カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

34 / 34
久しぶりのシリアス回。
カスちゃんが、ホムラの精神世界に飛び込みます。
この作品は一貫して、カードとの絆と愛を描いています。
なお、絆と愛の形は人それぞれです。


私はお前を許さない

 

 目を開けると、私はデパートの屋上に立っていた。ボロボロに焼けてしまった廃墟のようだ。

 古びたヒーローショーの舞台があった。灰のように暗い世界を、照明が照らしている。

 でも、誰もいない。敵も、ヒーローも。空っぽだ。

 近くに置かれた看板の残骸には、「炎激のホムラ参上!」という文字が書かれている。でも、半分が黒く焼け落ちていた。

 ステージには焦げ跡が走り、スピーカーからは割れた音で拍手だけが流れていた。気味が悪い。

 客席には、木の板でできた張りぼての観客が並ぶ。

 誰もいないはずなのに、歓声だけがある。子供たちの笑い声。ホムラの名前を呼ぶ声援。

 でも、全てが歪んでいた。

 

「ホムラー。いるんでしょー?どこー?」

 

 ピタッと音が止む。

 どこにも人影が見当たらない。もしかして、舞台袖にいるのだろうか。

 ステージによじ登ると、床に子供の字で書かれた自由帳が落ちていた。

 表紙には【炎激のホムラ、エピソード】と書かれている。これが台本代わりらしい。

 見覚えがあった。いや、気のせいかもしれない。

 でも、中に書いてあった絵や文字を見て確信する。

 小さい頃に私が描いたものだ。

 

「……いた」

 

 舞台袖を覗くと、ホムラがいた。

 焼け残った大道具の陰で、膝を抱えて座っていた。

 煤で汚れた魔法少女のドレスを丸めるみたいに、小さくなっている。

 

「なにやってんの。ほら、帰るよ?」

「……やだ」

「はぁ?やだってなに?相棒なんだからちゃんとしてよ」

 

 ホムラはぎゅっと縮こまった。

 仕方がないので隣に座る。

 

「……もう、知ってるんだよね?」

「お前が、私のカードを全部燃やしたって話?」

「…………うん。燃やした」

「燃やしたじゃねーよ」

「……ごめん」

 

 なんか調子が狂う。いつも馬鹿みたいに明るくて、底抜けのアホで、殴っても焼いても吊るしても復活するうるさいヒーローなのに。

 今はその面影がない。

 表情が暗い。生気がない。何より、うるさくない。

 それが一番気持ち悪かった。

 

「ハァー。なんで燃やしたの?」

「……マスターが、私以外のカードを見そうだったから」

「メンヘラじゃん」

「いつか本当に浮気されるって思ったら、居ても立っても居られなくて」

「そんなことするわけないじゃん」

「……あのキモい蟲のこと、エースって言うじゃん」

 

 あれは……違うだろ。

 APが違うわけだからさ。やっぱりエースってのはAP3000くらい欲しいじゃんか。

 AP1000の雑魚なんだから、それくらい甘んじて受け入れろよ。

 だいたい相棒の方がエースよりも大事だろ。それくらい言わなくてもわかるだろ。

 いや、アホだからわかんないのか。実際、放火してるわけだし。

 

「あと、バレなければ大丈夫って、思って……」

「姑息なヤツだなぁ」

「最低、だよね?」

「うん。サイテー。カードのくせに」

「こんなの……ヒーローじゃないよね」

 

 ホムラは膝に顔を埋めている。

 

「マスターを守りたいって言いながら、マスターの大事なもの燃やしたんだもん」

 

 想像もできないほど、弱々しい声だった。 

 

「私、ただの悪い子だ」

 

 肩を震わせながら、泣いている。

 

「マスターに大好きって言ってもらえるカードじゃ、なかった」

 

 その姿は、ヒーローでも、正義の味方でもなかった。

 ただ、嫌われたくなくて泣いている女の子だった。

 カードのくせに。

 

