ハリボテ怪獣ハンドメイドン   作:破壊光線

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第十一話:夢と現実のその間に

 夕暮れ時のことだ。団長さんからそこそこの報酬金をいただいて宿に戻るべく、アロンと二人でノロノロ歩いていた。

 

「ソーサクさん、さっきはごめんなさい」

 

 落ち込んでいたアロンだが、元に戻っていてとりあえず一安心。

 

「わたし、あのお話、大嫌いなんです。」

「えっと、今日の『勇者兄妹のドラゴン退治』ってやつ?」

「だって仲良かった兄妹が、みんなのためにドラゴンを倒して、兄だけが死んじゃって。みんなそうやって英雄って崇めてますけど、残された妹はすごい悲しかったって思うんです。今も行方不明で、何処へ行っちゃったんですかね」

「あー、ごめん。俺、あの劇のほとんど裏方にやってたから、全然見れなかったんだ。だから妹さんがどんな気持ちで魔王と戦ってたのかはちょっと良くわかないな」

 

 別に時間を忘れて怪獣キセノンの鳴き声作っていたわけじゃないし。

 

「ふん、ソーサクさんなんて知りません」

「アロン、ごめん。でもほら、お客さんは喜んでたよ」

 

 一緒に映画を観て、感想聞かれて、寝てたから分かんないって言われたら、確かに怒りたくもなるけど。

 

「……それは、その」

「あ、ごめん」

 

 やっべ、魔法の暴発でエンディングを書き換えてたのに。

 行方不明の英雄か……何となくになっちゃうけど、案外近くにいたりして。

 宿に着き、部屋のドアを開けると、すでにピノとレタンが戻っていた。さらに行方不明の英雄と同じくらい意外な人物がいた。

 

「どうしてこの部屋に、カミシモがいるんですかねぇ」

 

 部屋の片隅、それも窓際、差し込む西日を境界線にした影の中、外からは絶対に見えないであろう位置に陣取った女忍者。

 置物のように動かないコイツを相手に、俺たち四人はどう接していいのか分からず困惑していた。団長さん、取扱説明書をくれないか。

 ここは俺たちの部屋だ、なぜここにいる。あなた劇団のスタッフのはずでしょうに。

 処理する順番を考えていると、カミシモが唐突に話し始めた。

 

「……聞きたいことがある」

 

 聞きたいのは俺も一緒だが。

 

「ルレーフの森のコカトリス……」

 

 静寂が訪れる。

 

「爆破したアヤカシ……」

「ぅぐわわぁぁ……」

 

 レタンがダメージ受けた。

 

「正体は、お前たち……」

 

 しりとりかな?

 

「違うのか?」

 

 戦闘を見られていたか。そりゃあコカトリスを倒してしまうほどの怪獣が現れて、その正体が人間だったら、それについて知りたくなるのも分かる。分かるけど……何故このタイミングなのだろうか。

 山ほど積みあがった疑問と一向に得られない回答。痺れを切らして、文句の一つでも言ってやろう。

 

「よく得体の知れない連中と一緒に演劇やったな」

「……緊、張した」

「お前、本当に劇団員なのかよ」

「演者じゃ、ない。あまり、話さないし」

 

 ハッと何かを思い出して。

 

「質問したのはこっち。君たちは、あのアヤカシなのか?」

 

 コイツ面白いぞ。

 はい。と答えたらどうなるんだろ。

 

「殺す……つもりだった」

 

 コイツ怖いぞ。

 だった。過去形ということは今は違うのだろうか。

 

「一緒に演劇をやって、君たちはいい人。人を襲うこともない」

「正確には、人を襲うことができない。だけどな」

 

 ピノさぁ、あえて言い直す必要ないよね。

 

「嘘はいけないよねっ。想像を絶するほど弱いだろ☆」

 

 何も言えね。

 

 しばしの間、沈黙が訪れた。ここでピノと俺が漫才を始めてもいいが、そんなものこの場にいる誰もが望んでいない。

 何を考えているのか、俺たちにしてほしいことは何か。劇団にスカウトされるのか。いろんなことを俺は頭の中で考える。やっぱり分からん。

 他に考える候補が無くなくなり、暇になった俺が次どんな怪獣を作ろうかと妄想しだしたころ、カミシモが口を開いた。

 

「……君たちに、ゴーレム討伐を願いたい」

 

 この人は何を見てきたのだろうか。女忍者カミシモの観察眼は、着ぐるみの覗き穴よりも性能が悪いらしい。それとも仮面のせいか?ならシンパシー感じるな。

 そんなことよりゴーレムってなんだよ。情報が整理しきれず俺はまた頭を抱えることになる。

 

「……ゴーレム討伐、協力してくれないだろうか」

「え、無理ですけど」

 

 これまで沈黙を貫いてきたアロンからの一言である。

 情けないことに俺の着ぐるみ怪獣は戦闘に向いていない。そもそも、どうして俺戦えるって結論に至ったんだよ。

 

