カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが??? 作:53860
ホムラが進化します。
これぞホビーアニメだ。
目を開けると、まだカードバトルは終わっていなかった。ドローしたカードは、我が相棒のホムラだ。でも、普段とは全然違う。
ホビーアニメでは、マスターの想いと力に応えて、新たなカードが生まれることがある。まさか自分がそんな主人公みたいな状況になるなんて思いもしなかった。
黒い靄と、ホムラの中でぐちゃぐちゃになっていたものが混ざったのだろう。でも、前よりも格段に強くなっている。なんて都合が良くて可愛い相棒なんだろうか。
新生ホムラを活躍させるためには、場面を整えないといけないね。
ズイさんの場には、AP2500のトップグレードアタッカーのヴリトラ。そして1ターンに1度、場のアタッカー墓地送りにする効果を無効化できるヴァルナがいる。
……本当は暑苦しい感じがしてイヤだけど、このスペルを使うしかないみたいだ。
「私は手札からスペル【ギルドマスターの緊急依頼】を発動。私の場にアタッカーが存在せず、相手の場にハイグレード以上のアタッカーが存在するとき、ELを500失ってカードを2枚ドローする」
「……クソガキサマのデッキには似つかわしくないスペルですね」
「ふん。熱血カードバカに押し付けられただけだよ」
でも、そのおかげでカードを引ける。想いを込めて山札からドローする。
手札に来たのは2枚のスペル。どうやらデッキが私に応えてくれたみたいだ。
ならば、この場に相応しい役者を引きずり出そう。
「私はスペル【ガールズ・リザレクション】を発動。墓地から【JKガールズ・深緑のリリカ】を特別召喚する」
墓石を押しのけて陶磁器のように美しい腕が這い出てきた。さっき振って遊んでいたヤツだろう。
髪や身体が土まみれのリリカは、不満げに睨みつけてきた。
『マスター……何か言うことはありませんか?』
「別に何もないけど」
『ごめんね、とか、ありがとう、くらい言ったらどうですか!?こっちは爆殺されたんですよ!?』
「知ってる」
『知ってるなら、それ相応の態度ってものがありますよね!?しかも私の腕で遊んでましたよね!?』
「だってカードに人権はないから」
『またそれですか!?この腐れ外道マスターッ!』
なかなか言うようになったじゃないか。猫でも被っていたのかな。
まぁ、それも吊るせば正体がわかるか。
「そして手札からスペル【道連れスーサイド・ロープ】を発動!場の【JKガールズ・深緑のリリカ】を墓地に送って、ズイさんのヴリトラを……」
「無断退勤は認めません!手札1枚を墓地に送り、ヴァルナの効果を発動!そのスペルによる墓地送りを無効化します!」
やっぱり妨害効果を使ってきた。ホームを愛するズイさんが、仲間を、ましてやメイド長のヴリトラを黙って破壊させるわけないって思っていた。
そして、リリカも墓地に落とせない。バーンダメージを飛ばして、次の【JKガールズ】スペルまで呼び込む面倒なカードだ。ズイさんが見逃すわけがない。
その代償としてグロスペルは犬死した。でも、決して無駄ではない。むしろコンボの礎として、見事に散ってくれた。
メイドが投げたカトラリーが禍々しい縄を捕らえる。道連れスーサイド・ロープは、苦しそうに捩るとバラバラになり消滅した。
いつもありがとう、【道連れスーサイド・ロープ】。貴女のおかげで舞台は整った。
「ふふふ。万策尽きましたねクソガキサマ」
『なぜでしょうか?生き残ったのにやるせない気持ちです』
「きっとリリカは生贄になりたかったんだよ」
『そんなわけないでしょ!マスターからの攻撃を、敵が守ってくれたことに何とも言えない気持ちなんですよ!』
「一体どんなスペルを手札に加えるつもりだったのか知りませんが、これで逆転の芽は摘んだはずです」
「何を勘違いしてるの?もう勝利のピースは揃ったよ。ズイさんのプレミのおかげでね」
「……私が、プレイングミスをしたと?どういうことですか?」
それは我が相棒が教えてくれるよ。きっと素敵な形でね。
ARビジョンに黒炎が集まる。でも映像なんかじゃない。実体を伴ったどろりとした粘着質な炎だ。怖くておぞましくて、暖かい。あまりホビーアニメでは見ないような演出だった。
禍々しい炎の中からホムラが現れた。いつものドレスは煤まみれで、ところどころ焼き焦げている。まだカードをバトルユニットに置いていないのに、まぁまぁカッコいい登場をしてくれるじゃないか。ほんの少しだけ惚れそうになったぞ。
『ホムラちゃん!?いったいどこに行ってたの!』
『ごめん、リリカ。私、間違ってたみたい』
『ま、間違ってた?急にどうしたの……?』
