ハリボテ怪獣ハンドメイドン   作:破壊光線

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第十六話:レタン対カミシモ

 初めて俺が暇つぶしに一人で外に出た時だ。

 

「なんか、地面に矢がぶっ刺さってんだけど」

 

 よく見れば紙が縛られている。矢文って言うんだっけ。物騒だなと思いつつも、解いてみると。

 

『ソーサク殿。此度の宴、共に巡って頂けまいか。カミシモ』

 

 辺りを見渡してもカミシモの姿はない。

 

「一緒に回りたいなら直接言ってくれればいいのに。めんどくさいやつだな」

 

 足元に矢が刺さる。

 

『ありがたき幸せ。我は忍ぶゆえ、行先は任せた』

「ライン感覚で矢文送るなよ。ん、待てよ、これは……デートになるのか?」

 

 ドサ、後ろの方で何かが落ちる音がした。動揺しすぎでは。

 見かけ上は俺一人、けど背後に気配を感じつつも街の中を歩く。これじゃあデートじゃなくてストーカーされている気分だ。

 出店を冷やかしつつ、異世界のお祭りをじっくり見て回っていたら、ねじり鉢巻きの似合う露店の店主に声をかけられた。

 

「お、英雄のソーサクじゃん、串焼きはいかがですか」

 

 小腹が空いたな。コカトリスの串焼きか、この前のは食べそびれたし、いいかもしれない。

 

「んじゃそれ一つ……いや、二つ」

「はいよ、コカトリスの串焼き二つ」

 

 できたてアツアツの焼き鳥を貰った。一口サイズに切り分けられた肉が五つ串にささっている。ネオザウラと死闘を繰り広げていたのに、なんて姿になっちまったんだ。

 感傷に浸りつつ、うち一つにかぶり付いた。うん、甘たれが染みてて美味しい。

 カミシモ用に買った一本を高く上げる。

 

「カミシモ、ほら君の分も買ったよ」

 

 スッとかすめ取っていった。ゴーレム戦で活躍した鉄糸ですね。

 俺が串焼きを食べ終わると、お返しにと串に手紙が縛り付けられていた。

 

『美味であった。ありがたき幸せ』

「無駄に器用なことするよな」

「い、今のは」

 

 少しくらい反撃してもいいだろう。驚く店主をちょっとからかってやるか。

 

「あれ、僕の彼女です」

 

 ドサっと、また近くで何かが落ちる音がした。

 

 

 

 デート再開。屋台を抜けて広場に出ると、腕相撲大会が開催されていた。街の屈強な男から劇団スタッフなど、色んな人が参加している。

 大会と称しているからには、当然賞金やら商品やらがあるようで、つまりは。

 

「はーい、参加受付はこちらでーす。参加費一人銀貨一枚! 掛け金も銀貨一枚から。現在の対戦カードはこちらになります」

 

 人だかりの中心にロリ商人発見。色んな種類が含まれた笑顔を浮かべて接客に励んでいる。後ろで手首を回しているのは女騎士。あー、なるほど。

 

「儲かってそうだな」

「そりゃ、もう……って、ソーサクじゃんか」

「ピノ、いつでもいけるぞ。あ、ソーサク。君も参加するのか」

「レタンが参加するんでしょ、勝ち目無いからいいや。カミシモはどうする?」

「どこに居るんだよ、あの日陰者」

 

 シュタッ、ピノの頭から帽子が消えて、地面に矢と帽子が突き刺さっていた。

 

『日陰者ではない』

「ひぃいい~、ごめんなさい~」

 

 分身といい、不器用だけど器用だよな。ん、分身?

 

「カミシモ、腕相撲大会、出てくんない?」

 

 帽子に二本目の矢が刺さる。ピノは泣いた。

 

『恥ずかしい。乗り気ではないが……ご命令とあらば』

「ってなわけで、俺の代わりにカミシモが参加するから」

「うぅ……了解」

「ほい、参加費の銀貨二枚」

「ありがとうございまーす」

 

 俺の見立てではカミシモはいいところまで行くと踏んだ。キングギドラゴンや演劇でのガオスの操演から力はそこそこあると思うし、忍術で身体の使い方は上手いだろう。

 唯一、緊張して実力を発揮できない懸念点がある。だが、ピノが儲けを出すべく、レタンに注目が集まるように試合を仕切っていたため、カミシモの試合は裏でひっそりと行われた。

 だからカミシモが緊張することなく男相手に善戦し、決勝戦まで進出してくれた。

 ここからが本番だ。だって対戦相手はもちろん。

 

