カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが??? 作:53860
カスちゃんが、ホムラの精神世界に飛び込みます。
この作品は一貫して、カードとの絆と愛を描いています。
なお、絆と愛の形は人それぞれです。
目を開けると、私はデパートの屋上に立っていた。ボロボロに焼けてしまった廃墟のようだ。
古びたヒーローショーの舞台があった。灰のように暗い世界を、照明が照らしている。
でも、誰もいない。敵も、ヒーローも。空っぽだ。
近くに置かれた看板の残骸には、「炎激のホムラ参上!」という文字が書かれている。でも、半分が黒く焼け落ちていた。
ステージには焦げ跡が走り、スピーカーからは割れた音で拍手だけが流れていた。気味が悪い。
客席には、木の板でできた張りぼての観客が並ぶ。
誰もいないはずなのに、歓声だけがある。子供たちの笑い声。ホムラの名前を呼ぶ声援。
でも、全てが歪んでいた。
「ホムラー。いるんでしょー?どこー?」
ピタッと音が止む。
どこにも人影が見当たらない。もしかして、舞台袖にいるのだろうか。
ステージによじ登ると、床に子供の字で書かれた自由帳が落ちていた。
表紙には【炎激のホムラ、エピソード】と書かれている。これが台本代わりらしい。
見覚えがあった。いや、気のせいかもしれない。
でも、中に書いてあった絵や文字を見て確信する。
小さい頃に私が描いたものだ。
「……いた」
舞台袖を覗くと、ホムラがいた。
焼け残った大道具の陰で、膝を抱えて座っていた。
煤で汚れた魔法少女のドレスを丸めるみたいに、小さくなっている。
「なにやってんの。ほら、帰るよ?」
「……やだ」
「はぁ?やだってなに?相棒なんだからちゃんとしてよ」
ホムラはぎゅっと縮こまった。
仕方がないので隣に座る。
「……もう、知ってるんだよね?」
「お前が、私のカードを全部燃やしたって話?」
「…………うん。燃やした」
「燃やしたじゃねーよ」
「……ごめん」
なんか調子が狂う。いつも馬鹿みたいに明るくて、底抜けのアホで、殴っても焼いても吊るしても復活するうるさいヒーローなのに。
今はその面影がない。
表情が暗い。生気がない。何より、うるさくない。
それが一番気持ち悪かった。
「ハァー。なんで燃やしたの?」
「……マスターが、私以外のカードを見そうだったから」
「メンヘラじゃん」
「いつか本当に浮気されるって思ったら、居ても立っても居られなくて」
「そんなことするわけないじゃん」
「……あのキモい蟲のこと、エースって言うじゃん」
あれは……違うだろ。
APが違うわけだからさ。やっぱりエースってのはAP3000くらい欲しいじゃんか。
AP1000の雑魚なんだから、それくらい甘んじて受け入れろよ。
だいたい相棒の方がエースよりも大事だろ。それくらい言わなくてもわかるだろ。
いや、アホだからわかんないのか。実際、放火してるわけだし。
「あと、バレなければ大丈夫って、思って……」
「姑息なヤツだなぁ」
「最低、だよね?」
「うん。サイテー。カードのくせに」
「こんなの……ヒーローじゃないよね」
ホムラは膝に顔を埋めている。
「マスターを守りたいって言いながら、マスターの大事なもの燃やしたんだもん」
想像もできないほど、弱々しい声だった。
「私、ただの悪い子だ」
肩を震わせながら、泣いている。
「マスターに大好きって言ってもらえるカードじゃ、なかった」
その姿は、ヒーローでも、正義の味方でもなかった。
ただ、嫌われたくなくて泣いている女の子だった。
カードのくせに。
「……私には、何もないんだ」
「あっそ。それで?自分の世界に引きこもるんだ?ハリボテだらけの燃えカスみたいな世界に」
「…………うん」
「バカじゃないの?」
長いため息が出そうになる。こんなにアホだとは思わなかった。
