──地獄を見た。
デミゴッド達の争い、鉄と血が混じった吐き気を催す匂いが充満した。
──地獄を見た。
朱く腐った土地にて腐敗と燃えた黒煙の匂いが鼻にへばりつく。
──其れ等を上回る地獄を見た。
蟲が大挙を成して押し寄せ、人がそれを押し返す、恐れを知らず一歩も退かない両者は瞬く間に屍の山を築き上げ流血は河と成す。
正に屍山血河、死後の世界に興味は無かったが、もし地獄とやらがあるのならこの様な光景があるのだろう。
私は、生涯この景色を忘れる事はないだろう。
◆
腐敗の王は今現在砂丘から崖をよじ登っている途中だ、レナラが妨害してるとはいえそれもどれだけ持つか、対し黄金の褪せ人は地続きに腐敗の王の行先を先回りする形で駆け抜ける。
『アレを倒した後の影響も考えるならばケイリッドから出さない方が良いでしょう、竜塚の方面に誘導しますのでそこで処理するのが望ましい』
『俺飛行手段無いんだけど』
『死ぬ気で走りなさい、充分間に合う計算です』
黄金の褪せ人はラニが言っていたレナラはスパルタであるという事を十二分に理解した。
──蟲が邪魔だな、難なく蹴散らせるとは言えコイツら俺の進行を何がなんでも妨害してきやがる、多少なりとも知恵が回るのか。
「まぁ関係ないが」
蟲達の主な迎撃はジェーレンを筆頭とした赤獅子軍、戦祭りを観戦してた各地の猛者達が尽力している、メリナが回復系の祈祷を扱えたのもありそれなりに長く持つ計算だ。
それだけにあの腐敗の王は是が非でも殺さなくてはならない、何処に向かおうとも碌な事にならないのは目に見えている、ケイリッドの悲劇が全世界にて再現されるとは言ったがそれは甘く見積もった結果だ、更に悲惨な事を生み出す可能性もある。
腐敗とは凄まじい速度で繰り返される破壊と創造だ、その果てには全く新しい世界が創世されるだろう、そしてその先にはその世界に適応した生物が跋扈するであろう、それ自体は良い、新生命の誕生とはそれだけで尊くあり誰にもそれを否定する権利など持ち合わせては居ないのだから。
それが旧世界の全生命の根絶を代償に…という点を除けばだが。
言うなれば腐敗の世界の創設とは今日まで積み上げてきた数十億年という生命の歴史の全否定に等しい、全ての生物に強制的に進化を促し適応できなければ死ぬのみ、正に神をも恐れぬ所業と言えよう。
しかし腐敗の眷属達はそれすらも恐れない、何故ならば己の意思は女神の意思も同然と疑っていないのだ、我々がこう思っているのであれば女神もそう思って相違ないと思っているからこその行動だ。
誰もそんな事を願って居ないとは彼等の思考では思い至る事は無い、蒙昧な信仰心しか持ち得ぬ彼等では人理等理解できるはずがないのだ。
──ボロ家に居たゴーリーが居ねえ…要はそういう事か、ミリセントがこの事実を知らずに済んだのはある意味幸運かもな。
崖を登り、竜塚に辿り着く、果ての方には腐敗の王がレナラの掌の上で踊らされているのが見える。
──目が見えてねえのか、ラダーンの肉体性能だけで戦ってやがる…だったらもう、休ませてやらねえと。
レナラが此方を確認する、すると飛行魔術で退き後は任せると言わんばかりだ。
斯くして再び腐敗の王と相見える、真紅の巨人との距離、凡そ三十、ヤツなら3秒と掛からず詰める。
自身の戦力は把握済み、右腕は使用不可、武器はゴドリックの大斧とラダーンの形見である大剣のみ。
武器に刻まれた武技【星呼び】は使用不可、この剣に刻まれた武技はラダーンが積み重ねて来た代物、再現は出来ない。
今の黄金に引き出せるのは武器本来の性能のみ。
腐敗の王が此方を見た、気付かれた、そうだろうとも、この剣はお前の身体が使っていた愛剣、これの放つ力にお前が気付かない筈がない。
左手に掲げた剣の重みが黄金はその全身で感じ取る、この剣の歴史はそのままラダーンが生きた歴史に直結する、この剣に込められた信念、生き様、在り方、その全てが重い。
目の前に巨人が迫りその巨拳を振りかぶる、万物の形を砕くであろうその拳は剛速で放たれる、ならば此方は、神速を持って撃ち破る──‼︎
放たれた攻撃は
