昼間はジリジリと暑くてたまらない。
かと言って夜になっても気温が思った以上に下がらず、人間も吸血鬼たちもイライラしているような夏のある日。
「あー、仕事来ねえなぁ…」
そうボヤきながらメビヤツを撫で、ドラルクお手製のアイスパフェをジョンと共に食べる。暑かろうと頼りになる門番・メビヤツにも少しお裾分けしていた。
そんなときだった。ドンドンドンとノックされ返事をすると同時に開かれたドアの向こうにはヴァミマの店長がいた。
「ロナルドさん、武々夫が…武々夫が目を覚まさないんです!!」
よく見ると武々夫が眠った状態で抱えられてきていた。
以前の夢吸いの件もあり「またかよ」とロナルドは思い、ドラルクも「またかね」と呟いていた。
しかしよくよく見ると、首からネックレスがぶら下がっていた。
細いチェーンの先には直径3cm程度のコインがペンダントトップとしてついており、コインには夜闇のもと男女が乗り込みクルクルと楽しげに回転する複数のコーヒーカップが刻まれている。
「原因はコレではないのかね?」
「普通ネックレスをしたまま眠るヤツはいないし、ましてや武々夫だぞ?こんなお洒落なものを身につけてる自体、変じゃねぇか。これを外せば起きるんじゃね?」
そう言うとロナルドはチェーンの留め金を触るがなかなか外れない。
悪戦苦闘してるロナルドを小馬鹿にしながらドラルクはコインのほうを見てみようと触れた瞬間。
『バチィッ!!』 スナァヌー!!?
コインは青黒い火花を一瞬放ち、ドラルクは砂と化した。
「なっ?! おいドラ公、大丈夫か?」
「あぁ、びっくりした…驚かせてごめんよジョン。…おい若造、見たか今の。コレ、思ったよりも危険なシロモノだぞ。何処で手に入れたんだこんなモノ」
泣くジョンを慰めながら唸るように呟き、息を呑んだロナルドへ視線をやる。
「店長、昨夜コイツはどこにいた?ヴァミマか?」
「え、あぁ、昨日は夕方までのシフトを終えたあと、友人たちと呑んでくると出掛けていきました。下半身透明さんとゲームセンター荒らしくんとマナー違反さん…かな」
様子を伺っていた店長は出かける前は持ってなかったというネックレスを首を傾げながら見ていた。
「そのメンバーなら何か知ってるかもしれん。ヨシ若造、キミは下半身透明に電話したまえ。私は荒らしくんに掛けてみよう」
そう提案し素早く吸血鬼ゲームセンター荒らしに発信すると3コールで出た。
「あ、先生どうも。今夜もゲーム日和ですね。あ、来週新しいゲーム機がうちのゲーセンに来るんですよ〜是非プレイしに来てくださいよ!」
「おや、それは素晴らしい。是非行かせてもらおう。あー、それはともかく電話したのは武々夫のことなんだ。昨日キミとマナーと下半身透明と呑んでいたようだが、何か変わったことなかったかね?何か拾ったとか貰ったとか…買ったとか」
「武々夫ですか?居酒屋でいつもみたいく馬鹿話してましたがその時は何も…。うーん、やっぱり無いですね。聞くなら透かマナーですかね。駄弁りながら帰って行くの見ましたし」
そうかねありがとう、と礼を言い電話を切ったドラルクがロナルドを見る。彼はコツコツと指で机を叩きながらかけ続けていたらしい電話をため息混じりに切ったところだった。
「駄目だ、いくら鳴らしても出ねぇ…。っと電話だ!マスターから?はい、もしもしロナルドです。……え?サテツが、目を覚まさない…?」
切った直後に鳴った着信にそのまま出たロナルドは怪訝な表情を浮かべ思わず武々夫に目をやった。
「えぇ、弟さんから連絡が有りまして。昨夜はギルド待機でパトロールも熟して明け方前には帰ったのですが、夕方になってもほとんど目を覚まさず眠り続けていると。一瞬呼びかけに応じて目は開くもののすぐまた眠りに落ちるらしいのです」
