ゴドリックが行き着くべきだったのは接ぎではなく坩堝だった。
両親の力を継いで生まれた彼は比類無き戦闘の才と魔術の才に富んでいた、そして男はその才に驕る事なく絶えず研磨し続けた、自身の不徳は栄えある両親の栄誉を損なうに等しい、そう自身に戒める事で誰よりも自分に厳しく己を律し、只管に力を磨き続けた、その力を振るう相手がもう居ないと分かっていても。
生まれてから幾つの年月が過ぎたか、既に彼は成人を迎えていた、その間も絶えず鍛錬を続けてきた、既に彼は自身が現在のエルデの地に於ける“最強”であると認識はしていたが、その最後の最後の壁に今は居らぬ偉大な戦王とその息子の黄金の王子の存在が立ちはだかる、果たして自分は彼等より強くなったのだろうか、仮にそうだとしてその二人を倒さずして最強を名乗って良い物か、そもそも個人的な事情であの二人と戦うのは不遜ではないのか、片や誉高きエルデの王であり片やその実の息子にして古竜戦役勝利の立役者だ、個人的な事情で戦いを申して良い訳がない。
ましてやその二人の何れかと戦うということは即ち決闘に等しく何方かが死に絶えるまで戦いは続くだろう、そうなればこの地が受ける影響は想像に難くない。
そんな様々な想いを抱きながら、遂には二人と戦うことはなかった。
否、一度だけ双方と戦うことがあった、尤もそれは軽い手ほどきを受けたに過ぎず戦いとは程遠いものでしかなかったが、それでも当時幼かった彼にとってはそのたった一度の戦いは彼にとって狭き世界を大きく広げた事に違いはないのだ。
かつて黄金の王子にこの様な事を尋ねた事がある。
──何故力を誇示しないのか、貴方はもう少し我儘に生きては良いのではないか。
それに対して彼の黄金はこう答えた。
『力というのは誰かにひけらかしたり、誇示するものではないよ、少なくとも私のはね』
──何故だ、今の貴方は他人に良い様に使われているだけではないのか。
『そうかもしれないね…だが、世界や運命が私にそう望んだのであれば私はそれに応える義務がある、それに…』
『人間というのは自分が本当に守りたい物を守る時にこそ自身の全力以上の力を発揮出来るんだよ』
──守りたい物…それは?
『それは人や友だったり、その場所、思い出…誇りだったりする、人それぞれだ、君も生きていればそのうち分かるさ』
そしてその問いから年月が過ぎ、その男は遥か彼方の宇宙から迫る巨石を見つめながらその言葉が正しかった事を認識する。
自身が強く産まれ落ちたのは力を蓄え続けたのはこの日の為とすら思えた。
──に産んでくれた両親
戦う為の技術
──を与えてくれた我が師
そして力を振るう
──理由を与えてくれた大兄
今日に至るまでの全てに感謝する。
今こそ、我星に挑まん‼︎
そうしてラダーンは前人未到の星砕きという大偉業を成し遂げた、その際に起き得る全ての事柄とその後の運命も全て悟った上で、彼はこの地全ての運命をこの身に背負うと決め込んだのだ。
この地を統一する唯一無二の王たらんとする、そんな猛者の試練の一筋になれるならそれは武人としての誉である。
叶うならばその相手は幼き頃から夢見た黄金の何方かである事を願って。
そして今、彼の願いは叶えられようとしている、待ちに待った
しかしそれも良い、ラダーンにとって重要なのは今目の前に居る人間が彼の黄金達に匹敵する実力者であるという事。
身に纏う気配の密度、その五体から繰り出される攻撃の鋭さと重さ、そして先程の回避から織りなす戦闘の判断能力、その全てが自身の生涯を持ってしても出会えた試しがない強敵である。
惜しむべくは自身の肉体がマレニアとの決戦により腐敗の影響で十全とは程遠い事か、否‼︎