「やってやれ!レタン。カミシモ倒せばわたしに賞金が入る。それで新しい帽子を買うんだ。高くて可愛いやつ」

「……報酬金は折半するだったはずだが?」

 

 レタンだ。ピノにたきつけられて参加させられたのだろう。

 

「……策を」

 

 いくらカミシモとはいえ、そのままではレタンに勝てない。だから俺は秘策を用意した。

 

「いいか、オマエの忍法は目を見張るものがある。分身して、隠れて、糸使ってみんなで引っ張るんだ。レタンが相手だけど十対一とかならこっちが勝てるはずだ」

「卑怯では?」

「卑怯なのは自分の帽子が欲しいからって、レタンを勝たせようとしたピノだろ。悪徳商人やっつけるつもりでさ」

「……心得た」

「よし、行ってこい」

 

 かくして始まったレタン対カミシモ優勝決定戦。美少女剣士対謎の仮面くノ一の対決。ギャラリーのボルテージは最高潮に達している。

 

「君が勝ち上がって来るとは思わなかった。いい勝負にしよう」

「……使命を果たすため、いざ」

 

 広場中央、二人の少女が手を組んだ。

 

「賞金、帽子……ふへへ。勝負開始!」

 

 金の亡者が決戦の合図を出した。カミシモが分身し、一瞬にして人目に付かない場所に散開。糸を巧みに操って十人がかりでレタンの腕を倒さんと奮起する。

 

「中々やるな、さすがはここまで勝ち上がってきただけはあるか」

 

 勝負は拮抗している。マジかよ、カミシモ十人分よりレタンの腕力が強いだと。

 

「頑張れカミシモ! アイツを倒せるのはオマエだけだ」

「頑張れ!」「負けるな」

 

 白熱した試合にギャラリーからも声援が飛び交う。つまりそれだけ注目されているわけで。

 

「……視線っ! うぅ」

「そこだ」

 

 注目を浴び、上がりに上がったカミシモから力が抜ける。その一瞬の隙をついてレタンが勝負に出た。

 あう~と情けない声を上げながらカミシモがひっくり返り、少し遅れて広場のあちこちから分身が落ちる音がした。

 

「カミシモっ大丈夫かー?」

 

 派手にすっころんだし、カミシモが心配だ。勝ち負けなんかどうでもいい。

 人垣を割って壇上に上がりカミシモに駆け寄ると、仮面の外れた少女がうーうー唸っている。

 彼女はそのまま起き上がると仮面が無いことに気づき、手で顔を覆い隠したまま、へなへなとへたり込んでしまった。

 

「連れてって、どっかに。早くぅ」

 

 カミシモは別人と思えるほど弱っている。このままだと不味いことになりそうだと直感が告げるので

 

「レタン、この場は任せた」

「承知した。ピノもいるし何とかしよう」

 

 俺はカミシモを背負うと人だかりを突っ切って、人気のない暗い建物の裏へと走った。

 半泣きのカミシモを背負って人気のない場所へとたどり着く。

 

「よし、誰もいなさそうだ。おーい、カミシモ大丈夫か?」

「ぁうぁう、仮面、仮面を……」

「これか」

 

 俺のすぐそばに赤い特徴的な仮面が転がっていた。レタンに吹き飛ばされた衝撃でここまで飛んでいったのか。どこか壊れていたりは……よし、なさそうだ。

 仮面を手に取ってほこりを払ってから、ふにゃふにゃになったカミシモに渡した。

 カミシモは俺の手から素早く仮面を奪い取り、座ったまま慣れた手つきで装備するとシャキッと立ち上がった。

 

「……ありがとう」

「その仮面、付けてる時と付けてない時とだと、だいぶ雰囲気変わるけど、魔法でもかかってんの?」

「……暗示を、掛けているだけ。昔、魔物に襲われてた、私を助けてくれた、人をイメージして作ったから」

 

 過去にカミシモの身に何があったのかは分からないが、それだけ大切なものなのだろう。

 

「仮面を、つけていると、その人も……その一緒になって、戦ってくれている……ような気がして、ちょっとだけ、勇気が出る」

 

 カミシモを助けて勇気をくれるほど憧れる人か、それは会ってみたいな。でも生きているかな。モンスターいるし、生活水準見ていると平均寿命も日本ほど高いとは思えない。いや、回復魔法とか発達しているから案外高いのか?