「…マスター、もしかしてサテツのやつ変なネックレスとか、付けてませんでした?」
内心イヤな汗をかきながら目の前のネックレスを睨みながら恐る恐る尋ねてみる。
「えぇ、なんか2人共コインが付いたネックレスを下げているようです。コインにはジェットコースターが刻まれていると…」
「ん?2人?サテツだけじゃなくて?」
その問いの答えを聞いた途端ロナルドは顔を強張らせ、実はコチラにも同じ症状がいることを伝え吸対への協力要請を頼んだ。
「ドラ公…なんか知らんがサテツの所でマナーのやつも眠り込んでいるらしい」
「ハァ?なんでまたアイツはそんなところに…。というか嫌な予感しないかコレ。武々夫とマナーがこんななら…。
相棒の言いたいことが伝わったのかロナルドはハッとしてすぐに電話をかけ始めた。
「半田、オレだ。わりぃんだが大急ぎでホラー・ホスピタルへ向かってくれ!吸対から連絡が行くかもしれないが、昨夜アイツと一緒にいた武々夫とマナー違反が目を覚まさない。電話しても出ないしイヤな予感がする。共通してるのは全員がコインがついたネックレスを身につけてる。しかもドラ公が触れたらコインから一瞬黒い火花が出たヤバいシロモノだ」
「分かった、急行する。そのネックレスが怪しいな。調べられるなら調べておけ!ロナルドォ!」
電話を切ると軽く息を吐き、改めてネックレスを傍で眺めてみる。先ほど挙げた特徴以外は特に見当たらず恐る恐るコインに指でちょんと触れてみる。…しかし何も起こらない。
「やーい、完っ全に腰が引けてますな〜ビビリルドくんンボェー!(ドムッスナァヌー!)…さて、キミが触れて私が駄目ということは対吸血鬼の何かが仕込まれていると見るべきだな。しかしネックレスの効果から見るに明らかに何者かの介入が認められるのだが…。ウーム」
「う、うーん…?」
その時呻き声をあげて武々夫の目が開いた。
「おぉ、武々夫!目が覚めたかい?」
「親父…?あ、ロナルドさん、チッス…何かくだ、さ…ぃ」
ロナルドと父親に気付いたもののそう呟くと再び目を閉じ眠りに落ちてしまった。
「おい?!寝るな、お前ネックレスどうしたんだ?おい!!」
「寝てたらやるもクソもないが?!おーい……駄目だな、また寝たぞ」
武々夫…と顔を覗き込む店長はとても心配そうな表情を浮かべている。
「これもサテツたちと同じか…どうすっかな、ネックレスを引きちぎってみるとか?」
「アホか、暴力ゴリラめ!そんな事をして精神にダメージが入ったらどうする!ちっとは学習せんか!学習能力ゼロゴリヴェー!」スナァヌー!!
無言のパンチを食らわすとロナルドはネックレスから手を離し、ハァと溜め息をつくと立ち上がる。
「ここでこうしてても仕方ねぇ。ギルドへ行って情報収集とかしてくっか。他にも被害者?がいる以上余計に放っておく訳にはいかねえ。武々夫は寝かしといてもいいとは思うが正直すぐに解決するとはかぎらねぇからなぁ…」
「吸血鬼に対する術も使っているようだし、武々夫ごとネックレスをVRCに運び込んで調べてもらうのも手だな。万が一この事態が続くといろいろマズイ事になるからその対処も任せられるしな」
犬仮面所長は『人命軽視』を掲げているが流石に周囲がなんとかするだろう…目でそう伝え合うと頷き、ドラルクは床の住人の巣穴をコンコンとノックする。
「ヒナイチくん、いるかい?今の話聞いていた?」
「ちん!!」
勢いよく飛び出してきた赤髪の少女、ヒナイチ。ちょうど電話してたのか片手にスマホを握っていた。
「いま、ちょうど吸対から連絡がきた。実は他にも数名同じ症状の者がいるらしく吸対に通報があったようだ。これから私も吸対本部へ向かう。本部からもすぐ解決しない事態に備えてVRC付属病院へ搬送するように指示が出ている為、すぐにここにも車を回すよう連絡しておこう」
