カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

19 / 31

悪夢から解放されたカスちゃんの本領発揮!
ホムラとのやり取りが終わっているのは平常運転、ご愛嬌ということで……。



狂乱 Hey Psychos!!

 

「おい、スルメ!ボーっとすんじゃねぇ!まだバトル中だぞ!」

「……嗚呼、そうだった。ごめん、意識が飛んでた」

「お前それって大丈夫なのかよ?病院とか行くか?」

「ううん、大丈夫。ちょっと昔馴染みとお話ししてただけだから」

「あん?よくわかんねぇけど、バトル続行だな!オレは伏せていたカウンタースペル【生存者残存利益】を発動するぜ!相手の場にアタッカーがいなくて、自分の場にアタッカーが2体以上いるとき、カードを2枚ドローできる!……よし!オレは2枚カードを伏せてターンエンドだ!」

「ショウタ選手、盤面を整えてターン終了!風前の灯火のスルメ選手、大量の手札に逆転できるカードがあればいいが果たして!?いよいよ決勝戦もクライマックスだゼーイ!」

 

 実況が言うように、私の状況は良くない。【ガールズ・ファイトロッド】や【JKガールズ・聡慧のアイリ】などの効果で沢山ドローできたため、今の手札は9枚もある。だけど、まだエースカードが来ていない。しかもELはたった100ポイントしかなくて場にアタッカーもいない、まさに崖っぷちだ。

 対して、ショウタのELは1300ポイントもあって、場にはAP2500に強化された【小さな馬車の勇者シュン】と、AP700の【小さな馬車の魔法使いミレイ】がいる。しかもカウンタースペルが2枚も伏せられている。さきほどの表情から察するに、こちらの攻撃を妨害するカウンタースペルをドローできたのだろう。

 このドローにすべてがかかっている。最後のピースさえそろえば、私の勝ち。目当てのアタッカーが来なければ、ショウタには勝てないだろう。

 心臓の鼓動が早くなる。ピンチなはずのにドキドキしてワクワクが止まらない。絶体絶命だけども逆転のチャンスが残されている今この瞬間が、カードゲームをやっていて最高に楽しいときだった。

 

「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行」

 

 緊張で震える指に力を込めてドローする。

 一度、目を閉じて一呼吸置く。心臓の鳴る音が鼓膜を振動させている。

 意を決して目を開く。……やっぱり来てくれた。私の最強のエースだ。知らぬ間に随分とカッコいい姿になったじゃないか。あとはしっかりと活躍の場を整えてやるだけだ。

 

『えっと、マスター大丈夫?なんか目閉じてたけど……具合悪い?』

「問題ない。……ごめんねホムラ。心配させた」

『え!?う、うん。えっと、大丈夫だよー。うん?』

「今すっごいピンチなんだけど、任せてもいいかな?」

『……っ!うん、もちろんっ!なんてったって私はマスターの相棒だからねっ!』

「わかった。相手の場にのみアタッカーが存在するとき、私は手札からアタッカー【JKガールズ・炎激のホムラ】を特別召喚できる」

「来たな!スルメのエース!」

「おぉっとスルメ選手!ここでエースカードを戦線投入かー!?まだまだ試合から目が離せないゼーイ!」

 

 私の場には、ドレス姿の天真爛漫な金髪ポニーテールの魔法少女が登場した。魔法少女ことホムラは、その場で1回転するとウィンクして決めポーズをとって魔法ロッドを構えた。

 なるほど。どうやらショウタも実況も勘違いしているようだ。たしかに私の相棒はホムラだが、エースカードは別にいる。そのことを愚か者どもにわからせないといけないな。

 後ろ手を組み身体をもじもじさせながらホムラが近づいてきた。心なしか頬も赤い。なんだ?気持ち悪いな。

 

