霧が深い、一寸先も見えやせぬ…全く、本当に面倒な事をしてくれた物だ、
湖で飛竜と
問題はその後だ、奥に進み箱があるので近づいてみれば背後上部から声がするので振り向いて見れば盾と槍を構えた禿頭が己の事を盗人だの卑しいだの散々な言いよう、まだ何も盗んでおらんのだがな、道中に居た賊の命は頂いたが。
言われたい放題なのも非常に腹立たしいので降りてきた所に首根っこを掴み取り壁面に投げつけてみたら即座に命乞いをしてきおった、なんだ此奴は…聞けば此奴──名をパッチというらしいのだが己と同じく褪せ人であるらしい。
どうやらいつもの卑しい賊の類かと思い襲いかかったらしいがどうやら向こうの思い違いらしい、非礼を詫びたいと言いそこにある箱の中身はくれるのだそうだ。
…ここまで見え透いた罠だと逆に感心したくなる物だ、まぁ良い今回
その考えが甘かったのだろうなぁ…左右前後何処を見ても木々と霧だ、方向感覚など当てになるはずもない、憂さ晴らしに熊を屠ったが気分が晴れる訳でも、ましてやこの視界の悪い霧が晴れる訳でも無い。
堪らずメリナを呼び出せばここは霧の森と呼ばれる所らしい、読んで字の如くだな、正しく霧の森と言った所か。
具体的な位置まではわからぬようだった、地図を見ればある程度の場所は割れるらしいのだがこうも霧が深くてはわからないとの事、鳥のように高所から見下ろせば分かるかもと言うので早速実行する事にした。
メリナを担ぎ上げ脚力に力を集中、後に解放し跳躍すればほら、この森や近くの土地の全貌が分かろうと言う物。
少々メリナの悲鳴が喧しい所だが、位置の特定を述べれば激しく地図に現在地を記してくれた…が、どうにも着地地点がズレてしまい遺跡岩の上で助けを求める御仁の近くに着地してしまった。*1
すまんて。
そしてこの御仁の名はケネスハイトと言うらしくここら辺りの領主なのだとか、己の姿を見て歓喜に満ちているところを見ると此奴もゴッドウィンなる人物と勘違いしているのかと思ったがどうやらそれでも構わんらしい。
話を纏めると城の騎士長が狂気に囚われたので介錯して欲しいとのことだ、そして無事に自分が城に戻れたのなら己に仕えさせてくれとの事、初対面でこういうことを言うのはあまりにもあまりだが、此奴…頭の方は大丈夫か?
ならば共に来れば率が良いと言う事で、ちょっとした組み合わせになったがまぁ問題はあるまい、曰く此奴の城は霧の森を南下して抜けた所にあららしい、善は急げというからな。
道中、森の中に遺跡群…と言うか廃墟に近づけば犬の遠吠えが一つ、声の方向を見れば狼顔の、というよりは狼がそのまま直立歩行した姿の御仁…いや御犬?が廃墟の上に立っていた。
ケネス公に訊ねれば彼等は獣人とされる種族で大まかな分類で言えば亜人に分類されるのだとか。
亜人と純人の格差差別は根強い様だがケネス公は彼等とて話せばわかる者も居る、ちゃんと歩み寄れば分かり合えるはずと言っていた、立派だよ、力こそ全てのこの世界で大した傑物だ。
犬の御仁に声をかけると名をブライヴと言いどうやらダリウィルという名の者を追っているらしい、どうやらその者は裏切り者らしく相応の報いを与えるとの事。
曰くこの地の何処かに逃げ延びていると言う情報はあるのでならば都合が良いと旅の動向を伺いでた、これから南下していき森を抜けその先の砦を奪還したならばそのダリウィルとやらの誅伐、手を貸しても良いと言う条件付きではあったが、しかし獣の膂力で人の如き技を扱うともなれば、何とも心踊るではないか。
森を抜け城…というよりは砦だが目的地に辿り着けばなんとも凄惨極まる光景か、敵味方問わず大乱闘、まさに無秩序極まる元来の砦らしからぬ光景がそこにはあった、これではもう砦としては機能し得まい…致し方なし、殲滅の時間だ、ケネス公もこの有様ではそれも致し方ないと承諾したしな。
