「さて、ここからスタートするわけだが…」
ドラルクが吸血鬼ゲームセンター荒らしから聞き出した情報をもとに、彼らが呑んでいたという格安居酒屋の前まで来たロナルド一行。
「彼らが別れたのは最初の交差点だと言っていた。おそらくすぐそこにある交差点のことだろう」
そう指を差しつつ交差点へ歩いていき、さらに見送ったという方向へ歩を進めていく。
わりと駅前に近い場所だったため花屋や雑貨屋等も立ち並んでおり、店頭にいた人々が目撃情報を聞いてまわる。
すると何人かは彼らが楽しげに話しながら歩いていた事を覚えていたらしく去っていった方向を教えてくれた。
「そういえばお化けみたいな子が「洗剤を買わないといけない」って言っていたわ。100均に寄るって言ったらピンク髪の子も自分も行く〜ってはしゃいでたわね。多分もう一人いた子も付いて行ったんじゃないかしら?」
そう教えてくれたおばちゃんにお礼を言って向かってみた。
100均へ到着して聞いてみたところ、確かに買物はしたようだが店員からはそこから先の目撃情報は得られなかった。
あいにく周りの店は閉まっておりここで途絶えたかに思えたかと思ったが…。
「
「そうか!でかしたぞジョン!諸君、次なる手がかりはアレだ!」
ジョンから耳打ちをされたドラルクが指を差して提案したのは、店頭入り口に設置してある防犯カメラだった。
「そうか、仮に吸血鬼のマナー違反とかが映ってなくても武々夫がいれば分かるな!よし、ヒナイチ頼んだ」
頷いたヒナイチが店へと引き返し、店長に事情を話し防犯カメラ映像をチェックする。すると案の定武々夫が大笑いしながら誰かと共に去っていく姿がバッチリ映っていた。
そちら方面へと進みかけたその時、向かいから自転車で走ってきてスーッと斜め向かいの店舗へ入っていく人物に出くわした為急いで聞き込みを行った。
「昨夜、ですか?…あぁ、そういえば、ここから自転車で5分くらい走った場所で見たな。店先でなんかワイワイとビキニ男とお化けっぽいやつとほか数名が楽しそうにしてましたよ」
そうまさに今から向かう方面での目撃情報を得られたためそちらへ急行した。
「あ、あれじゃないか?店員らしき人影も見える。すみませーん!」
「あれ、でもここって…?」
店先にはのぼりと共にテーブルが並べられており、そこに商品もまばらに陳列してあった。しかしそれはネックレスではなく、個包装のマドレーヌやカットされたバウンドケーキだった。
「あれ?あのー、すみません。昨夜ここで売られていたネックレスについて話を聞きたかったのですが…」
「ネックレス…ですか?すみません、昨夜の事はちょっと分からないですね…。私たちは今日からこのレンタルスペースを3日間借りているだけの製菓店なんですよ。ご覧の通り展示即売会を開催しておりまして…。とは言ってももう今夜は営業は終了して片付け中ですが」
赤いエプロンを身に着けた女性たちが顔を見合わせながら首を傾げながらも対応をしてくれた。
「え?レンタル、スペース…?ここが?」
「えぇ、私たち普段は街の端っこでやっているお店ですけど、宣伝のために時々駅に近い場所でこのような即売会やってるんですよ。何箇所かレンタルスペースがあってネットで予約とか支払いとかも全て済ませられるんで便利なんですよね。」
今流行りの『予約も連絡も全てネット』方式で今日から借りているだけのこの人たちからは昨夜の情報は手に入らないことがわかり、ヒナイチたちは思わず頭を抱えてしまった。
スペースのオーナーへ電話出来ないかと尋ねたのだが、この場では直接の連絡が取りにくいようだった。
「片付け終わりました〜。横水さん、帰りましょう。」
そうこうしているうちに彼女らも片付けが終わってしまい引き留めることもできず、そしてロナルドたちもそれは同じだった。
「ロナルド、我々もここで今日のところはタイムアップだ」
時計を確認していたヒナイチがロナルドにそう告げた。
「だ、だけどサテツたちが…」
「勿論彼らも心配だが、VRCに搬送してしっかりと保護している。大丈夫だ。それよりもあと1時間もしないうちに陽が昇る。ドラルクも勿論だが我々も休息を取らねばならん。」
「そうだぞ、いくら吸対職員とはいえヒナイチくんらにキミのようなゴリラ的体力を求めるモノではヴォエー!」スナァヌー!!