『ね、ね、ね。やっぱりここで私を特別召喚したのって、フィニッシャー役としての働きをマスターは期待してるんだよね?周りもみんなエースカードって呼んでるもんね?』

「は?」

『ふひひ、照れるなぁ!あの目障りな生ゴミを差し置いて!ついに私が!名実ともにマスターのエースカードになるんだよね!?うひひひ!これぞ相思相愛のカードとプレイヤーの愛と絆だねっ!』

「何を言ってるの?」

『……うぇっ!?だって!さっきアイリが撲殺されたおかげで武装カードを2枚も引けたよね!?それを使って最愛の相棒である私を強化するんでしょ!?そんで私が無双する流れなんじゃないの!?』

 

 私の冷たい態度を目の当たりにしてアホムラは途端に慌てだした。なんて救いようのない阿呆なんだ。

 愚か者どもは無視して、予定していたプレイングを続ける。

 

「ここでスペル【武器商人への売却】を発動。手札の武装カード2枚を墓地に送ることで、自分のELを1000ポイント増やす。私は武装カード【ガールズ・ファイトミラー】と【キリング・デスフレイム】を捨てる」

『ちょっと!?よりにもよってどうしてそのカードを捨てるのさッ!てか!私を強化するんじゃないの!?』

「そんなこと言ってない。そもそも【ガールズ・ファイトミラー】なんてゴミカードを使うわけないでしょ」

『酷いっ!私たちが魔法少女に変身するために使う大切な装備なんだぞッ!?それをゴミ扱いするなんてッ!私たちカードをちゃんとリスペクトしてよッ!』

「リスペクト……か。そうだね。ホムラには伝えたいことがある」

『えっ?なに?なんなの?いきなりかしこまっている感じを出して怖いんだけど……』

 

 ホムラは後ずさってビビりながらも、じっと私の目を見つめている。最高に顔が良いな、くそぅ。

 というか、いざ言葉にするとなると気恥ずかしさを感じてしまう。顔から火が出そうだが、なんとか冷静を装ってホムラに話しかける。

 

「えっと……ありがと。昔、私を助けてくれて。化け物が暴走したときに駆けつけて守ってくれたよね?」

『マスター……。そっか……思い出したんだね。もう、大丈夫そう?』

「うん、完全には覚えてないけど。大丈夫」

『……よ、良かったぁ~!もうっ!心配したんだからねっ!』

「ごめんね。さっきもありがとね。私のトラウマを思い出させたくないから、さっき聞き出そうとしたときも誤魔化してくれたんでしょ?」

『え゛ッ!?……いやぁ~、ハハハ。ソダヨー』

「ん?」

『…………やばい。キモイ奴にボコボコにされたなんて恥ずかしくてイヤだから隠したのバレてない、よね?よかったー、マスターが騙されやすいバカで』

 

 おい。感動を返せクソバカアホ女。

 でも、こんな奴でもかつては私を守ろうと必死になって戦ってくれたんだ。ちゃんと言えるときに感謝の想いを言葉にして伝えなければならない。満面の笑顔で言葉を続ける。

 

「いつもありがとう。私を守って、一緒に戦ってくれて。大好きだよ」

『……え?え?え?マスターどうしたの?どこか頭打った?それとも人格とか入れ替わった?』

「ぶっ飛ばすぞアホが。……こほん。ちゃんとお礼を言いたかったの。いつも迷惑かけてるから」

『マジで?あのマスターが?唯我独尊ゴミ畜生のドブカスが?うそ?もしや明日の天気は血の雨?』

「あとでお前の血で雨でもなんでも降らせてやるよ」

『え?マスター、なにか言った』

「……別に?」

 

 危ない。聞こえないよう小声で言ったのに耳ざといんだから。アホのくせに。

 

