カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

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改めて、この作品のテーマは、カードとの絆と愛です。
本当です。嘘じゃありません。


知られなければ罪じゃない

「……嘘でしょ」

 

 思わず言葉が出た。

 ホムラが、私のカードを、燃やした。

 そんなことありえないはずだ。

 

「あいつアホだし、すぐ調子に乗るけど。そういうのじゃないじゃん。そんなこと、しないでしょ」

『でも残念!犯人はアイツだ!ボクの加護があるゾンビ族カードやスペルを除いて、コモディティカードも何もかも!全部燃やしたんだ!』

「……お得意の精神攻撃?悪いけど全然効かないよ?」

『現実を見ようぜ、ますたぁああ?あのアホ女はずぅっと嘘をついてたのさ!』

 

 嘘だ。……どっちが?

 なにもかもわからなくなってきた。トラウマで未だに過去の記憶は曖昧だ。

 でも、たしかにメンヘラ女が暴れたとき、家からは離れていた。なのに、すべてが終わって目が覚めたとき、私の周りのカードは燃えてなくなっていた。残ったのは、グロカードとJKガールズ関連のものだけ。

 じわりと視界が揺らぐ。信じていたのに。大好きな相棒なのに。違うのではないかと思ってしまう。

 

「悪魔にも、信じたい相手がいるのですね」

「ぐす……ふん!別に信じてない。ただ、あいつはアホだから、そんな器用なことできないはずだよ」

 

 ズイさんは憐れむように私を見ていた。

 嫌な目だ。そうやって私をバカにする。この世界の、他のヤツらと一緒だ。

 

「私はカード2枚を伏せてターンエンド」

「では私のターンですね。場の【DM・メイド長のヴリトラ】の維持コストとして、500ELを支払い、今ドローしたカードをバックヤードに送ります。同時に、デッキから【DM】カード1枚を手札に加えます」

 

 凛としたメイド長が鈴を鳴らすと、新たなメイドが描かれたカードが、ズイさんの手札に加わった。

 

「クソガキサマの戦法は、場のアタッカーを墓地に送る外道戦法ですね?」

「だから何?ちゃんとルールに合った合理的な戦法だけど?ズイさんもカード人権派気取りかな?」

「……では、それを封じます。手札に加えた【DM・戒律のヴァルナ】を召喚します」

 

 辞書みたいな冊子と懐中時計を持った生真面目そうなメイドが、ひらりと現れた。

 

「この娘が場に存在する限り、1ターンに1度、手札1枚をバックヤードに送ることで、場のアタッカーをバックヤード送りにする効果を無効にできます」

「はぁ!?墓地送り効果を無効するの!?」

「無断で持ち場を離れることは、規則により禁じられています」

『おいおい?マスターにおあつらえ向きのメタカードじゃないか。いつものアホ女を墓地に落として解決、とはいかないねぇ?』

 

 メンヘラ女が煽ってくる。カードのくせに生意気だぞ。我が相棒のように惨殺してやろうか?そう、ホムラにいつもしているみたいに。

 ……いつもなら、ここで怒って文句を言ってくるのに。今日はない。

 ちらりと、デッキを見る。まだ、出てこない。こんなにホムラがいないのは初めてかもしれない。

 

「バトルシーンです!ヴリトラとヴァルナで直接攻撃します!クソガキサマ、お覚悟を!」

「させない!カウンタースペル【ガールズ・ダメージカット】を発動!山札から【JKガールズ】と名の付くカード1枚を墓地に送り、このターンに発生する自分ELへのダメージを半分にする!」

 

 【JKガールズ・水麗のシズク】を墓地に送った。

 むむむ、やはり山札から墓地に送る効果だと全然グロ描写がないからつまらない。

 せっかくシズクを墓地に送ったのに、悲鳴も涙も肉片もない。カードが苦しんでくれないと面白くないな。

 もっと闇のエネルギーを集めれば、山札から落ちるだけのカードにもイイ感じの演出が追加されるだろうか。

 そんなことを考えていたら、メイド長と堅物メイドがカトラリーを投げてきた。

 

『おっと……危ないじゃないか』

 