悔しげな顔でのロナルドパンチをマトモに喰らいドラルクは砂になった…。
翌日はあいにくの悪天候。
吸血鬼たちにとって出歩きたくない空模様だったためか吸血鬼による騒ぎもなく、降りしきる雨の音が街を包んでいた。
「ジメジメして嫌な空気だなぁ〜こんな日は家にいるに限るよ、ねぇジョン。ゲームでも良いけど気分上げるためにも手の込んだお菓子でも作ろうかな」
「ヌン。
ジョンから可愛くおねだりされ快諾したドラルクはリンゴを取り出しパイを作るため台所へ向かった。
「うぅ〜…」
隣の部屋から聞こえてくる呻き声に苦笑いをしながら手際良く作業を進めていく。
思い出すのは聞き込みのあと渋々といった様子で事務所へ帰宅していた際のロナルドとの会話だ。
「ぶつくさ言っているがキミ、忘れてることがあるんじゃないのかね?」
「ハァ?何を忘れてるって…」
ドラルクは溜め息をひとつつくとロナルドの鼻先に指を付ける。
「キミ、確か明日フクマさんとの打ち合わせじゃなかったかね?」
完全に忘れてたのかハッとしてロナルドはみるみる青褪めて2、3歩後退っていく。
「…わ、すれてた。たしかエッセイの締め切りが…。1行も進んでねぇっっ!あ、あぁ、どどどうしよう〜」
「明日は吸対の彼らに任せていたほうがよさそうだな、慢性遅筆ルドせんせぐぇっ…」スナァヌー!!
「まったく…なかなか筆が進まないのは自分のせいなのに八つ当たりするなんて、ねぇジョン?」「ヌン。」
「聞こえてるぞクソ砂!差し入れのオニギリおかわりくださいコノヤロー!!」
フクマさん監視のもとキーボードと向かい合う彼は頭をフル回転させるために栄養を回そうと必死なようだが、腹が満ちると眠くなるのが目に見えている(寝させてもらえる訳はないが)ため濃いめのお茶のみ追加で持って行かせるに留めた。
奇跡的に缶詰部屋行きにはならず明け方前になんとか書き終えてグッタリしているロナルドに「お疲れ〜」とカットしたアップルパイを差し出した。
「いい香りがするな!まだ残ってるか?」
床のドアが勢いよく開かれ赤髪の少女が顔を覗かせた。
「おやお疲れ、ヒナイチくん。勿論まだ残っているとも。冷めても美味しくいただけるよう作ってあるからね。はいどうぞ」
「アップルパイ!ありがたく頂こう!!」
彼女へのおもてなしを用意しているうちになんとか復活したらしいロナルドはパイに齧りつきながら事件についてヒナイチへ問いただし始めた。
「進捗状況は?連絡が無かったってことはアイツらはまだ、あのままなのか?」
「あぁ、それが…。スペース利用客からオーナーへ電話にて連絡を取ってくれたらしいんだが、今長い休み期間だろう?ちょうど家族旅行で自宅にいないらしくてな。コチラからも電話してみたのだが…普段、予約確認とかは自宅のパソコンでしか行わないうえこれまでトラブルが起きたことは無かった。数日間立て続けに予約で埋まったから新規予約の操作は要らないし留守にしても問題ないと判断した、明日には戻るから過去の利用客についての詳細は待ってて欲しい。との事でな…」
ヒナイチがハァ…と溜め息をつきながら受け取ったアップルパイをひとくち頬張るとその甘さに癒やされたのかウットリとした顔になった。
「おまけに下等吸血鬼が…モグモグ、やたらと多くてなモグモグ。そちらも対処せねばならなかったのだ」
「それはそれは…うちの5歳児がお手伝い出来ず申し訳なかったねぇ。まぁ特別部屋に行かずに済んだようだから明日から馬車馬ならぬ馬車ゴリラの如くこき使っゥベェ〜」スナァヌー…。
ドラルクを殺すのは容易いロナルドだったが極度の疲労だったのか早めに休み、翌日は日が高い昼間からヒナイチ・半田と共に調査を行った。
まず初めに訪れたのは被害者を搬送した場所であり、ネックレスについて調査が進んでいるはずのVRCだ。
搬送されたのは結局13人にものぼってしまい人間吸血鬼関係なく眠らされているようだ。
「来たのか愚物ども。まぁた厄介で、実に研究しがいのあるモノを運んできてくれたなぁ」
そう猫背の長身から人を見下すような喋り方をするヨモツザカ所長が出迎えた。普段通りの上から目線にイラァっとしながらも様態等について尋ねてみた。
「あぁ〜様態?全員、特に変化なし。はぁ…13人だぞ13人。1人2人イレギュラーな症例見せてもいいだろうに、ただ眠っとるだけだ。まったくもってツマラン」
