研ぎ澄まされた岩石の刃を形成したラダーンは跳躍しそのまま前傾姿勢に入る、最早構えではない、その姿形に狙いや想いが載せられている。
──突っ込んで来るか。
黄金の褪せ人の思惑は正しくラダーンは剣先を前に構えまるで重厚な二本の牙を携えた獣といった形相、その構えでラダーンは剣先を軸に回転し始める、一見間抜けな姿ではあるがそこから派生される攻撃の威力を既に黄金の褪せ人は察知していた、していたが故に回避体勢に入る。
風圧が発生する程の回転力を発生させそして今、その剛弾が放たれる、目にも止まらぬ速度、開幕の弓の速度を上回る程の速さ、黄金の褪せ人は事前に察知出来たが故に回避には成功している、した上で肉体に決して少なくない損傷が出来ていた。
──見かけより範囲が広いのか…いやそれより、あの野郎どこ行きやがった、派手に着弾してあの巨体だ、隠れる場所なんて…違うッ‼︎下かッ‼︎
着弾した後にラダーンの巨体が見えぬ事に違和感を抱いた黄金の褪せ人は即座にその場を飛び退く、そう、ラダーンの攻撃は未だ終わって等いなかったのだ。
黄金の褪せ人が飛び退いた次の瞬間にその地面の下からラダーンが回転を維持したまま飛び出す、理屈は簡単だ、ラダーンは着弾と同時に地面を掘り進めた、そして地中にて旋回し黄金の褪せ人目掛けて飛び出しただけに過ぎない。
勿論これで終わりではない、ラダーンは空中に飛び出すと回転を停止させ尚も前傾姿勢を維持して剣を交差させる。
それだけではない、ラダーンはただ地面に潜ったのではなく
──一つ一つ砕いて回るのは論外だよな、これ。
岩石群が発射される、その数と勢いたるや正に流星群が如く、岩石弾は柔らかい砂丘の砂がクッションとなり着弾地点で停止する、しかし当然唯の岩石群な筈もなく、ラダーンの重力魔術の影響によって形成された岩石群は着弾と同時に四方に炸裂するように造られていた、これが非常に厄介な事になる、飛び散る岩片は全て鋭い刃の様な形をしており、肉を切り裂くには十分過ぎる程、それが四方八方から飛んできているので当然その対処に追われる事になる。
そして当然だが岩の方に注意が向き過ぎたならば上空からの本命に叩き潰されてしまう。
──ならばどうするか…当然…‼︎
黄金の褪せ人は大斧を横薙ぎに力一杯振るった。
極まった物とは一つの武器だ、差し詰め分かりやすく言うならば力だろう、若き日の戦王がそうであった様に、極まった力は人間の五体を武器と化し空気をも武器と化す、極端な事例では突き出した拳の風圧ですら武器になり得る事も確認されている。
ならば当然彼にも同じ事が出来る、ノクローンでの戦闘を糧にし音速の武を手にした彼ならば、あらゆる姿勢から空気を叩き攻撃を飛ばす事が可能‼︎
ストームヴィルにて失われた嵐の刃という技がある、かつての嵐の王に仕えた兵士達が愛用した技であるそれを力技且つ我流にて再現せしめたのだ。
風の速度を超えた空気の刃が岩塊を破壊するも、本命たる巨星──未だ健在。
ラダーンは黄金の褪せ人が振り切った隙を逃さず己自身を発射する、その衝撃たるや砂丘の砂がまるで海を走る大波の如く揺らめき、大きな砂塵を生み出した。
黄金の褪せ人はラダーンの両剣を大斧で止め、鍔迫り合いの形となる、その最中に砂塵の中から一つの影が黄金の褪せ人に迫る、その正体はラダーンの愛馬レオナードだ。
勢いよく飛び出したレオナードはその速度を殺す事なく、その後ろ脚で蹴りをお見舞いした、痩せ細った身体故に勘違いされているがレオナードはあのラダーンが自ら選び抜いた馬である、それがただの馬である筈がない。
その馬はその身体に見合わない獅子の如き魂を持った猛馬であった、恐れず、退かず、一度走り出せば千里を駆けるとすら言われた程、正しく軍馬として最適であり名馬の素質を兼ね備えた馬であったのだ。
無論そうなれば本人…本馬の気質も荒々しくなるのも当然であり、彼は自身が赦した人間しか背に乗せる事はなかった。
