「…やっぱり元来た井戸から戻れば良かったんじゃない‼︎」
「うぅむ…よもやケイリッドに出るとはな…」
相方から咎められているが我が身は元気そのもの、いやちょっと嘘ついた、まだ傷が治り切ってない。
とにかくブライヴが言うにはここはケイリッドと呼ばれる土地らしい、リムグレイブより更に東に位置する、そういえばここにはラダーンが居るのだったな、まずは行方を探らねば…それにしてもこの天にも轟く雄叫びは誰の物か、ケイリッド全域に響き渡っているのでは無いかと錯覚するぞ。
とにかくこの谷の隙間から這い上がるとしよう、メリナを背負いいざ崖登りの時間だ。
崖を這い上り眼下に広がる光景を何と申せば良いのか、朱く染まった土地に所々から漂う黒煙…通常の形相を超えた犬や烏、これは今し方屠ったが。
極めつけはあの朱き沼、見るからに劇物の類であろう、ブライヴが言うにはあれはエオニアの沼地と称しあの場で最強のデミゴッドのラダーンとマレニアが激突した、そしてマレニアがその身に宿す宿痾たる腐敗を解放した結果エオニアだけに留まらずケイリッド全域が腐敗の影響を受けたのだと。
それはまぁ何とも…デミゴッドとはいえ一生物がここまでの力を持ち得る物なのか。
取り敢えずあの一番大きな城にでも向かおうか、君主とは城に居る物だからな、そこに向かえばラダーンにも会えると言う寸法よ。
「ラダーンとお前の戦いは確かに興味深いが…俺にはラニから賜った使命がある、此処でお別れだ、すまないな」
うむ、確かにブライヴにはラニからの仕事がある、あくまで我が身はそれに付き添っただけであるとも、またいつの日か会える事を楽しみにしブライヴとは此処で別れた、いやそれにしてもデカい雄叫びだ、よもやこの声の主がラダーンではあるまいな?
崖伝いに歩き沼をぐるりと南側から迂回し歩く、その道中色々居た、デカい犬やら烏は勿論の事、此処の軍兵なのか松明やら何やらで火を扱う者達多数、だが極めつけは直立し武器を構える蟲の存在、ギィギィうるさいので軽く捻ってやったがいかんせん気持ち悪い、殺虫剤とかないものか。
で、目的の城に着いた訳だが… 案の定と言うか何というかゴッドウィンと間違われる始末、人違いなのだがもう訂正するのも面倒だ、軽く鎮圧して中に入るとしよう。
正面玄関をこじ開けて城の中に入ればそこにはよく育てられた獅子、武装が施されている事から敢えて言うならば戦獅子と言ったところか、ストームヴィルでも一頭見かけたがこの地では獅子が愛されているのだろうか?
「かつての王、ゴッドフレイが獅子を背負っていた事でこの地では獅子は力の象徴であると同時に神聖な物として扱われているらしいわ」
成程、ゴッドフレイが背負っていた獅子になぞっての事柄だったか、正にゲン担ぎと言う訳だ、そう言うのは嫌いじゃない、以前にゴッドフレイが描かれた肖像画を拝見したが、芸術に詳しくない我が身でもわかる見惚れてしまう美しさがそこにあった、身動き一つしない肖像画であって尚力強さがひしひしと伝わる、叶うならばいつの日か思い切り戦いたい物だ。
場内を闊歩し最奥の広間に向かえばそこにはいつぞやの半分獅子が構えていた、それともう一人、赤い鎧の騎士が佇んでいた。
メリナが言うにはあの騎士は坩堝の騎士というらしく、かつてゴッドフレイに仕えた騎士達であるという。
成程言うだけはある、中々の練度だ、半分獅子との連携も良い、ラダーン前の肩慣らしには丁度良い相手であったわ、それにしてもあの赤騎士が使った地面を踏み抜いて隆起させる技…ゴドリックも使っていたがあれは良いな、機会があれば使ってみるか。
二人を下し奥に進むと奇妙な格好の老人が居た、名をジェーレンと言うらしいが此処の城主ではないらしい、祭りは好きかと問われたので肯定しておくともう暫く時が経つと最強のデミゴッドたるラダーンとの戦であり弔いでもある戦祭りが行われるという、今すぐやってはならんのかと尋ねたが今は陽が高く星見えぬ、祭りとは夜中に行われる物であるが故と論され致し方無く時間を潰す事に、代わりに一対一の決闘でやらせてくれる様取り付けた、こういう場合はこの姿は便利な物だな。