 

「その人は生きている」

 

 仮面を無くしてヘロヘロになっていた人物とは思えないほど、力強く言い切った。

 どこの誰かは分からないが再会できることを祈ろう。

 

「でもカミシモも結構強いと思うけどな、分身の術とかバンバン使っているし。今じゃその人と並ぶくらい強かったりして」

「それはない、残念だけど。それに、本当は臆病、なんだ。満足に話せないし、注目されるのは……無理」

 

 思えばゴーレム倒した後とか、俺たちと一緒に街の隅っこの方にいたもんな、カミシモ。注目されるのが嫌だったとしたら悪いことをしたな。

 

「あー、ごめん。そうとは知らずに……」

「……そんなことは、ない。私が不甲斐ないだけ。……姿を見られると、昔のことを思い出して、戦えなくなる。

 だからバレない、忍者になった。でも話せなくて、里を追い出されて、克服したくて、劇団に入ったけど、ダメ……だった」

 

 女忍者の過去が少しだけわかった。昔に何者かに襲われてそれがトラウマらしい。姿を見られると何もできなくなるのは過去を思い出してしまうからなのだろう。そんな自分を変えたくて忍者になったか、まあ話せる内容じゃないか。

 

「今までのはただの空元気だったってこと?だとしてもすごいことだよ。俺なんかよりもできることが多そうだし」

「君たちとの戦いは、私が目立たないから……やってける」

「……そう言ってくれると嬉しいよ」

 

 おお、無駄に熱くて重い着ぐるみの中に閉じ込められ、モンスター相手に奮闘していたのが報われる日が来るとは。

 今までの戦闘を振り替えて感動していると、向こうからレタンが金髪を揺らして走って来きた。

 

「カミシモ、大丈夫か?」

「もう、大丈夫。ちょっと混乱した、だけだから」

「そうか、それなら良かった。その、仮面が取れたのは私にも責任があると思うから」

 

 レタンは腕相撲が原因で、仮面が取れてしまったから負い目を感じているのだろう。こっちはこっちで堂々としているというか。ピノはどうしているんだろうか。

 

「アイツは嬉しい悲鳴を上げながらお客をさばいている。大会という名目上、収拾を付けないといけないしな」

「結局勝敗は?」 

「一応、私の勝ちになったらしい」

 

 まあ、あれだけ派手に投げ飛ばされればレタンの勝ちだよな。

 負けた方は申し訳なさそうに、俺に頭を下げた。

 

「すまない、命を遂行……できなくて」

「気にしないでよ。むしろこっちがゴメン」

 

 忍者もダメで、劇団もダメ。そんな話を聞いた後だからこっちまで気まずくなるぞ。

 みんな真面目だよな。いや、もう一人ピノとかいう強欲商人がいたか。

 

「ああ、それとピノも心配していたぞ。何かあったときのお金は任せておけ、と言ってた」

 

 訂正、悪かったピノ。

 

「……ありがとう、平気って、伝えといて」

 

 カミシモは指で輪っかを作って答え、完全に復活したと思われる。

 レタンも納得がいったようで、大きくうなずいた。

 

「ならよかった、準優勝者としてインタビューがあるそうだ」

「え……やっぱり、ダメかも」

 

 赤い仮面は青ざめた顔を隠しているんだろうな。

 

「やはりか、何処が痛むんだ?仮面を取って顔を見せてくれ。私だって騎士さ、応急処置くらいはできる」

「……そこまでじゃ、ないから、平気」

「そうか……分かった。先に行っている、ピノが待ってるぞ。あと、痛くなったら早めに教えてくれ」

 

 女騎士は、地獄への道を無自覚の善意で舗装すると、スタスタと一人で行ってしまった。

 残されたのは俺と腕相撲大会準優勝者。まあ、激戦を繰り広げた二人にはスピーチの一つでもしてもらわないと収拾がつかないのだろう。

 歩き出そうとした俺の裾が急に引っ張られた。

 

「……一緒に、ついて、来て」

 

 何も泣かなくてもいいだろうに。

 

 

 

 その後のことをサックリとまとめよう。

 カミシモはレタンと一緒に舞台に上げられ、仮面と同じくらい顔が真っ赤になっていた。堂々したレタンの挨拶に対し。

 

「準優勝、ありがとう」

 

 その一言で終わった。しかも、『ありがとう』なんて聞こえるか聞こえないかくらいの声量で。

 嘘でしょ、だってさっき仮面付けたから大丈夫って言ってたじゃん。ほら何とも言えない空気が張り詰めてるし、ピノも反応に困ってるよ。

 静寂の中、俺の隣からすすり泣く声が聞こえる。カミシモに賭けて爆死したのだろうか。全財産突っ込むなんてどんなバカだろうか。ぜひそのマヌケ面を拝んでやろう。

 

「カミシモ……よく、頑張ったな。人前でこんなに話せるようなって……」

 

 劇団の団長さんが感動のあまり泣いていた。嘘でしょ。

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