カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが??? 作:53860
感想、お気に入り、ここすき。ありがとうございます!励みになります!
今後も「TCG小説の最底辺、狂気の最高峰」を目指して頑張ります!
今回は大人しめですが……。
ホムラはアホだけど優しくて明るい正義の魔法少女。天真爛漫で自信家な彼女は、みんなのリーダー!
そう振る舞うのは、誰よりも愛を求めていたから。みんながカッコいいと羨み、尊敬する正義の味方。悪の敵から世界を守る。そんな存在になれば、きっと誰もが愛してくれる。そうホムラは考えた。
敵なんて存在しないのに。
承認欲求でできた空虚な正義は、行き場を失い闇の中へと沈んでいく。
そして、彼女は罪を犯す。
・・・・・・・・・
スズとのカードバトルの翌日、私はズイさんのお店「マハラニ★萌神殿」の前に立っていた。
ズイさんは、数多のコンカフェを襲撃して傾奇町に混乱をもたらし、そして愛しのスズに闇のカードを与えた疑惑のある容疑者だ。
大切な幼馴染を危険な目に遭わせた不届き者、そんなヤツは私が成敗しなければいけない。
「おや、クソガキサマ。今日はシフトがないはずですが?」
「今日は傾奇町を荒らす犯罪者をボコボコにしに来た。よくもスズを傷つけたな」
ズイさんから静かな怒りを感じた。苛立たしげに黒い布巾でカトラリーを力強く擦っている。
「……随分な言い草ですね。で、何がしたいのですか?」
「カードバトルに決まってるでしょ。ほら、店を出て公園で……」
「その必要はありません。今ここでやりましょう」
能面のように無機質なズイさんはバトルユニットを起動させた。
「……大切なお店なんでしょ?嫌いなカードバトルをしてもいいの?」
「ここが終わりであり、始まりですから。何者でもなかった私を捨てたあの日の」
ズイさんは山札に手をかけるとカードをひいた。
「私のターン。スペル【デーモン・トレード】を発動します。手札2枚をバックヤードに送ることで、デッキから2枚ドローします」
「バックヤード?」
「これによりバックヤードに送られた【DM(デーモン・メイド)・庭師のアガ】と【DM・盲目のアンダカ】を特別召喚できます」
大蛇を持った庭師メイドと、盲目のメイドが登場する。
少女たちはくすくすと笑い合っている。
また先攻をとられた。クソが。
それはそうとして、聞き覚えのない表現が出てきた。
「私のデッキの主役は、悪魔のメイド。持ち場を離れて退く時、メイドはバックヤードに下がります。だからカードバトルでは、墓地をバックヤードと表現しています」
「小賢しいことするじゃん」
バカバカしい。墓地は所詮、墓地じゃないか。
死骸が積み上がるからいいんだよ。
使えないカードどもが、墓地に落ちてようやく役に立つ。その死体どもを綺麗に誤魔化すなんてふざけてる。
「……悪魔」
「は?」
「貴女のような悪魔は、カンナさんのハーレムには入れませんからね!」
「入りたいって言った覚えないんだけど」
というか、カンナさんのハーレム?
なんか嫌な予感がする。なんだろう、トーナメント大会で戦った公荘レジィと同じ匂いが。
あの時の痛みと恐怖を思い出して、少し身震いしてしまう。
こんな時、ホムラがいれば少しは心強いのに。どういうわけか昨日のスズとのカードバトル以降、デッキから出てきてくれない。うるさいし、アホだし、AP低い雑魚だし、すぐ調子に乗るけど、いないとそれはそれで困る。
「闇のカードを集めて、悪さするズイさんの方がよっぽど悪魔みたいじゃん。カンナさんもきっと泣いてるよ?」
「……そんなことありません。私は傾奇町を守るためにやっているのです。そう、いわば正義のための致し方のない行為と言えます」
「悪質コンカフェと外国人ギャングを追い出して綺麗にするってヤツ?」
「それはあくまで工程の一部です。目指す結果は、ただ1つ。HALトーキョー構想の実現です」
「……はい?」
「闇のカードで資金を集め、まずは不夜城REDをビルごと買収。そして、カンナさんのための次世代ハーレム複合施設を築き上げるのです」
「なにそれ」
「Eternal Sex Palaceアカデミア。略してESPアカデミア。カンナさんのために選ばれた少女たちが働き、学び、奉仕し、愛されるコンカフェビルです」
こいつ、何て言った?
