カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

34 / 38
久しぶりのシリアス回。
カスちゃんが、ホムラの精神世界に飛び込みます。
この作品は一貫して、カードとの絆と愛を描いています。
なお、絆と愛の形は人それぞれです。


私はお前を許さない

 

 目を開けると、私はデパートの屋上に立っていた。ボロボロに焼けてしまった廃墟のようだ。

 古びたヒーローショーの舞台があった。灰のように暗い世界を、照明が照らしている。

 でも、誰もいない。敵も、ヒーローも。空っぽだ。

 近くに置かれた看板の残骸には、「炎激のホムラ参上!」という文字が書かれている。でも、半分が黒く焼け落ちていた。

 ステージには焦げ跡が走り、スピーカーからは割れた音で拍手だけが流れていた。気味が悪い。

 客席には、木の板でできた張りぼての観客が並ぶ。

 誰もいないはずなのに、歓声だけがある。子供たちの笑い声。ホムラの名前を呼ぶ声援。

 でも、全てが歪んでいた。

 

「ホムラー。いるんでしょー?どこー?」

 

 ピタッと音が止む。

 どこにも人影が見当たらない。もしかして、舞台袖にいるのだろうか。

 ステージによじ登ると、床に子供の字で書かれた自由帳が落ちていた。

 表紙には【炎激のホムラ、エピソード】と書かれている。これが台本代わりらしい。

 見覚えがあった。いや、気のせいかもしれない。

 でも、中に書いてあった絵や文字を見て確信する。

 小さい頃に私が描いたものだ。

 

「……いた」

 

 舞台袖を覗くと、ホムラがいた。

 焼け残った大道具の陰で、膝を抱えて座っていた。

 煤で汚れた魔法少女のドレスを丸めるみたいに、小さくなっている。

 

「なにやってんの。ほら、帰るよ?」

「……やだ」

「はぁ?やだってなに?相棒なんだからちゃんとしてよ」

 

 ホムラはぎゅっと縮こまった。

 仕方がないので隣に座る。

 

「……もう、知ってるんだよね?」

「お前が、私のカードを全部燃やしたって話?」

「…………うん。燃やした」

「燃やしたじゃねーよ」

「……ごめん」

 

 なんか調子が狂う。いつも馬鹿みたいに明るくて、底抜けのアホで、殴っても焼いても吊るしても復活するうるさいヒーローなのに。

 今はその面影がない。

 表情が暗い。生気がない。何より、うるさくない。

 それが一番気持ち悪かった。

 

「ハァー。なんで燃やしたの?」

「……マスターが、私以外のカードを見そうだったから」

「メンヘラじゃん」

「いつか本当に浮気されるって思ったら、居ても立っても居られなくて」

「そんなことするわけないじゃん」

「……あのキモい蟲のこと、エースって言うじゃん」

 

 あれは……違うだろ。

 APが違うわけだからさ。やっぱりエースってのはAP3000くらい欲しいじゃんか。

 AP1000の雑魚なんだから、それくらい甘んじて受け入れろよ。

 だいたい相棒の方がエースよりも大事だろ。それくらい言わなくてもわかるだろ。

 いや、アホだからわかんないのか。実際、放火してるわけだし。

 

「あと、バレなければ大丈夫って、思って……」

「姑息なヤツだなぁ」

「最低、だよね?」

「うん。サイテー。カードのくせに」

「こんなの……ヒーローじゃないよね」

 

 ホムラは膝に顔を埋めている。

 

「マスターを守りたいって言いながら、マスターの大事なもの燃やしたんだもん」

 

 想像もできないほど、弱々しい声だった。 

 

「私、ただの悪い子だ」

 

 肩を震わせながら、泣いている。

 

「マスターに大好きって言ってもらえるカードじゃ、なかった」

 

 その姿は、ヒーローでも、正義の味方でもなかった。

 ただ、嫌われたくなくて泣いている女の子だった。

 カードのくせに。

 

「……私には、何もないんだ」

「あっそ。それで?自分の世界に引きこもるんだ?ハリボテだらけの燃えカスみたいな世界に」

「…………うん」

「バカじゃないの?」

 

