ハリボテ怪獣ハンドメイドン   作:破壊光線

12 / 22
第十二話:スライム捕獲作戦

 次の日、俺たちはゴーレム戦の秘策を手に入れるために、五人でルレーフの森に向かっていた。

 

「ソーサク、本当にあれでゴーレムが倒せるのかよ?」

 

 ピノは昨日に引き続き不機嫌である。俺の秘策に納得できていないらしい。

 

「うん、ゴーレムってさ、無機物じゃん。だからグリーンスライムで溶かせるよね」

 

 そう、俺の秘策とはグリーンスライムである。

 特撮映画でビルを破壊するときに、破壊するビルに予めカッター等で切り込みを入れて壊れやすくする。その後石灰とかで切れ目を目立たなくし、撮影を開始。怪獣が殴った衝撃で、ボロボロだったビルが破壊できる。という流れだ。

 今回はその応用、ゴーレムをビルだとするとカッターはグリーンスライムだ。

 ピノはベレー帽を深くかぶりなおし、頭を押さえて。

 

「確かに……理屈は通っているけどよ、どうやってグリーンスライムにゴーレムを食わせるんだ?足元に吹っ掛けて終了じゃないよ。顔とか身体全体にかけないといけないんだから、何体捕獲すれば足りる計算だ。そもそも発射する方法と、運搬手段は?」

「着ぐるみ怪獣の口から発射すればいいんだよ。ビームみたいに」

「は?」

「スライムに水をたらふく飲ませて、体積を増やした後、タンクに詰め込んで一気に放出する。グリーンスライムがエサと勘違いしてゴーレムを溶かしてくれる。これをみて」

 

 俺はエイジン様から貰った紙にペンを滑らせて、一体の怪獣を書き上げた。

 三本の首がある黄色のドラゴン。……なんだけど、着ぐるみなので、名前は偽物の王竜。つまり。

 

「キング・偽・ドラゴンだ」

 

 どうだ俺の考えた最強の怪獣は。かっこいいだろう。

 

「……溶解液を吹っ掛けて、防御力を下げるのは分かった。運搬もまあ、毛皮をタンクとかタルの中に入れれば何とかなるし、毛皮も私が用意できる。んで、ゴーレムが溶けるまでの間はどうするんだ?」

「えっ、溶けないの?」

「いや、普通に考えて一瞬で溶けないじゃん。バカじゃねーのか」

 

 ピノから予想外の反論をもらった。ヤバい、論破される。

 

「空を飛んで距離を取る……とか?ほ、ほら偽ドラゴンは翼があるよ」

「どうやって!ゴーレムと同じくらい、30メートルの物体を空に上げるのは不可能だ。演劇じゃないんだぞ」

「助けてカミシモ」

「吊るせる……糸で」

 

 ほら問題ないじゃん。

 

「……でも、引っ張れない」

「まて、カミシモ。おまえ、空を飛べるのか?」

 

 レタンから驚愕の声が上がった。キング・偽・ドラゴンを吊るすということは、偽・ドラゴンよりも高い位置、つまり、30メートル以上の場所に常にいないといけない。

 カミシモが跳躍すると帯が広がり、ふわふわとその場で滞空してみせた。さらに分身まで召喚。唖然とする俺たちを傍目に満足そうに降りてきた。

 

「いける。でも、重いのは、無理」

「ならレタンも一緒に飛ばしてもらって」

「いくら私が空を飛んだところで、カミシモに偽・ドラゴンを引っ張れる力がなければ、ズルズルと落ちるだけだろう」

 

 確かに。カミシモにはレタンと違い、偽・ドラゴンを持ち上げられるだけの力は無い。あと一歩、便利アイテムの一つでもあれば空中で操演ができるはずだ。

 もし、そんなアイテムを所持する人物がいるとしたら商人しかいない。

 

「……あるよ。『天使の羽衣』が」

 

 何それ?

