自由惑星同盟第13艦隊作戦参謀   作:J・バウアー

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筆者自身は、豪胆で気さくなシェーンコップ中将は好きなのですが、彼のことを悪く言う記述が出てきます。嫌だと思う人は、こういう捉え方をする人もいたんだくらいに捉えて、読み飛ばして下さい。


中編

 後編へと向かう前に、我々参謀から見た第13艦隊の幹部たちについて述べていきたい。ただし、述べるのは亡くなった方に限りたい。というのも、今現在ご生存の方についてあれこれ述べると、今後の人間関係に悪影響を残してしまうので、差し控えることに理解してもらいたい。ただし、ムライ閣下に限っては、ご生存ではあるがあえて述べさせて頂く。

 

 ムライ参謀長は第13艦隊司令部の要だった。ムライ参謀長の存在があったから、第13艦隊は組織として機能した。ヤン提督は、数少ない情報から真理を読み解く非凡な分析力と、そこから最適解を導きだす繊細な構築力を兼ね備えた天才だが、こと人心を掌握する弁舌力がない。ミンツ少尉がフェザーンへ転勤する壮行会での挨拶が、数秒で終わったのは有名な話。彼に弁舌力があれば、トリューニヒト議長を凌ぐ希代の政治家になっていただろうことは間違いない。家族のように親しいごく一部の限られた人間関係を濃密にしたいだけなら弁舌力は必要ないが、ヤン提督のような天才は、弁舌力がないと、広く理解されて支持されにくい。明確で力強い言葉を紡ぎだす帝国の獅子帝は、歴史上でも類を見ない、紛れもない政戦両略の天才。幹部からも民衆からも絶大な支持を得られるのも納得だ。正直、我々参謀から見たヤン提督は、テレビに出てくる政治家みたいな遠い存在だった。もしムライ閣下がおられず、ヤン提督が我々参謀を直接統率していたら、意志疎通が停滞して、ヤン提督の非凡な実績の数々は、日の目を見ずに終わっていただろう。そんなヤン提督と我々を結びつけていたのが、ムライ閣下だった。ムライ閣下は、能弁ではないが、短く要点を得た言葉で伝えることが、とても上手だった。ヤン提督のお考えをムライ閣下が適切に伝えてくれたから、我々はあんな激務に耐えられたのだと思う。ムライ閣下は配慮の人だった。規則にうるさい人というイメージが強く、帝国印絶対零度のカミソリなんかとムライ閣下を同列に並べようとする失礼な輩がいるが、シェーンコップ中将やポプランのような破天荒な連中が多いからそう見えてしまうだけであって、カミソリなんかとは全く違う。そのことについては、後編で詳しく述べていきたい。

 

 そのヤン提督だが、我々参謀から見たら、けっこうなブラック上司だった。前編でも述べたが、ドーリア星域会戦に臨む際の準備は、ブラックを極めた。我々が作った実行計画案は、ことごとくダメ出しされ、何度も何度も修正案を作らされた。これが的はずれなものだったら、ブラック上司としてヤン提督は滅茶苦茶嫌われただろう。だが、ヤン提督の了解を得た最終案が実行されると、明らかに最適解であったということが判明する。これが何度も繰り返されると、あの人は我々ではとうてい太刀打ちできない別格の人だということで、自然と距離が出てしまった。そんなヤン提督と積極的に関わることができるのは、空戦参謀扱いだったポプランのような奇人くらいだと、他の参謀の誰もが思ったものだ。そのポプランだが、空戦隊長ながらも我々参謀連とも積極的に関わってきて仲が良かった。気さくで陽気な性格が前面に出てくるから分かりにくいが、実はとてもマメな性格の持ち主。人の顔をすぐに覚えて記憶力もいい。あったらいいなと思った空戦隊の記録を、こっちから伝える前に持ってきてくれる察しのよさ。こんなヤツだから女にもモテるのだろう。男からも女からも、みんなのポプラン扱いだから、修羅場にならない。あんなヤツは、この世に二人といないだろう。

 このままだと話がポプランに移ってしまいそうだから、話をヤン提督に戻す。ヤン提督と我々の間には距離があった。距離があったから、ヤン提督と我々が直接関わるエピソードがない。ヤン提督に関する書物を目にすることがあるが、そこに我々が登場してこないのは仕方のないことだと思う。イゼルローン共和政府時代のミンツ中尉とは密接だったが、彼の場合は関わる人物があまりにも多すぎて、幹部たちとのエピソードだけでお腹いっぱいになってしまうから、我々との話はあまり出てこない。これはこれで仕方がないのだろう。当時のミンツ中尉は大人とばかり関わって、同年代はクロイツェル伍長だけだったから、常に気を配る生活で大変だったのだろうなと、今になって思う。イゼルローン共和政府の解体と同時に、ミンツ中尉は軍籍からも離れ、政界にうって出ることもせず、年相応の穏やかな生活を送っているようだ。彼の性格と能力を考えると少々もったいない気もするが、彼の人生を考えると今の状態がベストなのだろう。

 今度はミンツ中尉に話が移ってしまった。これだけ様々な魅力的で個性的な人物を呼び寄せてしまうヤン提督は、希代のひとたらしなのかもしれない。

 