時間潰しの為に城を出て北上する、城…赤獅子城より北にはかつてラダーンが魔術を修めたという魔術街があるらしい、曰くラダーンはサリアの魔術街にて重力の魔術を修め、その後に空から来たる星を砕いたのだとか、いつ聞いても凄まじい物だ、人の身で星に挑む等と、今の我が身では到底成し得ない大偉業、素直に敬服する他あるまい。
サリアに通ずる大門を過ぎればボロ家を訪ねる旨の伝言があった、まぁやる事もないので出向いてみたら何度か見た巨大犬の首輪付き、どうやら飼われているらしいが中に居るであろう住民から漂う気配のなんたる異質な事か。
中に居たのは赤い外装を装った老人だったがいかんせん妙な気配が引っ掛かる、この地に漂う腐敗の影響か鼻の方も効かん、故に今は漠然としか思えないがこの者はただ物では無い、そう感じ取れる。
老人の名をゴーリーと言いかつては賢者と呼ばれた人物らしく、何やら頼みがあるらしい、生憎サリア街の秘密とやらに興味はないが、ミリセントという人間には興味がある、こんな時代なのだから横の繋がりは太くしておくに越した事はないだろう。
曰く、ミリセントは腐れ病という不治の業病に侵されているらしく、それはマレニアに付随する者らしい、そしてその進行は最も神に近いとされるデミゴッドでも完全に癒す事は叶わなかった。
しかし癒す事は不可能でも抑える事は出来その為には無垢金の針という代物が必要なのだとか、そしてそれはあのエオニアの沼に落ちているらしい、あの広い沼の中を探して回れというのか、ドブ攫いでもここまでやらんわ。
受肉したが故に肉体にどんな影響があるか分からないあの沼に随伴させる訳にも行かないのでメリナには岸辺にて一旦待機させ一走り行う、我が身は無駄に頑丈故数分はこの沼に触れても大丈夫だろう、念の為足の装具は分厚めにしておいたしな、一先ずは真ん中の小島に向かうとしよう。
◆
エオニアの沼、その中央に佇む老兵が居た、その名はオニール、かつてはその武勇と将才から宿将とまで呼ばれた傑物、しかし朱き腐敗に侵された今その面影は無く、彼は自身が参戦した最後の戦の中に囚われていた、つまり今も彼はあの戦の中に居るのだ、彼は最早将ではない、共に闘う味方は居る、しかし勝利を捧げるべき主は既に戦地に居らず、更には退却を思考せず向かってくる敵を自身の損傷を顧みずに薙ぎ倒すだけの人間がなぜ将と呼べようか、尤も朱き腐敗を喰らってその程度の影響で済んでいるのは奇跡に等しいのだが。
彼にとって唯一の救いがあるのなら、自身の最期に戦った相手がかつての黄金の王子と瓜二つで、実力も遜色ない程にあった事であろう、そして彼は悔やむのだ。
──この様な形で出会いたくは無かったと、さすれば我が全身全霊を持ってお主と心ゆくまで死合えたものを。
黄金の褪せ人もそれを理解していた、目の前に居た老兵が歴戦の戦将である事を、その身に刻まれた戦歴の全てを、故にこの戦いを長引かせる道理はない、せめてもの手向けか黄金の褪せ人はいつもの黄金の斧槍ではなく、ゴドリックから授かった斧を構え──そして雷鳴が如く速度でオニールの首を刎ねた、まさしく一瞬、瞬きの余裕すら無い程の決着である。
「名前は存じないが…猛き心を持った猛将よ、せめて安らかに眠ってくれ」
そしてオニールの懐から零れ落ちた黄金の折れた針が目に止まり、黄金の褪せ人はそれを拾い上げる。
「…今回はすぐ終わるお使いだったな、気分は良くねえが」
◆
あの猛将が落とした針、恐らくはこれが例の針だろう、早速ゴーリーと名乗る存在に手渡したらまじまじとまるで品定めをするかの様に見つめていた、見事な出来だが折れていては役に立たない、従って修繕を行うとの事。
その際に腐敗とはなんたるかを聞いたのだが、朱き腐敗とは単なる猛毒では無く新たな生命が宿る源泉なのだという、各地に居た蟲はそれから産まれ喰らい育つ、そして既存の生物が腐敗を喰らうと新たな生命の形に変容を促すのだという、その際に適合出来ずに死んでいくのが大半だそうだが…強大な生命力を持つ生き物ならば耐えられるらしい。
