人違い(される側)が行く黄金樹への道   作:Another2

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前回からちょっとだけ時間軸が飛ぶよ。

後今回の話は特に地雷な人多いと思うのでご了承ください。


【暗月の追憶】

──私は、お前達が嫌いだ。

 

 此方を侵攻して勝利を収めながら尚も滅ぼさず、挙句に自身達に与し婚姻を結ばせる等、屈辱の極みであろう。

 伝え聞いた、先の二度の戦争の事柄を聞き及べば否が応でも黄金の勢力に対して嫌悪感が勝る、いや、嫌悪感で済むだけマシな方だろう、寧ろ憎悪を抱かなかっただけ誉められる行いだ。

 そう、だからこそそんな私の事など知らんとばかりに距離を詰めてくるあの黄金が、私は何処までも嫌いだった。

 

 最初は無視していた、興味すら無かった、両者の親交と称してそれなりに顔見せがあった、元々武人気質であったラダーンなんかはすぐに彼奴に懐いた、手合わせの数は一度や二度では済まない。

 第一子であり新たなる魔術を復興してみせたライカードはその通り名を表す様に未来を見据え様々な法案を組み立てていた、兄は彼奴こそが我等の王足り得ると言って憚らなかった。

 

 私は、黄金が憎い、私から母を奪い、兄達すらも奪った、それでいて尚浅ましく私に接触をしてくるあの男に対して何度殺してやろうかと思ったか。

 私はあの男が詰め寄ってくる度に何度も死んでしまえと、そう思っていた、願わくばその命を奪るのは私でありたいとすら思った。

 

 一度奴に何故私に付き纏うのか聞いた、そうしたら奴は私だけが自分を見る目が違ったからだそうだ。

 言うまでもないが奴はゴッドフレイとその伴侶マリカの実子である、その身に秘めた力は疑いようもない、後これは非常に…本当に癪だったのだが、まぁ奴は外面も良い、言い寄って来る女の数は指の数より多いだろう、故にそういうのに辟易としていた所に私に白羽の矢が立った訳だが私としては良い迷惑である。

 女に不足してる訳でもあるまいに何故態々私の所に出向いたのか、その理由を奴は終ぞ話す事はなかったが、私としても日々男共が言い寄って来る出来事に覚えがあったので体良くそいつを風除けにする事にした。

 

 そんな奇妙な付き合いを始めて月を幾つか跨いだ頃、周囲からは我々は婚姻を結んだ等と噂され両者に言い寄って来る人間はパタリと止まった、流石に数ヶ月も経てばこいつの人となりが分かる、コイツは思ったよりも頭の回転が早いようで私も知らない事が多くあり知見を広めるという意味でも話していて楽しかった。

 そんな時だった、突然父のラダゴンが母のレナラを捨てた、なにやらその際にやりとりがあったそうだがその全てがどうでもいい、要は父が母よりもよりにもよってマリカなんぞを優先したということだ。

 理解が及ばなかった、父は母を愛していた、そこに相違は無い、我等子供達にも満遍なく愛情を施した、言葉にする事は無かったが自慢の母親に相応しい男であったと、私はそう信じていたのに。

 結果として母は廃人と化した、結局何もかもが偽りだったのだと理解させられた。

 

──何が黄金の英雄、目先の我欲に容易く靡くクズめ。

 

 マリカがラダゴンを娶り母から奪い取ったというのなら私もお前から愛息子を簒奪してみせよう、お前が犯した罪の重さを息子の惨殺を持って知るが良い。

 そうして私はゴッドウィンの暗殺を企てた、彼奴は古竜戦役の勝利の立役者だ、強いのは分かりきっている故に何も真正面から戦ってやる必要はない、策を講じなくてはならなかった。

 

 私がゴッドウィンの暗殺を企ててから幾年か過ぎた、世間ではマリカとラダゴンの間に子が生まれ双子であったそうだがその両者共に呪いを持って生まれたそうだ、片や永遠に幼き無垢金、片や腐れ病によって肉体が爛れた女、双子の詳細を知った時は心底愉快だった、エルデの王という目先の欲求に捉われマリカと肌を重ねて尚産まれた子が呪い持ちとは、やはり因果とは回る物なのだと理解した。

 そんな時に彼奴が私の元に訪ねてきた、最早その姿すら見たく無かったので即座に目の前から消える様促すと奴の黄金の瞳は私を捉えて離さない、奴のこの瞳だけは苦手だった、全てを見透かされている気がしたのだ、そして奴の口から核心をついた言葉が出た。

 

 

──私の暗殺計画の進みは順調かい?

