あれから暫くして、己は唯只管に北進を続けた、道中の建物にて焚き火を灯している輩がいたので話しかけて見ればどうやら其奴はカーレと言うらしい、聞けば商人として商いを行っているらしくルーンと呼ばれる物を差し出せば品物を譲ってくれるらしい、そしてその様な人物がこの地にはそれなりにいるとも。
ルーンとやらに覚えはないが先程屠ったツリーガード、その時に何か漲るような物が手にとれたがこれの事かと尋ねれば、此奴は是と唱えた、とは言え求める物は無し、どうしたものかと思考すれば此奴、ツール鞄が良いと進言しおった、これがあれば即興とはいえ物を制作することができるんだそうな。
これといって欲しいものも無く、ツール鞄とやらにも興味はなかったのだが、此奴としても生活があるのだろう、ならばと思いそのツール鞄を頂いておく、そして提示されたルーンより少し多く手渡しこの地の事、あの城の詳細について聞き出す、あの白面は信用ならん。
長々と話をしていたらすっかり日が暮れてしまった、これより先に進んでも良いが要らぬ負傷をしても面倒だ、丁度大門の前に祝福があるのでそこにて休息を取るとしよう。
それにしても此処の兵士は随分と酷い武器を使うものだ、一度の素振りにも耐えられぬ鉄の延べ板で何を切ろうというのか、大仰な荷車の箱に入っていた物だからどれだけの得物かと思えば興醒めも興醒め、あれでは最早武器ではない、良くて包丁代わり──童の玩具程にしかなり得ぬ。
祝福にて休息を取っていると突如として人の気配が一つ、気配が朧気なのか不明故に酷く希薄な気配だが、それでも確かに人の気配だ。
「そんなに警戒しないで欲しい、はじめまして霧の彼方から来た人よ、私はメリナ…貴方と、取引がしたいの」
虚空からその姿を晒したその女は初めてみる姿であった、しかしその声には覚えがある。
そうあの洞窟だ、あの洞窟にて耳にした声と同一の物だ、つまりあの声の主が目の前の女と判断して良いだろう、して取引とは?
「…貴方は、指の巫女様を知っている?二本指に仕え、褪せ人を助け、導く存在…けれど今、貴方には巫女様がいない…私は、その代わりができる。私は、ルーンを貴方の力にすることができる、エルデンリングを求めるのなら、きっとそれは、貴方の役に立つ…だから、私を連れていってほしい、あの黄金樹の麓に」
指の巫女、十中八九あの白面が言っていた代物だな、しかも目の前の此奴はそれの代わりになれると、これは幸先が良い、求めていたものが転がり込んできた、しかしルーンを我が力と化す…か。
正直なところそれ自体に魅力は感じない、必要とは思えぬのだ、特にこれといった理由や理屈など存在しないが、己には不要であると、理解るのだ、故に──。
「不要?…そうね、信じられないのも無理はないから、でもきっとあなたには──え?ルーンを力にするのは要らないから話し相手になって欲しい?…構わないけれど、貴方それで良いの?」
一人で旅をするのも構わんが話し相手が居るならばこの旅も多少は華がもてよう、それにこの女ならばこの地について色々と知っていそう故に。
「変な人…だけど取引は成立ね、では、ルーンを力には…しないんだっけ、必要があるなら祝福で私を呼び出して欲しい、ああそれと、この指輪も渡しておく」
そう言われると何やら指輪を手渡される、この女、出会って数秒の相手に婚約でも申し込む気か。
「それは霊馬の指笛、遠い距離を駆けるときは、それを使ってみるといいトレントという名の、駿馬の霊を呼ぶことができる…トレントは自ら貴方を選んだ…大切に、してあげてほしい」
なんと馬を呼ぶ指笛であったか、しかしこの女、少々言葉が足りぬのではないか?
何も言わずに指輪を渡すとは、おそらく何も理解していないのだろうが…
まぁ荷物持ちができた事に対して幸いと言うことにしておこう。
「使うつもりはない?…何故?この狭間の地はとても広い、トレントの存在は必ず貴方の助けになる」
故にこそだ、それだけ広大な土地であるならば己が五体で駆け回り体感してこそ意味がある、故にこの馬は其方が使えば良い。
そう伝えれば彼女はいよいよ苦虫を噛み潰したような顔して、本当に渋々と言った感じで了承した。
して、まずは何処へ向かった物か…?
「それならば先ずは、断崖の城、ストームヴィルに向かうことを勧める、あそこには破片の君主の一人がいるから、エルデンリングのその欠片、大ルーンを宿したデミゴッドの一人が」
破片の君主、デミゴッドか…其れは強いのか?