 

「空が飛べる羽衣だ。ここに来る前、エイジン様がいつの間にか仕入れてきた激レアアイテムさ。使用者の力、筋力で空を飛ぶ時の出力が変わるっていう不思議な効果がある」

 

 これをつけたレタンに上空で待機してもらって、カミシモと一緒に糸で引っ張れば。

 

「首だけじゃなくて、本体も操れるか……」

「はぁ~、これを見越して仕入れてきたとしか思えないな☆ 戦えってことかよ。勝算はあるみたいだし」

 

 いつの間にかピノの口調が元に戻っていた。

 

「しょうがないなぁ☆ ピノちゃんがいないと。見えな~い。とか、立てな~い。とか情けない鳴き声上げるんだろ」

「戦って、くれるのか」

 

 カミシモの問いを肯定する。ただし。ピノは人差し指を立てた。

 

「あくまでサポートだ。武器は使わない、商人だからな。そこんとこ間違えるなよ☆」

 

 改めてピノが協力してくれることになった。

 

「……ありがとう」

「それじゃあ、スライム探し、頑張るぞ」

「おー」

 

 元気がいいのは俺とレタンだけでした。

 

 森の中を駆け回ること半日。お目当てのグリーンスライムを発見。

 場所はルレーフの森の小川近く。獲物は腰かけるのに丁度よさそうな岩に覆いかぶさってお食事を楽しんでいるようだ。問題はコイツをどうやって連れ帰るか。

 

「レタンさ、岩ごと持ち上げてくれる?」

「断る。逃げられるし、鎧に張り付かれたらおしまいだ」

 

 今回の獲物は無機物をエサとしているスライム。鎧で相手をした日には、欠片一つ残さず独自の体液で消化されてしまう。

 そう、この体液が問題で、レタンのような鎧はもちろん、布でできた衣類も、ベルトの留め具のように意外なところで金属が使われている。仮に溶かされない服で戦ったとしても液体でベトベトにされてしまい、最悪な着心地が一生続くことになる。

 

「というわけで用意しました専用装備」

 

 てなわけで、俺たちはピノから与えられた、対スライム用のアイテムをいつもの装備の下に着ているのだ。

 いつもの服装を解除して専用装備の力を見よ。

 

「で、なんで水着なんだ?」

「仕方ねーだろ季節的に余ってたんだから。それに水着じゃなくて下着な。真冬用の」

「露出度が高いわりに、妙に温かいのはそのせいか」

 

 専用装備の正体は、オオカミ系のモンスターから作られた下着である。俺が着ているものはトランクス風で、女性陣はさっきも言ったように水着風だ。

 このオオカミのビキニ(俺、命名)はビキニ水着のような見てくれをしているが、材質が毛皮。なので着てみると意外にも暖かい。冬用の下着といわれて納得する。今は春だが。あ、だから売れ残ったのか。なるほどね。

 さてビキニということで、女性陣の色んなものが露になる。

 何とは言わないが、上からカミシモ、レタン、アロン、ピノの順番だった。眼福である。ありがとうございます。

 

「……これで、戦闘できるのか?」

 

 カミシモの疑問も分からなくもない。スライム戦だけ下着姿のまま戦って勝てるのか。布面積から考えて防御力は皆無。転んだら絶対に痛いし、怪我するだろう。

 

「戦闘用の装備じゃねぇって言っただろ」

「……合点」

 

 それでいいのかカミシモよ。

 水着のような下着姿になった俺たちは、グリーンスライムを取り囲んだ。

 スライムは俺たちに見向きもせずに岩の上。元気にご自慢の溶解液をまき散らしている。対して俺たちは誰一人として動こうとしない。

 岩が溶けて小石に変化したころ、レタンが当然の疑問を発した。

 

「で、誰が捕獲するんだ?」

「……わ、わたしは魔法職です。後衛です。前に出て戦うのは無理ですよう」

「お前たちに散々馬鹿にされるほどの能力しかない俺が、捕まえられると思うのかよ」

「そんなこと言ったらこっちだって商人だ。魔物の捕獲に付き合っていること自体が間違ってんだ。何とかしろよ冒険者ども」

「前職の……経験を活かせる、チャンス」

「おめーはどうなんだよ、カミシモ。忍者なら誰かを捕まえたことくらいあるだろう」

「……これにてゴメン」

 

 ドロンと煙とともに消えてしまった。逃げ足は速い、さすが忍者。

 アロンが後衛でピノは商人だから無理。カミシモが敵前逃亡を図り、俺の能力は起動力はカス。残るは……全員がとある人物を見つめた。

 

「私は嫌だぞ! たとえこの服が溶けなかっとしても、ベトベトのぐちょぐちょにされる。醜態を晒すくらいなら死んだ方がマシだ」

 

 おお、見事なまでのくっ殺ムーブ。これにて全員が拒否。

 誰がババを引くのか……敵はスライムじゃなくて、もしかして身内か。先に動いたのはピノだった。

 

「……レタンさん☆いつも頑張っているから、ピノからのプレゼント、です☆」

「ああ?ありが……とう?」

 

 ピノはレタンに剣を渡した。しかし、何故このタイミングで?

