お楽しみいただければ幸いです
「すげームシャクシャしてたんスよ、最近」
吸対本部に連れてこられた重要参考人の青年は、隊長のヒヨシに眼光鋭く睨まれても不貞腐れた態度を崩さなかった。
研究所を出たロナルド一行は所長のヨモツザカとカズラを伴い病棟施設へ向かった。すると頭にいつもの手ぬぐいを巻きつけVRCの着衣で吸血鬼野球拳大好きがつまらなそうな顔をして大きな欠伸を噛み殺しながら雑誌を見ていた。
「おぅ、所長さん。とお前らも来たのか珍しいな。そんな大所帯でどうした?あー、それよりも透にもミカエラにも電話通じねぇんだが…何か知らねぇか?」
「あ、あー…今日来たのはそのことなんだ。実はな…」
所長やロナルド達から説明を受けると、野球拳はロナルド達の予想通り「何故早く言わなかった!?」とブチ切れた。
「お前がダラダラしたくて言い訳してたからな。気を遣ってやったんだぞヒッヒッヒ」
「嘘つきやがれ!テメエがそんな殊勝なタマかよ!どうせ研究優先だとかの理由で俺がジャマしないように言わなかっただけだろう?!おい、アイツラはドコだ?連れてけ!」
野球拳大好きが所長に悪態をついてから隣りにいたカズラに案内するよう頼むと、彼女は別のフロアの1室へと案内した。
その病室に着くと、3人が例に漏れずネックレスを身に着けてスヤスヤと眠っていた。表情には苦痛などは全く無く柔らかな顔で眠りについており、長兄である野球拳はひとまず安堵のため息を吐いた。
ただし頭には電極が取り付けられており、接続されているモニターで脳波がピコンピコンと波打って映し出されている。ちなみに電極をつける関係か下半身透明は覆面を外されて素顔だった。
ロナルドたちはヨモツザカを振り返ると、彼は面倒くさそうに解説を始めてくれた。
「人間は睡眠中、夢を見るレム睡眠と深い眠りとなるノンレム睡眠を繰り返している。神経伝達物質が作用して睡眠の開始から覚醒までを促すのだ。運ばれてきた愚物共は皆共通して【眠り続け】ていることから考えて、吸血鬼の能力だか呪いだかしらんがその作用が神経伝達物質の働きを乱しているのではと思ってな。あとは、単に吸血鬼も人間と同じ脳波なのか興味があったので確認のためだな」
「最後はやっぱりテメエの興味じゃねぇか!」
ロナルドたちがヨモツザカの話にツッコミをいれていたが、野球拳大好きはそれには構わずに3人の直ぐ側に立つ。
「おいミカエラ、起きろ!透、おーい!あっちゃん、ほら起きろーお兄ちゃんですよ〜」
野球拳がそう弟たちに呼びかけたりピシピシとおでこや身体を叩いたりするも全然起きない。そのことに業を煮やしたらしい彼はネックレスを力づくで破壊しようとしたのかガッとコインを掴むもやはり黒い火花がバチッ!と飛び散る。
「ッ!!…このぉっ!!」
「お、おいっ、危ねえっ!!」
一度は手を離したものの頭に血がのぼっているらしい野球拳は構わずもう一度掴んだ。再び襲い掛かる火花の衝撃をなんとか根性で抑えようと数秒堪えるが、その火花は逆に勢いづき病衣の袖に燃え移りかけたためロナルドが慌てて止めさせ手から離させた。
「ツゥッ…ちくしょうっ!」
「お、落ち着け。うわ、手を火傷してるぞ…あれ?この形、さっき研究室で見たマークに似ているな」
「ほぉ?どれ見せてみろ。フム、カズラくん。写真撮っておけ」
野球拳大好きの手に出来た火傷はたしかに先程ヨモツザカが示したコインの呪詛の模様に酷似しており、興味を示した所長の指示によって更なる実験を続けることになってしまった。
「俺等はネックレスを売りつけたと見られる奴を探しに行かないといけないから、被害者たちを頼むな」
