【本物だと思うだろう? まずは武器狩りの時間だ】
…大丈夫よ、トレント。まだ、助けられるわ。やっと見つけたのだから、それにこの人はきっと、エルデンリングを求める…黄金律をはずれても
誰かの声がする、女の声だろうか、意識が未だ朦朧とする、どうやら自分は横たわっているらしい、肌に触れる感覚が冷たいことから材質は石、更に僅かに湿っているのを察するに水場も近いか?
…よし頭はまだ回っている、思考の最中で目も冴えてきた。
…ここは洞窟の中か?視界が悪いが、長期間暗闇の中にいたのかうっすらと周囲が確認できる、あの黄金の幹に落ちている物は己の物であろうか、他に持ち主がいるなら返してやりたいところだが己以外に人影は無し、強いて言えばそこに座り込んでいる白透明の人物?だけだが……返事がない、いやあるにはあるのだが帰ってくる言葉は戦士であるならばこの穴に飛び込めと抜かすうつけであった、すでに碌な状態ではあるまいし他に生物らしき物も見えぬ、ありがたく頂戴するとしよう。
◆
道なりに進み閉ざされた扉を開け、上下に動く床に乗りまたしても扉を開ければそこは視界一面に広がる草原であった、しかも久しく感じていなかった光も視界に入り込んでやや目に痛む、惜しむべくはこれが陽の光ではなくてあの世界を支えていると錯覚するような黄金の大木の光であるというのが難点なのだが贅沢は言うまい。
外に出て振り返ってみればどうやら自分は祠のような場所にいたようで、この大自然とは大凡似つかわしくないしっかりとした建造物といった物である、ああ、人工物よ…
建物から出て少し歩けば焚き火のような光を放つ代物を発見した、そういえばここにくる道すがらにも一つあったのを覚えている、それに触れてみれば暖かな光に身が包まれ心休まった記憶もある、それと同一のものとみなし触れてみたいのだが…その側にいる白い顔の男の視線が気になる、さらにその奥にて闊歩している黄金騎兵は何者だろうか、一先ずは目の前の男から情報を得てみようか。
「…おお、貴方は…褪せ人ですね。そして、エルデンリングを求め、この狭間の地にやってきた…分かりますよ、そうでしょうとも。ですが、悲しいかな。貴方は「巫女無し」です。導きも知らず、ルーンの力を得ることもできず、円卓に導かれることもない…ただ、名も無く死んでゆくでしょう」
「…ただ、たとえ貴方が「巫女無し」でも、ひとつだけ希望があります。この私、ヴァレーに出会えたことです。祝福を、ご存知ですか?貴方たち褪せ人に休息を与える、黄金の灯を、その灯から光の筋が生じ、ある方向を示すことがあります。それこそが、祝福の導き。褪せ人が、進むべき道なのです…ええ、そうですとも。導きが教えてくれるのです、褪せ人が、どこに向かうべきなのか…あるいはどこで、死ぬべきなのか」
ふむ、この者の名はヴァレー、そして己は巫女とやらが居ない巫女無しであると、確かに己には随伴者は居ない、その巫女とやらが不在であるのがこの地にとっては大きく不都合ではあるらしい、であれば何処かで調達する必要があるか…?
