カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが??? 作:53860
デュエルでライゼオルに、シャドバでマーウィンに轢き殺されていますが、私は元気です。
なお、本作に登場する方言らしきものはネオジャパニスタの地域ごとにある独自の表現で、現代日本におけるいかなる地域のものとも一致しません。
ヘンテコジジイとのカードバトルに負けたせいで、私はヘラとレンの分も含めた4人前のランチ代を払わされることになった。普通の小学生に1万円を超える大金を用意するのは難しいので、休日に数時間だけズイのカレー店で働いている。ちなみに、これで4回目の出勤だ。
本当はママにお金を要求したのだが「社会勉強は大事よ~」と無償労働させられることになった。ぐぬぬ。パパにはダダ甘のくせに、もうちょっと娘にも甘くしてほしい。
「お前、また食器を割ったのか?無能」
「くすん……あんなに怒らなくてもいいじゃん」
「お前がこれまでに割った食器およそ100個。店長キレ散らかしてる」
「だってワイングラス倒れやすいし……」
『ぶわははっ!まぁたガラス割ってやんの~!マスターってばホントダメダメなんだからっ!』
カウンターに寝転んだホムラが腹を抱えて笑っている。お客様がいないとはいえ、なんて下品なヤツだ。つい先日のしおらしい雰囲気はどこにいったのやら。
「なに?ちょっと前まで思い詰めた表情してたくせに。また調子に乗って」
『ふふーん!冷血クソ女の戯言なんか気にしてられないよ!アイツごときが何と言おうが、私はマスターの大事な正義の味方なんだからねっ!』
「けっ……。どうせリリカによしよしされて慰められたから気分良くなってるだけでしょ?自分の力だけじゃ解決できないもんね~?よわよわ~」
『はぁ!?それを言うならマスターだってバカみたいに食器割って泣きじゃくってたくせにっ!精神的に立ち直ったのもスズちゃんに甘やかされたおかげでしょっ!ざこざこの甘ちゃんがっ!』
「あれは……違うじゃん。そう、いうのじゃないし……」
「独り言うるさいぞ新人。接客しろ」
「……はぁい」
ヴリンダにどやされたので、来店したお客様にメニューを持っていく。繁盛店ではないが、ランチタイムなどには客が入ってくることもあり、完全に暇ではない。それにメイド姿の私を目当てに、スズが毎回来てくれるおかげで、なんだかんだでやることはあるのだ。
「……って、ショウタじゃん。こんな場末のしけたカレー店にどうして?」
「おぉ!スルメじゃねぇか!相変わらず死んだ魚の眼をして萎えた風貌してんな!安っちいメイド服も大して似合ってねぇぞ!」
「うざ……冷やかしなら帰れよ」
「そうだよ姉崎君。目障りだから早く消えてよ。スルメちゃんとのイチャラブ萌え萌え天国に男なんていらないんだから。っていうかメイド服が似合ってないって何?目腐ってんじゃないの?カードバトルで脳みそおかしくなってない?バカなの?死ぬの?無能な愚か者には何を言っても無駄だね。不愉快な害虫クソオスが。スルメちゃんみたいな孤高の美少女が安物のメイド服を着て、たどたどしくへたっぴなご奉仕をしてくれることに味わい深さと侘び寂びがあるのわかんないんだ。消えろ消えろ消えろ」
まずい。ショウタのノンデリ発言にキレたスズが堰を切ったように話し始めちゃった。たまにウェブ小説とかで見かける毒舌キャラと呼ぶには無理があるくらいに人格否定級の罵倒ばかり並べてくるヒロインみたいじゃんか。そんなファンタジー級の狂人にならないでほしい。
落ち着かせるためにギュッと抱きしめたら、荒い息遣いで胸に顔をぐりぐりと押し付けられた。ちなみに、スズから見えないようにカウンターに隠れたホムラは、心底ドン引きしていた。まぁ、気持ちはわかる。
愛も萌えもない罵倒の限りを尽くされても、ショウタはニカっと笑っている。こいつはこいつでたまに人間味がない気がするんだけど、どうなんだろうか。
「一昨日、カヴィターさんがビリヤニテポドスの奴らに攫われそうになっていたのを助けたんだよ!そしたらカレーを奢ってくれることになってさ!」
どうやらヴリンダのお母さんと知り合いらしい。ショウタが来てからキッチンから嬉しそうな鼻歌が聴こえてくるが、きっとカヴィンターさんも張り切っているのだろう。
それにしても、ヴリンダたちは反社やギャングとかかわりがあるのだろうか。ビリヤニテポドスといえば、デュイニアンパルとニューコウライの不良たちにより結成された反社組織だ。
