カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

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この作品はカード同士の絆を大切にしています。
つまり、ポッと出の雑魚カードが幼馴染の間に割って入るなんてことはできないのです。
おなかがすいてきたな。



食べちゃいたいほど好き

 

「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行」

 

 ほう。ちょうどいいグロカードが手札に来た。

 これならきっとマナも満足するだろう。

 

「私は手札から【JKガールズ・聡慧のアイリ】を召喚する」

 

 場に痩せぎすの眼鏡っ娘があらわれた。引っ込み思案なアイリは、三つ編みのおさげを所在なさげにいじっている。きっと大好きなシズクがいないから不安なのだろう。

 あるいは腹の虫が大声で鳴いているマナが隣にいるせいかもしれない。

 

『アイリじゃ~ん。元気してた~?相変わらず辛気臭いツラしてるねぇ』

『うぇっ!?ホムラちゃん、どうしたの?マスターみたいに禍々しくなってるよ?』

「私は禍々しくない」

『マスターの最愛の相棒だからね!こうしないと、お揃いにならないじゃん!』

『うぅ……ついにマガキに毒されちゃった。もともとホムラちゃんは自分勝手で嫌なヤツだったけど、今まで以上に醜悪だよぉ』

『は!?ぶっ殺すぞクソ眼鏡!』

『ひぇぇぇええ!』

「あー、もううるさいなぁ。雑魚はさっさと食材になれ」

 

 私は手札のカードをバトルユニットに置いた。

 早くマナの空腹を満たさないとね。まったく、なんて優しいマスターなんだろうか。

 

「手札から武装カード【悪魔的美食!絶望ハンバーグ】を発動!アイリを墓地に送ることで、このカードをマナに装着してAPを1000ポイントアップする!」

「あ……そのカードは……」

「な!?AP2700ポイントですって!?」

 

 嫌なことを思い出したようなカンナさんを尻目に、シーラさんは驚いている。

 ふふん。このカードの真価はAP上昇じゃない。最高のグロ演出を楽しむがいい。

 瘴気をまとった刃が所狭しと並び、回転している巨大なミートプロセッサが場にあらわれた。機械から大量の鎖が飛び出し、アイリを拘束すると刃の奥へと引きずり込んだ。轟音に紛れて、ごくりと喉が鳴る音がした。

 切り刻まれ粉砕されるアイリの悲痛な叫び声が響き渡った。ホムラはゲラゲラ笑い、シーラさんは目をそらし、カンナさんは顔を覆った。ただ、マナだけがその光景を見続けている。

 ミートプロセッサが停止すると、機械の下部からチーンと間抜けな音が鳴った。アイリを原料としたハンバーグの完成だ。マナは鼻をひくつかせている。

 

『……いただきます』

「めしあがれ」

 

 私が言い終えるより早く、マナはハンバーグを貪り始めた。その勢いはまるで飢えた豚だ。おぉ、醜い醜い。

 そんなことを考えていたら、私から出てきた黒い靄がマナにまとわりついた。刹那、いろんな感覚が濁流のように押し寄せてきた。

 焼き焦げた匂いが鼻の奥をつく。何かを咀嚼している。私の口には何も入ってないのに、歯が沈み、肉がぐちゃりと潰れる感触だけがある。脂っぽい鉄の味がするとともに、腐った肉のような味が口の中いっぱいに広がった。

 喉の奥が勝手に飲み込もうとする。けれど通りかけた何かは、すんでのところで口の中へぬるりと戻ってきた。

 なんだこれ。気持ち悪い。吐く。

 

「うぼぇぇえええええ!」

『きたなっ!?マスター!いきなり吐いてどうしたの!?ばっちいよ!えんがちょ!』

「……マナの感覚とかが流れ込んできた」

『え!?じゃあアイリ風ハンバーグの味とかも!?』

「……うぷっ。ホムラ……JKガールズのハンバーグってゲロマズなんだね」

『でしょ~!?APが低い雑魚カードってドブみたいな味がするんだよね~!砂の方がマシ!』

「ほんと最悪……」

『ま!これに懲りたらグロカードは金輪際、使わないでよね!私だけで事足りるんだから!』

 

 うるさい。私は勝つためなら何でもやるんだ。

 それにグロカードの演出は心が躍るから良い。便利で楽しいなんて最高じゃないか。

 

ーー甘くない。

 

 少女の声が脳内に響く。ホムラではない誰かの声だ。

 

ーー味がしない。満たされない。

 

 砂を舐めているようなザラザラした感覚が舌に残る。

 きゅるるるる。

 

『マスター、お腹空いてるの?』

「……黙れ。食欲なんか失せてるわ」

『でも、お腹鳴ってるよ?』

 

 は?そんなバカな。

 吐き気が引いたら、今度は耐えがたい飢えが押し寄せてきた。

 きゅるるるる。本当だ。お腹が鳴る音がする。

 