「……私には、何もないんだ」

「あっそ。それで?自分の世界に引きこもるんだ?ハリボテだらけの燃えカスみたいな世界に」

「…………うん」

「バカじゃないの?」

 

 長いため息が出そうになる。こんなにアホだとは思わなかった。

 大好きなヒーローが、どんよりした空気でウジウジしている。

 はっきり言って、イヤな気分だった。

 

「あのさ。私も、空っぽみたいなもんだったんだよね。ちっちゃい時から、ずっと。前世の記憶があるくせに、今の私が何なのか、ずっとわからなかった」

 

 いつの間にか、言葉にしていた。ホムラを見ていて、ふと思ったことを。

 

「前世のことなんか、もうほとんど覚えてない。でも、この世界が気持ち悪いって感覚だけは残ってる。みんなカードを大切にしてるみたいな顔で、イカれたルールに従ってバカみたいなことしてる。意味わかんないでしょ?なのに、私だけがおかしいみたいな空気だった」

 

 ホムラはただすすり泣いている。こんなこと言って、何が変わるのかわからない。

 でも、この話は今しないといけない気がした。

 

「スズとイチャイチャして、変わらない日常が続く。それは嫌いじゃなかった。楽だったし。でも、正直つまんなかった」

 

 認めたくはない。けど、本当のことだった。

 イカれた世界で、なんだか破滅する予感がしながら、時間が過ぎていくのは退屈だった。何をやってもドキドキしなかった。

 

「でも、お前が出てきてからは違った。トーナメントも、闇のカードも、変な奴らとのバトルも、全部めんどくさかったけど……ワクワクした」

 

 ホムラがピクリと反応した。

 急に恥ずかしくなったから、少し声を小さくして言う。

 

「だから、お前といて楽しかったよ。それなりに」

 

 焼けた舞台袖に、私の声だけが残った。

 ホムラは膝を抱えたまま、何も言わない。

 は?こいつ、まさか無視しやがったのか?カードのくせに生意気だぞ。

 

「おい。こっちは真面目な話してんだよ。無視すんな」

「……全部、知ってたわけじゃない」

「あ?」

「マスターに前世があって、そのことをちょっと覚えてるなんて、知らなかった」

 

 ホムラは膝を抱えたまま、少しだけ横を向いた。

 

「でも、マスターが私を見る時だけは、この世界をちょっと信じてみたいと思えた」

「……この世界を、信じる?」

「私ね……書かれてることしか、ないんだ」

 

 世界を信じる。書かれてることしかない。一体どういうことだろう?

 ぽつりと言って、ホムラは自分の手のひらを眺めた。それから、暗記した文章を読み上げるように、抑揚なく続けた。

 

「アホだけど優しくて明るい正義の魔法少女。天真爛漫で自信家なホムラは、みんなのリーダー。必殺技のラブ・フレイム・スラッシュで敵を焼き払え」

「それって、ホムラのフレーバーテキスト?」

「うん。でもね、そう書かれているだけなんだ」

 

 笑っていた。おかしいでしょ、と言いたいのか。悲しいのか、それとも何も感じていないのか。自分でもわかっていないような顔のようだ。

 

「自分のことなのに、何も知らないんだ。正義の魔法少女って何?みんなって誰?私は何のために存在するの?」

 

 答えを求めているわけじゃなさそうだ。ずっと一人で抱えていたものを、ただ声にしてみただけ、という感じがした。

 

「私も、この世界が嫌いだった」

 

 しばらくの沈黙のあと、ホムラはようやくこちらを向いた。

 

「だから、マスターが勝手に話してくれた設定が、本当に嬉しかった」

 

 すごく大人びた笑顔だ。でも、どこか無理をしているように見えた。

 似合わない。ホムラはもっとアホみたいに笑っている方がいい。

 

「意味なんてない。ただの妄想だよ」

「でも満たされた!マスターにとっては妄想でも、私には本物だった!」

 