 

 

 時が止まった感覚に陥った、言うまでもないが私はこの計画を一切口に出した覚えはない、しかし私は自身が追い詰められているということを否が応でも理解させられた。

 

 

──何の事だ、何故私がお前を殺さねばならん。

 

 

──動機はあるだろう、母マリカが君の母君からラダゴンを寝取ったのだから。

 

 

 もう一つコイツについて嫌いな所がある、コイツは割と配慮って物が無い、人の傷心に配慮もなく詰め込んでくる等人間性を疑う程だ。

 

 

──話にならんな、それだけで私が凶刃を向ける理由になるのか?

 

 

──うん、だって君女王レナラの事大好きだろ?そんな君がレナラを廃人にした要因を恨まない筈がない、君達の一族は情に深いからね。

 

 

 何処かあっけからんと言う奴を見て流石に怒りが込み上がってくる、同時に私はコイツが本当に人間かどうか怪しく思えた、奴が言ったことは概ね事実である、だからこそその事実を淡々と挙げていくコイツに何処か薄寒い物が込み上げて来るのを感じた。

 

 

──まぁ君になら殺されても良いけどもう少し待ってくれないかな、私にはまだやるべき事があってね。

 

 

 今度こそ言葉を失った、この男は今自分の生を捨てる様な発言をしたのだ、これがこの地に於いて誰もが憧れる英雄の姿か?

 人間…否、生物であれば例外無く生に執着する物だろう、戦士の様に偉大な死を迎えたいという訳でもないのは多少の付き合いで理解している。

 死を受け入れているとも違う、コイツのそれは少なくとも断じて違う、コイツは自身の死を前提として何かを見据えている、黄金律が敷かれているこの世界でだ。

 

 

──それを終えたら私に殺されてもよいと?お前気狂いか?脳味噌は詰まっているか?

 

 

──残念だけど至って正常だよ、これは私の確固たる意志さ、誰の介入も無い、ああでも、強いて言うなら…そうだね、自分が愛した女に殺されるなら本望じゃないかい?

 

 

 確信した、コイツには脳が詰まっていない。

 愛しただと?コイツが、私を?冗談も休み休み言え、前々から情緒の無い人間だと思ってはいたがよもやここまでとは。

 

 

──なんにせよ私を殺すなら色々と必要な物があるけどその中でもマリケスが持つ死のルーンは必須だね、それを使い殺す事で還樹もされず本当の意味で生命を終わらせる事ができる。

 

 

 マリケス、知らん名をいきなり出すのも大概だが死のルーンというのも初耳だった、コイツは何故そんな物を知っている、そして何故自身を殺す方法を私に伝授している、コイツは…本当に私達と同じ生き物なのか?

 コイツが私の知らない情報を淡々と語るその様はまるで知らないから教えているだけと取れる。

 

 

──何故、それを私に告げる。

 

 

 今にして思えばなんとも情けない、震える声を上げた物だと呆れてしまう物だ。

 

 

──ラニ、私達は運命の奴隷だ、定められた運命からは逃れようが無い、外れようともがけばもがくほど手痛いしっぺ返しが飛んでくる。

 

 

──運命だと?貴様我々星見にその言葉を容易く吐くな、分かっているのか?星見たる魔術師が運命という言葉をどれほど重く見ているか。

 

 

──全て理解している、その上での発言だよ、この世界の人間は全て運命の鎖に囚われた奴隷でしか無い、この世界の女王となった私の母ですらそうだった。

 

 

──呆れた物だな、では何か?貴様には運命が見えており遥か先の未来すら見据えていると?冗談を言うのも大概にしろよ貴様。

 

 

──()()()()()、そう言ったら君は信じたか?

 

 

──ありえん、と一笑に伏せるだろうな、未来が見えているならば我々のこの関わりも運命の内か?

 

 

──そうだ、母が率いる黄金の勢力と女王レナラが率いるカーリア王家が交わりその間に子が生まれるのは運命で定められていた、そして今回の出来事も、あの双子が生まれる事も、全てそうだ。

 

 

──止められはしなかったのか?