カンナさんのカードショップを買収して、変なビルを作るつもりか。
感極まったように手を広げ、ズイさんは叫ぶ。
「これは単なるビルではありません。傾奇町全域、いやハイパートーキョーを、カンナさんの愛で包む、ハーレム&レズビアントーキョー構想。その記念すべき第一歩になるのです」
「で、その詳細が?」
「愛に飢えた少女たちのためのビル。ESPアカデミアです」
「最初の一歩で終わってるだろ」
なんか前世で聞いたことある名前がいくつか出た気がするけど、触れないでおこう。
やっぱりこの世界の住人はイカれてる。
『ひひひ。よかったじゃないか、マスター。ヤンキー女の愛玩動物に選抜されなくて』
「へぇ、アンタも実体化できるんだ?」
『もっちろん!なにせボクは完全無欠なマスターのエースカードなんだからね!』
「ホムラがいないから出てこれただけでしょ?今まで引きこもって、情けない」
真っ黒な少女の姿をして、我がエースが現れた。虫かと思いきやドラゴンになったり、変幻自在のようだ。そのうち虐殺メカとかになってもらおうかな。ちょっとお喋りなのが玉に瑕だけど。
まぁ、ホムラがいない間の穴埋めくらいにはなるかもしれない。うるさいアホ女の代わりに、少し陰気なヒス女が出てきただけとも言う。スズみたいに純粋で優しい大和撫子はいないものか。
『いやいや、あんなアホ女なんて関係ないさ。ここは闇のエネルギーが濃いからね。だからこうやって実体化できるのさ』
「……何やら変なヤツがいますね」
「え?ズイさんに見えるの?このメンヘラ女が」
「えぇ。その禍々しい気配……闇のカードですか」
『ご名答。お前の集めた闇の匂いに釣られて出てきたのさ』
「……やはりクソガキサマは悪魔のようですね」
ズイさんはバトルユニットに手をかけた。
「悪魔退治といきましょう。場の2体のアタッカーにお暇を与えることで【DM・メイド長のヴリトラ】を召喚します」
「お暇?」
「クソガキサマにもわかるように言うなら、生贄です」
「ならそう言えよ。紛らわしい」
場のメイドたちが一礼すると、背後に扉が現れた。そして二人は手をつないで扉の奥へと消えて行った。
すると、場に凛としたメイド長がひらりと登場する。
眼鏡をかけて大きな箒を持つ姿からは気難しそうな印象を受ける。
「……なにこのぬるい演出」
『力のあるプレイヤーはカードバトルを変化させる。こいつはメイドだ。死体置き場もバックヤードに、生贄も休憩に塗り替える』
「じゃあ私は?」
『誰よりも残酷でグロテスクな表現になるさ。よかったねマスター!これもボクのおかげさ!』
まぁね。ただ欲を言えば、もうちょっと悲鳴と肉片が欲しい。
しかしARの不備なんかじゃなくて、バトルパワーやカードソウルのせいだったのか。
あとでママに伝えないといけない。最近、部下を死ぬほど残業させて酷使しているって笑っていたから。ARビジョンの不具合でない以上、早く研究員たちを解放してあげないと。
このままだと恨みと憎しみが集まって、また新たな闇のカードを生んでしまう。
「AP2500のトップグレードアタッカーか。でもこいつはターン開始時に、500ELと手札1枚を維持コストとして要求するんだね」
「ホームの資金と部下を管理するのが、メイド長の仕事です。私はカードを1枚伏せてターンエンドです」
「ふん。私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行」
ホムラは、来ない。
仕方がないから、他の雑魚を出すとしよう。
「私は手札から【JKガールズ・深緑のリリカ】を通常召喚。現れよ深緑の令嬢」
黒髪のストレートロングヘアの魔法少女があらわれた。気品と礼節ある魔法少女。
だが、今日はいつもと違う。慌てふためくその表情は見るからに青ざめている。
『ままま、マスター!ホムラちゃんは!?ホムラちゃんはどこですか!?』
「え?知らない。デッキにいないの?」
『昨日からどこかに行ってしまって!見つからないんです!』
デッキにいない?
