カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが??? 作:53860
一体いつから【悪魔的美食】が1つだけだと錯覚していた?
カスちゃんがいかにカスであるか、伝わると嬉しいです。
アトラクションとか一瞬で終わっちゃうと寂しいっていう気持ち、わかりますよね?
「……神引スルメ。カードバトルは外でやれ」
ズイの声の温度が下がった。低く、腹の底から響く声だった。うっすらと周囲に黒い靄が漂うズイには相当な威圧感があり、思わずたじろいでしまう。
「いや……でもさ……」
「ここはカンナさんたちが作ってくれた大切な店だぞ?二度は言わない」
「これはソーリー!サイコメイドガール!では近くのパークでカードバトルしまショーウ!」
「あっ……そうだね。ズイさん、ごめん」
「…………いえ、おわかりくださっていただければよろしゅうございませ。ヴリンダ、あの方々のご案内を」
「アイヨー」
いきなりなんだったのだろうか。スズやヘンテコジジイとともに傾奇町の小さな公園へと向かう途中で、先導するヴリンダに話しかける。
「ズイさんすごく怒ってたけど……なんで?」
「店長にとってお店は傾奇町の恩人との絆の証。だから怒る」
「ARビジョンだからカードバトルしても影響はないはずだけど……」
「店長はカードバトル嫌い。人を傷つけるロクでもないものって」
『んなっ!?聞き捨てならないなー!』
うわ、いたのか。いつの間にかアホムラがデッキから出てきた。どうやら大富豪で遊んでいたらしく、手にトランプ札を握りしめていた。ちなみに、シズクを狙い撃ちしてバチボコに煽っていたら喧嘩になったとか。魔法少女同士もっと仲良くしろよ。
どうやらARビジョンがないとアホムラは見えないらしく、ヴリンダはこのアホアホ魔法少女に気づくことなく話を続けた。
「店長よく言ってる。傾奇町で暴れるヤツは地獄送り。だって、みなしごの店長を助けてくれたのが傾奇町の仲間だから。私とママを助けるのも皆への恩返しって」
「あの……ヴリンダさん。ズイさんって、その、最近の治安悪化を、どう思ってるんだろうね?」
「ヤクザの世代交代とカードバトルで傾奇町おかしくなった。だから正さないといけないらしい。何が何でも海外ギャングを追放するって言ってる」
意外と血の気が多いようだ。しかしスズの言う通り、あのメイド女が現状に対して何を思っているのかは気になる。あれほどの激情を秘めているとなれば、色々とトラブルを起こしそうな気もするが。
・・・・・・・・・
何はともあれ、カードバトルの時間だ。
公園に到着するや否や、ヘンテコジジイは勝手に先行を奪取。馬鹿の一つ覚えのように、高レアリティ・高APのドラゴンアタッカーを召喚した。カウンタースペルも2枚セットされていて中々の布陣と見受けられる。
それにしても、【パトカー・ドラゴン】ってなんだよ。AP1900もあってノーマルグレードアタッカーっておかしいでしょ。さっきから前後に腰をカクカクさせてて気持ち悪いし、パトランプを光らせながらサイレンを鳴らしているのでうるさいったらありゃしない。
「不愉快なキショドラゴンだな……」
『まったくもってそのとーり!早く私を召喚してあんな目障りなクソトカゲ消し炭にしよっ!』
お前、手札にいないじゃん。
さて、どうやって打開しようかなと手札を見ていたら、余裕綽々なヘンテコジジイがしたり顔で何度も頷いている。勝手に師匠ポジションのキャラみたいなことしやがって、何様だよ。
「ンー。どうやらクソガキッズは人生の目標とやらを見つけたようデースネ!死んだ目が少しはマシになっていマース!グレイトジョブ!」
「トーナメント大会で負けたくせに随分と偉そうじゃんか」
「オー!過去に執着する評論家気取りでいるのはナンセンス!激動のグローバルエコノミーにおいて、そんな二流は不要デース!真に一流のビジネスパーソンとは!輝かしい未来を思い描き現実にする人材なのデース!」