これは甘んじて受け入れた事、悔いはない、確かに今の我が身は十全から程遠くはある、しかし今宵の我が身は十全ではないが故に十全以上である、従って相対するのになんら不便は無い、最早言葉は発せないが最早両者に言葉は不要であった。
広大な砂丘に重い金属がぶつかり合う音が響き渡る、その轟音は最早一つの合戦の領域に匹敵する、その音を作り上げている人物がたったの二人だというのだから驚愕する他ない。
片や赤髪の巨雄、自身の膝下程しかない馬に騎乗し見かけ以上の機動力で2本の大剣をまるで重さを感じさせない速度で振い続け、片や黄金の青年はそれらを斧槍一つで捌きながらも確かに要所要所で一撃を差し込む、互いに必殺を狙った一撃、並の戦士であれば既に十以上の死に見えただろう。
ラダーンの横薙ぎに繰り出した剣を黄金の斧槍で受け止める黄金の褪せ人をそのまま持ち上げ反対側の地面に叩きつけたラダーンは激しい砂煙の中に一筋の黄金と蒼い閃光を見逃さず即座に上体を逸らす──
──同時に黄金の褪せ人が跳躍の勢いを足した刺突で飛び出し──
──そのまま中で身を捩らせ大矢、バリスタボルトの束を雨霰の様に、しかし高速で投げつけられたそれをラダーンは剣で弾くでも鎧で防ぐでもなく更なる追撃を読んでいた愛馬レオナードが既に猛走し移動を済ませている、人馬一体だからこそ成し得る連携だ。
馬が移動を済ませているという事は即ちラダーンは反撃の一撃に移れるという事、ラダーンは魔力を高め、一気に解放しラダーンを中心に超重力を発生させ万物を引き寄せる、これこそがラダーンの修め極めた重力魔術の一つ“星呼び”である。
突如の重力の発生、空中にて踏ん張る地面足場がない黄金の褪せ人は木になった林檎が地面に落ちるが如く必然を持ってラダーンに引き寄せられる、そして万力の力を持って引き寄せられた黄金をラダーンは自身の剣で横薙ぎに叩き斬る、引き寄せられる物体に半ばカウンターの形で繰り出されるそれは黄金の褪せ人の肉体を両断するに容易い、故に黄金の褪せ人はそれを黄金の斧槍で防ぐ。
黄金の褪せ人は
答えは黄金が飛ばされ崖の壁面に叩きつけられたのだ、万力で引き寄せられた黄金の褪せ人はそれを上回る剛力を持って打ち返される、その速度は優に風の速度を超え、音速の領域まで迫っていた。
そんな規格外な力で岩壁に叩きつけられた光景をみて見物していた者達の脳裏に流石に死が過ぎる、事実それは正しい、通常の規格に収まる生物は愚か大半の生物は今の攻撃で即死は避けられないだろう、文字通り渾身の一撃だったのだから、しかし星砕きの英雄、勝鬨を上げず。
ラダーンは飛ばした方向に出来た既に瓦礫に埋もれた穴をジッと見据える、彼は確信しているのだ、あの黄金の褪せ人は生きていると、故にこそ警戒は緩めない、何故ならばその瞬間にあの男は我が肉体に致命傷を与えてくるのは予想に容易い。
数秒の沈黙が流れる、そして大きな地鳴りが穴の方から発生し、崖に大きな亀裂が生成され、更なる内部からの衝撃によって崖が爆ぜ、穴の中から黄金の褪せ人が姿を見せる。
──死ぬかと思った、呼吸が出来ないってのはキツイねどーも。
黄金の褪せ人は自身が散らし今も尚崩落し続ける自身の丈にも匹敵する瓦礫群を手足を駆使し次々にラダーンに飛ばし始める、その速度はラダーンの射撃には劣るものの優に弓矢の速度を凌駕している。
対してラダーンはその投石群に対して回避するのではなく腰を据えて両手の剣での迎撃を取る、ラダーンの剣と衝突する事によって次々に粉々に打ち砕かれていく岩石群、黄金の褪せ人は頭上から落ちてきたラダーンの身の丈程の巨石を抱え全力投石を行った。