 長いため息が出そうになる。こんなにアホだとは思わなかった。

 大好きなヒーローが、どんよりした空気でウジウジしている。

 はっきり言って、イヤな気分だった。

 

「あのさ。私も、空っぽみたいなもんだったんだよね。ちっちゃい時から、ずっと。前世の記憶があるくせに、今の私が何なのか、ずっとわからなかった」

 

 いつの間にか、言葉にしていた。ホムラを見ていて、ふと思ったことを。

 

「前世のことなんか、もうほとんど覚えてない。でも、この世界が気持ち悪いって感覚だけは残ってる。みんなカードを大切にしてるみたいな顔で、イカれたルールに従ってバカみたいなことしてる。意味わかんないでしょ?なのに、私だけがおかしいみたいな空気だった」

 

 ホムラはただすすり泣いている。こんなこと言って、何が変わるのかわからない。

 でも、この話は今しないといけない気がした。

 

「スズとイチャイチャして、変わらない日常が続く。それは嫌いじゃなかった。楽だったし。でも、正直つまんなかった」

 

 認めたくはない。けど、本当のことだった。

 イカれた世界で、なんだか破滅する予感がしながら、時間が過ぎていくのは退屈だった。何をやってもドキドキしなかった。

 

「でも、お前が出てきてからは違った。トーナメントも、闇のカードも、変な奴らとのバトルも、全部めんどくさかったけど……ワクワクした」

 

 ホムラがピクリと反応した。

 急に恥ずかしくなったから、少し声を小さくして言う。

 

「だから、お前といて楽しかったよ。それなりに」

 

 焼けた舞台袖に、私の声だけが残った。

 ホムラは膝を抱えたまま、何も言わない。

 は?こいつ、まさか無視しやがったのか?カードのくせに生意気だぞ。

 

「おい。こっちは真面目な話してんだよ。無視すんな」

「……全部、知ってたわけじゃない」

「あ?」

「マスターに前世があって、そのことをちょっと覚えてるなんて、知らなかった」

 

 ホムラは膝を抱えたまま、少しだけ横を向いた。

 

「でも、マスターが私を見る時だけは、この世界をちょっと信じてみたいと思えた」

「……この世界を、信じる?」

「私ね……書かれてることしか、ないんだ」

 

 世界を信じる。書かれてることしかない。一体どういうことだろう?

 ぽつりと言って、ホムラは自分の手のひらを眺めた。それから、暗記した文章を読み上げるように、抑揚なく続けた。

 

「アホだけど優しくて明るい正義の魔法少女。天真爛漫で自信家なホムラは、みんなのリーダー。必殺技のラブ・フレイム・スラッシュで敵を焼き払え」

「それって、ホムラのフレーバーテキスト?」

「うん。でもね、そう書かれているだけなんだ」

 

 笑っていた。おかしいでしょ、と言いたいのか。悲しいのか、それとも何も感じていないのか。自分でもわかっていないような顔のようだ。

 

「自分のことなのに、何も知らないんだ。正義の魔法少女って何?みんなって誰?私は何のために存在するの?」

 

 答えを求めているわけじゃなさそうだ。ずっと一人で抱えていたものを、ただ声にしてみただけ、という感じがした。

 

「私も、この世界が嫌いだった」

 

 しばらくの沈黙のあと、ホムラはようやくこちらを向いた。

 

「だから、マスターが勝手に話してくれた設定が、本当に嬉しかった」

 

 すごく大人びた笑顔だ。でも、どこか無理をしているように見えた。

 似合わない。ホムラはもっとアホみたいに笑っている方がいい。

 

「意味なんてない。ただの妄想だよ」

「でも満たされた!マスターにとっては妄想でも、私には本物だった!」

 

 言葉の雰囲気が少し明るくなる。

 前向きで、ヒーローみたいで、聞きなれた声だ。

 うるさいはずなのに、今は何だか心地よかった。

 ホムラの目には、いつもの光が戻り、キラキラしていた。

 バトルで出てきて見せてくれる、カッコよくて素敵な目だ。

 

「空っぽだった私に、マスターが中身をくれた」

 