「過去よりも未来が大切ってこと?」
「ザッツライト!実際、ミーは敗北を嘲笑った人間を一人残らず再起不能にして追放してやりマーシタ!今やミーがシルバー・セックス・スタンリー、ネオジャパニスタ法人のチーフ・カードバトル・オフィサー!アゲインストな状況をチャンスに変え、未来を切り開く孤独な捕食者こそがグローバル・エリートなのデース!」
たしかに、過去にこだわってばかりいてはいけないのかもしれない。私だって薄れていく前世の記憶を寂しいと感じているけど、トーナメント大会をきっかけに考えを改めた。これはホムラやスズがいてくれたのが大きい。あと、まだ精霊として実体化してないメンヘラカードとか。
「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行。……うーん。このスペルか。趣がないからそこまで好きじゃないんだけど……」
『グロカードに風流とか詫び寂びとかクソほどもないでしょ。ていうか私たちに詫びてほしいんだけど……』
「イヤ!仕方ない。私は手札から【JKガールズ・水麗のシズク】を召喚!そして場にこのアタッカーが存在するとき、手札から【JKガールズ・聡慧のアイリ】を特別召喚できる!」
白黒の変態ドラゴンと対峙したシズクの隣に、自信なさげなアイリが並び立つ。少し怯えている幼馴染を気遣いながらもアイリを庇うように、シズクが毅然と立ちはだかる。
たしか、知識量を武器にアイリが敵の弱点を分析し、シズクが精密な魔法コントロールで冷静に撃破するコンビネーション技が得意だったはずだ。身体的接触はないものの、2人の間に流れる空気から揺るぎない信頼関係がうかがえる。
すると、アイリがちらりと私の方を見て、ビビりつつもげんなりとした表情を浮かべた。
『あぅぅぅ……やっぱり瘴気に満ちてるよこのマガキ』
『ふふっ……アイリ、なんなんだそのマガキとは』
『その、禍々しいクソガキを略しただけ、だよ?』
『あはは!たしかにマスターにぴったりなあだ名だな!』
『えへへ……』
あはは、えへへ、じゃねぇよ。他人の悪口をダシにしてイチャつくな。ぶち殺すぞゴミカードども。
しかし、シズクの屈託のない爽やかな笑顔は中々レアだ。やはりアイリという幼馴染の存在が大きいのだろう。バックストーリーには、普段は少し刺々しいというか冷酷・非情な雰囲気の大和撫子だと書かれている。厳しい名家に生まれたせいか、シズクも色々と苦労してきたようだ。
そんな彼女の凍った心を温かく溶かしたのがアイリだ。クラスで腫れ物扱いされていたシズクが放課後に訪れた図書室で出会ったとか。最初は勝気なシズクと引きこもり気質なガチ陰キャのアイリの相性は最悪だった。でも、あるとき読んでいた本をきっかけに意気投合した。そして、様々なエピソードを経て、何よりもお互いを大切に想う幼馴染へとなったのだ。どちらもコツコツと積み上げていくタイプの努力家だったのも通じ合った理由の一つかもしれない。
これまでにも数多の困難を一緒に乗り越えてきて、これからも2人で敵に挑む。そんな秀才型のてぇてぇ魔法少女カップルが、シズクとアイリなのだ。
そう考えると気になることがある。自分にとって太陽のような存在であるアイリを失ったとき、シズクはどうなるのだろうか。そんなことを考えていたらアホムラが話しかけてきた。
『ね、ねぇ?マスター?まさかそのグロカードを使わないよね?ダメだよ?そんな邪悪カード使っちゃあ』
「すみません。よくわかりませんでした」
『いやいや!なにAIみたいな返ししてんのさ!シズクとアイリはニコイチなんだから!それにアイリがいるとあの鬼畜冷酷クソ女も穏やかになるんだから!絶対変なことはしないでよねっ!』
「すみません。よくわかりませんでした」