「ちゃんと言葉にしようと思って。だってホムラは私の大切な相棒だから。……その、愛してるよ」

『マスターぁ!うれしいっ!うれしいよぉ!そんなにも私を想ってくれていたんだねっ!』

「当たり前だよ。だってホムラは可愛くてカッコよくて素敵で、世界で一番のカードなんだから」

『もっと私の好きなところ聞かせて!』

「もちろん。いつも笑顔で明るくて元気なところとか。顔が良くてすごく可愛いところとか」

『うんうん!』

「あと、やっぱり私を大切に想ってくれていて守ろうとしてくれるところ。強敵に立ち向かう姿とかカッコいいし素敵だよ。流石、私のヒーローだね」

『いやぁ~!でへへぇ!照れちゃうよぉ!』

「あとは、そうだね。絶叫とか悲鳴がとっても心地よくて大好き。いくらでも聞いてられるというか、聞けば聞くほどもっと聞きたくなるし、もう永遠に聞いていたいくらい」

『うんう……ん?え?は?』

「無様に泣き叫ぶ姿とか、誰よりも好き。コテンパンに痛めつけてあげたい。きっと美しいんだろうなぁ。その不屈の精神が折れることはないだろうから、永遠に甚振ってもヒーローで居続けてくれるんだよね?」

『おい、やめろ。黙るんだサイコロリ』

「そうだ!汚物とか血肉をぶちまける姿は誰よりも美しくて愛しいよ!ホムラが痛めつけられて苦しむ姿を見ていると!心の奥底から快楽が湧き上がって!何よりも気持ちがいい!嗚呼!ほむらぁ……これって愛かなぁ?」

『いえ、異常な嗜虐心なので早急にカウンセリングを受診すべきだと思います、はい』

 

 興奮のあまり荒くなった息を整える。

 さきほどまで喜色満面だったホムラが、今やお通夜状態で顔面蒼白だった。どうしたんだろうか?沈んだ雰囲気を盛り上げるため、私はハイテンションで語りかけた。

 

「突然だけどクイズの時間だよホムラ!カードの使命というかぁ、立場についてなんだけどぉ」

『うわッ!?イヤだイヤだイヤだ!聞きたくない聞きたくない!聞きたくないッ!』

「問題!デデン!答えはあるなしの2択だよっ!カードに人権は~……?」

『あ゛る゛ッ!あるあるあるあるあるぅッ!あるんだよぉッ!』

「ぶっぶー!正解は~?カードに人権は、ない!でした~!……私は手札のアタッカー1枚、【電撃デスウナギ】を墓地に送ることでスペル【魔女狩りホロウフレイム】を発動する!我が勝利のため地獄の業火に焼かれろ!アホムラァ!」

『うわあああああああ!やめろおおお!死にたくなぁあああい!』

 

 私がスペルをバトルユニットにセットすると、場に鉄製の十字架があらわれた。屍と血が散乱する処刑場には、充血した目でホムラへの暴言を吐く、怒れる群衆が並んでいる。

 刹那、十字架に絡まっていた血まみれの鎖がけたたましい金属音をたててホムラへと迫った。危機を察知したホムラは、大粒の涙を流しながら歯を食いしばってARビジョン上を飛び回る。迫りくる無数の鎖を避け、ときにはロッドで弾きながら、処刑を逃れようともがいている。

 またこいつは遅延行為をして!いい加減に学習して早急に死ね。

 私は逃げ惑うアホ女に向かって怒鳴った。

 

「往生際が悪いよ!魔女狩りのために集まった人たちをこれ以上待たせるな!今すぐ惨たらしく死ねっ!」

『ずぇったいにいやぁ!だいたい!魔女じゃないもん!魔法少女だもんッ!正義の味方なんだもんッ!正義側の私を殺すなんて許されないことだよッ!?』

「カードバトルの場での正義は私だけだッ!お前も!私を散々悩ませたあのクソ女もッ!私の前では等しく紙切れッ!私の思うがままに戦い!求めるがままに死ぬんだよッ!いいから!さっさと!死ねッ!」

『どうしてそんな酷いこと言うのッ!?私のことが好きなんだよねッ!?愛してるって言ってたじゃんッ!なのにグロテスクに殺害しようとするなんて頭おかしいよッ!このDVサイコロリッ!ちゃんとカードを愛して!リスペクトしろぉ!』