「……身体の大きさを自由に変化できる。ゴーレムに踏みつぶされる心配が無い」

「ゴーレムの大きさは?」

「……三十メートル」

 

 コカトリスの二倍以上はあるのか。個人的に四、五十メートルくらいにはなって欲しいところだが、敵で出てくるのなら今のままでいいか。

 

「身体能力はゴミですけど」

「……いや、大丈夫」

「ゴリ押しても無理だからね。他に戦える人を探したら……いないんだった」

 

 俺たちがコカトリスと戦う羽目になったのは他に戦闘ができる人がいないからだ。劇団も来てちょっと賑わってきたのに、どうして戦闘職がいないのか。

 レタンさ、君のお兄さんが確か騎士団率いてるんだよね?

 

「さっき騎士団から連絡が届いた。現在、出発の準備中とのこと」

「ゴーレム討伐までには?」

「間に合わない、かもしれない」

 

 だろうと思った。この世界には俺を含めて無能しかいないのだろうか。

 

「ダメ……か?」

 

 改めてカミシモからお願いをされた。となるともう一人。

 

「ソーサク、ピノ、アロン頼む。もう一度だけ力を貸してくれ」

 

 レタンもくるよなあ。

 魔法使いの不機嫌オーラを背中に受け、上機嫌な女騎士を前にどう返答しようかと考えていると、先に口を開いたのは商人だった。

 

「手のひら返すようで悪いけど、わたしはパスさせてくれ」

 

 いつものおふざけモードは一切なし。真剣に、淡々と話すピノは本気で戦いに参加しないつもりだ。

 もちろんレタンがそれを許可するわけなく食い下がる。

 

「どうしてコカトリスの時は協力してくれたじゃないか」

「……あの時は具体的な作戦も決まっていたし、勝算もあった。何より肝心のソーサクの能力が、あそこまで役に立たないとも思わなかった。わたしが居なくても勝てると思ってたんだ」

 

 ぐうの音も出ない。

 反論はレタンに任せよう。

 

「でも、私たちはコカトリスに勝った」

「相性が良かった。それ以上でもそれ以下でもねーよ」

「ゴーレムとの相性が悪いとは思えない。パーツを着飾って、囮にし、ゴーレムがそっちに気を取られているときに、私やアロンの魔法で仕留めればいい」

 

 レタンが作戦を提示する。

 だけどピノの返答は違った。

 

「わたしは商人だ。冒険者じゃない。もう、冒険者じゃ……ないんだよ」

 

 引っかかる物言いだ。

 もうってことは、昔のピノは冒険者だったのだろうか。そう考えれば短剣でゴブリンを倒せるほどの実力があったとしても納得できる。感覚共有魔法も冒険者時代に覚えたとしたら辻褄があう。

 戦える商人は重宝されるのではないか。そんな俺の考えをピノは一蹴する。

 

「レタン、自信を持てよ。お前は力があって、強化魔法も使える。わたしとは違うんだ。きっとできる。いや、やり遂げてよ。頑張れ。アロンもな」

 

 窓の外から騒がしい声が聞こえてくる。劇団員が片づけを終えて、宿までやってきたのだろう。眩しかった西日は落ち、外には俺の知らない星座が光を放ち始めていた。

 

「……散歩、するね」

 

 ピノはそのまま部屋を出て行ってしまった。このままでは不味い気がする。だけど誰も動かない。

 無理もない。追いつめたレタンがかける言葉なんて無いだろうし、アロンとカミシモはコミュニケーション能力不足。

 

「すまない……私は自分の気持ちを押し付けてしまったようだ」

 

 レタンの謝罪を貰うべき相手はここにはいない。だからこそ。

 

「ちょっとピノを探しに行くね」

 

 ここは俺の出番だろう。

 俺一人で出て行ったはずなのに、いつの間にかアロンも同伴していた。

 

「羨ましいですよね、レタンさん。あれだけ真っ直ぐな人って中々いないですよ」

「そのおかけで厄介事を引っ張って来るよね」

「そこを含めて羨ましいって思います」

 

 意外な感想だ。

 星空の下、街の灯りを頼りに二人で捜索していると人影が。

 

「やあ、ソーサク君、アロン君も一緒か」

「エイジン様、どうしてここに」

 

 立ち話もなんだからと、俺とアロンはエイジン様の馬車の裏。夜風に当たり、虫の心地い合唱を背景音楽に話し始めた。

 

「なるほど、それで私のところに来たと。残念だけど、ピノ君とは会ってないよ」

「そうですか……」

「そうだね、せっかく来てもらったから昔話でもしようか。ピノ君の過去、つまり彼女が元冒険者であることは私も知っていた」

 

 エイジン様は懐から煙草を取り出すと、火属性魔法を使って火をつけた。俺はただ、その炎を見つめることくらいしかできない。

 ピノもエイジン様もみんな魔法を使えて、使えない俺からすれば羨ましい。

 