加えるにあの奥の騎兵は何かと問えば、彼奴はどうやらツリーガードと呼ばれる存在であるらしく一筋縄では行かない存在らしい、だが他に丁度いい物も無い故に暫くはアレ等で間に合わせるとしよう。
リムグレイブに佇む男、通称白面のヴァレーとは彼の血の君主が掲げる王朝に所属する“元”従軍医師である、長期間この地に居座り目の前の墓地から褪せ人が出てくる度に言葉巧みに自分が所属する組織に勧誘するのだ、話を聞かない愚者には死を、力を顧みずツリーガードに挑む者にも死を、我等の王朝に愚物等必要ないのだ。
そして今回もまた新しい褪せ人が現れた、その証拠に中の昇降機が起動する音がした、ならばこの場に現れるのも時間の問題だろう、ヴァレーはいつもの調子を崩すことなく、優しい口調と言葉で言葉巧みに褪せ人を勧誘する…筈だった、その人物の姿を見るまでは。
ヴァレーは血の騎士達と違い戦闘は得意ではないが元とはいえ従軍医師であり数々の褪せ人を見てきた人物でもある、故にその人間の姿形を見ればある程度の人となりは把握できるつもりだ。
目の前の人物、身に最低限の下着意外何も付けていない辺り裸一貫なのだろうがかなり鍛え込まれた肉体を有しておりその筋肉が見かけだけではなく戦闘として使える実戦向きの筋肉であると言うのは戦闘に関して素人同然のヴァレーにも理解できた、しかしそれ以上に目を引くのは
そんな自分の思考など知ってか知らずか目の前の男が声を掛けてくる、既に予想外のことで脳が支配されているがあくまでも冷静に、いつもと同じ言葉文句を謳い城へ導く…それだけの事だ、しかし目の前の男は続け様にこう述べた。
「あの黄金の騎兵はなんだ」
どうやら男はあのツリーガードに興味があるらしい、この時点でヴァレーは内心目の前の男も他と同様愚物であったかと決めつけていたのだが、問を投げられたのだから答えねばなるまい、その後のことは自分には関係ないのだから、故に親切丁寧に答えてやった、手強い存在であるとも、すると全て聴き終えた男は雄弁に歩き出しこう宣った。
「丁度いい、得物が欲しかった所だ、ついでに衣服も頂いていこう、裸じゃ格好つかねえや」
そう言い残し男は崖から飛び降り難なく着地した、最早あの男が物言わぬ肉塊と化すのは秒読み段階と言える、ツリーガードの範囲に引っ掛かりツリーガードとあの男が相見える、それだけならば過去の愚物達と同じ、しかしなぜか今回だけは、この一戦だけは見逃してはならないと本能が、理性が訴えてきたのだ。
何を馬鹿な、とは思う、何せ相手は歴戦の騎兵、対して褪せ人は文字通りの裸一貫で武器すらない、何をどう戦うと言うのか、そんな思考を他所に戦闘が始まっちまった。
結果から言うとヴァレーが思い描いた光景は終ぞ実現しなかった、目の前にはツリーガードの鎧の甲冑と衣服の部分と馬鎧の衣服を組み合わせた動きやすい物を着込み、彼の得物、黄金のハルバードを担いだ褪せ人が一人。
ツリーガードとは黄金樹に仕える由諸正しく、そして誉高い騎兵である、過酷な鍛錬を乗り超えた重装兵がさらに超実戦騎馬術を完全に会得しなければその名を語る事が許されない。
まず本人たちが着込んでいる鎧が凄い、頭のてっぺんから足のつま先に至るまで黄金の装飾で彩られた甲冑はその重さにして約30から40キロにも届こうかと言う代物、更にはあのハルバードもかなりの重量だ、アレだけでも10キロ弱は硬い、極め付けはあの大楯、しっかりとした重量と堅牢さを誇るあの大楯も含めるならばツリーガードの装備だけで70キロに至るだろう、そしてそれを我が身のように扱う兵士に搭載された筋肉量も半端な物ではない、上の本体だけで200キロに届こうかと言う重量。
ツリーガードを語るならばあの豪馬についても語らねばなるまい、あの豪馬もかなりの鍛錬と調教を繰り返された一般である、まず大前提として軍馬なので上の人間の重さに耐え長距離を走破する持久力と筋力が必要だ、当然捕捉されにくくする為にも速度は必須。
加えて馬の堅牢性を確保する為にも馬に装着するにしては重装備な馬鎧を拵えてある、従ってツリーガードが乗り跨ぐ馬とはもはや一つの生物兵器である、故に豪馬。
そんな人馬一体を地で行くあの存在にあの褪せ人はどう戦うと言うのか、ヴァレーは興味が尽きなかった。
先手を取ったのはツリーガード、目標を補足するや否や馬を加速させ斧槍を低く構え一気に振り上げる、これこそあのツリーガードが数多の褪せ人を屠った必殺の一撃である。