その際にブライヴとどちらが多く敵を屠れるか競い合ったのだが此奴、巨大な大剣と甲冑に身を包んだ割には存外に身柄でヒョイヒョイ動きおる、その上で地形の利など知らぬとばかりに跳躍と爪を駆使して壁に手を突き立て即興の掴み所を作るや否や砦の中に侵入しおった。
ぬう、その程度ならやれん事はないのだが、人様の拠点を躊躇なしに行くとは…いやまぁ持ち主からの許可は降りてはいるのだが、中に居た敵影と狂ったとされる兵士長はいとも容易く屠れてしまった、奴との数はやはり初動に出遅れたのが響いたのか一人分だけ向こうが多くなってしまった、なんたる不覚か。
そうそう、罪人と言う事で思い出したのだがケネス公にこの辺りに罪人を捕える牢の様な物は無いかと尋ねたところあの崖の対岸、啜り泣きの半島に向かう道から少し逸れて登ればそこには封牢があるとかなんとか、封牢といえばギデオンの奴めが言っていたな、それは何かしらの罪を犯した物が封印されるのだと、ブライヴに尋ねれば可能性は高いとしそこに向かう事になった。
それ故にケネス公とはここでお別れだ、その際に我が身が王になったら必ず貴方に仕えると言われたのだが生憎我が身はその手の地位の類には興味はない故に王になる気はない、しかしこの地の人間は己に王になって欲しすぎやしないだろうか、いや原因はおよそ検討付くのだが。
ケネス公の言われた場所に出向いた、北を見ればどうやらアギールが居た湖が近いようで僅かに水気の含んだ空気が鼻をくすぐる。
して、この窪みが封牢らしいのだがどう入ったものかと思ったら真ん中の円鉢が怪しげに光っているがアレに触れたら入れるらしくブライヴはそのまま入って行った、むう、二度も出遅れてなるものかと己も後に続き中に入ったらそこは封牢を中心にあたりの地形を取り囲んだ結界のような場所に出た、どうやらここが牢の中らしい。
地面に怪しく光る場所に近づいてみれば途端に出てきたのは四足歩行の鎧を着込み蛇腹状の曲剣を担いだ御仁であった、どうやら横のブライヴが言うにはこのダリウィル、余程の忠の騎士であったらしく彼自身もその裏切りを嘆いていたらしい、こちらとしても意思の疎通を試みたいのだが彼の騎士は何も言わぬ、ならばこちらは返り忠として葬るのみ、かつては主人に仕えた誇り高き騎士だったであろうにせめて苦しまない様に介錯してやろう。
いざ戦闘の時と一歩踏み出したがそれに待ったを掛けたのがブライヴであった、どうやら此奴は彼がやるらしい、確かに裏切り者を誅すると言う大義が彼にある以上己が手を出すのは不当と言う奴だ、確かに見守らせて頂こう。
共に大きな剣を扱う様だが四足歩行を可能とし機動力があるであろうダリウィルに対しこちらは直立にて剣を構えることで己の膂力を存分に振るえるブライヴ、存外いい勝負になるやも知れん、横でメリナが手を貸さなくても良いのかと尋ねてくるが自然界の絶対のルールだ、一対一の野生の戦いに横入りは厳禁、今ここで奴に手を貸したなら双方から狙われてしまうぞ、それはそれで面白そうだがな。
とかなんとか言ってるうちに始まっちまった、勢いよく踏み込み大振りの上段を仕掛けるブライヴ、確かにアレは当たれば強大なダメージに期待できる、しかし大振りとは逆を返せば避けやすいと言うことだ、ダリウィルの事は然程知らぬがあの御仁にとって斯様な攻撃は避けるのは容易いだろう、現に奴は過敏な動きで避けてブライヴの背後に回り込んでしまった、しかしその際の動きが独特だったな。
メリナには見えていなかった様だからざっくりと説明するが奴の回避の際に見せたあの独特の動きは動きの緩急を突き詰めた動きと言える、攻撃を避けつつ反撃の一手を浴びせる実に実戦的な動きだ、余程の鍛錬を積んだのだと考察するに足る動きだろう、現に奴の動きの早熟度はかなりのもので相手からすれば突然姿を消したかの様な感覚に陥るはずだ、実際は必要最小限の動きに緩急を付けることで消えたと錯覚させているだけなのだがな、まぁブライヴもそれを知っているのか即座に後ろに剣を当てる事で背後からの攻撃を防いでいるがこりゃ身内読みだろう。