「えぇ、とても」
なら向かう先は決まったな、ストームヴィルとやらに住まう城の主、先ずは其奴から平らげるとしよう。
大門の関所を抜け坂道を駆け上がった先は強烈な暴風が吹き荒れる丘であった、この位置にのみ嵐が居座っているのではないかと錯覚するほどの暴風、生半可な物ではたちまち吹き飛ばされてしまうだろう。
道の脇に蹲っている女を視野に入れると女は酷く怯えているようであった。
曰く、皆接がれてしまった、蜘蛛に手足をもぎ取られた時人は蛹になるのだと、己はあの白面の甘言で城に向かうのか、それとも蜘蛛の一部になるのかと。
そのどちらでもなく己は己の意思であの城へと向かう、そう伝えたならば女は謎の灰を寄越してきた、どうやら霊体が宿る遺灰と言うらしい、尤も己はそれを使うための道具を持ち合わせていないのだが、何処かにその様な道具があるのだろうか?
小屋を後にし坂道を登り続け雑兵の処理にも飽いてきた所で何者かぎ打ち砕いたかのような穴を開けられている城壁にたどり着いた、ここから城の中に入れそうではあるもののそれと同時に風が運んでくる夥しい死の香り。
そう、血の匂いだ、最早風などでは吹き飛ばさぬほどにこびりついた血肉の匂い、それが通路の奥から漂ってくるのだ、本来常人であるならば斯様な場所には決して近づこうとせんのだろう、元来避けるべき危険区域というやつだ、しかし困ったことにな、その危険区域がな、己を呼んでいるのだ、誘っておるのだ、
道脇にあった祝福に触れ、最早十全を超えた十全っ張り、まだ見ぬ強敵の姿を思い高揚が留まるところを知らぬ、これだけ巨大な城だ、強固な門番の1人くらいはいるだろう、デミゴッドなる城の主にも想いを馳せる、そなれば自然と己の足は早くなっていた。
「もし…そこな貴方、もしやこれからストームヴィル城に挑まれるのですか?」
すると何処に潜んでいたのかとんがり帽子を被った若者が声を掛けてくる、熱した体に冷水をぶちまけるが如き行い、興が冷めていく感覚とはまさにこの事、この若造、どうしてくれようか。
「もしや貴方は…いや、結論を出すにはまだ早い…あぁ申し遅れました、私はロジェール、貴方と同じ褪せ人です、尤も祝福が見えなくなって久しい身ではありますが…」
で?
「私もこの先に用があるのです、途中までで構いません、共に歩みませんか?」
随分と勝手なことを抜かす男だ、敵対する気は皆無なようだがえらく癪に触る、この手の人間には関わらんに越したことはない。
だがこの男の言うことにも道理がある、己はこの中にいる敵将に興味がある、この男は中にある物わ探求している、ならば利害は一致しているわけだ。
生憎己は魔術なる代物とは縁がないが必要とも思ったことは無い、己が五体で事足りる故、それでも興味がないと言えば嘘にはなるのだが、魔術を扱うというこの男がこの程度であるならば特段食指も湧かん、ともなれば魔術の事は捨て置き疾く門番へと相見えるとしよう、ロジェールが何か言っているが手出しはさせん、手を出せば逆に真っ先に命を取ると突きつけておいた、さて…どのような傑物が現れるか、楽しみだ。
霊体の少女、メリナは指巫女が存在しない褪せ人に指巫女の代わりを申し付けた人物である、この地において指巫女とはとても重要な存在でありその役割は褪せ人が得たルーンを肉体の糧として褪せ人に還元する事にある、尤も他にも最重要な役割があるのだがそれを今現在のメリナが知る由もない。
で、メリナは珍しくトレントが見出した褪せ人に取引を申し出たのだがその人物が問題であった、なんと死した筈の黄金王子に瓜二つなのだ、あの洞窟で眠りこけている褪せ人をトレントが見つけた時はどうしようと本気で悩んだ、だけどもトレントが気に入ったのも事実なのでその人物に賭けてみる事にした。
次に褪せ人と出会った時、周囲は既に日が暮れていた、そしてあの時は裸一貫だったはずの彼が何故かツリーガードの甲冑の一部を着こなし彼等の得物を持ち歩いていた、強奪したのだろうか。
いや、それはいい、問題はこの人に取引を申し込まなくてはならないのだがこの褪せ人、霊体の自身の気配に勘づいてた、警戒心を強めてしまったが更に警戒させないために早めに姿を晒す事に、そして取引を申し込んだのだが。
「必要ない」
答えは不要の一言、代わりに要求されたのは話し相手になって欲しいとのこと、それの意味する所を理解しているのだろうか、自身は霊体で常時姿を顕現させれる訳ではない。
「一人での長旅も良いが、話し相手がいるとな、足も軽くなる」