ロナルドたちが声をかけると「あーハイハイ」と言わんばかりに追い払うような仕草をした所長に代わり、野球拳が顔を向けた。
「なぁ、コイツらにこんな物渡しやがったヤツを連れてきてくれや。思いきりひん剥いてやる!」
そんな彼の怒りに満ちた言葉を背に浴びながらVRCを出るとあのレンタルスペースに向かった。
「こちらが例の日にレンタルした人物の名前と電話番号、メルアドです。少し前に帰宅したばかりでこちらからは連絡できておりませんが…」
「こちらで確認致します。ご提供ありがとうございました」
落ち合ったオーナーから問題の人物の情報を入手したヒナイチは早速ヒヨシに連絡して警察のデータと照合してもらった。
その結果携帯自体はプリペイド携帯だったのだが、購入したと思われる店舗へ問い合わせをすると契約者である20代の青年の存在が浮かび上がった。
そこで市内を捜索していたところ、夜更け過ぎにネットカフェで青年を発見して声をかけた。
一瞬ぎくりと固まったが大きくため息をつくと青年は素直に任意同行に応じた。
そして事情聴取をしたところ冒頭のセリフをはいたのである。
「ムシャクシャじゃと?」
「えぇ、聞いてくださいよ!せっかくバイト先で可愛い彼女ゲットして楽しくやってたんです。なのに1ヶ月前に派遣されてきた新しい店長にコロッと彼女が心変わりしやがって。
そいつは吸血鬼で顔はたしかにまぁイケメンで、見た目年齢は俺よりちょっと上かな〜くらい。だけど年齢聞いたら35も年上なんすよ。前のオッサン店長よりも上だし何なら父親と同じくらいすよ?以前の店長んときは「オジサンとか話が合わないからキツイ」って愚痴言ってたくせにさぁ。
それに実はオレ、家族の影響で吸血鬼に対して友好的な感情持ってなくて。よく皆あんなに仲良く出来るよなぁって思ってるところがあって。そのこと知ってるからか彼女曰く新しい店長が気に入らないのそれも有るんじゃないの〜って。でもそれとコレとは関係なくないすか?俺と彼女の問題たというのに。
それをバイト仲間の男どもに愚痴ったら数日後「勤務態度が悪い」て理由でクビだとさ。愚痴ったって言っても休憩室と更衣室だけで、客の前ではマジメにしてましたよ?そのくらいの分別はありますよ。きっと元カノがあることないこと吹き込んだんですよ。まったく持って腹立つ〜」
青年はガタンと椅子を鳴らして腕を組み横を向く。
「あー…別のオトコ、しかも気に入らんタイプに彼女盗られたらたしかに腹立つわな。それで?」
「カネはあまり無いけど親が煩いから家には引きこもれなくて。マンガ喫茶だのネカフェに入り浸ってバイト情報だのあれこれ見てたらある掲示板に辿り着いたんです。いわゆる闇バイト…になるのかな?あるアクセサリーを代理で販売をすれば10万円くれるって書き込みがあって。
メッセージ送ったら本当に誰でも良かったのかあっという間に俺に決まって。そこからはチャットでのやり取りでした。商品の詳細?は一応聞きましたよ。
なんか呪いとか吸血鬼絡みのモノだと知って軽く驚きましたが、『まぁいいか』と。カネさえ入ればとにかくなんでもよかったし、憂さ晴らしもしたい気分だったんで。
えーと、ヤスイヨスーパーの裏手にロッカーがある場所分かります?駅から遠すぎない場所の。あそこのロッカーで商品を受け取りました。
バイトを請け負う時に『実際に売り捌いた証拠の写メを添付して連絡してくれれば1週間後に商品受け渡しに使ったロッカーにバイト代を入れておく』という契約だったので、客に買ってもらった時に付いてた値札タグを切ってそれを証拠にしました。
そうそう、実はネックレスのうち2つは自腹を切ってアイツラに贈ってやりましたよ。ほかの客への売り文句と同じで「楽しい夢が見られるネックレス」だと言って。実際寝てんでしょ?目覚めた時に覚えてるか知らないけと夢くらい見てるっしょ(笑)
