カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが??? 作:53860
カードだけで熱いストーリーが伝わる構成、すこすこのすこ。
私も、そういう素敵なカードを登場させられるよう頑張ります!
振り向くと、カンナさんが給水塔にもたれかかって、煙草を咥えている。
「長々と独り言か?」
「ううん。カードと会話してた」
「相変わらず死んだ魚の目をしておいて、変わった冗談言うよな」
カンナさんは怪訝そうな顔で見てきた。
ぺっ……。カードの精霊も見えない雑魚め!力のある人間は、弱き者に理解されないって本当だね。ママの言うとおりだ。
「カードの精霊はいるんだよ?鈍感バカンナさん」
「なにおう。んなの信じてるの宗教のヤツらくらいだろ」
「カードバトルの時、ズイさんは見えたって言ってたもん」
「そーかい」
カンナさんは煙草を消すと、まっすぐ見つめてきた。とても真剣だけど、どこか暖かい感じがした。
「ズイのこと、止めてくれてありがとうな。あいつには償いが必要だ。被害に遭った真っ当な連中には頭を下げさせるし、しばらくはアタシが目ぇ離さねぇ」
「ふーん。最近はどうなの?元気?」
「元気っつーか、妙にしおらしくなったな。ホテル行った時も、前より素直で可愛かったぜ。へへへ」
意味はわからないけど、カンナさんがスケベそうな雰囲気を出していた。きっと碌でもないことをしたのだろう。まぁ、どうでもいいけど。
「それより、家政宝傾組の跡取り娘は見えたか?」
「まぁね。結構、頑張ってそうだね」
「いや、はっきり言ってヤクザに向いてねぇ。ならず者の世界で生きるには優しすぎる」
優しい?ヤクジュが?カンナさんのくせに面白い冗談を言うじゃないか。
昔のあいつはガキ大将みたいなヤツだった。他人のものは平気で奪うし、何かあるとすぐに蹴ってくる。天上天下唯我独尊。良心や慈悲なんて言葉は、ヤツの辞書に存在しなかったはずだ。
私のママのまずい弁当を全部食べた挙句、雑草を詰めやがって。食べ物の恨みは重いぞ、ヤクジュ。
「海外ギャングにシマを荒らされて、元身内の真正宝傾組にも喰われてる。家政宝傾組は今、だいぶキツいぜ」
「報復すればいいじゃん。あいつそういうの超得意でしょ?」
「何言ってんだ?そういう不毛な争いは嫌ってるはずだ。それに裏切り者も、負けた構成員も、戻れる居場所を作るのが義理人情だって言ってんだぜ?まぁ、裏切っても許されるって思われた時点で、もう舐められてんだけどな」
「……ヤクジュも苦労してるんだね」
「組織の頭ってのは孤独だ。あの娘には荷が重いんじゃねぇかな」
どうだろう?あいつならウキウキしながら絶望的な独裁体制を敷きそうだけど。まぁ、現実はそうじゃないみたいだし、これは私の偏見なのかもしれない。
ちょっと私の足が出てヤクジュを転ばしたら、その直後にドロップキックしやがったからな。しかも3回もやりやがった。正当防衛とかほざいてたけど、明らかに過剰防衛だった。
カンナさんは、屋上の入り口をちらりと見た。
「その通り。お嬢は今、孤独です。だからこそ、パートナーとなる存在が必要なのです」
「……オッサン誰?」
いつの間にか、屋上の入り口に黒服のオジサンが立っていた。
年齢は高そうだけど、背筋が妙に伸びていて、スーツ越しにも身体が分厚い。いわゆるナイスミドルと呼ばれるタイプだろう。女を泣かせるのが漢の生き様とか本気で思ってそう。
カンナさんは面倒くさそうに頭をかいた。
「あぁ、紹介するよ。家政宝傾組のナンバー2の若蛾シーラさんだ」
「初めまして、神引スルメさん。シーラと申します」
「……どうも」
「早速ですが、貴女がお嬢のパートナーにふさわしいか、オーディションいたします」
「は?パートナー?なんで?」
「あの御方の人情は、裏社会で腐らせるべきではない。スポットライトの下で、無数のファンを縛れる力です」
「何言ってんだオッサン」
「前にも言いましたけど、マジでやめた方がいいですよ。コイツの目、死んでるんで」
「なんだと」
「ドブみたいな目は、退廃的なアイドルとしてむしろ差別化できます。お嬢の清らかさを際立たせる、よい陰影になります。それに短所はわかりやすい方がいいです」
「他人の目を短所とか言うな、ぶち殺すぞ」
「なんて汚い言葉遣いなんでしょうか。これも純粋無垢なお嬢との対比になっていいでしょう」
は?ヤクジュの方が下品だろ。あいつは怒るとすぐ、殺すとか、死ねとか連呼してたし。私が覚えてる罵倒の言葉の8割くらいはヤクジュが言ってたものをそのまま拝借してる。
「アイドルなんて絶対にヤダ。とくにヤクジュとなんか死んでもやりたくない」
「容姿も含めた面接結果は合格。次は実技試験と行きましょうか」
「実技試験?」
「貴女がお嬢を傷つける存在か、隣に立つ資格がある存在か。言葉ではなく、カードバトルで見極めます。では、私が先攻です」