幾ら猛馬名馬であろうと背に人を乗せられぬとなれば無用の長物である、次第に世話をする者も減っていき彼は孤立していった、尤も本馬はそんな事気にせず無限に走り続けていたのだが。
ある日彼は自身の運命と出会う、それが若き日のラダーンである、彼はラダーンを見てこの男ならば自身の背に跨がっても良いとした、そして当時のラダーンもその馬の走りと心を感じとりこれならば己の力に耐えられると感じ取った、互いが互いに──異種族でありながら、
そうしてラダーンはその馬に獅子の心という意味のレオナードと名付け唯一無二の相棒とした、両者の絆の深さはラダーンが愛馬の為に重力魔術を収めた事からも分かるだろう、故に誰もがこう称えた──
──痩躯の割に随分いい蹴りをしやがる、いつぞやの騎兵の馬より利口だ。
予想外の攻撃に流石に面食らったがすぐに立て直した黄金の褪せ人は馬による攻撃も警戒対象に擦り込んだ。
──流石に強いな、数いるデミゴッドの中でも最強と謳われたその強さは理性が飛んでいようとまさに本物、出来る事なら永遠に戦い続けていたいが…
黄金の褪せ人は気づいていた、この至高の祭の終わりが近い事を、それは両者の何れかが力によって屈服させられるのではなく、単なる時間切れによる物、ここまでの撃ち合いにて彼はラダーンにはもう時間が残されていない事を悟っていたのだ、幾らラダーンの心身が強靭であろうとそれは無限では無い、どの様な出来事にも必ず終わりは近づいてくる物だ、故に──。
「…そうだな、
ラダーンが魔力を高め前傾姿勢に入る、その意図を理解した黄金の褪せ人はこの戦の決着を見えた。
──何が来ようと関係ない、全て真正面から叩き潰す、それこそがラダーンという史上最高の武人に対しての最大の手向けだ。
そしてラダーンは愛馬と共に急上昇し空を駆け──次第にその姿が炎を帯びて迫るのを目視する。
──距離約数千からの重力と己の全質量を載せた急降下か…確かにそれは最終奥義として扱うに相違ないな…ならば‼︎
突如黄金の褪せ人は大斧から斧槍に持ち替えて後方に大きく飛び退き対岸の赤獅子城の城壁の壁面に着地した。
退避だろうか?否‼︎これは彼が行う次なる攻撃の助走である、着地と同時に壁面を蹴り更なる加速を生む、そして黄金の褪せ人は斧槍の先端を持ち大きく振りかぶる動作を取る、そしてその足が地面に接地し、尚もその速度は衰えず、空からの巨星目掛けて全身全霊の力を持って己の得物を振った。
両者衝突、その衝撃たるや、この戦において最大規模の物であり激突の際に生じた衝撃の余波で一部の城壁が剥がれ落ちる程。
砂塵で両者の姿はまだ見えないがそれでも観戦者からは一つの事実を目撃した。
世界を切り裂く、それは星を砕いたラダーンですら成し得なかった代物、それを全身でもって受けたラダーンは何処か満足気に、されど悔しさを十分に残しつつ、その生涯に幕を閉じた。
対して黄金の褪せ人も無事ではない、武器を振るう為に使用した右腕は完全に機能不全に陥り完治するのにかなりの時間を有するだろう、右腕が使えない事実は彼自身両利きの為に然程問題視しなかったがやはり戦力低下は著しい。
その上であの一撃を放つ為に半ば愛着が湧きつつあった黄金の斧槍を使い潰した、要するに攻撃の直後に斧槍は跡形も無く砕け散ったのだ。
右腕と得物を犠牲にラダーンという巨星を世界ごと斬った、無論他の勝ち方もあっただろう、しかし彼は敢えてそうしなかった。
それはラダーンという一人の人間、武人に向けた最大級の敬意であり手向け、ならば小細工を弄して勝つのではない、小手先の技術で勝つのでもない、自身の力を持って真正面から正々堂々と立ち向かい勝利せしめる事こそが“ラダーンに勝つ”という事なのだ。
──ジェーレン達に頼んで立派な墓を作ってもらわねば、丁重に弔うのだ、この偉大な人間を、墓標は…唯一無事だった大剣の片割れだな、そうしよう。
「なんにせよ、暫くは休息を取らねえと…ここんところ消耗が激しすぎる」