メリナの第一印象としては変な人である、褪せ人とはこんなのばっかりなんだろうか、だけど取引はまぁ…うん、歪ながら成立した、これで良いはず、多分。
それと忘れない内にトレントを呼び出す指笛を渡しておく、その時に褪せ人が訝しんだ顔をしたがその理由をメリナが知る由はない。
「馬か…助かるが生憎必要ない、ここはかなり広い様だからな、折角なら自分の足で一歩一歩踏みしめて行きたい」
心底そう思った。
関門を超えて少し進んだ所で蹲っている人物を見つけた、話を聞けば接ぎ贄から逃れた者らしい。
断崖の城、ストームヴィルの主には良い噂が無い、そんな老醜であるとその噂は狭間の地全域に伝わっている、だがそれを聞いた褪せ人の反応はメリナの予想を外れるものだった。
今思い返せば先程城の主の事を伝えた時真っ先に帰ってきた返答は強さの程だった、どうやらこの褪せ人は強者との戦闘を求める類であるらしい、この褪せ人は本当に向かってくれるだろうか、黄金樹のその麓に、その心配がメリナの胸中を支配していた。
嵐の坂を駆け上り漸くストームヴィル城の外壁部分にたどり着いた、道中沢山の兵士が居たはずなのだが悉く屠られていって他人の事ながら同情してしまう、城の通路を歩いていけば何処に潜んでいたのか魔術師の男が現れ褪せ人を見て少し驚愕し思案していた。
──分かる、自分も初めて見た時驚いたから。
思案する魔術師を他所に高揚気分だった筈の褪せ人の気分が下落していくのが分かる、魔術師の言葉にも辛辣な反応だ、少し話し合った末に互いの妥協点を見つけ、暫し行動を共にするらしい。
そして二人は通路を抜け両脇が崖となっている広間のような場所に出た。
「そこな魔術師の褪せ人よ、愚かな野心の火に焼かれ、お前もまた、エルデンリングを求めるのか?」
魔術師の褪せ人…言うまでもなくロジェールの事だろう、声の主には特徴的な角…この地に於いては忌みの証であり、胴体部分から長い尾が生えた老人だ、しかしその身に宿る威圧感たるや生半可な者では一太刀とて浴びせる事が叶わないだろう、そう思わせる程の圧倒的な実力。
「いえ、ですが私の求めてる物はこの奥にありますので、道を開けていただきますよ」
「…そうか、貴様は通りたくば行くがいい、貴様等の末路など当に見え空いている」
「だが黄金の、
「こりゃまた随分と嫌われたものだ、おい聞こえてたろ魔術師、さっさと行け、邪魔だ」
「…ご武運を」
そう言い残しロジェールは城の中は入っていった、これでこの場には両雄ただ二人のみ、隔てる物等存在せずまさしく一触即発と言った空気だ。
「…貴様が褪せ人であろうと、そうでなかろうと、正しき生を生きる者であろうと、そうでなかろうと、その姿で産まれこの地に踏み込んだ己の不運を恨むのだな」
「いいや幸運だね、この姿で生まれ落ちる事が出来たから…お前と一対一で心置きなく戦れる」
「…貴様の正体がどうであれ貴様にはこの場で死んで貰わねばならん、これ以上の混乱を招かれる前にな、故にその身に刻むが良い、忌み鬼マルギットの名を」
マルギットが名乗りを上げ二人は完全に戦闘態勢に入る、最早誰にも止める事も介入する事も出来ない、完全に二人だけの空間、二人だけの時間だ。
──瞬間、ストームヴィルに吹く風が、ピタリと止まる、意図していたのかそうでないのか、その瞬間二人は吹き飛ばされたように前方へ跳び、真正面からぶつかる、褪せ人の斧槍が、マルギットの杖剣が互いに交差した、その瞬間──
自分の兄と全く同じ姿形をした褪せ人を目撃した彼の心境を答えよ。
・黄金野郎
カーレの人柄に免じて鞄だけ買ってついでに情報を買った、ローデリカの発言に対して彼女の心配より先に君主の強さに興味が行く乙女心を微塵も知ろうとしない奴、遺灰を使う触媒を貰わず直進してるので教会の彼女は泣いていい、従って霊クラゲ…と言うより遺灰連中は皆メリナに懐く、この馬鹿遺灰を使いやがらねえ。
・メリナ
レベルアップを拒否され話し相手になれと言われた人、真面目に可哀想、遺灰達の愚痴やら世話やらをするのが確定した人、でも調霊はできない、悲しいね、取引相手を誤った疑惑があるが取引相手としてはそいつは間違いなく最上級だぞ。
・トレント
荷物持ち、黄金野郎が乗らねえのでメリナが乗ってる。
・ロジェール
敵味方双方から邪魔と思われてる結末が決まりきってる人。
・マルギット
見覚えがある所か死んだ身内とそっくりそのままの姿の褪せ人を目撃してしまった人、開幕から本気を出すのが確定。