『私、正義の味方でいなきゃって、ずっと思い込んでた』
ホムラは悲し気に視線を落とした。心を痛めた可哀想な少女のようだ。
『……ホムラちゃんは間違ってないよ。いつだって前向きで未来を信じていて、私を引っ張って行ってくれてたもん』
『いいんだ。正義の味方じゃなくなったら、誰も私を見てくれない。そう思ってたんだもの』
ホムラは自嘲気味に笑う。たぶん本心だ。
目尻には涙が浮かんでいる。口元は震えている。
そう。この間のバトルで、マナを焼いたときと同じ表情だ。
『バカだよね。私のことを大切に想ってくれる人が近くにいるのに』
『ホムラちゃんっ!』
2人は抱き合う。リリカは幼馴染が正気に戻ったことを喜んでいる。
一方で、ホムラは顔に影がかかってしまい表情が読めない。
『私、怖かったの!この前のバトルでホムラちゃんに拒絶されたんじゃないかって!』
『そんなのありえないよ!リリカは私の大切な幼馴染だよ?』
『私もっ……ずっと、ホムラちゃんのことを……』
『リリカ?』
『愛してるっ!』
リリカは感極まって抱きしめた。そして、おでこをくっつけて笑い合う。2人の少女を窓の外の光が照らした。
感動を売りにしているノベルゲームのスチルと言っても差し支えないような光景だ。
『リリカは、ずっと私のことを信じて待ってくれてたんだもんね?』
『うん!もしも世界が敵になったとしても、私はホムラちゃんの味方だよ?』
『うれしいっ!ありがとうリリカ!』
『だから大丈夫。私のところに戻って来て、ね?』
リリカは頬を赤らめて、ホムラを抱きしめた。
友情、正義、と綺麗な言葉を使っているが、どこか生々しさも感じる。
というか、さっきから抱き合ってばかりだな。ママが貶していた安っぽいメロドラマみたいだ。
『リリカは、私を見てくれるんだね』
『いつだって、見てるよ!ホムラちゃんは私の光だもん!世界で一番まぶしくて、カッコいい正義の味方なんだから!』
『正義の、味方』
ホムラは噛みしめるようにつぶやいた。一瞬だが、能面のように感情が失われた。
でも、抱きついて頬を摺り寄せるリリカは、気づかない。
『……うん。やっとわかった気がする。ごめんねリリカ、待たせちゃって』
『いいの!だって、正義の心は絶対に負けないから!マスターが何を言ったとしても、私たちの愛と正義は、不滅だもんね!』
ふーん。私を悪役にして盛り上がるんだ?いい度胸してるじゃないか。
清楚ぶってるけど、一丁前に陰湿じゃん。悪いけど、私とホムラの絆に付け入る隙なんてないよ。
ホムラは、リリカから離れると首をきょとんと傾げた。
『正義って、マスターの一番になるのに必要?』
『…………え?』
空気が変わった。
『私はマスターから愛されたいの。だから正義なんてクソくらえだよ』
『え、は?……え?』
『どうすれば喜んでくれるかなぁ?炎の刃で切り刻む?ううん、悲鳴がないとダメだよね。そうだ!長い時間燃やすとか!』
『ホムラちゃん……何を言ってるの……?』
『あはは!安心してよリリカ!大好きだよ。だからさ、私のために死んで?』
『……どうして?』
『言わないとわからないかなぁ?』
ホムラを黒炎が包む。彼女を祝うように爛々と輝いている。
『私が!マスターから!誰よりも愛される!そのための生贄になれって言ってんの!』
ニチアサの魔法少女アニメに出てきそうなくらい完璧な笑顔だ。
そして、悪魔は笑顔でやってくる。無邪気で、残酷だった。
その笑顔のまま、ホムラはリリカを見ていた。
刹那、表情が消えた。ホムラの視線が、リリカから、ヴリトラへ。ヴァルナへ。ズイさんへと滑っていく。
そこに区別はなかった。
『邪魔者は全員死ね』
そう言い放つとホムラは私を見る。その口は再び弧を描いていた。
もういいんだね?なら、始めるとしよう。感動のフィナーレを。
「自分の場に【JKガールズ】アタッカーが存在するとき、手札からハイグレードアタッカー【GHQ(ジェノサイド・ホロウ・クイーン)傲慢のシンダーガール・ホムラ】を特別召喚できる!」
バトルユニットにカードを置く。たちまち、辺り一面に灼熱の業火が広がった。
人の罪は消えない。それは裁きの炎の薪となるからだ。
『空虚な、虐殺の、女王……ッ!?』
リリカの声が震える。目の前の光景が信じられないみたいだ。
「罪と業を悪夢の炎にくべて現れよ!灰かぶりの災厄の魔女!」
深紅がアクセントに入った漆黒のドレスを身に纏ったホムラが降り立った。
綺麗な正義という偽りの仮装を脱ぎ捨て、罪と業で着飾った魔女だった。
「……何を出したかと思えば、たったAP1000の雑魚ではないですか。下らない」
「言ったよね?災厄の魔女だって。真価は効果にあるんだよ」