──違和感。
満天の星空、ラダーンが死した事により止まった星々が動き始める、それは狭間の地に於ける全ての運命が動き始める事を意味する。
──
黄金の褪せ人は複数の違和感に苛まれながらも自身が屠ったラダーンの遺体を見て目を見開く、ラダーンの遺体に変わりはない、肩から心臓ごと叩き斬られたその肉体はどう見ても死んでいる。
「おいおい…‼︎なんの冗談だ、しっかり殺した筈だろ、何故動く⁉︎」
黄金の褪せ人の疑問を他所にラダーンの抉れた肉体が修復…否、造り直されていく、その際に
──朱い腐敗⁉︎馬鹿なッ‼︎腐敗が神由来の力としても死体を動かせる理屈はない‼︎いやそれよりもこの位置は不味い‼︎爆発する‼︎
即座に判断した黄金の褪せ人はせめての形見としてラダーンの大剣を手に持ち砂丘から飛び退き赤獅子城に着地した、それとラダーンだった物の腐敗爆発は同じタイミングだった。
「褪せ人殿‼︎何があったのだ⁉︎何故ラダーン将軍があの様な…‼︎」
「分からん、しかしこれだけは言える、
状況を端的に説明する最中で先程までいた慟哭砂丘は有り体に言うならば地獄と言って差し支えなかった、その全てが腐っていく、砂は液状に腐りエオニアの沼もかくやと言わんばかり。
「ジェーレン殿‼︎橋の方面より蟲の大群が押し寄せて参ります‼︎恐らくは腐敗の眷属かと‼︎」
「…褪せ人殿、其方はどう見る?」
「このタイミング、偶然な訳ねえよな、見ろ、アレは崖をよじ登って何処か行くつもりだぞ、散歩のつもりじゃなさそうだが」
「…恐らくはマレニア様が居られるミケラ様の聖樹だろう、ラダーン将軍が腐敗の影響にてあの怪物になったのなら向かう場所は腐敗の大元だ」
「となると蟲共は身を挺しての足止めか、どう言う道を辿るにせよアレが狭間の地を闊歩するって事はケイリッドの悲劇が全世界にて再現されるって事だろう、最早あれは一刻も早く消さなくてはならない存在と化した」
「ジェーレン、アンタは指揮がとって兵士を動かせ、道なりに進むにせよ次はリムグレイブだ、あそこはまだ健常な人間が多い、念の為リエーニエまで下がらせろ、蟲の駆除も同時に頼む」
「それは…任されたが、貴公は如何なさるつもりじゃ、見たところ片腕が使えんのじゃろう」
「何も問題はなし、左で殺すさ、急げよ」
不測の事態に合わせての即席の指示、これが正しいのかは誰にも分からない、だからこそここに居る全員がそれぞれに出来ることを目一杯にやる時だ。
「ならば…微力ながら私も助力致しましょう」
突如加わる第三者の声、しかしその気配と魔力は黄金の褪せ人にとってはつい最近経験した物だ。
「…
満月の女王レナラがその身をこの地に現していた。
「えぇご覧の通り、
「ラダーンだった物、
「ならばアレを倒す方法は」
「再生の暇を与えない高速攻撃、或いは全身を消し飛ばす程の超火力」
「ええ、シンプルでよろしい、手立ては?」
「理論だけ完成させてる技が一つある、左でも使えるから問題ない…が」
「では足を止める役は引き受けましょう、頼みましたよ」
「勿論」
レナラと黄金の褪せ人の二人は腐敗の王を見据える、最早狭間の地の行末はこの二人に託された。
はい、ラダーン戦“は”終わりです、何も間違いではない。
・黄金野郎
世界を切り裂くとか大袈裟な事言ってるけど実際は終ワルの呂布がやった方、パルキアの方ではない。
・レナラ
ラダーンの死によって運命が動いた結果正気に戻った、愛息子の一人の気配が異様だったのでリエーニエから赤獅子城まで飛んできた。
あの場所での戦闘はしっかり覚えてる。
・腐敗の王
ラダーンだったナニカ、腐敗の女神の伴侶となるべく手を施されてしまった代物。
ラダーンは死んだ、それでもラダーンの遺体という特級の器はそのままだったので腐敗の眷属の皆様が有り難く再利用してくださった、ラダーンの関係者達はキレた。
元ネタは言うまでも無く黒化バーサーカー
・腐敗の眷属
エッホエッホ、女神に相応しい王を拵えなきゃ。