そんなこんなで針の修繕が終わったらしく後はこれをサリア街を脇道から登りその先にある教会に居るミリセントとやらに刺し込むだけで終わりだ、早速刺しに向かうとしよう。
サリア街を抜けて坂道を登り転がり落ちてくる鉄球を蹴り返して俺の姿を見るや否や遁走を図ろうとする蟲を潰して、漸く辿り着いたこの教会に蹲っている女が一人、コイツが例のミリセントとやらだろう、かなり衰弱している。
ゴーリーの言が正しければこの娘に針を差し込めばこの苦しみを和らげる事ができるらしいが…。
「よしメリナ、頼んだ、俺はあっちの方見てるから」
「…意外ね、貴方そういう事とか気にするんだ」
「喧しい、早くやれ」
そんなやりとりをした後針は驚く程すんなりとミリセントの身体に刺さり、そして呻き声を上げた後、眠る様に気絶した、流石にこのまま見逃すのもアレなので意識が戻るまで此処で一旦休息を取る事にした、ラダーンに備えて腕を完治させておく必要がある、丁度この位置からなら眼下の砂丘が一望出来るがそこを蠢く巨大な影が見えればいやでも視線が行くという物。
…デカいな、恐らくアレがラダーン、最強のデミゴッド、当てもなく彷徨い続けるその姿、されど一切の覇気の衰えを見せないその威風は正しく最強、最早怪物と言っても差異はない。
…この陽が沈んだその時、俺はアレと戦うのだと、否が応でも理解させられ、心底身震いした、恐怖故ではない、これは楽しみを待つ童の様に、楽しみで仕方ないという、一種の武者震いか、そして推定ラダーンがその足を止め…ふと顔を上げるや否や──。
互いに視線を交わした時間は1秒か、10秒か、或いは1分?はたまたそれ以上?
なんにせよこの地に於ける文句無しの“最強”が此方に熱烈な視線を寄越している。
──なんて強烈なお誘いをしてくれるんだラダーン、そんな視線を寄越されては誘いを蹴る訳にはいかんなぁ。
言葉には発しなかったが奴はこう言っているのだ。
眼下に居る人間が上がってこい…という明らかな矛盾、しかしこの場合奴の方が正しい、既に奴は戦舞台に上がっている、雛壇で足踏みしているのは俺の方だ。
──理解ったよラダーン…もう流石に理解した、俺とアイツは…互いにとって史上最強の好敵手である事を‼︎全ての戦や経験はこの時の為にあったのだと‼︎奴の全存在が俺に示している‼︎
だが此処で気持ちを早らせてはいけない、俺も奴もジェーレンの顔を立てるのだ、そうして来る時刻を持って‼︎この地に最大最強の戦祭りを見せつけてやろうではないか‼︎
嗚呼…こんなにも時間の経過を待つのが煩わしいと思った事はない、早く時よ過ぎてはくれないものか…‼︎
深く深呼吸をして精神を落ち着かせる、どうやらこの間にミリセントは意識を取り戻したらしく此方の身元を聞いてきた。
軽く紹介して少し話した後、どうやらこの娘は旅に出るらしい、その前祝いとしてラダーンの戦祭りを見てから旅立つらしいが、なんて事だギャラリーが増えてしまった、これは一層恥のない戦いをせねばなるまいな。
そうして我々は赤獅子城に戻り、その時が来るのを今か今かと待つ事にした。
駆け足駆け足、早くラダーン戦が書きたくて仕方ないのじゃ。
・黄金野郎
1日でケイリッド全域を走破した化け物、オニールには敬意をラダーンから熱烈な誘いを受けるという結構忙しい奴。
ケイリッドに来てから嗅覚と気配の察知が鈍い。
・メリナ
トレントに乗って追随した、置いてかれるかと思った、性別の関係上メリナが針を刺した。
・ブライヴ
指殺しの刃献上完了、尚ラダーンがまだ生きているのでブライヴの運命も固定されたまま、つまりまだ大いなる意思の手駒ではない、ラニが上手くやってくれました、セルブスは死んだ。
・ジェーレン
ゴッドウィンと同じ姿の褪せ人がラダーンとタイマン張るって言うから一番テンションぶち上がってる御仁、多分刃牙の徳川がインストールされてる。
・ラダーン
この地の運命全てを背負った漢。