自由惑星同盟第13艦隊作戦参謀   作:J・バウアー

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後編(5)バーラト共和国成立に向けて

獅子の泉の七元帥

 元帥が七人揃っていたのは、獅子帝ラインハルトの死後1ヶ月だけである。

 ゴールデンバウム王朝、ローエングラム王朝を通じて銀河帝国初の国家元帥に叙せられたミッターマイヤー帝国軍最高司令官は、皇帝の国葬が全て終了したのちに最高司令官を辞任して軍籍から離脱、マリーンドルフ伯のあとを継いで国務尚書に就任した。オーベルシュタイン元帥のあとの軍務尚書にはアイゼナッハ元帥、統帥本部総長にはワーレン元帥、宇宙艦隊司令長官には、ビッテンフェルト元帥が就任した。メックリンガー元帥とミュラー元帥はミッターマイヤー国家元帥と同じく軍籍を離れ、メックリンガー氏は、ラング元内務次官に対する監督責任を問われて辞任したオスマイヤー氏のあとを受けて内務尚書に就任し、今後重要視されるであろう国内治安維持の抜本的改革に、憲兵隊司令官兼首都防衛司令官ケスラー元帥とともに取り組むことになった。ミュラー元帥はというと、これは、七元帥が一堂に会した席上における、宇宙艦隊司令長官ビッテンフェルト元帥の発言がきっかけだった。

「バーラト星系など共和主義者たちに、全部まるごとくれてやればいいではないか」

 これにはミッターマイヤー国家元帥も反論した。

「全宇宙の統一こそ、亡き陛下の悲願だったではないか。しかも陛下は、共和主義者にバーラト星系を完全に譲渡するなんて確約していないと、俺は聞いているぞ」

「俺は逆に、バーラト星系全体をどう扱うか、陛下はお決めになられていなかったと聞いている」

 ビッテンフェルト元帥が珍しく、ミッターマイヤー国家元帥に対して反論してきた。驚いたミッターマイヤーは黙って、ビッテンフェルトに発言を促した。ビッテンフェルトは腕を組んだ。

「具体的なことは、摂政皇太后陛下と共和主義者たちで決めれば良いと、亡き陛下はおっしゃったと聞いている。陛下はバーラト星系だけでなく、旧同盟領自体についても、もはやこだわりを持っておられていなかった。だいたい、あのバーラト星系は、我々にとって厄災以外の何ものでもない。内政自治権だけを与えるということは、とどのつまり、あそこで何かあったら、宗主権を持つ我が銀河帝国が、全ての責任を負わなければならないということだ。あそこの復興対策のため、今まで我が銀河帝国がどれだけの資金を投入してきたか。これから先、いったいどれだけの資金を投入しなければならないのか?もはや我が銀河帝国は、荷物と化したあんな星系に対し、あらゆる責任を負う必要はないと、俺は思う。彼らが完全独立を求めるのであれば、くれてやればいいのだ」

「しかしそれでは、我々の征旅の価値が下がるのではないか?」

 ワーレンが尋ねた。それに対してビッテンフェルトは、不敵の笑顔を向けた。

「旧同盟領のほぼ全てが我が銀河帝国の施政下に入っているのだから、バーラト星系ひとつくれてやったくらい、どうということはない。それに、征服者であらせられるのは亡き陛下であって、俺は陛下に仕える一介の武人に過ぎない。俺は武人としての誉れさえ頂ければ十分で、征服地のことは征服者であらせられた陛下の御領分だ。征服地については、亡き陛下が摂政皇太后陛下に全てお任せになったのだから、一介の武人に過ぎない俺なんかが口を挟むのは、越権行為であるに止まらず、亡き陛下のお考えに異を唱えるに等しく、まさに不敬に当たる。卿らはそう思わんのか?」

 ビッテンフェルト元帥の意見に、誰も反論できなかった。

 バーラト星系の取り扱いについて摂政皇太后から下問を受けたミッターマイヤー国家元帥は、七元帥の総意として、バーラト星系に内政自治権を与えるに止めるか、完全独立を認めるかは、摂政皇太后陛下のご聖断を仰ぎ、そのご決定に対して全面的に従うということを上奏し、ビッテンフェルト元帥の意見もそのまま、参考までにと伝えた。

 バーラト星系に対する処遇については勅命によってミュラー元帥が担当することになり、バーラト共和国が成立するとともにミュラー元帥も軍籍から離れ、これもまたゴールデンバウム王朝、ローエングラム王朝通じて初の外務尚書に就任することになるのである。