◆
「攻撃をその動きで回避してから背後からの一撃を浴びせる…お前の最も得意とする動きだったな」
「………」
「最早語る口すら無くしたか…残念だ、ダリウィル…」
再び二人が剣を構える、中段に剣を構えたブライヴは不動の構え、対するダリウィルは元から低い姿勢をさらに低くし獲物を定めた獣の様に狙い澄ます、勝負は一瞬──この一撃でケリが付くだろう。
獣の膂力をバネに変えて推進力を得たダリウィルが目にも止まらぬ速さでブライヴに突貫する、しかしブライヴは変わらず不動の構えだ。
「アイツ、真正面から受ける気か」
黄金の褪せ人の声を尻目にダリウィルの剣とブライヴの剣が交わる──まさにその瞬間だった、ブライヴの姿がダリウィルの目前から消え、本人がそう認識した時にはすでに自分の腹部からブライヴの剣が生えていた。
「ア゛ァ…“猟犬の技法”…モノにしていた、のカ…」
「…あぁ、まだまだ、お前の様には動けんがな」
「フフ…見事なりブライヴ…ラニ様と、イジ爺には…すまなかったと…伝え…」
その遺言を最後にダリウィルは息を引き取った、褪せ人達からは見えなかったがブライヴには一筋の涙が流れた…様に見えた。
「さらばだ…友よ」
「あー…その、なんだ…」
「いや、良い、要らぬ心配をかけたな褪せ人、それにこうして手出しをしてくれなかったお前の判断に感謝する、お前は存外に律儀な奴なのだな」
「気にするな、俺とて空気は読める、アンタとアイツの間に並々ならぬ関係があるぐらいすぐにわかったからな、それに準じただけだよ」
「それでも、だ…手間をかけさせたな、礼と言ってはなんだが、ここより北のレアルカリアにて少しばかり大きな鍛冶屋の爺様を見かけたら、俺の紹介だと言ってくれ、きっと良くしてくれるはずだ、ではこれにて別れるとしよう、お互いにやるべきことがある事だしな、僅かばかりの時だがお前との旅はいい物だった」
「あぁ、互いに生きてたらまた会うとしよう」
◆
斯くして己とブライヴは別れを取った、ブライヴは何やら探し物があるとし森の方へ、己はまだ見ぬ敵を求め南下していく、目指すは啜り泣きの半島だ。
道中の大橋を難なく突破して対岸にたどり着けばそこには座り込んでいる女が一人、名をイレーナと言うらしいがどうやら盲目らしい、何かあったのかと尋ねればこの先にある城が従僕達に襲われたらしい、またか。
曰く主将たる父が居残り戦っているとのことだが娘はどうも心配な様子、故に父に城を離れる様に手紙を書いたので己にそれを渡してきて欲しいとのこと。
うむ、どうやら目的地が決まったようだな、確かに承ったが、貴公は動かんのかと尋ねたのだが自分はもう動けないらしい、ならば己が担いでいけば良いとこの娘を担いで行くことにする。
娘が何やら降ろしてくれと喚いているが親と子が離れ離れになってそれを黙認するほど己は腐ってはいないつもりだ、ならばこそ親と子を会わせた上で城の問題を鎮圧する、これが最上の結末であろう、さすれば善は急げ、城へ急行しようか。
娘を担ぎ暫く走ると崩れて城壁を超えると奥に立派な城が見える、その手前にやけに大きなナニカが居るが…
「あれはガーディアンゴーレムね、弓を持ってるから射抜いてくるわよ」
それは誠か、下手に避けて動くのは不味いな、娘の負担になる。
「トレントに乗せれば良いのに…」
とやかく言っている内に奴が弓を構え、放たれる。
その威力たるや大型なのも加味しても中々の威力だ、地面に大きな窪みが出来てしまった、あの流星が如く一撃を連射されるのは面倒だな、ならばどうするか…次射が来る前に奴の機能を停止させる、これしかあるまい。
「それなら奴の胴体部分の炎が噴き出てる所が稼動核だからそれを破壊すれば止まるわ」
なんだ、それでいいのか、容易い事だ。