新十区のビックボやハイデン馬場あたりを拠点としている新興勢力らしく、たまに傾奇町のヤクザや、同じく外国人ギャング集団であるピロシキサーカス、マーボードラゴンなどと小競り合いを起こしている。
「トーナメント大会でホクトがボコボコにした選手がギャングの関係者だったんだ。そのせいでアイツ狙われているからさ、オレが一緒に戦ってるんだ」
「へぇ……もしかして、BSS団と関係があったりするの?」
「なんだそりゃ。よくわかんねぇけど、あいつらは闇のカードを悪用してて許せねぇ!だから再起不能になるまでカードバトルで全員ボコボコにしてやるんだ!くぅ~!沢山バトルができてたまらねぇぜ!」
『ねぇ、マスター。こいつやっぱりおかしいよ……』
うん。私も薄々そう思ってた。でもさ、こういう前向きさとかアグレッシブさが主人公の証なのかもしれない。それに犯罪者集団といえども、最終的には暴力ではなくカードバトルで物事を決めようとするからね。そういう意味ではカードバトルが強いショウタは、反社たちをなぎ倒すヒーローになれるかもしれない。
まぁ、戦いを求めて自ら火に飛び込むカード馬鹿をヒーローと呼んでいいのかはわからないけど。こういう狂ったところはショウタも模範的なカードゲーマーなんだなと思っている。
総じてカードゲーマーの性根は腐っている。前世の記憶の中で、この言葉だけは強く印象に残っている。
覆しようのない完璧な布陣を瞬時に作り、対戦相手を沈黙させるソリティア。強い手札が尽きるまで交互にカードを叩きつけ合うメンコ。カードゲームは理不尽だらけで、それを制した勝者に与えられるのが最高の愉悦だという。
抵抗できなくなった対戦相手を一方的に蹂躙する。そう考えると、カードゲーマーというのは私みたいに愉悦を求めているのかもしれない。主人公をバラのムチで痛めつけるヒロインもいたし。とにかく自分が気持ちよくなることが大切なんだ。
『今やスリル中毒の狂人ばかり!これもすべてカードバトル至上主義の弊害よ!カードでの勝敗でテキトーに丸く収めているけど!社会的課題とか恨みつらみとか社会の闇とか!そういう……何かこう……悲しいものは全部放置されている!だからウチみたいに可哀想な子が生まれるんだぁ!』
そして、そんなカードゲームがあらゆる命運を左右しているからこそ、この世界はイカれてしまったのだろう。傾奇町のビル屋上で綿高ヘラとカードバトルしたとき、ヤツが喚いていた話も単なるメンヘラの盲言ではない。
でも、もしそうだとしたら、私はどう生きていけばいいのか。前世と違って全世界のカードプールは公開されていない。トーナメント大会で私のエースカードが進化したように、バトル中にカードが書き換わる可能性だってある。ただでさえ、カードゲームは運の要素が強いというのに、人生を賭けたカードバトルでそんな予測不能なことが起きたら目も当てられない。
特定のカテゴリでしかデッキを作れないアニメ世界の奴らとは違って、思いも寄らない組み合わせで強力なコンボが作れることに、私の優位性があるはずだ。でも、肝心のカードプールが貧弱な雑魚カードとクセの強いグロカードで埋め尽くされているのが悩ましい。ホムラたちもAPがもう少し高くなればいいのに。
そんなことを考えていたら、カヴィンターさんが頬を赤らめながら、カウンター越しにショウタの手を握りしめた。その瞳には小さなハートマークが見えたような気がする。
「ショウタ……スキ……」
「おうぇっ!」
「わかるよ、ヴリンダ。実の母親が発情するのって何か嫌だよね」
メロつく母親を見たヴリンダが舌を出して気味悪そうにえずく。さすがは主人公。推定20代半ばのお母さんキャラまで落とすなんて中々のやり手だ。
ただ、鈍感属性があるようで、提供されたカレーをガツガツ食べることに集中している。カヴィンターさんの好意には気づいてないようだ。こういうところには、幼馴染のインリンもきっとやきもきさせられているだろう。
カランコロンとドアベルが鳴る。入口の方を見ると、肩幅が広い筋肉質な男が立っていた。高そうなスーツを着こなしていて、髪型はツーブロック。自信と活気に満ちたガツガツした雰囲気をまとっている。
「あれ?ズイちゃんおらんの?」
「店長今忙しい」
「ならちいと待たしてもらうよ。水つかぁさい」
「おい新人。水出せ」
「はいはい」
何日か勤務してわかったのだが、この店に来る客は大きく分けて2種類にわけられる。まずカンナさんの所属する自警団のメンバーだ。ガラの悪いやんちゃそうな人間が多いけど、みんな身内には優しい良い人ばかりだ。彼らを前にすると仏頂面をしがちなズイも楽しそうに微笑んでいる。
