カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

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仁義なきサイテーバトル!ハンシャイン大爆発編
プロローグ


 

 夜の傾奇町の路地裏を、ひとりの男が切羽詰まった表情で走っていた。

 曲がりなりにもヤクザの一グループのリーダーを務めた人間が、青褪めた顔で情けなく逃げ惑っている。

 

「カードの女神様と和解せよ。カードへの態度を悔い改めよ」

 

 画一的な題目を読み上げる宗教団体の街頭演説が、夜の傾奇町に鳴り渡っていた。あらゆる人間が集うこの街では、揉め事なんか日常茶飯事だ。

 

「おい誰だ!便所の女神とか言った奴は!出てこい!カードバトルでぶっ殺してやる!」

 

 街頭演説は辻バトルに発展した。観衆の熱狂が喧騒を大きくする。

 その騒ぎを聞き流しながら、私はビルの上から男の様子を眺めていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 息切れした男は、路地裏のゴミ箱に寄りかかる。

 そして、ハッと周りを見渡す。気づけば、黒服の男たちに囲まれていた。

 その波をかき分けるように、黒いスーツを身にまとった少女が現れる。年端もいかない。けれど、背筋に一本の芯が通ったような、美しくキリッとした子供だった。

 私が探していた昔なじみ、反社院ヤクジュだ。

 

「もー!義理を果たさないで逃げるなんてあんまりだぞっ!早く戻ってきてヤクちゃんと一緒にやりなおそっ?……きゃはっ!」

 

 片足をあげてメイド喫茶の従業員みたいなポーズをして、猫なで声で話しかけた。さながら古めかしいアイドルみたいだ。ただ、最後の笑いだけが少し遅れた。

 逃亡者は呆然としている。周りの黒服たちは一言も発しない。カードバトルが起きていなければ、沈黙があたりを支配していてもおかしくない。さぞいたたまれない空気になっただろう。

 

「こ、媚びれば、改心するとでも思ったかよッ!お前たちは時代遅れなんだッ!」

 

 ヤクジュの表情が処理落ちした。一瞬、男を睨みつけたが、すぐに引き攣った笑顔に戻った。

 

「家政宝傾組の時代は終わりだッ!俺は勝てる方につくッ……!」

 

 男は地面に唾を吐くと、よろめきながら大通りへと走り去った。黒服の何人かが、追いかけようとするが、ヤクジュは片手を上げて制止する。

 

「どっちに寝返るつもりなのか、尾けて確認して。大通りで目立たないよう、行くのは2人だけ」

「わかりやした!」

「あと、痛めつけたりしないで。……そういうの、イヤだから」

 

 ヤクジュの言葉を受けて部下が2人、逃亡者の追跡を開始した。

 一拍置いて、黒服たちから音を抑えた拍手が起きる。

 

「さすがはお嬢。懐が深い」

「これぞ新時代の義理と人情でさあ」

「恐怖だけじゃ人は付いてこない。お見事です」

 

 涙を浮かべる部下までいた。強面の大人たちが、お嬢は立派に育ちやした、などと口にしながら泣いている姿は、異様だった。

 ヤクジュは少し逡巡した後、気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

 

「うぅ……。お嬢のうわキツ感、マジたまんねぇっす」

 

 その言葉で、ヤクジュの笑顔にヒビが入る。

 発言者は周りからこづかれていた。でも本気で怒っているようには見えない。ヤクザというよりも、ぬるい内輪ノリだった。

 唯一、表情を失った少女は、ゴミ箱の近くに歩を進める。そして、それを思い切り蹴り飛ばす体勢になった。

 

「お嬢!」

 

 黒服の1人が慌てて声をあげた。

 

「物にあたっちゃいけません!天の親父さんが泣きます!」

 

 ヤクジュの足が、ぴたりと止まった。

 静かになった路地裏で、遠くの歓声だけが聞こえる。

 

「……そっか」

 