イレーナを遮蔽物に身を隠させてメリナに警護を頼む、奴との距離は数百メートル、接近し切るまでに一撃は撃つだろう、そうなればあの娘にどのような影響があるか分からん、故に奴との戦いは奴が次射を構えるそれより前に決着がつく。
大地を駆ける──奴と目が合う、問題はない。
──奴が矢を弓に番える、まだ問題はない。
──手に携える黄金の斧槍を逆手に構える、奴が弓を引く。
もう遅い己の勝ちだ──ありったけの力を込めて斧槍を投擲する──‼︎
奴が矢を放つ──それより先に己の槍が奴の胴体を貫いていた、大きな風穴を開けた奴は膝を屈してその体を地に沈めた。
◆
「終わったぞ」
黄金の褪せ人がそう告げる、彼の旅に同行して信じ難い時が続いている、彼と出会ったのはつい先日だと言うのに。
「そう…お疲れ様」
最早彼が一撃二撃で敵を沈めるのは見慣れてしまった、だからこそストームヴィル城の入り口で出会ったあのモーゴットには心底驚かされたのだけど、彼はこの黄金の褪せ人と何度も打ち合い攻防を繰り返した、結局あの戦いでは双方大した傷もなく、というより殆ど無傷だった気がするのだけど、それでも戦いの末に再戦の約定を結んだ訳で、この旅はあの男との再戦に集約されていると言っても過言ではないだろう。
この男もそれも心待ちにしているというのが見て分かる、彼はモーゴットとの再戦を終えたならどうするのだろうか、もしその時が来たなら、私はどうすれば良いのだろうか。
「もし…其処の御方、目には見えませんがそこに誰かいらっしゃるのですね?」
彼が無理矢理引き連れたイレーナが声を掛けてくる、そういえば霊体になっていなかったと今更ながら気付かされた。
「もし、何かお悩みならばご自身の心に従ってみるのも宜しいですよ、使命ややらねばならない事は一旦置いておき、本当にご自身が何をやりたいのか、そんな欲求に従うのも宜しいかと思われます」
「自分が…何をしたいか…」
「私も出来るならお父様と共に逃げたかった、お父様に役目など放り投げて私と共に来て欲しかった、でもそれは叶わなかった、だからこそ貴女にはご自身の御心に従って欲しいのです、役目や使命に囚われない生き方をして欲しいのです」
「…ありがとう、覚えていたらそうしてみるわ」
口ではこう言った物の本当にそれが実現できるかはわからない、何故なら今の私には以前までの記憶がないのだから…だけど、もし、本当に…様々な思惑や使命から解放されて自由に生きれるなら…そんな生き方もいいかもしれない。
「なにしてる、早く行くぞ」
「はいはい」
だけど今はこの人との旅を楽しむとしよう。
コイツと戦いが成立するやつが少なすぎる問題。
そして始まる旅同行システム、今後もこんな事起こるよ。
・黄金野郎
霧の森からダリウィルの封牢へは崖があるのだが余裕で踏破した奴、トレント使え。
ブライヴとは仲良くなったがお互いがお互いに目の前の奴がラニと面識があるとは知らない。
・メリナ
ワープさせられたら霧の森にでて現在地の把握の為に一緒に逆バンジーをさせられた可哀想なやつ、口ではキツく当たってるがなんだかんだ楽しんで旅をし始めてる人。
・パッチ
着地狩りされた、罠に嵌めた瞬間即座に別の場所に拠点を移した。
・ケネスのおっさん
助けを求めてたら近くに黄金野郎がダイナミック⭐︎着地を決めたので腰を抜かした、お前は悪くない。
そしてそいつの姿をしっかり見た後にあの黄金のデミゴッドが頭に過ったので王になってくれとせがんだ、その人別人っすよ。
・ブライヴ
ご存知ラニの犬、ダリウィル誅伐の前に荒れてるケネスの砦で黄金野郎と狩り勝負を行い勝利を収めた、決め手は初動。
ダリウィルとは正々堂々一騎討ちを行いこれを制した、彼もまた猟犬の技法を収めていたのだ。
ダリウィルと友なのはこの小説の独自設定。
・イレーナ
モーンの城奪還に強制的に同行させられた可哀想な奴、結果だけ見ると救われてる(初期位置だとそのままにすると死ぬので)
黄金野郎の自由っぷりに脳が焼かれた(狂い火ではない)