ラダーンはそれを剣を交差させ叩き割る事で迎撃、その砕いた岩の影から黄金の褪せ人が飛び出し剣を振り抜いた後の隙を刈り取る様な形で自身の全体重を乗せた渾身の飛び蹴りを直撃させラダーンを大きく後ろへ吹き飛ばした。
星砕きのラダーンが打撃によって飛ばされる、それは見る者の目を疑う光景であろう、何せ飛ばした相手はラダーンの半分程の大きさしかない、大人と子供以上の肉体のサイズに差があるのだ、しかし事実として目の前で起きた光景を認めざるを得ない、小さき者が大きな者を身体能力を持って吹き飛ばすという事実に図らずしも観戦者達は大いに湧いた。*1
正に一進一退、瞬きの様な速さで切り替わる攻守、既に戦祭りは最高潮に達している。
反面戦場は至って静かだ、蹴り飛ばした黄金の褪せ人も飛ばされたラダーンも動かず、黄金の褪せ人に限ってはその場に腰を下ろして息を整えている始末、事もあろうにこの両雄は、前代未聞の一対一の決闘の最中に休憩を差し込んだのである。
数瞬置いて反撃を行った故に薄れがちだが如何に直撃による両断こそ避けたとはいえ結果だけ言えばラダーンの攻撃は成功しているのだ、岩壁に叩きつけられその上で我が身を使った数メートルに及ぶ岩の掘削作業、身体の至る所から出血しているが…本来ならば死に至っていない方が異常なのだ。
反撃を受けたラダーンのダメージも少なくない、言うまでもないがラダーンの着込む鎧は破格の性能だ、並の攻撃では傷痕一つ付ける事すら叶わない、更にその鎧の奥に潜む筋肉と骨という二種の鎧、都合三種の鎧を纏ったラダーンの肉体に物理的にダメージを与えるのは極めて至難である。
その三重の鎧を物ともしない蹴りを黄金の褪せ人はラダーンの胸部にぶち当てた、着込んだ鎧と直前に後方に飛び退いた為に肉体そのものに対して蹴りの直撃こそ避けてはいる…いるがその衝撃まで殺せた訳ではない、否、寧ろその衝撃こそが狙いであり言うなれば衝撃により肉体の内部へとダメージを与える代物。
そんな物を人体最大の急所たる心臓が存在する胸部に喰らったのだから吐血も訳はない、しかもその上で鎧が大きく損傷している、それはつまりこの鎧が無ければ…或いは後コンマ1秒飛び退くのが遅れていれば…この身は致命傷を受けていたということ他ならない。
──星砕きのラダーン…強いってのは想像してたが、それを余裕綽々で乗り越えて来やがる…
なんと幸福だろうか、なんて楽しい戦闘だろうか、こんな奴とずっと戦えたら良いのに…なんて、らしくもない事まで考えてしまっている。
なあアンタ…まだまだ引き出しはあるんだろ?もっと見せてくれよ、アンタになら…俺もまだ出した事がない物を出せる気がするんだよ、だからよ──
「もう…良いだろ、そろそろ全力全開で行こうぜ、焦らすのも焦らされるのもあんまり好きじゃねえんだ、全く行儀が悪くて仕方ねえ」
黄金の褪せ人のこの言葉を皮切りに両者は再び武器を構える、黄金の褪せ人は斧槍から黄金の戦斧に持ち替え、ラダーンは剣に重力を発生させ岩石を纏わせる、これによりラダーンの剣にリーチと更なる重さが加算される、更に岩塊と化した剣同士をぶつける事で薄く鋭く研磨していく、重力による圧縮と力業による研磨によってラダーンの岩剣は職人の手で研磨された黒曜石の様な煌めきを放ち最早一種の芸術品とすら錯覚する。
本気ではあった、しかしまだ全力ではなかった、ただそれだけの事に過ぎない、即ちそれは両者のギアが一段階上がった事を意味していた。
原作で言う所の岩石剣を作り出した辺りです、次回で終わるかも。
・黄金野郎
野球ボールの気分を味わった、肉体は頑強でも生物なので窒息は普通に有効。
・ラダーン
岩石剣を更に研磨した、イメージはヘラクレスの斧剣。
こういう人間でも幼い頃は相応にやんちゃだと良いよね…