「黙れアホッ!大好きだからだよッ!これが私の愛情表現なんだッ!この痛みと苦しみを通じて私の愛を感じろッ!そして愛らしく!グロテスクに!死ねッ!そのカードの効果が最も輝くコンボで!凄惨かつ無残に殺す!これが私なりのカードへの愛とリスペクトだッ!」

『いやだぁああッ!生きるッ!そんな歪んだ愛情なんておかしいッ!過去の愛らしいマスターに修正しきゃいけないんだッ!だから!こんなところで死んでたまるかッ!絶対に!絶対に!生きてやるんだからぁあッ!』

「死ねッ!死ねッ!死ねッ!」

『生きるッ!生きる゛ッ!生ぎる゛ッ!』

 

 お互いを口汚く罵るように言葉を繰り返す。醜く足掻いていたホムラだったが、どこからともなく出てきた黒い靄が彼女の足を捕らえた。ふげぇ、と無様に地面に叩きつけられた魔法少女を、瞬時に血まみれの鎖が四肢を拘束する。汗だくで土埃まみれの哀れな魔法少女は、処刑場の中央にある十字架に磔にされた。

 民衆が火を灯し、地獄の業火が十字架を包んだ。ホムラの悲鳴、絶叫、断末魔が、会場中に響き渡った。なんて愛しい声なんだ。大量生産された快楽物質で脳が震える。

 天まで上がる火柱から目を離せない。アホ女を燃料にうねる炎は、虚空で渦巻く紫煙は、ゴッホの絵画のようで美しい。

 アリーナのモニターに私の顔が映る。極上の音楽と、極上のアートを前に、清々しいほどに最高の笑顔を浮かべている。ちょっと涎が出ていたので服の裾で拭いておいた。

 肉が焼ける音、少女の絶叫、民衆の罵倒と歓声。気のせいか普段よりも長くショーは続いた。だが、残念ながら見世物はもう終わりのようだ。物言わぬ焼死体と化したホムラは、四肢を失い地面に横たわっている。言葉を発せない少女は、ピクピクと痙攣することしかできない。APゼロのトークンの誕生だ。なんて愛らしいんだ。

 

「ふふふ……素敵だよホムラ。流石は私の大好きな相棒。炎で戦う魔法少女なのに焼死体になるなんてホント無様。ビクビク痙攣してて可愛いね。守るべき民衆に否定されて、それでも正義の魔法少女として何度でも立ち上がるんだもんね。カッコいいね。だけど私の手で滅茶苦茶にされるんだ。嗚呼、なんて美しいの……」

「おー……なんかよくわかんねぇけど、楽しそうでよかったぜ!」

「うん、愉しい。やっぱりカードバトルは最高」

「なんだこのイカれ小学生どもは。こんな奴らを出場させるなよ。やっぱ新十区は狂ってるんだゼーイ」

 

 失礼な。これが愛と絆ってヤツだよ。

 

「こほん……。墓地に送られた【JKガールズ・炎激のホムラ】の効果発動。相手の場のスペルを2枚まで墓地に送り、相手ELを1000ポイント減らす。これでショウタの伏せたスペルは墓地送りだよ」

「オレが伏せていたのはスペル【緊急医療キットの案山子】だ!場にセットしていたこのカードが破壊されたとき、オレはELを1000ポイント回復だ!残念だったな!お前の戦略はお見通しだぜ!」

 

 カードの効果発動とともに、救急箱や注射、包帯、絆創膏などでできた案山子が登場し、破壊された。ショウタのELは1300ポイントで変わらず、ということか。

 ただ、そんなことはどうでもいい。これで私の場にはゾンビ族のトークンが1体いる。ということは、ついに進化した私のエースアタッカーを召喚できるというわけだ。

 

「さて……今日はショウタに私の新生エースを見せてあげる。驚くほどにカッコいい最強のエースを、ね」

「マジか!?早く出してくれよ!お前と最高のバトルを今すぐにヤりたいんだ!もうヤりたくてヤりたくて仕方なくて爆発しちまいそうだぜ!」

「ふふ、そこの焼けカスを捧げて出してあげるね」

 