 メンヘラ女は羽織っていたマントを広げて、漆黒のバリアを出すと、カトラリーを弾き飛ばした。

 やっぱりレジィさんと戦ったときと同じだ!カードの攻撃が実体化している。これは命の危険がある闇のカードバトルだ。思わず腕を握ってしまう。

 

『どうだいマスター!役立たずのアホ女と違ってしっかりキミを守ったよ!これが本当のヒーローってヤツさ!惚れ直したかい?』

「……それで過去がチャラになることはないよ」

『くくく。つれないねぇ……。どうやらまだ未練があるみたいだ。まぁ、アホ女のことなんか早く忘れてしまうといいさ』

 

 うるさい。別に私はホムラに未練なんかない。

 いつもなら、こういう場面で頼んでもいないのに騒ぎ出す金髪ポニーテールのアホがいる。

 それがいないから、少し調子が狂ってしまう。本当に、それだけだ。

 それにしても、私のELは2300ポイントに減ってしまった。まだ致命傷ではないけど、相棒がいないとこんなに心細いのだろうか。いや、そんなことない。ホムラなんて関係ない。

 

「私はカード1枚を伏せてターンエンド。順調に清掃は進んでいます。招かれざる客には、今すぐにでもホームをご退出いただきたいですね」

『それにしても、メイド女。お前とアホ女はよく似ているね。正義の味方、メイド、マスターのため、ホームのため。それらしい役割を着込んで、醜い本性を隠して、愛されようとしている』

「なにそれ。愛されたいなら、そう言えばいいじゃん。面倒くさいな」

「……そんな普通の言葉で済むなら、こんなことはしていません」

 

 ズイさんはカトラリーを取り出すと、ジッと見つめている。

 

「だからって、正義とか、傾奇町のためとか、ホームとか、メイドとか。そういう綺麗な言葉を貼っても、汚い欲望は消えないよ。そんな嘘まみれのズイさんを見て、カンナさんは喜ぶかな?」

「カンナさんは、私が何をしてきたか知らない。だからいいのです。知られないまま守れるなら、どんな装飾だって施しましょう。それがメイドの務めです」

 

 ズイさんはカトラリーを拭いていた。

 何度も、何度も。

 もう汚れなど残っていないはずなのに、銀の刃先を指で確かめるように撫でていた。

 

「すべて終わって、綺麗なホームだけが残れば、カンナさんはメイドに笑ってくださる」

「メイドって便利な言葉だね。なんでも誤魔化せるんだ」

『それはあのアホ女も同じだろぉ~?正義の味方、相棒、マスターのため。綺麗な言葉で飾れば、燃え残った灰まで隠せると思ってるんだからさぁ~』

「……ホムラとズイさんは違うもん」

『違わないよ!知られなければ罪じゃない。黙っていれば愛は壊れない。そう思ってたんだろうねぇ、あのアホ女もさぁ!あぁ~可哀想なマスター!相棒に裏切られるなんてねぇ~!きひひひひ!』

 

 やっぱりこいつ邪神か何かじゃないか?

 どうしよう今度、塩でも撒いておこうか。

 

『愛されたいから排除する。でもそれが、愛する人の視野を、選択肢を、狭めてることに気づいていない。なんて独りよがりで身勝手な善意なんだろうねぇ』

「私のロボット族のデッキ……。メンヘラに燃やされた」

『あっ……』

「視野、すごく狭くなっちゃったな……」

『うるさい!ボクはマスターの目の前で燃やしたからいいんだよ!こそこそ隠れず正々堂々やったじゃないか!』

「最悪のDVクソ女じゃん」

『ボクは別だから!こちとら大昔から愛してるんだ!マスターの前世も知らないポッと出のアホ女が、寝取ろうだなんて1億年早いのさ!』

「古参ストーカー女……」

『一途な騎士と呼んでほしいなぁ!』

 

 とりあえず、墓地のシズクを蘇生しよう。

 リリカを呼べば、確定で【ガールズ】スペルを持ってこられる。でも、ホムラを呼べるようなスペルはもう残っていない。

 なら、スペルを増やしても意味がない。必要なのは、山札から直接あのアホを引くことだ。

 

「私は手札からスペル【ガールズ・リザレクション】を発動!墓地の【JKガールズ】と名の付くアタッカー1体を場に特別召喚できる。来い!【JKガールズ・水麗のシズク】!」