 

 話は、シヴァ星域会戦前までさかのぼる。

 我々は帝国軍と一戦を交えることを既定路線としていて、そのための準備を進めていた。艦艇の建造や改修、爆雷やミサイルの生産、回廊内に通信傍受網を敷設、無人艦隊運用システムの構築など、多岐にわたる。ミンツ中尉自身が述べていた通り、軍事衝突などすぐには発生しないだろうし、人手も少ないから、時間をかけてゆっくり確実に整備していこうという流れだった。

 だが、事態は急変する。

 宇宙暦801年5月29日にシヴァ星域会戦が勃発した。想定よりも大幅に早い戦闘開始だったため、艦艇の建造数は計画を大幅に下回り、通信網の構築も六割ほどしか出来上がらなかったが、それ以外はある程度の成果を出していた。爆雷やミサイルなどの消耗品は、計画数の製造が完了しており、無人艦隊運用システムもほぼ完成していた。

 シヴァ星域会戦の艦隊総司令官は軍事指導者のミンツ中尉。副司令官にはマリノ准将が就任して艦隊運用を行うという、第13艦隊のやり方が踏襲された。人手が足りないということで、アッテンボロー中将も分艦隊司令官として戦場に出てきた。

「あなたは黒幕なのだから、要塞に引っ込んでいてくれ」

 と各所から、アッテンボロー中将の出撃に反対の声が相次いたのだが、それに対して中将は、

「それがどうした」

 の一声で粉砕。誰も二の句が告げられなくなってしまった。実際、無人艦隊を作らねばならないくらいに、分艦隊司令官の数が足りていないのは事実。しかも、アッテンボロー中将レベルの指揮官は、銀河全体を見渡しても稀有。こうしてアッテンボロー中将が現場に出てきて下さったから、何とか戦線を維持できたとも言える。

 これだけ準備して幹部も総出で取り組むが、皇帝ラインハルト率いる強大な帝国軍を相手に苦戦の連続。私は補給艦隊を率いて、戦場を縦横無尽に走り回った。護衛艦隊なんかない丸腰状態だったから、帝国軍の監視の目をかいくぐり帝国艦隊主力を避けながらの慎重に慎重を重ねた行軍に、胃に穴があく思いだった。これは、ドーリア星域会戦に代表される情報戦に散々従事して苦労を重ねてきた経験が、モノを言った。いくらイゼルローンの隣の星系とはいえ別の星系だから、輸送となると遠い。イゼルローン回廊特有の電磁波の乱れを隠れ蓑にしての慎重な行軍をしたとはいえ、帝国軍の索敵の網に引っ掛からずに済んだのは、皇帝ラインハルトの不予に帝国軍幹部たちが動揺して、それが帝国軍全体に広がっていたのが、大きな要因だったようだ。

 帝国軍総旗艦ブリュンヒルトへの突撃敢行と講和成立のニュースは、イゼルローン要塞に帰投中に聞いた。ずっとイゼルローン要塞にいた連中は歓声を上げたようだが、我々補給艦隊の連中は、これで任務が終了したという安堵で疲れがどっとあふれ、回廊の戦いのあとのように自室へ引きこもり、泥のように眠りについた。

 ミッターマイヤー元帥の戦闘終結宣言の翌日、キャゼルヌ、アッテンボロー両中将を囲んだ幹部会が開かれた。議題はもちろん、講和に向けた条件の整理と行動指針。共和政府から帝国政府に要求する条件と、帝国から出される条件については、かねてからの方針に変更がないことを確認した。どちらにせよ、イゼルローン要塞の放棄は決定事項なので、行政書類や機密などをいつでも持ち出せる状態にすること、要塞及び駐留艦隊の武器弾薬や備品を棚卸して、帳簿と現物に狂いがないようにしておくこと、各自の荷物などを整理しておくこと、そして、各自の勤務スペースやプライベートスペースを、ホコリの一つも残さずきれいに清掃しておくことなども決定した。