 ヤクジュは小さく呟いた。

 それから、顔だけを黒服の方へと向けた。

 

「私、お父さんみたいにできてるかな?」

 

 黒服たちは一瞬だけ黙った。

 

「それは…………もちろんです」

「そう。よかった」

 

 ヤクジュは安心したように微笑んだ。健気なお姫様みたいで、見ていて何だかムズムズする。

 でも、部下たちと路地裏を去ろうと背中を見せたとき、後ろに回した拳が見えた。

 強く握りしめられていて、小さく震えていた。

 腰のホルダーにつけたカードから黒い靄がにじみ出ている。さっきよりも濃くなってる気がした。

 

『あれがマスターの幼馴染のヤクジュちゃん?なんか禍々しい力を持ってる気がするけど』

 

 隣でホムラが背伸びして、暇そうに欠伸をしている。

 いつもの魔法少女の姿だ。漆黒の女王ではない。

 これはこれでいいけど、正直ちょっと残念だった。

 

「そう。昔から面倒くさいヤツだった」

 

 ここまでじゃなかった気もするけどね。

 

『あー。類は友を呼ぶ、だね』

「は?なに?どういうこと?」

『い、いやぁー!色んな人に信頼されてるんだなって!あんな歳で組織のトップだなんてすごいじゃん!』

「カードバトルが上手ければ、小学生でも企業や国家のトップになれるでしょ」

 

 それにしても、ヤクザってもっと殺伐としていて暴力的なんじゃないのか?

 気づいたら、口にしていた。

 

「きしょいな、あいつら」

『いや!そのっ!言い方ってもんが、ね?』

「あの黒い靄を辿ればすぐ見つかるでしょ」

『そんな犬のフンみたいに道端に残るものでもないけど……まさか、関わる気?』

「闇のエネルギー集められそうだし、あとアイツは昔からムカついてたから嫌がらせしてくる」

『やめなよ!ヤクザとか絶対にロクでもないやつらだよ!?』

 

 いい子ちゃんぶってて全然似合ってないから、ちょっとこづいてくるだけだ。

 あと昔の仕返し。髪の中に生きてるセミを入れやがって。絶対に許さない。

 まぁ、久しぶりに話したいってのも少しはあるかもだけど。

 

「ホムラは私の言う通りにしてればいいんだよ」

『……そんで、そのうちリリカをまた燃やさせるつもりなんだ』

「当たり前じゃん。だってホムラが自ら望んでやったことでしょ?」

『あれはマスターに乗せられただけ!私の意志じゃないし!うん!きっとそう!』

「ノリノリだったくせに」

 

 まぁ、闇のエネルギーを集めれば、また変身してくれるだろう。

 なにせホムラは私の一番の相棒なんだから。きっと私のために頑張ってくれるはずだ。

 これからも使い倒してやるから、覚悟するがいい。

 

「あーあ。ホムラがあの超カッコいい漆黒のドレス姿のままでいてくれたらよかったのに」

『え!?……カッコいい?』

「うん。だから早くあの姿に」

『騙されないよーだ!じゃあね!』

 

 逃げたな。やっぱり狡い奴だ。

 そういえば、前にパパが教えてくれた。背負うものが増えると、人は逃げられなくなるって。

 大人ってのは何かと大変らしい。

 

「本当に変わったのかな、ヤクジュ」

 

 あるいは何か隠しているのか。カードバトルでひん剝けば、すぐわかるだろう。

 生意気な幼馴染より優位に立てるなんて、最高じゃん。

 

「おーい。さっきから何を1人でブツブツ言ってんだ?」

 

 背後から声がした。

 





3章はテンポ重視で、少し短めに区切って更新していく予定です。
更新頻度も多少マシにできる……はず!

そういえば、トゥーンにリメイクカード追加うれしいです!
エビルボックスとダーク・ラビットは、アニメ登場時の強キャラ感が好きで、とくに思い入れがあります。当時のOCGではバニラカードでしたね……。
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