大好きなヒーローが、どんよりした空気でウジウジしている。
はっきり言って、イヤな気分だった。
「あのさ。私も、空っぽみたいなもんだったんだよね。ちっちゃい時から、ずっと。前世の記憶があるくせに、今の私が何なのか、ずっとわからなかった」
いつの間にか、言葉にしていた。ホムラを見ていて、ふと思ったことを。
「前世のことなんか、もうほとんど覚えてない。でも、この世界が気持ち悪いって感覚だけは残ってる。みんなカードを大切にしてるみたいな顔で、イカれたルールに従ってバカみたいなことしてる。意味わかんないでしょ?なのに、私だけがおかしいみたいな空気だった」
ホムラはただすすり泣いている。こんなこと言って、何が変わるのかわからない。
でも、この話は今しないといけない気がした。
「スズとイチャイチャして、変わらない日常が続く。それは嫌いじゃなかった。楽だったし。でも、正直つまんなかった」
認めたくはない。けど、本当のことだった。
イカれた世界で、なんだか破滅する予感がしながら、時間が過ぎていくのは退屈だった。何をやってもドキドキしなかった。
「でも、お前が出てきてからは違った。トーナメントも、闇のカードも、変な奴らとのバトルも、全部めんどくさかったけど……ワクワクした」
ホムラがピクリと反応した。
急に恥ずかしくなったから、少し声を小さくして言う。
「だから、お前といて楽しかったよ。それなりに」
焼けた舞台袖に、私の声だけが残った。
ホムラは膝を抱えたまま、何も言わない。
は?こいつ、まさか無視しやがったのか?カードのくせに生意気だぞ。
「おい。こっちは真面目な話してんだよ。無視すんな」
「……全部、知ってたわけじゃない」
「あ?」
「マスターに前世があって、そのことをちょっと覚えてるなんて、知らなかった」
ホムラは膝を抱えたまま、少しだけ横を向いた。
「でも、マスターが私を見る時だけは、この世界をちょっと信じてみたいと思えた」
「……この世界を、信じる?」
「私ね……書かれてることしか、ないんだ」
世界を信じる。書かれてることしかない。一体どういうことだろう?
ぽつりと言って、ホムラは自分の手のひらを眺めた。それから、暗記した文章を読み上げるように、抑揚なく続けた。
「アホだけど優しくて明るい正義の魔法少女。天真爛漫で自信家なホムラは、みんなのリーダー。必殺技のラブ・フレイム・スラッシュで敵を焼き払え」
「それって、ホムラのフレーバーテキスト?」
「うん。でもね、そう書かれているだけなんだ」
笑っていた。おかしいでしょ、と言いたいのか。悲しいのか、それとも何も感じていないのか。自分でもわかっていないような顔のようだ。
「自分のことなのに、何も知らないんだ。正義の魔法少女って何?みんなって誰?私は何のために存在するの?」
答えを求めているわけじゃなさそうだ。ずっと一人で抱えていたものを、ただ声にしてみただけ、という感じがした。
「私も、この世界が嫌いだった」
しばらくの沈黙のあと、ホムラはようやくこちらを向いた。
「だから、マスターが勝手に話してくれた設定が、本当に嬉しかった」
すごく大人びた笑顔だ。でも、どこか無理をしているように見えた。
似合わない。ホムラはもっとアホみたいに笑っている方がいい。
「意味なんてない。ただの妄想だよ」
「でも満たされた!マスターにとっては妄想でも、私には本物だった!」
言葉の雰囲気が少し明るくなる。
前向きで、ヒーローみたいで、聞きなれた声だ。
うるさいはずなのに、今は何だか心地よかった。
ホムラの目には、いつもの光が戻り、キラキラしていた。
バトルで出てきて見せてくれる、カッコよくて素敵な目だ。
「空っぽだった私に、マスターが中身をくれた」
そうだ。忘れていた。
