カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???   作:53860

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ブルーアーカイブのショート動画でネル先輩がきて、ふふふ……これ以上は言わないでおきます。
今回はカードバトルなしです。つまり、ゆるふわ日常回ですね!
きっと、そうなるはずです……。



お姉ちゃんが何とかしてあげるから!

 

 汚い雑居ビルが立ち並ぶ傾奇町の中心に、和風の古めかしい豪邸が鎮座していた。その周辺をならず者たちが警戒する。我が幼馴染、反社院ヤクジュの家だという。

 シーラさんに連れてこられた私は、なるべく下を向いて歩くようにした。少しでも目線を上げると、ガタイの良い強面のオッサンが視界に入るからだ。

 

『大丈夫だよマスター!いざとなったら私が社会のゴミどもを燃やしてやるから!』

 

 ホムラの手をぎゅっと握りしめる。別に怖くなんてないけど、なんとなく手持ち無沙汰だったから。

 どうせニヤニヤしてるだろうから、ホムラの顔は見ないようにする。

 

「……こちらがお嬢の部屋です。話は通してあるんで、どうぞ」

「ありがとう、シーラさん」

「どうか失礼のないように。あと……お嬢をお願いします」

 

 深々とお辞儀をされた。お願いします、ねぇ。私は何もしないよ。ただ幼馴染に会うだけ。

 シーラさんが襖を開くと、高そうなデスクの椅子にヤクジュが座っていた。幼さが残るツリ目と桃髪のツインテールは、身に着けている黒スーツとちょっとミスマッチだった。

 ヤクジュは脇をしめて、頬に両手を添えるとウィンクしてきた。

 

「傾奇町のアングラアイドル、ヤクちゃんの部屋へようこそ!きゃはっ!スルメちゃんだよね?ひっさしぶり~!きらん!」

「…………ごめん。ゴミ箱とかある?」

「もっちろん!はい、どーぞ!きゅるるん!」

「……かーっ!ぺっ!」

 

 ヤクジュが蹴飛ばしてきたゴミ箱に唾を吐いた。似合わないアイドル仕草のキツさを目の当たりにして、つい痰が出てしまったのだ。

 

「きゃんっ!スルメちゃん、大丈夫ぅ?」

「きっしょ!お前はそういうキャラじゃないでしょ!きっしょ!きっっっしょ!」

「えぇ~?ヤクちゃん悲しいよぉ~、ぴえんぴえん」

「マジでやめてよ。ヤクジュはもっと意地悪で性格の捻じ曲がったカス女でしょ?」

「……アンタほどじゃないわよ」

 

 ヤクジュの雰囲気が変わった。落ち着いていて、でもちょっと高圧的な感じがする。

 ナチュラルボーン独裁者。やっぱり素のヤクジュはそこまで変わってないみたいだ。

 

「久しぶりね、神引スルメ。もしかして会うのは4年ぶりくらいかしら?」

「たぶん。闇のカードが暴走したあの時以来だよ。急にヤクジュがいなくなってびっくりした」

「色々あったのよ。家政宝傾組の組長を継承したりね」

 

 ヤクジュは傍に置いてあるぬいぐるみをいじっている。どうやらアイドル姿のヤクジュをデフォルメ化したもののようだ。厳かな書斎なのに、やまほど抱き枕やぬいぐるみなどのグッズが並んでいる。売れ残っているのかな。

 それから私たちは近況について話し合った。傾奇町が今どうなっているのか、みたいなことは聞き出せなかったけど、共通の知り合いだったカンナさんやズイさんの話で盛り上がった。

 

「ところで、隣で浮いている女は、誰かしら?」

「え?ヤクジュにも見えるの?アホムラが?」

『アホじゃないやい!私こそがマスターの最愛の相棒!【JKガールズ・炎激のホムラ】だよ!』

「……あぁ、そんなのがいたわね。スルメが好きだった雑魚カードでしょ?」

『マスター!こいつすっごく失礼なんだけど!?』

「そりゃあ、ね。だって、私の髪の中にセミを入れてくるような意地悪女だから」

『あー!あの生意気なマセガキかー!』

「うっさいわね。その後、私の背中にミミズ入れてきたクソガキは、どこのどいつよ」

「記憶にない」

 

