な笑みを深めた。小ぶりな胸をわざとらしく背中に押し付けて、項垂れているシュンの耳元でささやく。

 

『シュンが気に病むことはない。たしかに幼馴染のことは残念だ。でも魔王を倒さない限り悲劇はなくならない』

『オレはどうすればいいんだッ……!教えてくれロキナッ!』

『僕がシュンの導となる。僕がシュンの母となる。僕がシュンの保護者となる。僕がシュンの親友となる。僕がシュンの理解者となる。僕がシュンの……恋人となる』

『オレは……ミレイ姉さんのことが……』

『構わないよ。君の一番でなくたっていい。ただ二番にはなりたい。だから僕と愛し合ってくれるかい?』

『いいのかよ……そんな……っ!』

『仕方ないじゃないか。だってシュンのことが好きなんだから』

 

 はにかんだ笑顔の魔術師は、幼馴染を想い涙を流す少年勇者と、口づけをかわした。舌を絡めて水音が鳴り響く。官能的かつ退廃的に。この瞬間、シュンの心は毒婦に奪われていた。

 抱きしめて背中をさするロキナは、なんとも邪悪な笑みを浮かべていた。無理もない。目障りな幼馴染の女が消えたことで、何よりも欲していた一目惚れの少年勇者を略奪できたのだから。

 

「そして【小さな馬車の魔術師ロキナ】の効果だ!墓地に【小さな馬車の魔法使いミレイ】がいる限り、場の【小さな馬車の勇者シュン】のAPを1000ポイントアップさせるぜ!」

『は?やば……、なにあのカード、マジモンの悪女なの?』

「……これで【小さな馬車の勇者シュン】のAPは2500になった」

「そうだ!愛する幼馴染の死が勇者を復讐へと駆り立て、毒婦の愛が少年を強くする!これがオレの最強コンボだ!」

『モラルとか道徳とかなさすぎだろ』

「そんなものカードバトルには必要ないぜ!」

 

 会場からはどよめきが聞こえてくる。ショウタのコンボ、登場したアタッカー、それらの効果とARビジョン上で繰り広げたドラマ。すべてが普通のカードバトルとは違っていた。

 ふと、来賓席に目を向けるとママが笑顔でサムズアップしている。

 そうだ。カードは道具で、私にとってかけがえのない存在なんだ。

 

「いくぜ!【小さな馬車の勇者シュン】と【小さな馬車の魔術師ロキナ】で直接攻撃だ!これでお前のELは残り100だぜ!」

「……っ!?眩しいっ……!」

『んなっ!?クソガキのバトルパワーが天文学的に増大しているっ!』

「はぁ?」

『しっ……しかも!なぜかあいつらのカードソウルも爆発的に増えてるっ!マスター!』

「これは……いったい……?」

 

 少年勇者と毒婦が、剣とロッドを重ねて強大なビーム攻撃を放ってきた。暖かくて心地よい光に身体が呑まれる。この時、ほんの少しの間だけ、私は別世界へと飛ばされた。

 あのクソ女が封印された世界に。

 

 





次回、悪夢の元凶と直接対決!
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