オレ、客に対しては嘘ついてませーん。
バイトに関する必要事項以外も世間話は軽くしたけれど、どこにこの雇い主がいるかは知らないですね。結局会わないままで終わる手筈ですもん」
他にも細かい部分を聴取したものの場所を特定できる情報はなかった為、『売り捌いた日から1週間後』の日に件のロッカーにて待ち伏せることになった。
そして数日経ち2人の間で交わしたという約束の日。
張り込みをしている吸対のヒナイチと半田、そしてロナルドとドラルク・ジョンは鼻唄まじりにロッカーに近づいてくる目深に帽子を被る男を発見した。
濃紺のジャケットに紺色のスラッとしたジーンズ姿。
男は一度軽く周りを見渡すと指定されたロッカーを開けて封筒を取り出して代わりに何かを放り込んだ。
「お兄さん、ちょっとすまんがお話を…」
鍵を締めた所でヒヨシが職質をかけてみた。
すると男は慌てて逃げようと駆け出したため、追いかけようとしたときだった。
「野球〜すーるなら〜こーゆー具合にしやしゃんせ、アウト、セーフ、よよいのよい!!」
「うわーー、体が勝手にー!?ふ、服がぁ!!」
しかし彼が逃げた先からは聞こえてきたのは『野球拳のうた』とカランコロンと鳴る下駄の音。
そしてあっという間に真っ裸にひん剥かれたうえ「野球邪拳!」と一発殴られた男は…吸血鬼だった。
「よくも弟たちにあんなモノ売りつけやがったな?さっさと呪いだか能力だかを解除して起こしやがれ!!」
そう野球拳大好きに凄まれるもその吸血鬼は両手を挙げて軽く首を横に振った。その反応にさらに追撃を加えんと拳を握った野球拳を見て、間に入ったロナルドが引き剥がした。怪しげな吸血鬼を吸対と共に囲んでパンツを履かせた所で、改めて後ろ手で拘束した。
「違います…。私はあのヒトに命令されてここまでやってきただけで…。私ではアレは解けませんし…それにあのヒト自身も解けないでしょう」
「どういう事じゃ?しっかり説明せぃ!」
合流したヒヨシが問い詰めるとそいつは逡巡したものの諦めたのか素直に白状し始めた。
「私はある小さな吸血鬼一族の一員で、我らは大昔から“眠りの呪い”を使って無力化した人間共を狩っていたんです。そして我ら自身もまた睡眠を好む過眠体質でちょくちょく2,3年、もしくは10年以上交代で眠って過ごすのです。最近、血族の中でもそれなりに実力もある重鎮にあたるポジションの方が50年振りに目覚めたのですが、何やら大昔の夢を見たらしくて…」
彼はそこで一度言葉を切ると大きくため息をついた。
「『あの頃は吸血鬼の勢力も強くて人間共と派手に闘っていた。弱い者共からは恐れられて心地が良かった。だというのに現代はどうだ?人間たちと馴れ合うような輩が増えなんと嘆かわしい』と仰られて…。そこで呪詛を捩じ込んだあのコインを13個造られました。『これは人間が、吸血鬼と馴れ合うとどうなるかの“警告”だ』だそうです。コインの装飾やらアクセサリーに仕立てて外れないように細工を施したのは一族内のまた別の人物ですが…私はただ『カネ目的ではないから安価で構わん、誰かに売り捌いてこい』との命令を受けただけなんです」
「ほぉ〜…それじゃその重鎮だという吸血鬼のところに案内してもらおうかいのぅ?解呪は無理じゃとおまえさんは言ったが、本人に問いただせば分かるじゃろ〜。あと警察としてお説教もかまさんといかんのでな。あ〜ところでおまえさん名前は?」
怒りをはらんだ目でますます睨みつける野球拳からの視線を遮るようにヒヨシがしっかりと彼に向かい合い、肩にぽんと手を置いた。