しかし褪せ人は刃が触れるか否かの所で回避、ツリーガードの斧槍は空を回る事になる、然しそこは流石歴戦の騎兵、即座に馬を二足で立たせ急旋回、同時に斧槍を横薙ぎ一閃、過去にあの攻撃の空振りを誘発させた相手も居たのだろう、つまりそれを想定していない相手はこれで頭が飛ぶことになる。
されども褪せ人はそれもまた刃から数センチ退くギリギリの回避で対処、されど反撃の一撃はあらず。
業を煮やしたのかツリーガードが得物を上段構えで大きく振り下ろす、一撃で叩き潰す腹積もりだったのだろう、それを身を捩って難なく、必要最低限の動きで躱した褪せ人は斧槍を勢いよく踏みつける。
成程巧い、想定より深くめり込んだ刃は引き抜くのに僅かな時間を生じさせる、しかも想定以上の力が武器にかかったので肉体の方もそちらに引き寄せられるは道理だ、そして踏みつけた勢いをそのままに急上昇した褪せ人は渾身の拳をツリーガードの顔面に叩き込む、否最早あの一撃は撃ち抜くと言った方が適切だろう。
撃ち抜いた位置は顔の正面ではなく顎の位置、当然顔への攻撃を想定していたツリーガード、顔の甲冑はより頑強に作られている、下手に素手で叩けば逆に拳が破壊される、それにより崩した姿勢を刈り取る、しかし──当の本人の思惑とは逆に姿勢を崩したのはツリーガード本人、甲冑により打撃のダメージは軽減されるとはいえその衝撃まで無力化される訳ではない、つまり顎部分を中心に強烈な衝撃が襲ったということだ。
顎への衝撃──闘争に疎いヴァレーと言えどそれが起きればどうなるかなどわかっている。
顎への強い衝撃は──体勢を整える運動能力を司る脳を大きく揺らす。
バランス感覚を失った騎士の体が崩れる、更に騎手がバランスを崩すと言うことは馬の方もバランスを崩す、ここに来て人馬一体が裏目に出たのだ、大きくよろけたツリーガードを他所にすでに褪せ人は次の攻撃態勢にはいっている。
次に繰り出されたのは飛び後ろ蹴りだ、これに関しては流石と言わざるを得ない、着地してからすぐにあの蹴り技に移行出来ると言うのだから、これもまた蹴ると言うよりは足が獲物を撃ち抜くという表現が正しいだろう。
ヴァレーは神に誓ってあの光景を生涯忘れる事がないと断言する、何故ならばあの豪馬に搭載されている鋼鉄の重鎧という防具のその中に更に備わる──。
幾ら命中した所が比較的に折れやすいとされる肋骨部分であるとはいえ、相手は動物という枠組みを遥かに超越した超動物、当然骨の硬さも並大抵ではない。
それを『二重の鎧』の上から蹴り砕いたんだもの、忘れたくとも忘れようがない。
偶然というか、最早狙っていたのだろう、その位置は心臓が位置する部位でもあったのだ、つまりこの褪せ人は二重の鎧によって包まれた堅牢な骨のさらにその奥にて守護られている全生命体の急所、心臓を一撃で撃ち抜いたのだ。
そして残された騎兵は文字通り落馬し地面に激突だ、依然脳の揺れが続いているのだろう、それでもそこはやはり黄金樹勢力の精鋭たるツリーガード、もはや気迫のみで立ち上がり盾と斧槍を構えようとしていた、だがそんな悠長な事を待っている相手ではなかった。
既に褪せ人は重騎士の眼前にて最後の攻撃態勢に入っていたのだ、深く腰を下ろし拳を力強く握り、打ち出す、所謂正拳突きを持って重騎士の胸部を抉ってそれで戦闘は終了する、僅か三発の攻撃を持ってツリーガードを屠ってみせた、文字通りの秒殺である。
ツリーガードとやらから装備を拝借しヴァレーの言う通り、眼前の巨城に向かうことになった。
どうやらあそこには先程戦ったツリーガードよりも遥かに強い者がいるらしい、それを聞いた己は知らずうちに高揚しているのが理解った、強敵がいるならば向かわぬ道理はない、いざ組み打たん。
それにしても奴が最後に言い残したゴッドウィンとは誰のことであろうか、己はそのような名ではないと言うのに。
※過去の私の作品を知る方々に伝えておきます、コイツは成りウィンではありません、唯の姿形が同じだけの黄金野郎です。
・黄金野郎
胡散臭い白面の会話を他所にずっとツリガの事を考えてた馬鹿、全裸だったので通りすがりのツリーガードさんから装備を譲っていただいた。
・ヴァレー
いつものように褪せ人をたぶらかそうとしてたら黄金野郎と出くわしてしまった可哀想な奴、一応簡単な質疑応答位はした。
・ツリーガード
本日の被害者、いつものように哨戒を行っていたら見覚えがある所の問題ではない奴に通り魔された挙句装備品を全部掻っ払われた人、お前は今泣いていい、もう死んでるけど。