私が呼べば、出てきた。
呼ばなくても、出てきた。
それが、いない。
「……家出?」
『カードの精霊が家出するわけないでしょう!?いえ、ホムラちゃんならできるかもしれませんけど!でも!でもですね!昨日からずっと呼んでも返事がなくて!シズクちゃんやアイリちゃんも探しているんです!』
「まぁ、どうせそのうち出てくるでしょ。あいつ、寂しがりだし」
『そういう問題じゃありません!ホムラちゃんは、あんなにマスターのことが大好きなのに!デッキから離れるなんて、普通じゃないんです!』
まぁ、いいか。こいつを惨殺すればスペルが手に入る。それでアホムラをデッキから呼び出そう。
早くスペルで墓地送りにしないと。
「私は手札からスペル【デッド・ギフト】を発動!場のアタッカー1体を墓地に送り、カードを1枚ドローする」
『まってください!出てきたばかりなんですよ!?なのに酷い!』
「お前が犠牲になれば、アホムラを持ってこれる。だから、死んで?」
チクタク、チクタク。
音の鳴るプレゼント箱がリリカの手元に降ってきた。
『え、あの……マスター?これ、開けるんですか?それとも、開けなくても爆発するタイプの贈り物ですか?』
「たぶん後者」
『ですよねー!』
目尻に涙を浮かべて、健気に微笑む。さすがは深窓の令嬢だ。よく似合っている。
刹那、プレゼントは爆発した。
リリカがバラバラに吹き飛ぶ。苦しみも、痛みも感じない一瞬の出来事だった。そういうことにしておこう。
足元に陶器のように美しい腕が転がってきた。試しに触ろうとしたら、なんと掴めた。便利。ARビジョンとは何だったのか。これもカードソウルかバトルパワーの恩恵だろうか。
面白いので、リリカの手をバイバーイと振ってみた。結構、軽い。
ズイさんは口元を抑えている。
『ひひひ!いいね、マスター!あのアホの幼馴染を爆殺して、呼び出すつもりだね?』
「うん。惚れ直した?」
『ああ!流石はボクの愛するマスター!なんて残酷で邪悪で美しいんだ!』
「……クソガキサマ」
「なに?」
「悪趣味です」
「知ってる」
「これほどの邪悪、メイドでは処理しきれません」
「メイドって案外役に立たないんだね」
ズイさんは片眉を上げた。心底、不愉快そうだ。
「場に存在する【JKガールズ・深緑のリリカ】が墓地に送られたとき、500ELのダメージを与えるとともに、山札から【ガールズ】と名の付くスペルを手札に加えられる。私は【ガールズ・コールサイン】を手札に加える。そして、加えたスペルを発動……」
「させません!私は手札から【DM・リトルサタンガール】の効果を発動!墓地に送ることで、相手スペルの効果発動を無効化します!」
「ちぃっ!ゴミカスカードが!他人の妨害をするなんてちょこざいな!」
というか、手札から効果発動なんてインチキだろ!
「クソガキサマ、メイドの存在意義とは何だと思いますか?」
「そんなの、えっちなご奉仕のためでしょ!」
「……正解は、塵1つない手入れの行き届いたホームを守るため、です」
「ん、あれ?それって掃除屋さんと何が違うの?」
「綺麗なホームとは、敵対者や邪魔者のいない安全な空間でもあります。実力行使もできる。それがメイドです」
ズイさんは黒布巾でカトラリーを拭いている。
力いっぱい、念入りに。
何かを拭おうとしているように見えた。
「厚顔無恥な異邦人たちのエゴが傾奇町を荒らす。だから家政宝傾組の無能なクソガキに代わって、この私が悲劇の根源を粛清しようというのです。すべては正義のため」
「本音は?」
「邪魔者を排除して!競合店からメイドをヘッドハントして!傾奇町をカンナさん一色にするのです!これぞHALトーキョーの第一歩!そうすれば、私だって愛されます!」
なんて下らない。
傾奇町のためとか、色々な言葉を並べているけど、最後に出てきたのは結局「私も愛されたい」だ。
真正面からライバルをなぎ倒して、強引に愛を得ようとしたレジィさんの方が潔い。
『あのメイド女。哀れだねぇ』
「どういうこと?」
『愛されたい。居場所がほしい。でも自分には価値がない。だから価値ある場所に仕えて、大好きな女のために、守るべきホームを作ろうとしている。実に健気じゃないか。そして、独りよがりだ』
メンヘラ女は、けらけらと笑っている。
さも、自分はそうではありませんよと言わんばかりだ。
「ふん。よく言うよ。私の持ってたカードを全部燃やしたくせに」
『……は?』
「他人のこと言えないでしょ。グロカードとホムラたちJKガールズが残ったからいいけどさ、コモディティカードまですべて焼き払うなんてあんまりだよ」
『待て。何を言っている?燃やした?誰が?何を?』
「お前が、私のカードを、全部燃やした。嫉妬深いDVメンヘラここに極まれりって感じだね」
メンヘラ女の雰囲気が変わった。
あ、地雷だったらしい。
『ふざけるなよッ!なぜ崇高な存在であるボクがあんなゴミカードどもに嫉妬しなければならないんだッ!?取るに足らない羽虫なぞ焼く価値もないッ!』
「でも、私がロボット族のデッキ使おうとしたら、焼き払ったじゃん。目の前で」
『……ッ!いやッ、あれはッ……。その、うん……。それはそれ、これはこれ、だろ?なんかこう、違うじゃんか。なぁ、マスター?』
「全然違わないでしょ。このダブスタ糞メンヘラ」
『きっと世界の運命力がボクを操ったのさ。排他的で横暴なクソ女神がしそうなことじゃないか。ボクの意志じゃない。クソ女神が全部悪いんだ』
「責任転嫁しないでよ。目の前でロボット族を焼き払ったカードが、ほかのカードを燃やしたのは無関係?信じらんない」
『……まさか、本当に気づいていないのかい?』
さっきまで喚いていたメンヘラ女の声が、妙に冷えた。
「なにが?意味わかんない」
『かーっ!あのクソカードめッ!都合よく隠ぺいしたなッ!なぁーにが正義の味方だよッ!卑しいメス豚がッ!』
「急にヒステリー起こさないでよね。さっきから何なの?何が言いたいの?」
『マスターのカードを燃やしたのは、あのアホ女だよ』
メンヘラ女は、平然と衝撃の事実を吐き捨てた。