 公園中を掘り返して、両手いっぱいにミミズを集めるのは大変だった。その甲斐あって復讐は大成功だった。

 ヤクジュは私の目をしげしげと見てきた。少し怖いツリ目に見つめられ、反射的に背筋が伸びた。

 

「それにしても、アンタって相変わらず死んだ魚の目をしてるわね」

「そう?チャーミングでしょ?」

「バカ言ってんじゃないわよ。アンタの場合は、泣き顔が一番お似合いよ」

 

 うわ、出た。そう言って散々イジメてきたよな。これまでにしでかした数々の蛮行、私は決して忘れてないぞ。

 眉をひそめる私のことなんか無視して、ヤクジュは頬に手を当てて昔を懐かしむ表情を浮かべている。

 

「ホント、昔は良かったんだから。セミがとれないって泣きじゃくっていたのは最高に可愛かったんだから」

「うっさいなぁ。誕生日がちょっと先だからってお姉さんぶらないでよ」

「2週間も私の方が早いのよ?ちゃんとお姉ちゃんを敬いなさい」

『マスター、あーいうタイプは表向き従っておいた方が楽だよ?』

「チッ!はいはい、わかりましたよ。ヤクジュお姉ちゃん」

「ん!素直でよろしい!アンタも困ったことがあったら遠慮なく頼ってよね!お姉ちゃんが何とかしてあげるから!」

 

 えへん!と得意げな表情を浮かべて、薄い胸を張っている。こういうところは全然変わってない。

 ヤクジュの雰囲気が少し柔らかくなった。今は周りに部下がいないから、気を張る必要がないのかもしれない。

 

「そんなことする余裕なんてあるの?」

「幼馴染、何よりも可愛い妹分のためだもの!余裕なんてひねり出すわよ!」

「そ、ありがと。じゃあ今度スズと一緒に遊ぼうよ」

「……アイツは別よ」

 

 可愛い笑顔だったヤクジュの表情は途端に曇る。盛大に舌打ちまでしやがった。

 うーん。どうやらヤクジュとスズは今もなお犬猿の仲みたいだ。昔からスズに対してだけヤクジュは異常に態度がキツかったし、スズもヤクジュ相手にはヒステリーを起こしがちだった。喧嘩する2人に挟まれた私は、いつも苦しい思いをしたものだ。

 デスクに置いてあるアクリルスタンドが気になった。ヤクジュが引きつった笑顔で、古臭いアイドル衣装を着て決めポーズをとっているものだった。どこからどう見ても無理をしてるように思えた。

 

「気持ち悪いアイドルごっこなんてやめたら?ヤクジュのキャラに合ってないし見苦しいよ?」

「今の時代は地域で愛されるヤクザにならないとダメなのよ。アンタが決められる話じゃないの」

 

 さっきまでの苦々しい顔はどこへ行ったのやら。私の嫌味を涼しい顔で流しやがった。なんか余裕ある大人みたいに振る舞っていて腹が立つ。

 もし私があと少しヤクジュに近かったら、そのドヤ顔を引っ叩いていただろう。

 

「おい、アホムラ。あそこのカスをぶん殴ってこい」

『イヤだよ!なんか近寄ったら返り討ちに遭いそうな気がするもん!』

 

 所詮はAP1000の雑魚か。メンヘラ女なら、ヤクジュをビビらせることができたかもしれない。でも、ズイさんとのカードバトル以降、アイツを呼び出せずにいる。

 きっとホムラが強くなって怯えてるのだろう。私の下僕は肝心な時に使えないんだから。

 ふと、ヤクジュの後ろに目を向けると名前の一覧表が壁に貼り出していた。

 

「あれは家政宝傾組の離脱者のリストよ。いつか戻ってきたときのために残してるの。決して忘れないように」

「裏切り者の復讐リストを貼り出すなんて、流石は怖いヤクザだね」

 

 穏やかに微笑んでいたヤクジュが片眉を動かす。

 