 ずっと気にしていた。この世界はホビーアニメで筋書きがあるのか。誰かが主人公なのか。異物として存在してしまった自分がどう生きればいいのか、心の奥底で悩み続けていた。

 

「場に1体のゾンビ族アタッカーがいるとき、そのカードを墓地に送ることで、私はあるトップグレードアタッカーを生贄召喚できる」

 

 だけど、もはや知ったことではない。この世がホビーアニメ世界だったとしてなんだ。ショウタが主人公だったらなんだ。私ごときに原作崩壊させられるなら、それは初めから三流作家のクソシナリオだったんだ。端から無意味な悪夢に怯える必要なんかなかったんだ。

 最高の相棒と最強のエースが私にはついている。こいつらと歯向かうヤツをボコボコにしてこのイカれた世界で頂点を目指す。私の生き方は私が決めるんだ。もう迷わない。

 新たな姿に変わった、エースカードにキスをする。

 

「頼んだよ、私の大好きなエースさん。ちゅっ」

『嗚呼!なんて素敵なんだッ!今日は死ぬには良い日だッ!』

「違うよ。死ぬのは目の前のクソガキたち。貴女なら簡単にボコボコにできるでしょ?」

『もちろんだよッ!愛してるぜマスタァァアアア!』

 

 掲げたカードに、会場中から小さな黒い靄がどんどん集まっていく。空気が振動を起こし、観衆はどよめき怯えている。指先から感じられるのは絶望的なほどに強大な力だ。かつての私なら、凶悪な闇の力と断じて恐れただろう。きっと触ることさえできなかったかもしれない。

 でももう大丈夫だ。これはあのメンヘラクソ女の一部で、私が一歩踏み出すのを後押ししてくれる力なのだから。今なら感じられる。恐ろしくも暖かい、邪悪でありながらも優しい鼓動を。

 私はショウタをまっすぐ睨みつけ、高らかに宣言する。

 

「私はトップグレードアタッカー【アンデッド・パニッシュメント・ナイトメア・ドラゴン】を生贄召喚!屍を貪り悪夢から目覚めし暴虐の処刑龍よ!狂気に満ちた現世に死の救済をもたらせ!」

 

 圧倒的な光が一瞬、視界を覆った。超新星爆発といわんばかりに眩い光がきらめき、世界は音を失った。

 次の瞬間、爆音がアリーナ中に轟き渡った。突風の中なんとか目をあけると、そこには輝くドラゴンがいた。なんて荘厳で格好良くて愛しいんだ!

 いつの間にか愚者の焼死体は喰い破られていて巨竜が飛翔している。黄金と深紅で彩られたドラゴンは、大きな翼を広げていた。

 純金を思わせるような光輝く金鱗の間には返り血がついており、羽ばたきにあわせて一部が滴り落ちていた。飛んだ軌跡に沿って血の小雨が降り注ぐ。

 嗚呼、ホムラ。約束は果たしたよ。

 

「これは夢か!?それとも現実か!?いや!悪夢だ!未だ人類が見たことのない!邪悪な黄金龍が!新十区トーナメント決勝戦に君臨したぁー!」

「すっげぇぇえええ!すげぇよスルメッ!やっぱお前最高だッ!AP3000のアタッカーがまだいたなんて!だがオレだって負けちゃいけねぇ!」

 

 ガッツポーズをとって大興奮のショウタだったが、びしりと私を指差すとしたり顔で語り始めた。

 

「場に【小さな馬車の勇者シュン】がいるとき【小さな馬車の魔術師ロキナ】は攻撃できねぇんだ!へへん!これぞ少年勇者と毒婦のコンボの神髄!喪失の経験を胸に!今度こそ愛する人を守るため!毒婦に染まった復讐鬼は決してその道を譲らないぜ!」

「ごちゃごちゃうるさいなぁ……。言ったはずだよ?最強のエースだって。【アンデッド・パニッシュメント・ナイトメア・ドラゴン】は1ターンに1度、自分のELを1000ポイント減らすことで、相手の場のアタッカーを2体まで破壊することができる」