「おい」
ナイスミドルの黒服は勝手にバトルユニットを起動して、カードバトルを始めた。
人の話を聞かないヤツだな。ヤクジュもきっと苦労しているに違いない。というか、こんなヤツがいたら10回以上は焼き土下座させてそうだけど、やっぱりヤクジュは丸くなったのだろうか。
「私はアタッカー【ID(アイドル・デビル)ルーキーガール】を召喚します。さらに手札から武装カード【ファンの想い、アイドル・ブレード】を装着。これでAPは1200ポイントにパワーアップです」
アイドル衣装を着た小悪魔が場に現れると、剣のようにペンライトを振るいウィンクしてきた。
「ファンの想い、ねぇ……」
「お2人は人情とは何かわかりますか?」
「人と人のつながりっつーか、絆っすよね?」
「興味ない。クイズ大会がやりたいならアプリでもポチポチしてれば、オッサン」
シーラさんは呆れたように深いため息を吐いた。
やっぱりカンナさんのバカな回答がダメだったのだろう。まったく反省してほしい。
「私は、感情で人を動かす力、と解釈しています。この武装カードもアイドルが持つ人情の力です」
「なんか小悪魔アイドルがヤクザに見えてきた」
「力がすべての裏社会で、人情だけなら舐められる。ですがアイドルなら、人情は美しい信仰になります」
「アイドルにだって闇とかあるでしょ」
「そんなのアンチのデマです。人は、惚れた相手のためなら金も時間も差し出す。時には命すら。これほど強い力はありません」
くるくると回転した後に前かがみになってピースする。あからさまに胸元を強調しようとしているポーズだ。そしてミニスカートをふわりとさせると投げキスしてきた。
なんだろう。言葉では表現しづらいけど、ポージングとかファンサービスとか絶妙に古臭い気がする。
女子が憧れる存在というよりも、おっさん向けアイドルって感じがする。
「なんかさー……古くない?」
「これが伝統的なアイドルです。アイドルに求められるのは、笑顔、努力、そして清楚。笑顔がかわいくて、一生懸命で、ひたむきで、異性の影など一切見せないことがアイドルの条件なのです」
「オッサンの願望だろ、それ。きめぇアイドルだな」
アイドルはトイレに行かないとか真剣に信じてそうで気持ち悪いな。
というか、ヤクジュはトイレに行かなくて霞を排出して生きていると信じてそうだ。
「……今、アイドルを侮辱しましたね?」
「なに?悪い?」
「これにより武装カード【ファンの想い、アイドル・ブレード】の効果を発動します。1ターンに1度、このカードを装着した【ID】アタッカーが相手プレイヤーに侮辱された時、ファンカウンターを1つ乗せます。カウンター1つにつきAPが300ポイントアップします」
「はぁ!?」
なんだそのクソ効果!お前の主観じゃん!
でも、ホビーアニメではたまにある。キャラの感情やノリに合わせて、意味不明な裁定が通る特殊カード。現実でカード化されたら、絶対に効果が別物になるシロモノだ。
APが1500ポイントに上昇したのに気をよくしたのか、シーラさんはどこか得意げだ。
「では、追加演出です」
シーラさんは手札からカードを引き抜き、バトルユニットに置こうとした。
その直後、バトルユニットが、ビービーと警告音を鳴らした。
《エラー。カウンタースペルは場にセットしていなければ発動できません》
「……どういうことでしょうか?」
「カウンタースペルは手札から出して使えないんだよ。オッサン、ルールわかんないの?」
「……こんなの、何が楽しいのか未だにわかりません」
「じゃあアイドルが好きなの?」
「アイドルを好きじゃない人間なんて存在しません。そんな奴、悪魔か何かです」
「……アイドルっていいよな。わかるわ」
カンナさんが煙草を咥えたまま、だらしなく口元を緩めた。
また、いかがわしいことでも思い出しているのだろう。
不満そうにカウンタースペルをセットしたシーラさんは、そのままターンを終了した。
「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行」
引いたカードを見た瞬間、ちょっとげんなりした。
マナとヒカリ。よりにもよって、この2人か。根暗女とヒモ女め。
『ねぇ、マスター』
我が相棒のホムラが心配そうに話しかけてきた。
『その2人出すの?絶対に面倒なことになるよ?』
たしかに、マナは前からかなり反抗的だ。従順なヒカリもマナが一緒だとどう出てくるかわからない。
「でもカードに人権はないから。マスターである私に都合よく使われて死ぬ運命なの」
『……まぁ、低APの雑魚だし、いざとなったら私が燃やせばいいか』
その通り。よくわかっているじゃないか。
私は、まずマナのカードをバトルユニットに置いた。
光の中から現れたマナは、召喚された瞬間、軽蔑するような顔をした。