元より理性も技術も何もかもを無くした怪物相手にはこの技で事足りてしまった、神速の八連撃を喰らった腐敗の王は跡形もなく崩れ去り消滅する、創造による再生すら許さない超攻撃に屈した怪物は首を垂れるより先に全身を消滅させられ、今やその存在を示すの物は何一つない。
終わった、地獄の様な戦いが、極めて短くとも被害は甚大、それでも確かに地獄の様な戦いは終わったのだ。
「叶うなら、アンタにこの技を見せたかった、将軍」
◆
戦の処理もそこそこになんとか蟲達の殲滅を終えたジェーレン達と黄金の褪せ人はレナラを交えて話をしていた。
「褪せ人殿、将軍の無念を晴らしてくれて心から感謝致す、しかし将軍への手向けとなる戦祭りがこの様な結末になるとは…」
場内に流れる空気は重い、それはそうだろう、地上最大の英雄たる将軍ラダーンへの弔いとする祭りがあの様な結末になるとは誰も予想だにしなかったのだ、弔おうにも遺体も無ければ彼が居た痕跡全てが腐敗に落ちてしまった。
「ラダーンという偉大な人間の遺体を弔い安置させる事が叶わなかったのは確かに心残りではある、だがそれでも彼の英雄の遺品が何一つ残らなかった訳じゃない」
そう言うと黄金の褪せ人は腐敗の王を葬った際に使用したラダーンの大剣の一振りを掲げる、腐敗に満ちた肉体を切り刻もうと、神速にて振るわれようともその剣に一切の摩耗無し、最後までラダーンの愛剣はその威容を保ち続けたのだ。
「あの時は咄嗟に拾って使わせてもらったが、元来この剣はラダーンの物だ、今やこの剣がラダーンの現存する遺物である以上、元鞘に収めるのが筋って物だろう、こいつは剣の在り方としては既に終えてる、墓標として使ってやれ」
「しかし…宜しいのか?他でもない貴方が使うのであれば将軍も認めると思われるが…」
「一度使っただけで分かる、その剣は俺には合わんし、何よりも…俺が背負うにはその剣は…少しばかり重過ぎる、武器の性能を十全発揮できん未熟者が扱って良い代物じゃない、人間にはそいつに見合った武器がある様に、武器にも武器に見合った人間が存在する、俺じゃ釣り合わんよ」
「…ッかたじけない‼︎この御恩、生涯忘れる事無いと誓う‼︎」
そうしてラダーンの大剣はその役目を終え、彼自身が生きた証として丁重に扱われた。
「それでレナラ…アンタは何だ、ラダーンの弔いだけが目的じゃないんだろう」
「…ここで話すには少々人目につき過ぎます、一旦学院に飛びますが、他に同行者は?」
「取り敢えずメリナと…ミリセントはどうすんだ、旅に出るらしいが」
「私は…自分の足でこの世界を見て回るとするよ、レダといったか…彼女も同行してくれる様なんだ、最終的な目的地は同じみたいでね」
「だそうだ、俺とメリナだけで良い…その転送魔術俺にも使えたりするのか?」
「お教えしましょうか?簡単な術式ですし」*1
そうして彼等はケイリッドを後にした。
この決着がやりたいが為に前回態々黄金野郎の左腕を残してラダーンの大剣を拾わせた、EMIYA垂れ流しながら書いてた。
・黄金野郎
使ったのは言うまでもなく是、射殺す百頭の方、後一手足りない。
因みに未完成なのもあってラダーンには初見で見切られ一発一発にカウンターを決められる、因みに原典そのまんまです。
・レナラ
実はただ魔術をぶつけるだけじゃなくて竜塚の飛竜を腐敗の王に誘導させて襲わせるというかなり巧い戦い方してた。
本人的には黄金とラダーンの戦いの延長戦なので援護に徹してたが本人がその気なら黄金と戦った時よりエグい戦法や魔術を多数使って瞬殺してる、怒れる母は怖えんだ。
・腐敗の王
唯々相手が悪かった。
基礎スペックとして常に腐敗の煙が吹き出しているので腐敗蓄積が溜まっていきリジェネの速度も半端じゃ無い、最強では無いが最恐。
因みに前回レダが目的地は聖樹と言ってたが実はそうではなく腐敗の王の目的地は黄金樹、つまりマリカなので、腐敗の王がマリカに接触=腐敗の律が成立して作中で説明した世界が実現していた。
まぁそれは机上の空論で実際には黄金野郎の所為で鍛えまくった祝福王が控えてるし仮に倒せたとしても拒絶されてるので入れない、よしんば入れたとしても中にいる奴等に捻られて終わりという最初から詰みの状態だった。
まぁ蟲の知能の限界点やね。