 

 突如現れた墓から白い腕が飛び出してきた。

 山札から墓地送りにしたシズクだ。

 

『おっと、アホ女のお仲間が来るようだね。面倒だから、ボクは少し引っ込むよ』

「都合が悪くなると逃げるんだね」

『観客席に移るだけさ。クライマックスになったら呼んでくれ。メイドたちを一掃してやるから。ひひひ』

 

 そう言い残すと、メンヘラ女は霧散した。

 情けない奴め。まだ勝てないからって、逃げてやがる。

 場に現れたシズクは、般若のような表情で辺りを見渡している。相当怒っているようだ。

 

『あのアホ女はどこだ!?』

「知らないよ。それよりも、敵を倒してくれる?」

『当然だ、マスター!あいつのせいで溜まった怒りをぶちまけてやる!』

「よし。私は場の【JKガールズ・水麗のシズク】に、武装カード【ガールズ・ファイトロッド】を装着。これでAP1600にパワーアップするし、戦闘では破壊されなくなる」

「……狙いはヴァルナですか」

 

 その通り。場のアタッカーを墓地に送れないと、コンボパーツが手札に来ても、活かせないかもしれないからね。

 シズクが水の刃を放つ。堅物メイドのヴァルナに、高速で無数の氷柱が飛来する。

 だが、同僚を庇うように現れたヴリトラが、箒を床に立てて淡々とそれを受け流した。

 

「ホーム内での暴力行為はご遠慮ください。カウンタースペル【ホーム・ガード】でその攻撃を無効化します」

『なんだとっ!?すまない、マスター……!』

「……私はターンエンド」

 

 ズイさんがカードをドローし、口角を上げた。

 

「私のターン。ヴリトラの維持コストで500ELと、今引いた【DM・ホームクリーナー】をバックヤードに送ります。これにより場の武装カード1枚を破壊します」

「なにっ!?」

 

 バックヤードの扉の前に降り立った悪魔のメイド少女が、勢いよく箒を振るう。その突風で、シズクが持っていた魔法のロッドは吹き飛ばされてしまった。これでシズクはAP800に戻ってしまった。

 

「これで終わりです!ヴリトラで魔法少女を攻撃!デーモン・ハウス・クリーニング!」

「カウンタースペル【ガールズ・ダメージ・ヒーラー】を発動!場の【JKガールズ】アタッカーが戦闘で破壊された時、その戦闘ではダメージを受けない!そして代わりに、その数値分だけ自分のELを回復する!」

 

 ヴリトラの箒が振るわれた。清掃用具とは思えない重い一撃が、シズクの身体を打ち据える。

 だが、血は散らなかった。悲鳴も、絶叫も、ない。

 

『ぐっ……!』

「勤務時間外です。バックヤードへお下がりください」

『マスター!これを……!』

 

 シズクの背後で、黒い扉が開く。そして次の瞬間、シズクは扉の奥へ叩き込まれ、消えていった。

 消える間際に、シズクが氷の壁を、私の目の前に作り上げた。

 

「そしてヴァルナで直接攻撃です」

「うわっ!」

 

 飛んできたカトラリーが、氷の壁に阻まれる。シズクのおかげで、私が実体化した攻撃で傷つくことはなかった。でも、ダメージは受けてしまう。私のELは1400ポイントになった。

 場にカードはない。手札も1枚だけ。とんだピンチじゃないか。

 

「シズクが墓地に送られたことで、効果発動。カードを1枚ドローする」

 

 ありがとうシズク。

 守ってくれて。

 死んでも役に立ってくれて。

 深呼吸して山札に手をかける。何となく、いると思ったからだ。

 カードに指先が触れると、ぴくりと動いた気がする。

 いた。ホムラだ。

 

「……逃げるなよ、相棒」

 

 逃がさないよう力を込めてカードを引いた。

 抵抗はなかった。むしろ向こうから、私に寄ってきたみたいだった。

 

「ドロー!」

 

 その瞬間、視界が黒い炎に呑まれる。

 焼け焦げた灰の匂いがした。




次回、ホムラと対話します。
いつもよりシリアス寄りですが、最終的には本作らしい方向に戻るつもりです。
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