先輩と共依存しつつ時間をすり潰す話   作:あああああ

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反響があれば次話を投下します。


第1話

家に帰るとそこには一人の少女がいた。彼女は膝を抱え虚ろな目で床を見ていた。

 

ああ、また届かなかったんだろうな。そう察して、思い出したように靴を脱いで部屋に上がる。床には彼女の鞄と高級な画材が散乱しており、足の踏み場に気を使わないといけない。

 

……それにしても。慣れないな。視線の先に居るのは血の繋がりのない少女だ。優利は一人暮らしの大学一年生で、目の前の少女は違う学科の2年生。ここの家主は俺で、なのに目の前に女子がいる。それもとびきり可愛い、お伽噺に出てくるような気品溢れるお姫様だ。黒色の髪をふわりと揺らし、身体は細く、四肢の先までスラリと伸びており、不気味なほどに美しい。御伽噺の精霊のようだ。ただし、その目に生気はなく涙の跡すらある。

 

幼馴染みの好きな女であり、優利の依存相手だ。否、共依存相手である。

 

「彩花先輩、ここでは何を言ってもいいですから」

 

「………うん」

 

彩花の口から嗚咽の様な声が零れる。 優利はただ、あやすように頭を撫でる。されるがままの彩花。次第に陰鬱とした空気は緩み、いつものものへと変わっていく。少し落ち着いたのだろう。彩花は力を抜いて優利に身体を預け、とつとつと胸の内を話しだす。

 

「また失敗してしまいました」

 

「失敗?」

 

「自分の納得していない作品を出しました………怖くなったんです。全力で挑んで完全の折られてしまうのが」

 

強い後悔の滲んだ、弱々しい声だった。

 

推測はできる、プロの画家を目指す彼女は賞に応募して、結果が出ず画家の祖父から呆れられている。だから、つらい。シンプルに表層を舐めればこんな感じ。しかし、推測だ。本心はわからない。ただ、この状態の彩花をこのままにはしておけなくて。

 

そのために二人の間を隔てている制服が邪魔だとばかりに、一枚ずつ丁寧に引き剝がす。やがて優利も一糸まとわぬ姿になり、そっと彩花を押し倒す。

 

ジッと目を見つめていると、彩花は瞳を潤ませ懇願するように囁く。

 

「………ゆうりくん」

 

「はい」

 

「嫌なこと、忘れさせて」

 

理性を噛み砕いた彩花からのおねだり。優利は自分を彼女の中に刻み付けるかのように強く抱きしめ、彩花もまた縋りつくかのように抱きついてきて──そして理性を手放したかのように、淫らに乱れた。

 

優利と彩花に共通しているのは逃避していること。好きな人に振り向いてもらえない男が気をまぎらわせるため、認められない女が必要とされている実感を得るため、体を重ねごっこ遊びをしている。

 

実に不毛だ。生産性も意味もない。ただ、逃避して時間をすり潰すだけの心地よい時間。傷をなめているだけ。

 

だけど、このぬるま湯のような沼から逃げ出せない。

 

「………ねぇ」

 

「なんです?」

 

「本当に最低ですね、私達」

 

結局、夕方から深夜までダラダラと体を重ね、倦怠感から起きれなくなっている。

 

「ああ、明人にばれたら殺されそうです。好きでもないのに親友の好きな女を現実逃避に抱いてるなんてね」

 

「フフっ、そうですね!」

 

「でもこんな関係、あなたの友人には言えませんよね」

 

「ことがことだけに、バレたらどうなるか怖いですね」

 

そう言って彩花は笑いながらも小指を差し出してきたので、優利も苦笑しつつ小指を絡める。了承したと受け取った彩花は悪戯っぽい笑みを浮かべ、耳元に唇を寄せて囁く。

 

「では、当分二人だけの秘密ってことで」

 

「もう半年聞いてますよ、そのセリフ」

 

 

 

 

 

 

 

半年前のことを思い出す。大学に入る前のことだ。

 

ちょうど受験が終わった頃、俺は大学合格と同時に失恋のようなことを経験した。

 

まあ、ありていに言えば好きな人に好きな人がいたのである。まあ、誰もが似たような経験をするのかもしれないが、俺はその人に本気だった。今まで誰かを好きになったことになんてなかったのだが、今回だけは本気だ。そう思っていた。

 

相手は、2歳年上の先輩。きっかけは一目惚れだった。初めて彼女を見た時、どうしようもなく惹かれた、目を奪われた。黒字に葡萄色のリボン。スカーフがついたセーラー服。美しい黒の髪、雪の肌、牡丹の唇。

 

生まれながらに備わった全ての色彩が鮮やかで美しい。何年か交流して、外見以外も好きになった。だから、好きになってもらいたくて、色々と頑張った。イメチェンして、興味のないファッション雑誌で先輩の好きそうな服を選んだ。塾に通って先輩と同じ大学に受かって、それを報告した。かなり喜んでくれたと思う。俺も自分に自信が持てた。

 

だから思い切って告白してみようと思ったのだ。

 

告白のアポイントは取ってなかったので、先輩が通っている大学の門の前で待っていた。この大学に合格したのでキャンパスを見に来たんですとでも言い訳すればいいと思っていた。

 

そこで見た。先輩が、見たことない顔で笑いかける男の存在を。

 

衝撃だった。先輩がそういう顔をしたことにではなく、それを見てもあまり自分がショックを受けなかったことが。

 

結局、先輩のことが好きだったわけではないのではないか。そう思ってしまった。しかし、先輩に好きな人がいたことはそれはそれでショックであり、よくわからない情緒のまま真冬の橋を歩いていると、その人に出会った。

 

雨なんて降っていないのに その人の周りにだけ雨が降っている。そんな風に見えた。

 

橋の上に立って、夜の川の流れを眺めている。今にも飛び降りそうに見えた。

 

「ここから飛び降りたら、このモヤモヤした想いとか、気持ちもすっきりするんですかね」

 

気づけばそんなことを口走っていた。その人は少し驚いたようにこちらを見て、何事もなかったようにまた視線を川底に落とす。

 

自嘲気味に吐き捨てる。

 

「そうでもないですよ?どこから飛び降りたって、何もごまかせないし、救われない」

 

「………好きって何なんでしょうね。性欲とは何が違うんでしょう。実はクソ親父と同じで性欲と好きが混ざっているのか、自分は本当に誰かを好きになれるのかとか、色んな悩みが、一気に押し寄せてきちゃって。このまま帰りたくないんですよね」

 

なんでそんなことを目の前の女の人に口走ったかはよく覚えていないが。

 

「………私も」

 

だけど俺もあの人も完全に自暴自棄であったのはよく覚えている。

 

「私もこのまま家には帰りたくないんです。先ほど好きという気持ちがわからないと言いましたよね、性欲と好きの違いはわからないとも」

 

女からは高級そうな絵の具の匂いと破滅の香りがしていた。

 

「では体験してみませんか。私もむしゃくしゃしているんです」

 

これが始まりだった。

 

その日の夜から半年間、今日も含めて俺たちは現実逃避のために体を重ね、お互いに依存しながら生きているのだ。

 

これからもこういう生き方を続けていくのだろう。お互いが前に向けるようになるその日まで。

 

 

 

 

 

 




優利 主人公。
彩花 共依存関係の大学2年生。
幼馴染 その内ネームドになる。彩花が好き。
2歳年上の先輩 主人公の初恋相手。
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