 言葉の雰囲気が少し明るくなる。

 前向きで、ヒーローみたいで、聞きなれた声だ。

 うるさいはずなのに、今は何だか心地よかった。

 ホムラの目には、いつもの光が戻り、キラキラしていた。

 バトルで出てきて見せてくれる、カッコよくて素敵な目だ。

 

「空っぽだった私に、マスターが中身をくれた」

 

 そうだ。忘れていた。

 ホムラだけは、ずっと前から手元にあった。【JKガールズ】の中でも、最初に好きになったカードだった。というより、最初はホムラしかいなかった。

 メンヘラ女が事件を起こすより前から、私はホムラのデッキを作ろうとしていた。

 勝手に必殺技を考えて、仲間との関係性を考えて、エピソードまで用意していた。

 ステージに落ちていた自由帳。あれは、私がたった1枚のカードから膨らませた妄想の山だ。設定集なんてなかったから、私だけのホムラの世界を作っていた。

 私はずっと、それを公式設定みたいに覚えていた。

 でも違う。あれは、昔の私が作り上げた1つだけの物語だった。

 そして、それをホムラはずっと大切にしてくれていたんだ。

 

「それで?愛されたいから、私のカードを燃やしたって言いたいの?」

「…………たぶん、独占欲」

「愛の重い女だねぇ」

 

 自然と口角が上がる。

 きっとバカバカし過ぎたからだろう。そういうことにしておく。

 でも、許せるかどうかは別だ。

 

「カードのクセに随分と舐めたことやってくれたじゃん。絶対に許さないから」

「そう、だよね……。私なんか、もう、使いたくないよね……」

「は?何を言ってるの?」

「……え?」

「私はお前を許さない。カードを燃やしたことも、黙ってたことも、全部隠して隣にいたことも」

 

 一呼吸置く。

 ホムラは、叱られた犬みたいな顔をしていた。

 ムカつく。

 そんな顔をされたら、こっちが悪いみたいじゃないか。

 

「でも、だから何?」

 

 ホムラが息を呑む。

 パパが言ってた。罪を犯しても、そこで終わりじゃない。

 たぶん、これはそういう話だ。

 

「許さないから捨てる?嫌いになったから使わない?」

 

 そんな簡単な話なら、どれだけ楽だっただろう。

 

「そんなわけないでしょ」

 

 顔が少し熱い気がする。

 本当は恥ずかしいから、言いたくない。

 でも、言わないと伝わらない。

 相手は超弩級のアホだから。

 

「お前は、私の世界で一番大切な、大好きな相棒なんだよ?今までも、これからも、それは絶対に変わらない」

 

 過去より、未来。

 キモいドラゴンのヘンテコジジイが、そんなことを言っていた気がする。

 癪だけど、少し正しかった。

 

「だから、これからをもっと見せて。私と一緒に戦ってよ」

 

 ホムラの瞳が揺れる。

 

「私の相棒なら、過去の言い訳じゃなくて、これから何をするかで証明できるでしょ?」

「……ますたぁ」

 

 ホムラはぐずぐずと泣いている。

 ずぶ濡れの捨て犬みたいだ。

 

「私、性格悪いよ?」

「知ってる。傲慢だもんね」

「マスターに一番に見てほしいって、今でも思ってる」

「知ってる。目立ちたがり屋のアホだもんね」

「正義の味方なんて言いながら、全然綺麗じゃない」

「それも知ってる。でも、私だって綺麗なマスターじゃないでしょ?」

「…………いいの?」

「お互い様、とは言わないけどさ。私はグロカードでお前を惨殺してるし」

 

 立ち上がって手を差し伸べる。

 傲慢で、身勝手で、ド畜生で。でも、大好きな相棒に。

 それに最低なマスターには、最低なカードくらいがちょうどいいはずだ。

 

「ほら。手、取らないなら置いてくよ」

「取る!取るよぉ……!」

 