 

 

──さっきも言ったけど止めようとしても手痛いしっぺ返しが待っているだけだ、これは経験済みでね、ラダゴンとマリカが結ばれることを停止させたなら最悪カーリアと黄金の両方が滅亡もあり得ただろう、それだけは避けねばならない、そうなればそれこそ神の思うがままこの世界は蹂躙されるだけだ。

 

 

──“神”…その口ぶりから察するにマリカの事ではないのだろう、何者だ、そいつは。

 

 

──何者でもない、強いて言うなら指の大元…或いは我等に隷属を強制させる者…と言った所かな。

 

 

 途方も無い話だ、運命、未来を見据えた黄金の男、神、その全てが荒唐無稽な作り話ではないかと錯覚してしまう、だがゴッドウィンは嘘を吐かない、というよりは嘘を吐けない、本人曰く思った事がそのまま口に出てしまうそうで、何か隠し事をする場合は別の事を考えているんだそうだ。

 

 

──…ゴッドウィン、お前は我々は運命の奴隷だと言ったな、それはマリカですらそうであると。

 

 

──そうだね。

 

 

──今一度問う、何故それを私に話した?

 

 

──神はマリカの後継たる神人を探している、神人とは言うなれば新たな律を敷く事ができる特別な人間の事で、ある意味では神の代行者の側面が近い、しかしその実神の直接の奴隷に等しい、事実マリカの行動は全て神の指示によるものだ、まぁ…伴侶だけは自分の意思で選んだみたいだけどね。

 話を戻すと、その神人に君と末の子のミケラとマレニアが選ばれている、つまり君達は第二のマリカの役目を押し付けられてしまう事になる。

 

 

──何故私に?そのミケラとマレニアでは駄目なのか?

 

 

──確かにミケラとマレニアは律を構築する力を持っている、だけど二人の世界は二人だけで完結している、外まで及ぶ事は稀だろう、現に二人には影従たる獣は贈られていない、だが…

 

 

──私は違う…か、影従たる獣…つまりはブライヴがそうであると?

 

 

──十中八九そうだろうね、神への叛逆を企てよう物なら即座に敵対する様彼は設計されている、だから実際に行動を起こすのは少し待つ事を推奨する。

 

 

──話が見えんな、貴様はそこまで話した上で私に何をさせたい、ただ伝えに来た訳ではないのだろう

 

 

──これは確認だよ、神人となり神の代行者になる気は?

 

 

──今の話を聞かされてあると思うか?

 

 

──だろうね、神の隷属から放たれる為にはまず神としての肉体を捨てねばならない。

 

 

──…一応聞いてやるが方法は?

 

 

──死ぬ事。

 

 

──お前な…いきなり死ねと言われてはいそうですかと頷く馬鹿が何処にいる、それでは本末転倒ではないか。

 

 

──ただの死ではない、君の肉体だけを殺すんだ、魂の器だけを、そうして残った魂は別の器に入れる、そうすれば君は晴れて神の支配から逃れられる。

 

 

──リスクは?

 

 

──もう半分の死を私が肩代わりする、つまりは君が受ける筈だった魂の死を私が引き受ける、そうすれば死を二分割にして受けられる。

 

 

──は?

 

 

──残された私の肉体に関しては気にする必要はない、黄金樹の根元に埋葬された後ミケラに差し出す事になっている、ミケラの思惑に思う所がない訳ではないがあの子なりに考えがあるんだろう。

 

 

──待て。

 

 

──マリケスから死のルーンを盗む必要があるがそこは母に頼むとしよう、黄金律が敷かれてから最初の死者が出現すれば完全たる黄金律に瑕疵が出来るだろう。

 

 

──止めろ‼︎

 

 

──…どうかしたかい?声を荒げるなんて君らしくない、何か不明な所でも?

 

 

──お前は…自分の命をなんだと思っている⁉︎何故お前だけが背負いこむ必要がある⁉︎今のお前の在り方からして他人に散々利用されて来たのだろう、何故死んだ後にまでお前が利用されねばならんのだ‼︎

 

 

──…?この在り方を望んだのは君達だろう?何を今更。

 

 

──…は?

 

 

──エルデの王ゴッドフレイ、その伴侶のマリカ、その間に生まれた黄金の王子ゴッドウィン、今日迄にその身に課せられた希望や理想、願望の総数は計り知れない、理想の英雄たれ、人類に希望を与える英雄たれ、人々の願いを叶える英雄たれ、そうした物が生まれ落ちた途端に注がれていた、そして今は君が願った死を私なりに、かつ世界の為に有効的に活用される様に模索した、何か問題が?