「スノア、です。案内はします、が「疲れたからまたちょいとだけ寝る」って言ってたのでしばらく本人に説教はお聞かせできませんね。いつ目覚めるかは僕にはなんとも。それに無理に解呪を急がなくても“ちょっとした警告”だからと『13日経てば勝手に目覚める』仕様になってるらしいですよ。目覚めるそのときにネックレスチェーンも外れるでしょう」
「13日間?ならあと…6日寝たままなのか?それにしても今回ちゃんと保護されたから良いものの、誰にも気付かれなかったら危ねえじゃねぇか!」
そうロナルドが怒鳴りつけるもスノアはちょいと肩を竦めるだけだった。
「ここはど田舎じゃないんですから誰かしら気付くでしょ。現にあなた達がココにいるということは彼らは発見されて保護されてるんでしょ?それなら多少飯とか血とか無くても平気平気」
「…あのねぇキミ。たしかに田舎ではないが発見が遅れた場合簡単に生命の危機に陥ってしまうのが彼ら人間だ。飲み物・食事を摂らなきゃあっという間に弱ってしまう生物なんだ。我々が血を頂くにしても生気を頂くにしても心身ともに健康なほうが美味い。万が一彼らが死んでしまっては吸うもなにもどうしょうもないじゃないか」
ドラルクが呆れたように諭してもなお若い吸血鬼は憮然とした態度のままであった。
「はぁ、とにかくお前さんとこの場所を教えてくれんかの?場所と本当に本人が眠っているかの確認に行かにゃあならん。問題はいつ頃事情聴取出来るかじゃな。『悪意あるモノを造り販売させた件について事情聞きたいから起こすか目覚め次第連絡寄越せ』と伝えて一族のモノが素直に応じるかどうか…」
「ならばワシがチカラを貸そう」
突然誰の声とも違う声が聞こえてきたかと思うと、地面から腕が生えてきてパンツ一丁姿のスノアの脚をガッと掴んできた。思わずスノアが「ヒィーッ!!」と悲鳴をあげ、すぐそばにいた他の面々も「うぉっ」等小さく悲鳴をあげた。当然死んだドラルクの目の前でソレは人の形を成していきその正体がグールだと判明した。
「あ、お前さんは…」
「おや、『グール出す出すおじさん』ではないかね」
「その呼び方ヤメロ!まったく…」
そこに現れたのは古き血の吸血鬼が1人、『屍商人』グールメイカーのエルダーだった。
「我がグールを一体、そちらの屋敷へ派遣してやろう。元凶とやらが目覚めたらすぐに連絡くるようにな。なぁに、遠慮はいらん。我が孫がそちらのネックレスに世話になっているようなのでなぁ?」
イカつい容貌のグールで近付かれたうえ頭を掴まえられたスノアは可哀想なほど顔面蒼白になり震えていた…。
その6日後、VRCにて…
「う、うーん……。ふわ~ぁっ、よく寝た…」
「おぉ、武々夫!!ちゃんと目が覚めたんだね!」
うぉ〜〜という店長の声が響く隣の病室にて、まずあっちゃんがパチリと目を開けた。まだぼーっとしてる様子だが欠伸をしながら不思議そうに周りを見ていた。
「おぅ、あっちゃん。おはよう。目ぇ覚めたか?」
「ケン にい ちゃ、お はよ う。 おき た」
野球拳大好きに頭を撫でられてニコニコしているあっちゃんに反応したのか両隣のベッドで寝ていた2人もまた目を開けた。
「ん〜??あれ、ケン兄…?あれ、ここは?」
「厶……兄さん…?我々は…ええと?」
それまで付けられていた脳波計の痕が痒いのか掻きながらも未だ眠気眼の2人のおでこを笑いながら指で弾いた。
「俺だけ除けモンにしてンなへんなもん買いやがって。イイ夢は見れたかい?」
その手には3人分のネックレスが掲げられていた。
「「「よく覚えてない」」」
ありがとう御座いました。
マイクロビキニがほぼ素肌なのにバチバチ云わなかったのはたまたまネクタイとかでガードされてたから…等とご想像ください。