 ホムラは泣きながら、私の手を取った。熱かったけど、なんか心地よい気がした。

 

「なんかマスターから闇が流れてくるんだけど……」

「私の真心でしょ」

「邪悪でどす黒くて、ドブみたいな匂いがするぅ」

「ブチ殺すぞ」

「でも、すっごく落ち着く!」

 

 私から漏れ出た闇が、ホムラの炎に混ざる。ドロドロとした黒炎が暗闇を照らした。

 これからも私たちは一緒に戦う。許せないことを抱えたまま。それでも、相棒として。

 焼けた舞台袖から、私たちはスポットライトの下へ戻る。

 そして、イカれた世界を壊しに行く。

 




共依存って、よくないですか?
昔カードの設定とか勝手に考えていたことを懐かしみながら書きました。
次回、ズイ戦のクライマックス!選ばれるのはどっちのメンヘラなのか!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く(作者:にゃっとう)(オリジナル現代/冒険・バトル)

DCG風TCG販促アニメ的な世界に美少女カードとして転生した俺……もとい私。▼暗躍する教団組織に神殿で祀られるレベルの激ヤバいわくつきカードだったがために当初こそ自由には動けなかったものの、生贄にされかけた少女と共に脱走を決行!▼晴れて自由の身になった私は少女をマスターに定め、カードゲームの強さがすべてを決める世界を共に生き抜いてきた……のだが。▼「デュエル…


総合評価:14283/評価:8.74/連載:72話/更新日時:2026年05月10日(日) 02:49 小説情報

カードショップ店員をしている一般JK(転生済み)です。前世のデッキを使ってたら前作ラスボスと勘違いされてました。(作者:SSS級侵略者ファンチ=メン)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 カードゲームアニメの世界に転生してしまった! 前世から使い込んだデッキを使いながら、悠々自適に女子高生兼カードショップ店員な人生を満喫していたんだけど、気が付いたら二年前に倒された魔王の転生体と勘違いされていた、アニメの主人公やヒロイン、新しい敵が勝負を仕掛けてくるけど、その度に前世からの相棒デッキで黙らせよう。▼ ちなみにボクは本当に魔王じゃないからね?


総合評価:2981/評価:7.35/連載:8話/更新日時:2025年08月28日(木) 18:00 小説情報

ホビアニ系TCG世界にTS転生したので、いっちょラスボスを目指してみる(作者:どくいも)(オリジナルSF/冒険・バトル)

カードゲームアニメ風の世界に転生した主人公は、元ヘビーTCGマニアなので、全力で世界を満喫した。▼が、やり過ぎたので誰も相手してくれなくなった。▼……でも、自分がカードで世界征服を試みれば、みんな止めてくれるよね☆▼いっちょ、ラスボス目指してみますか!!


総合評価:11639/評価:8.55/連載:16話/更新日時:2025年10月04日(土) 19:00 小説情報

塵埃の魔法少女【完結】(作者:難民180301)(オリジナル現代/冒険・バトル)

性根が腐ってる元魔法少女ちゃんが、新人魔法少女たちをいじめる話。日記形式+三人称。曇らせ要素あり。


総合評価:41761/評価:9.12/完結:10話/更新日時:2023年11月03日(金) 06:00 小説情報

デメリット有りの能力で、可愛い子達を曇らせたいぞ!(作者:片桐きな粉)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

「契約のエリュジーン」▼深夜帯の大人気アニメ。少年少女その他が契約モンスターと悪を倒していく...王道のファンタジー。▼そんな世界に転生してしまった。女の子として。▼見渡そうとしても動けないし、死ぬ直前だったけど、契約をすることによって免れました。自らデメリットを背負って。▼全ては可愛い子が可愛い子に愛されたいという欲望のために▼尚、契約モンスターからは『も…


総合評価:6618/評価:8.42/連載:39話/更新日時:2026年05月21日(木) 23:49 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>