『だぁかぁらぁ!そんな邪悪なカードで2人の仲を切り裂かないでってこと!いつも言ってるよね!?私たちカードをもっとリスペクトして!さもないと私たちカードがおかしくなって変質しちゃうよッ!?』
「すみません。よくわかりませんでした」
『なぁんでだよぉっ!!』
おー、人権がないくせによくしゃべるなぁ。
たしかに私たちのやり取りなんか気にせず、2人で楽しそうに談笑している。これを邪魔するのは少しだけ気が引けるけども、どんな反応をしてくれるのかワクワクするという気持ちの方が強い。だから、遠慮なく新しく手に入れたグロカードを使おうと思う。
「私は手札から武装カード【悪魔的美食!瞬殺スムージー】を発動!このカードは、場のアタッカー1体を墓地に送ることで、他のアタッカーに装着できる。私は場の【JKガールズ・聡慧のアイリ】を墓地に送る!」
『そんなっ!?マスターっ!?』
『やめろ!やめてくれッ!私からアイリを奪わないでくれマスタァァアッ!』
ごめんだけど、カードの効果は絶対だから。
私がカードを掲げると、おぞましい巨大なミキサーが登場した。邪気に満ちた無数の刃には肉片や血がこびりついていて高速で回転している。ミキサーの縁から伸びる黒い帯状の何かが少女の足首に巻き付き、骨のきしむような力で引き寄せる。
『シズクちゃ、たすけ……』
『アイリィッ!』
不愉快な騒音を立てているミキサーの中から聞こえるのは、呻きにも似た何層もの声。助けを求める声ではない。苦しみと嘆き、そして怨嗟を抱えたまま死を迎えた亡霊たちの怨念の声であり、生物を等しく砕く無言の咀嚼音だった。
ミキサーに放り込まれたアイリが叫ぶ前に音が飲み込まれた。刹那、ミキサーが真っ赤に染まる。
『…………は?』
ひよこミキサーという動画をご存じだろうか。生きたままのひよこをミキサーにかけるというもので、小動物が瞬時に肉塊になるグロテスクさが視聴者に衝撃を与えた。それと同じことがシズクの眼前で行われた。
助けることはおろか、別れを告げることも、愛を叫ぶことも、悲嘆にくれることもできない。瞬きする間に愛する幼馴染はスムージーと化したのだ。
いつの間にかシズクの頭上で浮遊していたミキサーは、くるりとひっくり返って放心する魔法少女へとスムージーをぶちまけた。夢か現か判然としていなかったシズクは現実へと引き戻される。
ふと開いた両手を滴るのは愛する幼馴染の残骸。苦しみも悲しみも一緒に乗り越えてきたアイリはもういない。
『う゛あ゛あ゛あ゛ッ……ア……アア……アアアアアアアアッ!!』
「あぁ~愉悦の音ぉ~!これだよ!これこれ!ホムラもわかった?リアクションってのはこうやるんだよ!」
『いえわからないですねわかりたくもないです勘弁してくださいお願いします許してください』
「はぁー。やっぱりホムラみたいな畜生は、仲間じゃなくて自分が惨殺されないと良い反応をしてくれないか……。つまんなーい」
『……え゛っ?ちょ、マスター?それって、どういうこと?』
「しらなーい」
『アッ……アア……アアアアア……ッ、く……くぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!』
「ほら、お仲間がむせび泣いてるよ?少しは慰めたら?」
さっきから血まみれのシズクが四つん這いになって慟哭をあげている。さながらミュージカルのワンシーンだな。バツが悪そうな表情をした後、ホムラは薄っぺらな笑顔を浮かべながら、主演女優であるシズクのもとへと駆け寄った。
『あー……まぁ、その、なんだろ。シズク……ドンマイ!アイリは死んじゃったけど強く生きて!』
『…………貴様、今なんて言った?どん……まい?死んじゃった……?』
『ひえっ!だ、だって仕方ないじゃん!よわっちぃ低APの雑魚アタッカーなんてマスターからすればコスト用の生贄に過ぎないんだから!ま、まぁ?雑魚なりに役に立てて良かったじゃん?』