「なっ、なにぃぃいいッ!?」

 

 赤眼の金色龍は敵を睨みつけると、咆哮をあげた。大きく開いた口には黒い靄が集まっていく。この世の憎しみ、怒り、悲しみ、苦しみ、痛み。人が人である限り、現世に生まれる邪悪な力が、莫大なエネルギーへと昇華される。

 楓の木の丘で話した少女の声が聞こえてくる。

 

『今だよ!マスター!』

「現世の憎しみを背負いし悲しき龍よ!破滅の光で敵を浄化しろ!呪いのアンデッド・バースト・ストリーム!」

 

 私の宣言とともに、熱戦をガキどもに向かって照射した。破壊光線が敵に届くと同時に大爆発が起き、少年勇者の絶叫と毒婦の悲鳴が響く。輪郭は溶け、血肉が液状化し、人間だったものが場に残ると消滅した。

 土煙が消えた後、ショウタの場はガラ空きだった。あとは【アンデッド・パニッシュメント・ナイトメア・ドラゴン】で直接攻撃するだけだ。まさかの大逆転劇にショウタは肩を落とし失笑している。

 

「はは……。マジですげぇ。これがお前のカードへの想いと魂なのか?」

「私にとってカードは道具。それ以上でもそれ以下でもない」

「ああ、そうかよ。へへ。インリンの言葉、お前には相応しいかもな」

「なんて言ってたの?」

 

 そう聞き返すと、ショウタはにかっと白い歯を見せて笑った。

 

「ツンデレはオワコンだからやめろってさ!」

「お前が言うなって言っとけ!ショウタに直接攻撃!怨念のホロウ・バースト!」

「決まったぁぁあああ!ショウタ選手を打ち破り新十区カードバトルトーナメント新人戦を制したのはぁぁああ!?新十区の悪魔!最強最悪のサイコロリ!神引スルメ選手だぁああああ!おめでとうだゼーイ!あと、俺様が実況する大会にはもう出場しないでほしいんだゼーイ……」

 

 最初はまばらだった拍手が、徐々に割れんばかりの大音量となった。茫然自失だった観衆は正気に戻り、私たち2人に大声援を送ってくれている。少し照れ臭いが笑いながら観客席に向かって手を振る。まぁ、なんというか、その、悪くない。というか、最高に気持ちいい。

 こうして私の初のトーナメント大会は幕を閉じた。

 

・・・・・・・・・

 

 決勝戦後は、お待ちかねの授賞式だ。少し怯えた風の新十区副区長がトロフィーと入賞者特典のカードをくれた。そういえば、カードが欲しくて参加したんだっけ。

 もらったカードは【JKガールズ・深緑のリリカ】だ。深窓の令嬢といった感じの魔法少女で、ホムラの幼馴染らしい。たしか、シズクやアイリとも仲が良い奥ゆかしくてお淑やかなタイプの美少女だったはずだ。おそらく私のデッキを考慮して、カードを選んでくれたのだろうが、正直言って不服だ。

 

「なんだ……こっちか。がっかり」

『はぁ!?なんでさ!もともとリリカのために出場したんじゃないの!?』

「いたんだ。いやね、私はショウタの貰ったドラゴンが良かったの。カッコいいし高く売れそうだから」

『サイッテー!お金でカードを選ぶとか信じられないッ!この俗物カス畜生ゴミクズサイコロリ!』

「私のおねしょたドラゴンが……あんなカード馬鹿にとられるなんて……」

『いやいや!【王者熱唱!衝撃のタイクーン・ドラゴン】でしょ!なにその略し方!?』

 

 がっかりしてめそめそしていたら、脳内に不穏な雰囲気の少女の声が響き渡った。少し震えていて、なにやら大変お怒りのようだ。

 

『マスター……言ったはずだよ?浮気はするなって。わざわざトカゲになってやったのに、どうして他のカードに目移りしてるんだい?この阿婆擦れが……ユルサナイユルサナイユルサナイ……』