「つ、つまらんって…つまるつまらないの話じゃねぇんだよ!被害を受けてる中には一般人もいるし、何よりサテツだって混じってるんだぞ。ちょっとは気にしねぇのかよ!」
『人命軽視』を掲げるこのサイコパス所長にはさほど響かないようで面倒くさそうにため息をつかれただけだった。
「一応調査は進んでいる。まずこのネックレス、こいつは磁力のようなモノが働いていて身体から外れない仕様になっている。一応愚物に防護用の板を使用しながら光線をあてて内部構造を透かして撮ったりしているが愚物の肉体が非常に邪魔なのだ。まったくもって腹ただしい。
それと取れないか試すついでに破壊を試みたのだが…。」
そう言いながら取り出したのは電動カッターやグラインダー、ニッパーやらハンマーだった。どうやら物理的に壊せないかと考えたらしいが無駄骨だったようだ。
「勿論数名がかりで引っ張ってもみたが全然だった。あぁ?危険〜?知るか。この天才科学者である俺様の研究が何よりも優先…あたたたたたっ!!やめんか!!」
イライラしたらしい隊員によってちょっとツッコミが行われた。
「……まったく。天才的な頭脳が損なわれたらどうなると思ってるんだ。はぁ、あーそれで、コイン。こっちに来ていた情報を検証する為収容している
チェーンのほうは普通に触れられた為コインになにか仕掛けがあるとみて間違いない。そう思ってじっくり顕微鏡で見たところ、どうやらこれは1枚のコインではなく薄ーいコインを2枚重ねられて圧着されていた。」
キュッキュッとホワイトボードへ絵を描いて説明が進んでいく。
そこで丁度収容中の吸血鬼『光に翳して中身拝見』という奴に実験を手伝わせたらしい。ソイツの能力は『電灯等の光を浴びた部分を透視する』ものらしい。薄い封筒を電灯に翳し中を透かして見る、ああいうヤツだ。それをなんと物陰から夜の街並みを灯りに照らされつつ歩く女性を透視して下着姿を覗こうとしていた変態だった。しかし隠れ方が悪かったのか不審に思われ通報され収容に至ったとのことだった。
「あー…脱線したな。とにかくその吸血鬼が透視したところによると、やはり何か間に紙が挟まっていてな。それには文字のような紋様が描かれているらしい。英語でも日本語でもないからそいつには解読出来ず、なんとか別の紙に書き写させた。今、翻訳させてるところだ。」
ホワイトボードへ貼り付けたコピーだという紙を見てみたが、円型の紙にビッシリ何かが書いてあるだけしかロナルドには分からなかった。
「うーーん、えらく細かい文字で書いてありますな…こんな手間をかけてまで何故こんな事を…」
「そういやこれは催眠術、なのか?だとすればアイツは?弟たちも揃って被害受けてるし黙ってないんじゃねえか?」
紙を見つつ唸るドラルクの横で『催眠術師といえば』というある意味この街代表となりつつある吸血鬼…野球拳大好きの存在が頭に浮かんだロナルド。しょっちゅう
「あぁアイツか…。実はあの阿呆なら、3、4日前にギルドマスターによって
弟たちのことを話しても良かったが、コッチの調査優先だったから黙っていた…というかちょっと忘れかけてたな。流石にそろそろ顔を見せに来ない弟たちが気になってるだろうから知らせてやろう。ヒッヒッヒ」
「…野球拳、キレるんじゃないか?」
「ま、黙ってた件に関しては激怒するだろうね。彼は特に身内に対して愛情深いからね。ただコレを解けるかどうかは別だな。どうやらこれは催眠術ではなく『呪い』の類だからね」
ホワイトボードを凝視したままのドラルクの言葉に反応し、全員が彼に注目した。
彼はコインの中にあるという紙を指し示した。
「コレに酷似したものをあのヒゲヒゲ…師匠から教わった本の中で見かけたことがある。『呪詛』…呪いの言葉を刻んだアイテム等を相手に見立てた人形へ縫い付けるとか色々呪う手段はあるけれど。その1つにこのような形式でとにかく呪詛を書き連ねるというものがあったな。」
「『呪い』…やはり吸血鬼によるもの、なのか?」
ヒナイチが恐る恐るそう聞くとドラルクはしっかりと頷いた。
「“吸血鬼が使う呪い関連”として習ったからな、まぁ直截的なやり方は珍しくはあるがな。普通は知られたくない筈だから。それにしても不特定多数の見知らぬ相手に呪いをばら撒くとは…一体何を考えてるのやら…」