ホムラだけは、ずっと前から手元にあった。【JKガールズ】の中でも、最初に好きになったカードだった。というより、最初はホムラしかいなかった。
メンヘラ女が事件を起こすより前から、私はホムラのデッキを作ろうとしていた。
勝手に必殺技を考えて、仲間との関係性を考えて、エピソードまで用意していた。
ステージに落ちていた自由帳。あれは、私がたった1枚のカードから膨らませた妄想の山だ。設定集なんてなかったから、私だけのホムラの世界を作っていた。
私はずっと、それを公式設定みたいに覚えていた。
でも違う。あれは、昔の私が作り上げた1つだけの物語だった。
そして、それをホムラはずっと大切にしてくれていたんだ。
「それで?愛されたいから、私のカードを燃やしたって言いたいの?」
「…………たぶん、独占欲」
「愛の重い女だねぇ」
自然と口角が上がる。
きっとバカバカし過ぎたからだろう。そういうことにしておく。
でも、許せるかどうかは別だ。
「カードのクセに随分と舐めたことやってくれたじゃん。絶対に許さないから」
「そう、だよね……。私なんか、もう、使いたくないよね……」
「は?何を言ってるの?」
「……え?」
「私はお前を許さない。カードを燃やしたことも、黙ってたことも、全部隠して隣にいたことも」
一呼吸置く。
ホムラは、叱られた犬みたいな顔をしていた。
ムカつく。
そんな顔をされたら、こっちが悪いみたいじゃないか。
「でも、だから何?」
ホムラが息を呑む。
パパが言ってた。罪を犯しても、そこで終わりじゃない。
たぶん、これはそういう話だ。
「許さないから捨てる?嫌いになったから使わない?」
そんな簡単な話なら、どれだけ楽だっただろう。
「そんなわけないでしょ」
顔が少し熱い気がする。
本当は恥ずかしいから、言いたくない。
でも、言わないと伝わらない。
相手は超弩級のアホだから。
「お前は、私の世界で一番大切な、大好きな相棒なんだよ?今までも、これからも、それは絶対に変わらない」
過去より、未来。
キモいドラゴンのヘンテコジジイが、そんなことを言っていた気がする。
癪だけど、少し正しかった。
「だから、これからをもっと見せて。私と一緒に戦ってよ」
ホムラの瞳が揺れる。
「私の相棒なら、過去の言い訳じゃなくて、これから何をするかで証明できるでしょ?」
「……ますたぁ」
ホムラはぐずぐずと泣いている。
ずぶ濡れの捨て犬みたいだ。
「私、性格悪いよ?」
「知ってる。傲慢だもんね」
「マスターに一番に見てほしいって、今でも思ってる」
「知ってる。目立ちたがり屋のアホだもんね」
「正義の味方なんて言いながら、全然綺麗じゃない」
「それも知ってる。でも、私だって綺麗なマスターじゃないでしょ?」
「…………いいの?」
「お互い様、とは言わないけどさ。私はグロカードでお前を惨殺してるし」
立ち上がって手を差し伸べる。
傲慢で、身勝手で、ド畜生で。でも、大好きな相棒に。
それに最低なマスターには、最低なカードくらいがちょうどいいはずだ。
「ほら。手、取らないなら置いてくよ」
「取る!取るよぉ……!」
ホムラは泣きながら、私の手を取った。熱かったけど、なんか心地よい気がした。
「なんかマスターから闇が流れてくるんだけど……」
「私の真心でしょ」
「邪悪でどす黒くて、ドブみたいな匂いがするぅ」
「ブチ殺すぞ」
「でも、すっごく落ち着く!」
私から漏れ出た闇が、ホムラの炎に混ざる。ドロドロとした黒炎が暗闇を照らした。
これからも私たちは一緒に戦う。許せないことを抱えたまま。それでも、相棒として。
焼けた舞台袖から、私たちはスポットライトの下へ戻る。
そして、イカれた世界を壊しに行く。
共依存って、よくないですか?
昔カードの設定とか勝手に考えていたことを懐かしみながら書きました。
次回、ズイ戦のクライマックス!選ばれるのはどっちのメンヘラなのか!?