 そうだ。忘れていた。

 ホムラだけは、ずっと前から手元にあった。【JKガールズ】の中でも、最初に好きになったカードだった。というより、最初はホムラしかいなかった。

 メンヘラ女が事件を起こすより前から、私はホムラのデッキを作ろうとしていた。

 勝手に必殺技を考えて、仲間との関係性を考えて、エピソードまで用意していた。

 ステージに落ちていた自由帳。あれは、私がたった1枚のカードから膨らませた妄想の山だ。設定集なんてなかったから、私だけのホムラの世界を作っていた。

 私はずっと、それを公式設定みたいに覚えていた。

 でも違う。あれは、昔の私が作り上げた1つだけの物語だった。

 そして、それをホムラはずっと大切にしてくれていたんだ。

 

「それで?愛されたいから、私のカードを燃やしたって言いたいの?」

「…………たぶん、独占欲」

「愛の重い女だねぇ」

 

 自然と口角が上がる。

 きっとバカバカし過ぎたからだろう。そういうことにしておく。

 でも、許せるかどうかは別だ。

 

「カードのクセに随分と舐めたことやってくれたじゃん。絶対に許さないから」

「そう、だよね……。私なんか、もう、使いたくないよね……」

「は?何を言ってるの?」

「……え?」

「私はお前を許さない。カードを燃やしたことも、黙ってたことも、全部隠して隣にいたことも」

 

 一呼吸置く。

 ホムラは、叱られた犬みたいな顔をしていた。

 ムカつく。

 そんな顔をされたら、こっちが悪いみたいじゃないか。

 

「でも、だから何?」

 

 ホムラが息を呑む。

 パパが言ってた。罪を犯しても、そこで終わりじゃない。

 たぶん、これはそういう話だ。

 

「許さないから捨てる?嫌いになったから使わない?」

 

 そんな簡単な話なら、どれだけ楽だっただろう。

 

「そんなわけないでしょ」

 

 顔が少し熱い気がする。

 本当は恥ずかしいから、言いたくない。

 でも、言わないと伝わらない。

 相手は超弩級のアホだから。

 

「お前は、私の世界で一番大切な、大好きな相棒なんだよ?今までも、これからも、それは絶対に変わらない」

 

 過去より、未来。

 キモいドラゴンのヘンテコジジイが、そんなことを言っていた気がする。

 癪だけど、少し正しかった。

 

「だから、これからをもっと見せて。私と一緒に戦ってよ」

 

 ホムラの瞳が揺れる。

 

「私の相棒なら、過去の言い訳じゃなくて、これから何をするかで証明できるでしょ?」

「……ますたぁ」

 

 ホムラはぐずぐずと泣いている。

 ずぶ濡れの捨て犬みたいだ。

 

「私、性格悪いよ?」

「知ってる。傲慢だもんね」

「マスターに一番に見てほしいって、今でも思ってる」

「知ってる。目立ちたがり屋のアホだもんね」

「正義の味方なんて言いながら、全然綺麗じゃない」

「それも知ってる。でも、私だって綺麗なマスターじゃないでしょ?」

「…………いいの?」

「お互い様、とは言わないけどさ。私はグロカードでお前を惨殺してるし」

 

 立ち上がって手を差し伸べる。

 傲慢で、身勝手で、ド畜生で。でも、大好きな相棒に。

 それに最低なマスターには、最低なカードくらいがちょうどいいはずだ。

 

「ほら。手、取らないなら置いてくよ」

「取る!取るよぉ……!」

 

 ホムラは泣きながら、私の手を取った。熱かったけど、なんか心地よい気がした。

 

「なんかマスターから闇が流れてくるんだけど……」

「私の真心でしょ」

「邪悪でどす黒くて、ドブみたいな匂いがするぅ」

「ブチ殺すぞ」

「でも、すっごく落ち着く!」

 

 私から漏れ出た闇が、ホムラの炎に混ざる。ドロドロとした黒炎が暗闇を照らした。

 これからも私たちは一緒に戦う。許せないことを抱えたまま。それでも、相棒として。

 焼けた舞台袖から、私たちはスポットライトの下へ戻る。

 そして、イカれた世界を壊しに行く。

 




共依存って、よくないですか?
昔カードの設定とか勝手に考えていたことを懐かしみながら書きました。
次回、ズイ戦のクライマックス!選ばれるのはどっちのメンヘラなのか!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。