ーーヒカリちゃんはきらきらしてた。パチパチしていて、滑らかだった。

 

 たぶん、マナだ。ヒカリのことばかり考えているし。

 でも、それにしては言葉がおかしい気がする。

 

ーーおいしかった。甘くて、刺激的で、優しくて。

 

 うそでしょ。アイツ、幼馴染の味にハマってやがる。

 なんて気色悪いバケモノなんだ。

 

ーーこんなの、ヒカリちゃんじゃない。いらない。いらない。いらない。

 

 アイツの悲しみも、苦しみも、空腹も、全部まとめて、私の体の中に紛れ込んでくる。

 ウザい。不愉快だ。

 勝手に自分の感覚を押し付けないでほしい。根暗女のくせに。

 

『ぷふー!見て見てマスター!』

「……なに?今、気分悪いんだけど」

 

 急にホムラがケタケタと笑い出したので、指差したほうを見た。

 マナの頬が、不自然に膨らんでいた。顔色が紫に変わっていく。

 

「なにあれ。飲み込めてないってこと?」

『アイリが不味いからじゃん?そりゃそうか!私よりも雑魚で役立たずだもんね!』

 

 それは関係ないだろ。アイリが雑魚なのは事実だけど。

 マナの喉が何度も動く。飲み込もうとして、失敗して、喉の奥だけが震えている。

 それでも膨らんだ頬は萎まない。

 

「……残念ですが、オーディションはここまでです」

「は?降参すんの?」

「いいえ、降参はしません。ですが、もう十分わかりました。お前はお嬢に相応しくない。下劣で、汚くて、醜いクズだ」

「照れるなー。でも、ヤクザになるようなカスほどじゃないよ」

「……お前はここで完膚なきまでに叩き潰します」

 

 へぇ、怖いこと言うじゃん。口だけならなんとでも言えるけどさ。

 

「墓地に送られた【JKガールズ・聡慧のアイリ】の効果を発動。私は山札から武装カードを2枚まで手札に加えられる。そして相手のELを500ポイント減少させる」

「私のELは2300ポイント。その小娘で直接攻撃すれば終わりと言いたいのですね」

「ばーか。その程度で済むと思うなよ」

「なに?」

「手札に加えた武装カード【ハラワタチェーンソー】と【呪いのアンデッド・ソード】をマナに装着する。これでAPが合計1400ポイント上昇する」

「くっ!APが4100ポイントになったからなんだ!こっちにはカウンタースペルがあります!」

 

 シーラさんは伏せていたカードを表にして、バトルユニットに置こうとした。 

 だけどバトルユニットは、ビービーと警告音を鳴らしている。 

 

《エラー。カウンタースペルの発動条件を満たしていません》 

 

「な、なぜ発動しないのですか?」

「若蛾さん。そのスペル、場に【ID】アタッカーがいないと発動できないみたいですよ?」

「…………ざけんな」

 

 カンナさんの言葉に、紳士ぶっていた仮面が剥がれた。

 急にチンピラみたいに口元が歪む。

 

「意味わかんねぇんだよクソがッ!これだからカードは嫌いなんだ!」

「カンナさん。あれが本性?」

「……ならず者を相手にするヤクザなんだから、相応の荒々しさは必要だろ」

 

 たしかに。優しくて丁寧なヤクザとか、気味悪いよね。

 裏社会なんだから、乱暴で身勝手な方がまだマシだ。

 

「ファイトシーンに移行。【JKガールズ・闇夜のマナ】で直接攻撃だ!くらえ、根暗スラッシュ!」

「っぐ、ぐおおおおおお!バカなぁあああ!」

 

 マナが振るったチェーンソーによって、シーラさんは後ろへと吹き飛んだ。

 給水塔に激突すると、がくりと屋上に倒れ伏した。

 

「ヤクザだろうがなんだろうが、勝者はなんでも手に入れられるのが理だよね?」

「……金か。それとも、カードか」

「カードはカンナさんがタダでくれるからいらない」

「んなわけねぇだろ、クソガキ。ぶっ飛ばすぞ」

「やめろカンナ。……じゃあなんだ」

「ヤクジュに会いたい」

 

 投げやりだったシーラさんの目が、見開かれた。

 

「正気か?お嬢は家政宝傾組の組長だぞ?そう簡単に会える存在じゃねぇ」

「でも、シーラさんならできるでしょ?」

「……できる。だが、お前みたいなクズをお嬢に近づけるわけにはいかねぇ」

「ヤクジュと二人きりで話をさせろ」

 

 ネオン街を吹き抜けた風は、どこか冷たかった。

 





ここまで読んでいただきありがとうございます。
マナとヒカリ、幼馴染コンビの純愛回でした。
ふたりはひとり☆ってね!
あ、やめて。石を投げないで。
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