「コイツら以外にも…本当に大変な事態になったな…。とにかく俺らも行くぞ!」
武々夫の搬送を見送りつつ、退治人ギルドへ向かっていたロナルドたちのもとにホラーホスピタルへ向かった半田から連絡が入った。
「おい、ロナルドォ!何か分かったかー?」
「流石にまだ何も分からねぇよバカ!とりあえず武々夫はVRCに搬送したから所長がネックレスを調べるだろ。それよりもそっちはどうだ?」
呆れてツッコミを入れながら尋ねると電話口の向こうから別な声が聞こえてきた。
『おーい、あっちゃん起きて。…駄目だな、こっちも起きないや』
「透については嫌な予想が当たってしまったが、それだけじゃない。同じ部屋であっちゃんと、なぜかマイクロビキニの奴も同じくネックレス着けたままで眠っている。サギョウ、VRCに連絡してここにも車を回して貰ってくれ!」
「えぇっ?!その2人もかよ…そっちは頼むな。コッチはギルドに着くところだから情報収集とか対応策話し合ってみるわ」
何故あの2人まで…とため息混じりに呟きながら退治人ギルドに到着し中へ入るとカウンターにいたマスター、ショットがこちらに気付き難しい表情のまま片手を挙げた。
「厄介な事態になりましたね…吸対に通報されたのは数名ですが増える可能性も考えられますね」
「その予感的中だぜ、マスター。いま半田から連絡あって3人追加だ。下半身透明とあっちゃん、それからビキニの野郎もホラ・ホスで眠っているそうだ」
そう告げると「マジかよ…」とショットも呟き、マスターも唸ってしまった。
「そもそもウチにきた被害者というのも武々夫だしな…」
「は?!武々夫のやつ、またかよ…。ハァ、一体なにしてんだアイツ…」
「ともかく、まずは情報を集めなくてはいけませんね。吸対とも協力することになっていますから合同で調査にあたってください」
マスターがそう言うとロナルド、ショット含めギルド内にいた退治人たちも頷いた。
「吸対でも探っているでしょうが被害者について直前の行動やら範囲を把握し手掛かりを探索するのが良いと思われますが…。何しろ人数も多いですからね」
「そうですね…どこから探せばいいのやら…」
マスターと共に首を傾げて唸り始めたロナルドの横でジョンへ飲み物を渡しつつドラルクが指をふる。
「フッフッフ、相変わらずおつむがゴリラ並みのようだねロナルドくぐぁー!」スナァヌー!!
「何が言いたい、クソ砂!!」
イラッとしたロナルドに殺されるも不敵に笑うドラルクは復活しながらピシッとロナルドに人差し指を突き付ける。
「君は既に事務所にて重要な手掛かりを手に入れてるじゃないか。我々がこの件に関わるキッカケは何だった?」
「ハァ?店長が救援要請しにきたんだろ?武々夫が眠ったまま目覚めないって、武々夫を抱えて」
ロナルドがよくわからないという顔で答えるとドラルクはひとつ頷く。
「そう、よくできまちたね〜5さぃブェー…ゴホン、彼の昨夜の行動をよーく思い返してみたまえ」
「昨夜?えーとバイト終わって呑みに行った、んだろ?マナーと透明とゲーセン荒らしと…だっけ。それで帰って寝てから起きないと」
ウンウンと頷くドラルクはニィっと笑い片目を瞑ってみせた。
「一緒に呑んでいたハズの荒らしくんは無事で、ネックレスの事は知らない様子だった。つまり手に入れたのは彼と別れたその後だ。さて彼らの道はどこで分岐したでしょう?」
「…飲み会を終えて別れたんだろ?だからその分岐?とやらは居酒屋を出たあ、と………あ!」
「ドラルクさん、どこの居酒屋か聞いてますか?その周辺から聞き込みを開始しましょう」
了解しました、とドラルクは店名を確認するため電話をかけ始め、他の面々も出動準備をしていったのであった。