20代後半に見えるこのオジサンも、自警団メンバーとどこか似た空気を感じる。さしずめ、昔はやんちゃしていたけど今は更生して、みたいなタイプだろう。
「お水どうぞー」
「ッ!……初めましてッ!この度は、お忙しいところ貴重なお時間を頂戴し、誠にありがとうございます!ワタクシ、プルーンゴリラ殺害保険の雁木マリオンと申します!」
「え……急になんですか……」
背伸びしてカウンター越しに水を差しだしたら、男は一瞬フリーズした。刹那、光の速さでポケットから名刺入れを取り出すと、私に向かって名刺を差し出してきた。
腰をピッタリ45度に曲げてお辞儀してきているが、顔は私の方を向いたままだ。目尻は垂れ下がっているものの、そのガンギマッた瞳からは獲物を決して逃すまいという意志を感じる。限界まで上がった口角と、ピカピカの白い歯を見せつけた笑顔は、どこか歪で威圧感のある表情だった。
「本日はお客様の大切な人生の一助となれます保険商品の『キル・アンド・キャッシュ~保険金ウホウホプラン~』の詳細をご説明させていただいてもよろしいでしょうか!?」
「いえ、結構です……」
「さようでございますか!こちら契約から殺害による保険金受け取りまで、当社がトータルサポートするプランでございまして、進学・就職や結婚などのライフステージの変化にあわせた資金調達に備えられる点が、契約者の皆様から好評でございます!」
「話聞けよ。だからいらないって」
「スルメちゃん、どうしようか?私たちの結婚資金のためにも必要かな?」
「いくらなんでも気が早すぎるよ、スズ。私たちまだ未成年だよ?」
「それでは、お父様お母様、おじい様おばあ様、親戚の皆様、ペットのお犬様お猫様など、ご紹介いただけないでしょうか?皆様に最適なプランを提案させていただきます!」
「普通に嫌です」
「でしたら、こちらの資料だけでもどうぞ!今なら最高級和牛やゴリラ柄の高級スーツなど豪華賞品が当たるキャンペーンを実施中でして」
「しつこいなぁ!もう!」
強引に押し付けてきた大量の資料を押し返すと、再びマリオンはフリーズした。そして、首を鳴らすと瞬時に入店時の落ち着いた雰囲気に戻った。
「ふーっ……すまんのう。初対面のもんを見るとつい保険の営業をしちまうんじゃ」
「頭おかしいのか?」
「堪忍してつかぁさい。これも癖じゃけぇ」
『マスター、これが現代社会の闇ってやつかなぁ?』
「やはり労働は悪か……」
するとヴリンダが、マリオンからA4サイズの茶封筒をひったくった。保険の契約資料というには薄っぺらい。
「店長への預かり物もらう」
「おぉ!ありがとの!頼む!」
「なに?そのファイル。保険のパンフレット?」
「いんや。傾奇町のコンカフェや風俗店の出資者、ケツ持ちなんかをまとめた資料じゃ。保険屋じゃけぇえっと情報が集まるんじゃ」
マリオンは自信ありげにムチムチの大胸筋を張ってる。どうやらかなりの情報通らしい。
「もしかしてBSS団とか反社にも詳しいの?」
「当たり前じゃ。お嬢ちゃんも保険契約しくんさったら、な」
「ちぇっ……タダじゃ教えないってか。けち……」
「ガハハハ!まぁ最近は家政宝傾組で代替わりがあったけぇのぉ。えらい抗争も激しゅうなっとる。お嬢ちゃんも気ぃ付けてな」
「カンナさんが言ってたんだけど、新しく跡を継いだボスってそんなダメダメなの?」
「姉御が?そりゃあ大変じゃ。キミと同い年くらいの女の子じゃ。たしか名前は」
「あ、あのっ!雁木さん!私、保険に興味があって!」
「ッ!……さようでございますかッ!では、こちらの資料とタブレット上のスライドに基づいてイチからご説明させていただきますッ!」
「あっ……もう、スズったら……」
妄想に憑りつかれたスズのせいで、あんまり詳しい話が聞けなかった。
しょんぼりと肩を落としていると、キッチン裏からスーツ姿の強面のオジサンとズイが出てきた。この店に来る2種類の客のうち、もう一方がこの堅気には見えないオジサンたちだ。
この人たちは必ず「ココナッツオリパカレー」を頼む。メニュー表には載っていないのでおそらく裏メニューなのだろう。キッチン裏のスタッフルームでわざわざズイが一対一で応対するのだから、さぞかし羽振りの良いVIP客に違いない。
「あら、マリオン様。いらしていたのですね。ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした」
「お客様ご安心ください!この程度のことご放念いただいて結構でございます!ささやかながら、こちらも万全を期しておりますので、お客様の貴重なお時間を、このような些事に割いていただくのは恐縮でございます!」