『何が面白いんだ……?アイリが殺されたんだぞ……?それを……仕方ない?生贄に過ぎない?雑魚なりに役に立てて良かった?』
『わ、私じゃないもん!ヤったのはそこのドブカスマスターだよ!?なんで八つ当たりすんのさ!?それに……事実だしっ!アイリが使い道のない雑魚アタッカーなのは本当のことじゃん!?』
『ふざけるなぁああああ!貴様その口今すぐ切り裂いてやるッ!その舌を引っこ抜いてミキサーにぶち込むぞクソアマがぁあああ!』
『ひ、ひぃっ!』
血まみれのシズクは涙を流しながら絶叫した。憤怒に満ちた少女の叫び声は呻きと咆哮が溶け合い、地を這って公園中に広がる。
『やはり貴様は醜い畜生だッ!これまで貴様は何をしてきた!?仲間が惨殺されるのをただ眺めていたんじゃないのかッ!?自分よりもAPが低いというだけで見下して!虫けらのように扱ってきたのだろうッ!?』
『違うもんっ!カードの効果は絶対だからっ!だから何もできなくて……仕方ないんだもん!』
『ARビジョンがなくても実体化できる貴様は制約なく行動できるッ!マスターを止められたはずだッ!』
『そっ……それはっ!だって!マスターがっ!』
『マスターの蛮行から目を背けて仲間を見殺しにするなら貴様も同類ッ!邪悪で下劣な悪魔だッ!正義の味方を名乗る資格なんてないッ……!』
『うっ……!うぅぅぅぅう~ッ……!』
あの、人をさも当然のごとく邪悪で下劣な悪魔呼ばわりしないでいただけますか?
とにかく、これでシズクのAPは800ポイント上昇して、1600ポイントになった。しかも、このコンボには続きがある。
「さらに場の【JKガールズ・聡慧のアイリ】が墓地に送られたことで効果発動。私は山札から武装カードを2枚まで手札に加えられる。そして相手のELを500ポイント減少させる」
「やはりユーはイービル・デーモン・ガール!そうやってグロテスクな光景を見せることでミーの動揺を誘っているのデースネ!」
「ううん。ただの趣味」
「バーット!ミーは屈しナーイ!すでにグロテスクな映像を100本以上見て耐性をつけてきマーシタ!」
「そっか、すごいね。……私は手札に加えた武装カード【ハラワタチェーンソー】と【ガールズ・ファイトロッド】を、場の【JKガールズ・水麗のシズク】に装着する」
『私が……醜い畜生?邪悪で下劣な悪魔?違う……私は正義の味方で、それで……』
なんかホムラが思いつめた表情で自問自答してる。せっかく【キリング・デスフレイム】はシズクに装着しなかったのに見てくれてないなんてムカつく相棒だ。一応、これでもホムラ専用のカッコいい武装カードとしてとっておいたのに。
「オーマイガー!これでそこのアングリーガールはAPが3400ポイントにアップ!?ホーリーシット!」
「私は【JKガールズ・水麗のシズク】でそこのキモイドラゴンを攻撃!」
『死に晒せクソがぁぁあ!アイリの仇ィッ!』
「させマセーン!ミーはカウンタースペル【ドラゴン式立体駐車場】を発動!このターンの攻撃を無効にしてユーのターンを強制終了させマース!」
「むむむ……」
結局、ELは3500ポイントから減らせずじまい。変態ドラゴンも場に残っているし厄介な。
するとヘンテコジジイは大袈裟に両腕を広げると語り出した。
「チーフ・カードバトル・オフィサーになったことで旧世代のパワフルカーをモチーフにしたドラゴンや強力スペルを手に入れたのデース!ミーのニュー・ハイレアリティ・ゴージャス・ドラゴンカー・デッキの前には無意味デース!」
随分と舐めたことを言ってくれるじゃないか。では、お手並み拝見といこうか。ヘンテコジジイは勢いよくカードをドローした。
コントロールがある限り、並大抵のカードはご主人様には逆らえない。
これぞ絆の力!ですねっ!シズクの八つ当たり攻撃にドラゴンは勝てるのか!?
いつも感想ありがとうございます。グロカードの人気に嫉妬……。