ラニと対面していた黄金の褪せ人は思わぬ強敵の出現に十全以上に満たされていた。
「随分と楽しそうじゃないか」
「ああ、楽しいね、強い奴と戦うってのはこれ以上無い興事だろう」
その返答に対してラニはつい笑みが溢れてしまう。
「──以前は、
それは二度目の邂逅時、魔術師塔付近にて黄金の褪せ人自身が口にした事だ、その言及に黄金の褪せ人は耳が痛いと言わんばかりに頭を掻き毟る。
「ふふ…俺も学んだ、俺達は人であり…生物だ──故に、その動きには
「それからもう一つ…ノクローンにて俺の写し身に煮え湯を飲まされてる、既存の生物骨格に囚われない動きや戦闘をさせるならば人間より良い」
「好きでこの身体になった訳では無い──無いが…悪く無い気分だ、無駄話が過ぎたな、続けよう」
「──非常に申し訳ないが、戦闘はもう直に終わるだろう、アンタの弱点によってな」
唐突な終了宣言にその場にいる者の全ての時が止まる、黄金の褪せ人はこの短いやり取りでラニの弱点を看破したらしい。
「──ほう?是非ともお聞かせ願いたい物だ、私に弱点があると?」
「まず最初に言っておくがアンタのその躯体…正直に言って、無敵だ、弱点らしい弱点が見当たらない、先程挙げた写し身の雫…それの唯一の弱点であった
まぁそこが突き目だったんだが、と黄金の褪せ人はその言葉を胸中に仕舞い込む。
「単純な性能ならまず間違いなく最強だった、だが単純な強みだったからこそ…対策も容易い、確かに意思能力の皆無による動きの読めなさはあったが、それもそこまで…つまりこの点に於いてアンタは写し身の雫を上回っている、しかし…」
「次はその意思能力が問題になっちまったんだな」
「…何?」
ラニが疑問を返した瞬間に黄金の褪せ人の姿が消える、なんて事はないただ素早く移動しただけに過ぎない、あまりの素早さに残像が残ったのだ、ラニはその速さに視界を追い付ける事が出来なかった。
「アンタの弱点は…文字通りアンタ自身って事だ」
声の出所は背後、即座に剣を背後に向けて切り付けるがその位置に黄金の姿は無い。
──馬鹿な…ッ‼︎コイツ…ッ‼︎
「アンタのその躯体は強い、完全無欠と言っても過言じゃ無い、だが、その完全さをアンタ自身が崩してしまった、その躯体に乗り込み、操作するのは他でも無いアンタだからな」
その言葉に反応する様に黄金の褪せ人の元に様々な魔力攻撃が迫るも、それを多重に展開した力場によって全てあらぬ方向に散らされる。
──やっぱ使い勝手良いなこれ。
「んでまあ、結論から述べるならアンタは戦闘経験が少ない、もっと細かくいうなら実戦の経験が乏しい、だろ?」
「何故…そう思った?」
「動きが単調なんだよ、剣の振りも身の置き方も、魔術を行使する際の魔力の動かし方は流石と言わざるを得ないが、それだけで勝てる程戦闘は甘く無い、現に咄嗟の対応にズレが生じている、これはラダーンやレナラ達には見受けられなかった物だ」
「…それで?確かに私には
「ああ、俺が五体満足ならとっくに俺が勝って終わってる、だからもう直に終わるって言ったんだ」
言い終わると同時に黄金の褪せ人がラニの眼前に移動し即座に攻撃に入る、先程までと違うのはその攻撃手段が
──治っていたのか⁉︎だが動きが妙だ、力も緩い、これは…
「魔力による肉体操作か‼︎」
「流石に観察眼は高えな、レナラの娘なだけはある」
「…随分と器用な真似をする物だ、私や母の様に魔力でぶっしつを動かすのとは訳が違う、生身の肉体に魔力を流しあまつさえ自由に動かす、並大抵の事ではない」
──不味いな、奴の右腕が復活した、無論十割の力で動かせる筈もないが奴に手数が揃ってしまった…‼︎
魔力は密度と出力を高めれば物理的に物を動かせる、黄金の褪せ人が今右腕を動かせている様に、しかし自身の肉体とはいえ生身の肉体にには無意識下であっても反発が起こり動かしにくくなったりする、それは動きの補助をさせるとはいえ基本的には鎧を着込んでいる様な物だからだ。
──魔力による肉体の動作補助は相当の鍛錬が必要だ、それを魔術を習って極僅かな者が行使できる様になったというのか‼︎
加えてそれがあまり実戦で扱われなかったのは魔力を自身の肉体に作用するほどの出力を維持し続けなければならず、大抵の場合は剣や盾に流し瞬間的な攻撃力や防御力を高めたり自身の手から離しての攻撃に用いたりするのが殆どである。
つまり、今黄金の褪せ人が行っている事は稀有な事態であり通常本来ならば誰も思い至らない物、或いは思い至っても実践しようとはしない行いであった。
「まだ操作が覚束ないんで本来の様に動かす事は叶わないが…それでも自分の意思で身体が動かせるのは良い…」
──来る‼︎
ラニは全神経を黄金の褪せ人の動きを見切ることに尽くす、しかしそれを嘲笑う様に黄金の褪せ人の姿はラニの視界外にあった。