「まずい。メンヘラクソ女が面倒なことになってる」

『はぇ?そういえばなんか黒い靄がマスターの周りに漂ってるような……?』

 

 首元や四肢にまとわりつく邪気を払っていたら、突如【JKガールズ・深緑のリリカ】が光輝いた。

 

「うわっ!?まぶしっ!」

『んなっ!これはっ……!すごいや!黒い靄を吸収して精霊が顕現しようとしてるよ!』

「はぁ?そんなことできるの?」

『見たことないっ!っていうか、よく見たら元からリリカのカードに何か邪悪な力が強引に注入されていたみたい!こんなこと普通のカードじゃあり得ない!誰かの作為があるよ!』

 

 一体誰が何のためにそんなことをするのか。というか、他人のエースカードの力を勝手に使うな。

 

「だるっ……あのメンヘラクソ女のせいでまた厄介ごとが……」

『ふーんだ。ボクのせいじゃないよーだ。悪いのは夫婦喧嘩に武力介入してきたそこのアホ女だよ』

「お前が負けたせいだろ。他人のせいにするな」

『は?は?は?病みそう。てか病む。マスター、ボクと心中しよ?』

「いやだ」

『ねぇマスター。さっきから誰と話してるの?独り言にしては、変だよ?』

「なんでもない」

 

 そんなやり取りをしていたら、私たちの目の前に緑がかった黒髪のストレートロングヘアの美少女があらわれた。たれ目でありながらその黒い瞳からは信念と覚悟が感じられる。また、ダークグリーンのロングドレスを身にまとっていて、その所作からは育ちの良さと礼儀正しさが伝わってきた。

 

『驚かせてごめんなさい。ホムラちゃんの言う通りです。我がマスター』

『リリカッ!大丈夫!?顔色悪いし何だか苦しそう……』

『大丈夫だよ、ホムラちゃん。ありがとう』

「で?誰のせいでこうなったの?」

『BITCHカードを悪用する組織です。その名はBSS団。闇のエネルギーで世界征服を目論む悪の組織です』

 

 なんだと?ここにきてまた面倒な存在が出てきたな。

 ホビーアニメ世界ではよく題材となっている玩具を使って、世界征服や破壊を狙う悪の組織が登場する。カードゲームの場合だと、邪悪な力のこもった闇のカードを使ったり、カードの力で他人を傷つけたり、カードを酷使したりすることが多い。きっとリリカも、その組織に囚われていたのだろう。っていうか、そのBSS団とやらは教科書で見た気がする。

 リリカは、その慎ましい胸に手を置くと、涙ながらに懇願した。

 

『お願いですマスター!どうか私たちを!世界を救ってください!』

 

 どうやらスケールの大きな話になりそうだ。長くため息を吐くと、ひとまずホムラたちと家に帰ることにした。本当にこの世界は私に優しくない。

 でも私には、アホだけど大好きな相棒と、メンヘラだけど最強のエースがいる。主人公君のようにできるかはわからないが、2人とならきっと世界の危機とやらにも立ち向かえるはずだ。

 まだ私たちの戦いは始まったばかりのようだ。

 





【グロと絆のパワフルコンボ!勝ち進めトーナメント編】完

ここまで読んでいただきありがとうございました!
遊戯王GXのリメイク版の放送前に、なんとか一区切りつけられました……アブナカッタ。

沢山の感想、ここすき、お気に入り登録ありがとうございます。誤字報告にも感謝しかないです。
どうにも書いていて客観視できなくなるタイプなので、色々なご意見いただけると大変励みになると同時に今後の参考になるので嬉しいです。
気軽に良いところ・悪いところ・読みにくいところ等々ご指摘いただけますと幸いです。

続きを書くのにはかなりお時間いただきそうですが、いずれ投稿しますのでどうか見捨てずお待ちください……すみませんホント。
最後に重ね重ねになりますが、本当にいつもありがとうございます!感謝!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。