そうやって他人のカードをバカにするくせに、カードは大切とかぬかすなんて片腹痛いわ。
「1ターンに1度、自分の場に存在する【JKガールズ】アタッカー1体を墓地に送ることで効果を発動できる。相手の場のカード2枚を破壊し、相手のELを1000ポイント減らす」
「仲間を捨てるというのですか!?」
そうだよ。勝つためには何でもするんだ。
残念だったね。ヴァルナの効果はもう使っちゃったから、墓地送りを妨害できない。
ホムラの罪は消えない。なら、燃料にしてしまえ。私たちの未来を阻む敵なんて、その炎で焼き払えばいい。
「悪魔の業火ですべてを焼き払え!ジェノサイド・フレイム・スラッシュ!」
指定するのは、目障りなメイド長のヴリトラ、そして伏せカードだ。
どうやらカウンタースペル【衝撃反射鏡】を用意していたようだ。
さすがはホームを守るメイドだ。抜かりがない。
だから先に焼く。
『ホムラちゃん……どうして!?』
『あれぇ?悲鳴がないなぁ。火力が足りないのかもぉ?』
黒炎が勢いを増す。耐えきれなかったリリカが絶叫した。さっきまで愛と正義を語っていた喉から、ようやく望み通りの音が出た。
そこにヴリトラの悲鳴が重なる。肉が焼ける音まで混ざって、ステーキハウスでオペラを鑑賞しているみたいだった。この不協和音がたまらない。
『マスターどう!?素敵なオペラをお届けできたかな!?』
「うん、最高。さすがは我が相棒だね」
『えへへ~!そうだよ!私が世界で一番、マスターに愛される特別な相棒なのさ!』
はしゃぐホムラに懐かしのクイズを出すことにした。
今ならどう答えるのだろうか。
「ホムラに問題だよ。カードに人権は~?」
『ないよ!ないないないっ!だって、私以外の雑魚はマスターにとって無価値でしょ?人権なんてあるわけないじゃん!』
まぁ、すべてのカードに価値がないなんて、流石の私でも思わないけど。
グロコンボの素材として、勝つための道具として、すべてのカードには使い道がある。
ただし、人権はない。
それをはき違えるなんて、本当に業が深くて可愛い奴だ。
「お前は……やはり悪魔ですね」
「そうだよ?でも善人ぶるヤツよりはよっぽどマシだと思うけどなー」
「…………私の場にはAP900のヴァルナがいます。それにバーンダメージを受けても、ELは1000ポイント残っています。まだ終わってはいません」
「終わりだよ。【JKガールズ・深緑のリリカ】の効果で、手札に加えたスペル【ガールズ・クイックリターン】を発動。山札から【JKガールズ】アタッカーを墓地に送って、場のアタッカー1体を手札に戻す」
吹きすさぶ風にのまれて、メイドが宙を舞った。
壁となるヴァルナがいなくなり、ズイさんの場はガラ空きだ。
「お前にとって、少女たちは道具なんですね」
「うん。お前と一緒」
「……私は彼女たちに居場所を与えています。ホームを守るための役割を、誇りを、与えているのです」
「箱庭に押し込んでごっこ遊びしてるだけでしょ」
ズイさんが目を見開く。怒りでも、憎しみでもない。罪悪感と悲しみが込められていた。
黒い靄がにじみ出ている。もう耐えられないのかもしれない。
「行くよ、ホムラ?ズイさんの闇を取り戻さなきゃね」
『任せてよマスター!せーので行くよ?』
指で銃の形を作る。ホムラと一緒に狙うのは、ズイさんだ。
「「ジェノサイド・フレイム・アロー!!」」
漆黒の炎の矢がズイさんを貫いた。苦しそうだった。けれど、何かが抜け落ちたような表情だった。
闇は霧散し、私のもとへと戻る。綺麗に掃除したつもりなんてない。ただ欲しいものを奪い返しただけだ。
床に膝をついたズイさんは、かすれた声で言った。
「お前は似ていますね。あの跡取りの小娘に」
「家政宝傾組のトップのこと?どんなヤツなの?」
「義理と人情を重んじる、時代遅れのヤクザですよ」
ズイさんは笑った。小馬鹿にしたような、何かを諦めたような笑みに見えた。
「反社院ヤクジュ。お前なら、あの小娘を止められるかもしれませんね」
思わず息を呑む。
反社院ヤクジュ。
知っている名前だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
2章はホムラが進化するお話でした。
カードとの関係性、愛、罪と業。色々と詰め込んだ結果、だいぶ変な方向に燃え上がりました。
全然わからない。俺たちは雰囲気でライトノベルを書いている。
ライトノベルの姿か?これが……。
いつも感想やここすきなどの反応、本当にありがとうございます!
書いてて途中で「何が面白いねん」となりがちですが、いただいた反応がかなり心の支えになってます!
これからもカスちゃんとホムラの物語をよろしくお願いします。