「彼女の強さは一人でゴブリンを倒せるほど、最盛期はパーティを組んでコカトリスを倒した時だったかな。彼女はコカトリスと戦えた。短剣でダメージを与えたし、ポーションを使って仲間の援護もした。

 けど、大した活躍はできなかった。ピノの行動で戦況は劇的に変化したわけじゃない。仲間の魔法使いや騎士のおかげで勝利したんだ。

 そしてコカトリス討伐後、ピノ君は自分の実力を知ってしまった。これ以上続けてもパーティメンバーに迷惑をかけるだけなんだと。魔法を使えば司令塔もできたが、実力のない自分が指示を与えても仲間は不快に感じてしまう。そう考えて自らパーティを抜けた。そこに声をかけたのが私なんだ」

「ですが、ピノの念話と視覚共有魔法が無ければ俺たちはコカトリスはもちろん、演劇の助っ人もできませんでしたよ」

 

 エイジン様はふーと煙草の煙を星空に飛ばした。

 

「そうだね、ピノ君にしかできないこともある……私としても彼女には夢を追って欲しかった。君たちと一緒に戦えば考えを改めてくれると思っていたけど、実際は傷つけてしまったようだ」

 

 エイジン様はふかしていた煙草の火を消した。コカトリス戦で残ると言ったのは、そう言う事なんだろう。

 

「ところで特撮映画を撮るときに、怪獣が破壊するときに使う壊し用のビルに、あらかじめ傷を入れて壊れやするのは知っているかい?」

「まあ。傷入れて、そのあとに石膏の粉を被せてどうのこうのっていう……」

「次の相手はゴーレムだったね。それがヒントかな」

 

 ヒントなら万人が分かるようなものにしてください。アロンが首をかしげているじゃないですか。

 

「はっはっは、後は若いので話すといい」

 

 エイジン様は言いたいことを言い終えたのか、街の灯りの中へと消えていった。ま

るで幻影だ。その幻はやがて少女の輪郭を帯びてきた。

 

「なんで……ここにいるのさ?」

 

 大きなベレー帽に短剣を携えた少女は悲しみと驚き、そして怒りを含めた表情でこっちを見つめている。

 ピノの過去にエイジン様からのヒント、頭の中が絶賛混乱中の俺の口からは。

 

「よ、ピノ」

 

 としか出てこなかった。

 だが、ピノは俺とアロンが連れ戻しに来たと感じ取ったようで。

 

「戻らないって言ったよね」

「どうしてもか。冒険者になるのが夢だったんじゃないの?」

「わたしが戦ったところで勝ち目が無いから。その様子だと上司から冒険者止めたってことを聞いたんだろ?」

 

 ピノは近くの空きタルに座ると、ポリポリと頬をかいた。

 

「ったく。はぁ、我ながら変な人の下についたぜ」

 

 その件に関しては激しく同意したいところである。

 

「なあソーサク、アロン。二人に夢はあるかい?わたしはね、なくなっちゃったよ。正直君たちとバカやってた時は楽しかったさ。けど、わたしの手に負えなくなってきてる。これ以上一緒にいて迷惑かけるからな」

 

 ピノが諦めたように大きなため息をついた。

 俺も夢が無くなった側の人間だ、何を言っても無意味だろう。アロンも期待できそうにない。連れて帰るつもりだったのに、何やってるんだろうね。

 静寂。星屑の下、三人で時間を浪費する。異世界の夜空は厚い雲に覆われていて、その中枢が引き裂かれている。隙間から見える星屑は、涙のように透明で綺麗だった。

 

「そこにいたか」

 

 無彩色の世界に音が響く。振り返ればレタンとカミシモが迎えに来てくれたのか。

 

「何しに来たんだよ、冒険者サマ」

 

 空色の鎧の金属音を随伴させて、レタンが俺たちの前に立ちふさがる。

 

「君は私を羨ましいと言ったが、私は剣が使える君が羨ましい」

「はあ?わたしが使えるのは短剣だぞ☆ 残念だけど、わたしは君に成れなかったの☆」

 

 茶化すピノを気にも留めず、剣の使えない女騎士はただ真っ直ぐピノの目を見ている。

 

「短剣とはいえ剣は剣だ。私は君が羨ましい」

「それ、冗談に聞こえないんだけど」

「本性だ。冗談なんかじゃない」

「ふざけるなよ!」

 

 ピノがイス代わりに使っていたタルを蹴飛ばす。元からボロボロだったタルは、バラバラになって残骸へと成り下がる。

 あー、なるほど。エイジン様、答えが分かりましたよ。

 

「ピノはさ、勝算が無いからゴーレムと戦いたくないんだよね?」

「なんだよ、作戦でも閃いたのかよ」

「聞きたい?」

 

 ピノの殺意のこもった視線の先にあるのは、俺の笑顔だった。

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