 ピノを除いた面々が疑問符を浮かべている中、レタンが鞘から抜いた。見事なまでに鍛えられた刀は光を放ち、刀身は鏡のようにレタンの姿を映している。

 あまりの美しさに目を奪われる俺たちと……グリーンスライム。

 

「その剣でわたしたちを守ってくださいね☆冒険者サマ」

 

 邪悪な笑みを浮かべてピノが退散。美味そうなエサを見つけてグリーンスライムがレタン目掛けて突進。その速度もバカにならず、気を抜けば捕まりそうなくらいには速い。

 

「ピノ貴様、謀ったな!」

「さ~、何のことですかねぇ。ピノちゃんはただ剣をプレゼントしただけですよ~」

 

 敵は身内だった。完全に確信犯である。えげつないことするな。

 

「どうやらレタンさんのことが気に入ったらしいですね☆ 頑張って捕獲してくださ~い」

「お前、絶対許さないからな!」

 

 ビキニ姿で猛ダッシュ。あえて言わないがすごい揺れている。

 もう少しだけ見ていたいし、レタンにはこのまま犠牲になってもらおう。あの剣を食べてくれればスライムも大人しくなるはずだ。

 

「それじゃ、わたしたちは邪魔にならないよう、木の上で眺め……応援しましょうか」

 

 悪徳商人はそそくさと木登りを開始。まあ、俺も手伝えそうなことは無いし……俺も混ぜてもらおうか。

 太い枝に腰掛けると、下でレタンが逃走している。物理攻撃効かないし、魔法を撃ったらスライムが死ぬわけで。どうしようもないと言うべきか。

 木の根に視線を戻すとアロンがぴょんぴょん跳ねている。

 

「ソーサクさん、わたしも、わたしも木登りしたいです」

 

 木登りが苦手らしい。助けてやりたいことは山々なのだが、いかせん木の上でどう他人の手助けをすればいいのか分からない。持ち上げるときに一緒に落ちるのだけは避けたい。俺は操演じゃないんだ。

 

「わたしたち非戦闘員、自分のことで精一杯。ごめんね☆」

「アロン、ごめん。三人だと折れちゃいそうだから」

 

 悪いなアロン、この木は二人用なんだ。

 そんなこの世の終わりみたいな顔で見つめないでくれ。良心が痛い。

 

「……そうですか、分かりました」

 

 アロンは俯いてしまった。諦めてくれたのだろうか。できればレタンと協力してスライムを捕まえてほしい。この中で有効打があるのはおそらく君だけだから。

 心の中で土下座していると俯いていたアロンが顔を上げた。めっちゃ笑顔で怖いんだけど。膨張する恐怖心と体現するかとのごとく、アロンの周りで風の刃が形成されていく。

 

「三人とも、落ちてくださいね」

「バカバカバカ! 何してやがる、お前エアホークなんか撃つんじゃねえ! そんなの撃ったら私たちが消し飛ぶだろうが! ソーサク、何とかしろ、仲良しなんだろ」

「そんなこと言ったって……悪かった、悪かったから。ね、手を伸ばしてさ。一緒に木登りしようよ、楽しいよ」

「オチロ」

「いいぞ、やっちまえアロン! ひゃぁあっ」

 

 レタンの悲鳴と同時に、つむじ風みたいなのが巻き起こると、それが斧の形になって、俺たちのいる木に突き刺さる。

 バキ、メキメキメキと音を立てて、視界が傾き始めた。

 

「いやぁぁああ」

「助けてぇ」

「不覚!」

 

 大木と一緒に俺たち二人、いや三人が倒れた。カミシモそこにいたのね。

 

「よくやったアロン。この時を待っていたぞ貴様ら」

 

 グリーンスライムを引き連れて、レタンが突っ込んでくる。アロンも向かってきた。ヤバい、落ちたからか全身が痛くて動けねぇ。こうなったら。

 

「か、カミシモ! お前忍者だろ、人の捕獲とか得意なはずだ。その要領でスライムも何とかしてくれ」

「御意」

 

 さすがカミシモ、流されやすいし使いやすい。

 俺たちを守ろうと、カミシモがスライムの前に立つ。どこからともなくクナイを取り出して投擲。

 真っ黒なクナイは真っ直ぐと飛び、スライムに突き刺さらずに飲み込まれた。半透明な身体の中に取り込まれるクナイ。案の定、消化されて小さくなっていっている。

 