「アンタもそう思うだろ?」
声の発生源は背後、ラニは即座に大剣を背後に振るうがそれより先に黄金の褪せ人が小突く方が早かった。
──やはりそうだ‼︎コイツ…急激に速度が上がっている‼︎既に肉眼では捉えきれない程に早い‼︎
ラニが即座に対処できた理由はただ一つ、黄金の褪せ人の右腕から垂れ流されていた魔力の筆跡を追っただけに過ぎない、つまりラニは既に黄金の褪せ人の速度に後手に回りつつあるのだ。
故にラニが取った戦法は一つ。
──奴の身を考えてこれだけは使いたくなかったが…‼︎仕方あるまい‼︎
幼少の頃ラニは母レナラの手に引かれ美しき月と出会った、そして魔術を修めた際に自らの星を見出したのだ、ラニが見出した星は母と叔母と同じく月、然し母達の様に暖かな月光の月ではなく冷たい月である。
ラニはその見出した月を
──とんでもねえ魔力出力‼︎加えてあの冷気、魔術を中心に急速に水や地面が凍り始めてる‼︎ここら一帯を氷河期にするつもりかよ‼︎
形成された双月を地面に打ちつけ破裂させる、その衝撃波の範囲と威力こそがこの双月魔術の真価である。
更にラニはこの月に自身の冷気の魔力を加えている。
──地面を揺らし打ち上げる程の衝撃に加え氷点下並の冷気が押し寄せてくる‼︎なんて魔術を隠し持ってやがるんだコイツは‼︎
空気中の水分が二つのラニの暗月の衝突により冷え切っていく、その際に生じた氷霧は一度吸い込んでしまえば肺を形成する肺胞をたちまち壊死させるだろう、それ故にラニは生前の肉体でこの魔術を使用した事はない。
月光の光と氷霧によって両者の視界が皆無になる*2、然し依然ラニには相手の位置が透けて見える、黄金の褪せ人が右腕を動かす際に行使している魔力、その筆跡を見れば位置を見破るのは容易い、故にその位置に追撃のダメ押しをすれば決着となる──そうラニは認識した、
ラニの指先から魔術が放たれ今も尚魔力の残滓が残る位置に向かい──その位置を通り過ぎ魔術は空を切った。
──居ない⁉︎馬鹿な‼︎奴の魔力反応は確かに──‼︎
──レナラとレラーナを退けた事からアンタが俺を容易に近づけさせる筈もない、だから散々俺の身体能力を見せ思考能力を削った、漸く視界が潰れる程の大技使ったな…漸く魔術頼りの守りに回ったな‼︎
ラニの大剣を弾きその手から溢し
迎撃の魔術行使を許す暇も無く地に伏せさせ
斧の切先を地面に打ちつけた。
「…生殺与奪の権を先に握った…俺の勝ちで、文句無いな?」
「──あぁ、私の完敗だ」
倒れ込んだラニの横に黄金の褪せ人は腰を下ろし一息入れた、どうやら相当な消耗はしていた様だ。
「──最後のアレはなんだ」
「俺の右腕の位置に力場を置いた、あれ暫く滞留するからな」
「そんな子供騙しに…‼︎はぁ…結局私もまだまだという事か、お前の言うとおり、実戦経験の有無が如実にでた一戦だったな」
「それはどうだろうな、アンタ全力ではあっても殺す気はなかっただろ、もっとエグい
「それはお前の頑強さを信じた、お前は…あの男の息子だからな」
「答えになってないな、聞き方を変えようか?何故殺す気で戦わなかった?」
その問いを投げるとラニは身体を起き上がらせ黄金の褪せ人の方へ向けた。
「俺がアンタの子だからだとか、ゴッドウィンの子だからだとか、ましてや俺の身体が頑丈だから殺せなかったって訳でも無いんだろう」
「人が悪いな貴様も…一体誰に似たのやら…それはな」
「それは?」
「答えてやらん、自分で考えろ」
「おい」
「小僧っ子のお前にはこの程度の答えで十分と言う事だ、もう少し人心を知るのだな」
──あの男の姿と被って殺せなかった、二度もこの手で死なせたくなかった等と言えるものか。
「…
「あ?」
「お前の名だよ、グラム…奴がもし私達の間に子が男ならそう名付けると言っていた、それだけしか聞かされていない、名前の由来はアイツの頭の中を調べる事だな」
「グラムねぇ…いまいちピンとこないが、まぁそれが俺の名前だってんなら有り難く頂いとく」
という訳でvsラニはこれで終わりです。
・黄金野郎改めグラム
自分の名前を漸く知った、でもここでの名前は黄金野郎で固定、残当。
お互い殺す気ならばもうちょっと違う戦いになった、それは両方理解してる。
名前の由来は各デミゴッドのスペルのG、R、Mから取って北欧の魔剣のグラムから。
・ラニ
殺す気はなかったがだいぶ本気で戦った、でも戦闘経験がね…戦乱の世を駆け抜けてないから…それを補って余りある位の性能はある。
今回は出さなかったけど割と鬼滅の童磨みたいな事は出来る、チビ人形とか。
・ラニの双月
レラーナの双月のラニ版、一撃目の落下で衝撃と氷霧が広がり二発目で確定凍結なのでゲームで出たならクソ技の類になる、月の魔術と氷の魔術なので王笏とラニ帽子の補正が乗る、やべえ。