 副司令官のフィッシャー提督は、個性的な中堅指揮官たちを束ねる人格者。普段はムライ参謀長が、戦闘中はフィッシャー提督が、第13艦隊の要となる。普段は穏やかで真面目に黙々と仕事をこなす模範的な官僚軍人。司令部からの無理難題にも文句ひとつ言わずに対応して下さる。ムライ参謀長は口頭で、フィッシャー提督は姿勢で、第13艦隊の皆に、組織人としてのあるべき姿を示している。普段は乗艦であるアガートラムにおられるので、接触する機会は少ない。よってエピソードも少ないのだが、フィッシャー提督については後編で詳細を述べたい。

 

 シェーンコップ中将は我々から見ると、立場上も性格上もめんどくさい人物だった。第13艦隊はイゼルローン要塞駐留艦隊で同盟航宙軍の所属。シェーンコップ中将はイゼルローン要塞司令部で同盟陸軍の人間。なのに、しょっちゅうヒューべリオンに来ては、艦隊司令部の兵站参謀席を自分の席のように陣取って、艦隊のことについてあれこれ口出ししてくる。司令部にいるムライ参謀長に要件があって伺いに行っても、自分の座る席がないと、兵站参謀のマカロックはよく嘆いていた。イスを用意してあげても頑なに遠慮してずっと立っていたミンツ中尉を少しは見習ったらどうだと、参謀連中とよく揶揄していたものだ。ムライ参謀長が何も言わないから、我々も黙っていたが、バーミリオン星域会戦終盤にシェーンコップ中将が、政府の命令を無視してブリュンヒルトに攻撃しろと進言したときには、艦隊司令部の人間でもないのに余計なことを言うなと、さすがにむかっ腹が立った。そんなシェーンコップ中将をアッテンボロー提督やポプランがよくからかっていたが、参謀連中は皆、もっと言ってやれと心の中でけしかけていたと思う。

 我々がどう思っているかシェーンコップ中将も気づいていたようで、司令部によく顔を出すが我々と話をすることはなかった。帝国時代のイゼルローン要塞でも、要塞司令部と駐留艦隊司令部の仲が悪かったらしいが、それも当然だと思う。リンツ大佐がいなければ、要塞司令部と駐留艦隊司令部の仲がこじれていたかもしれない。シェーンコップ中将が戦死して自分が生き残ったことをリンツはよく嘆いていたが、よく生き残ってくれたと我々は散々慰めたものだ。本当にリンツはいいヤツだ。あいつは、どこに行っても重宝される人物だ。今でもリンツとはよく会うけど、だいぶん元気を取り戻しているようでほっとしている。

 

 メルカッツ提督は、本当に素晴らしい人物。ヤン提督が敬って丁寧な応対をするのも当然だと理解できる。我々参謀連にも丁重に話をしているメルカッツ提督の姿を、アッテンボロー提督はよく目にしていたのだろう。アッテンボロー提督も我々司令部の参謀連中に対して配慮のある話し方をするので、アッテンボロー提督は参謀連からも人気があった。ガイエスブルク要塞来襲の際に、あのグエン・バン・ヒュー提督ですらメルカッツ提督の命令を素直に受けるくらいだ。謙虚でありながらも埋没せず、第13艦隊の人々に大きな影響を与える。人生のお手本みたいな人物と接することができたのは、司令部の人間にとって幸運だったと思う。メルカッツ提督の下で働いていた帝国軍人は幸せ者だ。シュナイダーが言うのだから、間違いない。そのシュナイダーは帝国本土に帰ってしまったから、あれから会えていない。元気にしていたらいいな。

 

 パトリチェフ参謀副長は、ムライ参謀長とは違う意味で我々参謀連にとって必要不可欠な人物だった。ヤン提督からの無理難題を押し付けられたときに、丁度いいサンドバッグになるのが、彼の役目だった。

「こんなの一人でやれる訳ないでしょ」

「こんな短期間で、こんだけの物量、できるわけないって!!」

「副長は現場の責任者なのだから、何とかなるように段取りつけて下さいよ」

「人が足りませんよ。副長も手伝って下さいよ」

 などなど。こんな我々参謀たちの文句や愚痴に対して副長はたいてい、

「なるほど」

「そうか。大変だな」

「話をしてみるよ」

と曖昧にしてお茶を濁す。これだけなら、

「この人、話にならん」

で終わって次第に見向きもされなくなるのだが、この人は違う。

「腹が減ったからラーメン頼んだのだけど、間違って十人前頼んでしまった。ここで小休止してメシにしないか?」

「通販で駄菓子を注文したら、間違って50袋頼んでしまった。こんなので悪いけど、時々つまんで食べてくれんか?」

とか言って差し入れしてくれる。誰も、ひいきにせずに、皆に平等に。さすが配慮の人ムライ参謀長の直属の部下。参謀タイプの人ではないのに、なぜ参謀副長に抜擢したのか分からなかったが、ムライ参謀長が理論で、パトリチェフ副長が感情で、参謀連中をまとめるためだったのかと、あとになって分かった。ムライ参謀長がイゼルローンを去ったのは、パトリチェフ副長が亡くなってしまったのも、大きな要因のひとつではないだろうか。惜しい人を亡くしたものだ。

 

 次回は後編。エル・ファシル政府軍、イゼルローン共和政府軍について述べていきたい。

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