「……致し方なし、これにて」

「アイツ逃げるぞ、捕まえろ!」

「パラライズ!」

 

 ピノの怒号と同時に、アロンの杖から魔法が放たれ、直後カミシモが墜落。

 

「何を……した」

 

 恐る恐る振り返るカミシモに対し、アロンがどす黒い笑みを浮かべて一言。

 

「麻痺です。ジャンプ禁止です」

 

 なぜその魔法をスライムに使わない。

 

「裏切り者め……」

 

 お互い様である。

 仲間割れにより状況は悪化の一途をたどっている。跳躍力が皆無のカミシモが加わり、俺たち五人は無様にもスライムから追われる立場になった。

 

「スライムの狙いはレタンの剣、カミシモのクナイや手裏剣のはず。つまり、無機物を持っていなければ狙われないのでは?」

「ソーサク、おまえ天才か。みんな無機物の物を捨てるんだ」

「それほどでもない」

 

 ピノ指導のもと俺たちは腰に下げた袋から、無機物のものを捨てようとして……。財布を開けば金貨と銀貨とこんにちは。

 

「ダメだ、お金は無機物だ」

 

 あえなく撃沈。それどころかスライムに襲われたら文字通り所持金を溶かしてしまう。絶対に捕まってはいけない鬼ごっこ開始の合図だった。

 

「アロン! もういい、スライムを殺せ」

「レタンさん、それだとゴーレムに殺されます! ここはピノさんにお金を預けて」

「いいアイデ……って違う、それだとわたしが集中砲火受けるだろうが!」

「いったん二手に分かれて、いったん落ち着こう。な、それならまだやりようがあるはずだ」

「ソーサク……天才」

「それほどでもない」

 

 俺とアロンの二人。ピノ、カミシモとレタンの三人。二組に分かれることに成功。スライムは……よし、レタンに狙いを定めた。

 

「アロンいいか、炎はダメだ。逆に凍らせてしまえ。凍ってしまえばベトベトにならないし、取り込まれないから金も溶けない」

「なるほど、後で日光に当てて解凍すればいいと」

 

 よし、我ながら完璧な作戦だ。

 早速アロンが魔法詠唱を開始。術式が完成するまで三人には走っててもらおう。

 

「ところでソーサクさん」

 

 なに?

 

「水も氷も無機物ですよね?」

 

 作戦は失敗した。

 次の作戦を考えているとレタン達が突っ込んでくる。

 

「ソーサク、アロン助けてくれ!私たち三人溶かされる」

「まだ準備中だ、こっち来るなぁぁああ」

 

 三人は止まる気配すら感じない。こうなれば。

 

「アロン、こうなったらスライムを水流で押し流せ」

「わ、分かりました」

 

 次の瞬間、アロンの杖から大量の水が放たれた。岩石すら粉砕できそうな濁流は、三人には当たらずスライムに直撃。これで態勢を立て直す時間が稼げるはずだ。

 

「スライム大きくなってます!」

「当たり前だバカ!ゴーレム溶かすときに、水たらふく飲ませて増量させるって言ってただろうが」

 

 ピノの罵声に応えるように、グリーンスライムは水流を取り込んで大きくなっていく。それはもう、キングを名乗れるほどに。

 巨大化するスライムを見て、今までバラバラだった俺たちだが、この時ばかりは考えていることが一致した。

 

 あ、終った。と。

 

 

 

 次の瞬間、俺たち五人は誰一人欠けることなく、ヌラヌラのぐちょぐちょのベトベトにされました。とても気持ち悪かったです。めでたしめでたし。

 

「ひっぐ、ひっぐ……うぅ、お母さん、お父さん。アタシお嫁に行けなくなっちゃった」

「破産だ。商人も向いてないのかなぁ」

「父上、兄上……不出来なレタンをお許しください」

「……仮面だけは、仮面だけは勘弁してぇ」

「覚えてろゴーレム。絶対に跡形もなく溶かしてやるからな」

 

 吹っ切れた俺たちは全身を使ってスライムをタルに注いだ。スライム風呂歓声と同時に、アロン怒りの魔法で麻痺状態にして完了。

 近くの川で身体に付着した粘液を洗い落とした。その間、無表情かつ無言である。さっきまであれほど騒いでいた人と別人だった。

 かくして俺たちは所持金と友情と大切な何かと引き換えに、グリーンスライムを手に入れて、意気消沈のまま死んだ表情で街へ戻りましたとさ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。