「違うわ。私は居場所を用意して守っているの。私の仲間、地域の人々、裏切り者さえも集まれるような居場所をね」

「そういう甘いことしてるから、ハンシャインシティを追い出されたんじゃないの?ヤクジュらしくない」

「……ハンシャタウン、懐かしいわね。アンタとよく遊びに行ったわ」

 

 ヤクジュは窓の外を物憂げに眺めている。その視線の先には、ドブ袋の大型複合施設ハンシャインシティがそびえ立っていた。

 ニュースで見た。警察は団体的暴力根絶法に基づいて、家政宝傾組をハンシャインシティの運営から追放する方針だって。私たちの思い出の場所は誰かの手に渡るのだろうか。

 

「暴力で支配するヤクザなんて時代遅れよ。優しさと絆、これが新時代の義理人情なんだから」

「ふーん」

 

 ヤクジュは忌々し気に拳を握りしめた。イマイチ納得できないけど、ヤクジュにとっては大事なことなんだろう。カードゲームまみれのイカれた世界なんだから、そんなこと気にしなきゃいいのに。

 あ!湿っぽい空気を読めないアホが何かに気づいたように声をあげた。

 

『ヤクジュちゃんって、マスターと同じでドブみたいな匂いがするんだね!』

 

 私はアホの尻を蹴り上げた。アホは子犬みたいな悲鳴をあげた。

 誰がドブみたいな匂いだ。私はもっと花みたいな、それこそフローリングな匂いがするはずだ。今朝、抱きついてきたスズもお日様の匂いがすると褒めてくれたし。顔とか舐められてちょっと嫌だったけどね。

 とにかく、ヤクジュなんかと一緒にしないでほしい。他人の下着を無理やり脱がせて、木の枝につけて海賊ごっこをするような性悪女だぞ。それに比べたら私なんて人畜無害を通り越して聖人だ。

 

「わぁ!ホムラちゃん、大丈夫?も~スルメちゃんったら酷いんだから~」

「ほら。こんなカスと、愛すべき偉大なマスターを同列に扱うんじゃないよ。このアホが」

『うぅ……このドブカスロリめぇ……』

 

 ヤクジュは1オクターブ上がった媚び声で、尻をさするホムラを心配するそぶりを見せた。

 私の白けた視線に気づいたのか、ヤクジュは長いため息を吐くと、頬杖をついた。

 

「なに今のわざとらしい媚び声、キモッ」

「……いついかなるときでもアイドルっぽく振る舞えるよう練習し続けた弊害よ。もう放っておいてよ」

「失礼しやす!お嬢、こちらをご覧くだせぇ!ウチのシマがッ……!」

 

 シーラさんが分厚い書類を持ってきた。何が書いてあるのかわからないけど、なんか焦っているみたいだ。

 ヤクジュもトントンと机を指で叩いている。たぶん相当イライラしてる。

 ドタドタと廊下を走る足音がする。屋敷の中に緊張が走った気がした。何かが起きたのかもしれない。

 

「……スルメ、早く出て行きなさい。これ以上、私の問題に関わろうとしなくていいから」

「は?そんなの私の勝手じゃん。それに私は闇のエネルギーを集めたくて……」

「あぁ、もうッ!うるさい!うるさい!うるさいッ!さっさと出てけッ!」

『わわっ、ヤクジュちゃん!モノを投げないでぇ!』

 

 ぬいぐるみやクッションなどのグッズを次々と投げつけられた。シーラさんに手を引かれて部屋の外へと連れられる。こうなってしまってはもうどうしようもない。私とホムラは、ヤクジュの部屋を後にすることにした。

 

「私は組長なんだから……しっかりしないと、ダメ……」

 

 弱々しい声が聞こえて、思わず振り返る。シーラさんが閉じようとする扉の隙間から、両手で顔を覆うヤクジュが見えた。その周りには黒い靄が漏れ出ていた。

 





ここまで読んでいただきありがとうございます。
ヤクジュちゃんは、いかがでしたか?
私は、責任感ある娘が大好きです。
もし何か刺さったところがあれば、感想やここすきなどで教えていただけると嬉しいです。
ライブ感たっぷりで進む今後のエピソードの参考にさせていただきます!
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