 皇帝ラインハルトの好意でミンツ中尉、アッテンボロー中将、ポプラン中佐がブリュンヒルトに乗り込んでフェザーンへ向かうことになった。このまま講和に向けた帝国政府との準備交渉になるだろうということで、急遽政策顧問団を結成することになり、団長には私が、スタッフとしてバグダッシュグループから三十人ばかり選任して、ミュラー艦隊旗艦パーツィバルに乗り込んだ。私以外は民間人ということもあるが、それにしても大がかりな監視の目もなく、比較的自由に過ごさせてもらえた。ミュラー提督とは道中に二、三度ほど面会させてもらえる機会を得て、雑談に興じた。ヤン提督の弔問にイゼルローンに来られてからミュラー提督は、同盟の内政軍事に興味を持たれたらしく、自身の権限で同盟の資料に目を通しておられたとのこと。私ですら知らない同盟政府の内情までご存じだったことには舌を巻いた。激務の合間にこのようなことをするミュラー提督は、まだ少壮といえる年齢ながらもローエングラム王朝の重臣に連なるだけあると感心したものだ。

 ポプランからもたらされた皇帝ラインハルトの意向からすると、銀河帝国を宗主国とした内政自治権確保の線が濃厚で、どこまで裁量権を勝ち取れるかが焦点になるだろうということで準備を進めていたのだが、皇帝ラインハルトの国葬が終わった2週間後に突然、バーラト星系の完全独立を認めるとの話が舞い込んできて、皆が驚いた。至急、帝国の内情を探るべく活動して得た情報が、冒頭の話である。帝国で最も強硬派の武人であるビッテンフェルト提督が話の出どころだったと判明して、更に驚いた。しかしその後、ビッテンフェルト提督の幕僚であるオイゲン中将からの話を聞いて納得した。ミンツ中尉たちの地球教徒に対する勇敢な立ち振舞い、そして鎮圧後すぐに武器を帝国軍に引き渡す潔い行為を、ビッテンフェルト提督はいたく評価していたらしい。回廊の戦いの際にあれだけ挑戦的な通信文を送りつけられながらも、激昂するどころかこのようなものを送りつけてくる敵の真意を探ろうとするビッテンフェルト提督は、単純な猪突猛進型武人なんかではなかった。ハイネセンで軟禁という屈辱を味わったことからビッテンフェルト提督は、バーラト星系のことが嫌いで帝国からの分離を望んでいたという噂は、根も葉もないデマである。内情を聞いたアッテンボロー中将が赤面したのを、私は生涯忘れないだろう。

 その後、ミュラー元帥が我々との交渉の責任者となって、バーラト共和国成立に向けた準備が始まった。国家として帝国と共和国は対等だが、共和国の前身である同盟は敗戦国なので、バーラト共和国内に帝国軍の駐留は認めることになった。帝国軍の1個分艦隊だけということで落ち着き、司令官には駐在していたビューロー大将がそのまま留任した。マリノ准将とも相性がいいので、この知らせにはビューロー大将もマリノ准将も喜んだらしい。イゼルローン経由で入荷した帝国産のワインで2人が乾杯したのは、平和の象徴とも言えるだろう。

 基本条約、通商条約などの国交を結ぶための準備、そしてバーラト共和国の憲法や民法、商法などの基本法についても、帝国の助言を受けながら草案を作り上げていった。ミンツ中尉たちはハイネセンへ帰り、アッテンボロー中将はホワン=ルイ氏を首班とした暫定挙国一致内閣で外相に就任。バーラト共和国の成立とともにイゼルローン共和政府は解散を宣言した。準備が始まってから3ヶ月後、アッテンボロー外相はホワン=ルイ首相とともにフェザーンに来られ、ヒルデガルド摂政皇太后と基本条約に調印した。

 長いようで短い戦乱だった。今の平穏が少しでも長く続くことを祈念して筆を置く。近々、シュナイダーに会いにオーティンへ行く予定だ。今では博物館になっている新無憂宮とやらを訪れるのも楽しみだ。

(完)




筆者の構想力不足により後編が5話にも上って、かなりバランスが悪くなってしまいました。しかも、第13艦隊作戦参謀でいた期間の描写が、あまりにも短い。
しかし書き進めるにつれ、イゼルローン共和政府って結構強固な組織だったんだろうなって思いました。そうでないと、あの天才ラインハルトの強大な銀河帝国に立ち向かえるはずがありません。ヤン提督の最大の遺産は軍事的成功ではなく、キャゼルヌ、アッテンボロー、シェーンコップといった人財だったのでしょう。
本編で記載していませんでしたが、七元帥で最初に離脱したのはミッターマイヤー国家元帥とメックリンガー元帥。それぞれ国務尚書と内務尚書に就任すると同時に軍籍から離脱しています。ミュラー元帥は無任所のまま渉外担当尚書となり、帝国共和国基本条約締結とともに軍籍から離れて外務尚書就任となっています。
何か機会があれば、また筆を取りたいと思います。その時はよろしくお願いします。
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