「あぁ……保険の営業中でしたか。これは失礼しました。ヴリンダ」
「はいよー。これ預かり物」
ズイは封筒を開けて資料をパラパラとめくっていると、あるページで手を止めて眉間に皺を寄せた。何度か接していてわかったことだが、彼女が眉間に皺を寄せたり、カトラリーを拭いたりするときは、強いストレスがかかっているときだ。
「……なるほど。ヴリンダ、クソガキサマ。仕入れのため少し店を空けます」
「アイヨー」
ズイは早足で店を出て行った。妙だな、食材や業務に必要なものは大体ヴリンダの母親が買い出しに行ってる。わざわざ店長兼オーナーであるズイが仕入れなければならないものなんてあるのだろうか。
『ねぇ、マスター。さっきから気になってたんだけど、店の裏から出てくるお客さんが黒い靄をまとってる気がするんだよね』
「え、そうなの?」
『うん。さっきのオジサンとか、僅かだけど感じたよ。せいぜい闇のカード1~2枚分だろうけどさ』
となると、まずはズイに話を聞かなければならない。もしかしたらBSS団について何か知っているかもしれないし、何らかの方法で黒い靄を集められるかもしれない。
「ごめん!ちょっと私も仕入れに行ってくる!」
「あっ!?スルメちゃん!?下働きなのに何を仕入れるのっ!?」
「逃げるな!給料ドロボー!」
「おー!じゃあなスルメー!」
私は急いで店を出て、ズイの後を追うことにした。
・・・・・・・・・
「ぜぇ、ぜぇ……見失った」
『マスターの体力がゴミだから全然追いつかなかったねー』
「かはっ、ぐふっ……うる、さい!」
店を出て傾奇町を歩くズイを追いかけたものの、歩くスピードと歩幅の違いから、追いつくことはできなかった。肩で息をしていた私は、たまたま見つけた爆走寺ビル惨号館の入り口にへたり込んだ。カレー店から遠く離れてはいないけど、だいぶ走った気がする。
「オイ!そこのチビメイド!」
「はぁ?」
「採用希望者か!?面接か!?どうなんだ!?」
「違いますけど?」
『なんかせっかちなオジサンだね……』
少し休憩していたら、小太りのオッサンが怒鳴ってきた。私よりちょっとだけ背が高い中年男は、ニューコウライ出身のように見える。見るからに不愉快そうな表情で、キンキンと甲高い声でまくし立ててきた。
「無関係なら失せろ!オイラはあそこのコンカフェの開店準備で忙しいんだ!」
「お前から絡んできたんだろうが」
目線を上げると、向かいにある古びた雑居ビルの空中階に、ゲテゲテしい看板を掲げたコンカフェがあった。というか、オッサンの指差している看板って、アニメ『引きこもります!アマテラスちゃん』の二次創作イラストを勝手に使ってないか?画質ガビガビだし最低だな。悪質業者は爆発しちまえ。
私の白けた視線など意に介さず、オッサンは興奮冷めやらぬ様子で、聞いてもいないことをべらべらと喋り続けている。どうやら、これで新規開業するのが20店舗目らしい。
聞く限りどれも悪質な店舗ばかりでロクな運営をできていないようだが、いずれの店舗も放火か何かで焼失してしまったようだ。今、開業準備中のコンカフェが所属組織で出店できるラストチャンスだとか。どうりで張り切っているわけだ。
「今度こそぼったくりコンカフェでデカい花火をあげるんだー!」
感極まったオッサンが諸手を上げた瞬間、空気が押し潰されるような圧迫感が街を覆った。一瞬、視線の先にある雑居ビルの一フロアが膨れ上がったように見えた。刹那、ガラス窓が内側から弾け飛び、炎が勢いよく噴き出した。
コンカフェが爆発したのだ。反射的に腕で顔を覆う。爆風に巻き上げられた破片が路上に降り注ぐ。周りが騒然とする中、オッサンはがっくりと膝をつき口をあんぐりと開けていた。
他のフロアは無事に見えたが、爆心となったコンカフェは黒煙と炎に包まれている。これでは開業できないだろう。悪質業者とはいえ、まさか爆発するなんて。
「……もしかして、私って……エスパー?」
『そんなわけないでしょっ!マスターみたいな雑魚が願っただけで爆発するなんてありえないからっ!誰かが闇のカードで攻撃したんだよっ!』
「なんだって!?」
街全体が混沌に引きずり込まれる中、野次馬たちの間をぬって雑居ビルに近寄った。たしかに煙とは何かが違うおどろおどろしい黒い靄がフロアに漂っているように見える。
ふと、ビルの裏口の近くでメイドを見た気がした。
スランプ気味で中々更新できておらずすみません……。
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