 

 

 問題しかなかろう、それは…人の生き方ではない、奴隷の様な生き方ではないか…しかしそれを望んだのは他でもない我等だ、ゴッドウィンには、大凡人間性と呼べる物が存在していない、行動倫理は常に誰かの為であった。

 私にはそれがどうしても我慢ならなかった。

 

 

──ああ、勿論幾つか保険は残しておくとも、夜の都の技術に模倣と複製があるんだがそれを使って──。

 

 

 何か言葉を紡ごうとしていたが関係はない、奴の頬を私の平手が炸裂させるまで時間は掛からなかった、コイツは物を語っている時は存外隙だらけなのだ、まぁ私が警戒に値しないと言われたらそこまでな訳だが。

 

 

──もう、お前は黙れ、お前が自分の事をどう思っているか、お前から見て世界がどう見えているかよく分かった、ゴッドウィン、貴様は今から自分の為に生きろ、いいや私が生かす、貴様に拒否権はない、お前に人間のなんたるかを叩き込む、それでも尚人生の果てに死を選ぶというのなら…その時は私が殺してやる、だから私以外に絶対に殺されるんじゃない、死んでも生きろ。

 

 

──それ、は…また難しい注文だ…だけどまぁ、精一杯励むとするよ。

 

 

 奴は面食らった顔をしていたが知った事ではない、寧ろ初めて奴のあんな顔を見て清々した気分だ。

 

 

──それはそれとしてラニ、今の言葉って実質愛の告白じゃないかい?倅の名前とか考えた方が良いのかな?

 

 

 やっぱりコイツ嫌いだ。

 

 …随分と懐かしい夢を見た物だ、ブライヴが任務から帰って来た後私はまだ自身の運命が動いていない事を悟った、それは即ちラダーンはまだ死んでいないという事、ラダーンが死ななければノクローンへの道は開かない筈だがどうやって至ったのかと聞くと黄金の彼奴の跳躍によって無理やり入り込んだのだそうだ、意味がわからん。

 しかしそれによって運命を動かさずとも秘宝を手にしたのは事実、つまりまだ大いなる意志がこの事に気付くのには少しばかりの猶予があるという事、ならばとブライヴに掛けられた使命を取り外す事も出来よう、セルブスの奴は何やら慌てふためいていたがどうやら奴は自身の企みがバレていないと思っていたらしい、奴の知識は有用だったが目的の物が手に入った以上もう用はない、せめてもの慈悲として苦しまずに逝かせてやった。

 後にブライヴに奴は何処に向かったかと聞けば奴はそのままラダーンと戦うらしい、成程、ここまで響く地鳴りは奴等の物だったかと、遅れながらも理解した。

 それにしてもなんと言うかまぁ、ブライヴの話から察するに奴は相当に無茶苦茶な行動をするらしい、とてもじゃないが理解が及ばん、そういう所はアイツに似ている、血筋は争えんな、尤も自身の興味に惹かれる事にしかやりたがらない辺りはアイツとは似ても似つかんが…奴の方がよっぽど人間的だ。

 側に居たあの霊体の娘…今は受肉したのだったか、恐らくは秘匿されたデミゴッドの片割れであろうが…なんとも運命を思わせるじゃないか、あの二人の旅路に興味は尽きないが…それだけに我々が背負うべき過去の荷物に囚われてはならんだろう、自分が蒔いた種は自分で刈り取らねばならない。

 そう…理解していた筈なのにな。

 

 

「よぉ、久しぶり」

 

 

 背後から既に聞き及んだ声が響き振り返るとそこには奴の置き土産たる黄金の奴の姿があった。

 

 

「ああ、やはり追い付かれたか」




次回は上の話を要約した物を聞かされた直後の黄金野郎達の話になります。

・黄金野郎(右腕負傷中)
 今回まさかの一言だけの登場、お前主人公やぞ。
 多くは語らない、本文の内容が全て。

・ゴッドウィン
 良くも悪くも自我が希薄で願望器染みた人生を送ってた人、両親が偉大過ぎるのもあってその第一子たる彼には相当な物が降りかかった、当然そんな物を幼少の頃から浴び続けてたらまともな人間に育つ筈も無く…
 “完成”する前にラニが人間側に引き込んだ。
 実は運命を通して未来が見えてしまう人。

・ラニ
 最初は嫌悪感、次第に絆されたが急降下、最後の暴露で簡単に死なせない様にした、死ぬなら最後まで足掻いて苦しんで死ね。
 因みに二人の関係のモチーフは割とジークフリートとクリームヒルトを参考にしてる、シグルドとブリュンヒルデでも良かったんですけどね。
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