ハリボテ怪獣ハンドメイドン   作:破壊光線

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第十七話:絶望のプレリュード

 腕相撲大会で騒ぎ倒した翌日はレタンによってたたき起こされて始まった。

 

「起きろソーサク! 兄上がいらしたぞ」

「へ、兄ちゃんがどうしたって?」

 

 この前、手紙でレタンの兄が来るとか言ってたな。確か有名な騎士団の団長とかだったはず。 個人的にはもう少し速い到着を望んでいたのだが……まあ、今後戦闘を任せられると思えば良しとしよう。

 

「ほら、外を見ろ」

 

 宿の窓から様子をうかがうと、人々が慌ただしく走り回り、街のいたる所に飾りつけをしている。パレードでもするのだろうか、主役と思わしき豪華な鎧の人たちもいるし。

 

「すごいことになってんじゃん。で、なんか関係あるの?」

「あるに決まっているだろう! 私たちがこの街を守ったから挨拶されるんだ!」

 

 え、マジ?聞いてないぞ。寝癖を直さなきゃいけないし、礼服なんぞあるわけがない。カミシモと一緒に隠れていようか。俺の甘い考えをレタンは許してもらえるはずもなく。

 

「馬鹿を言うな、これは名誉なことなんだ、これをきっかけに働きやすくなるかもしれないんだ。もしかしたら好待遇な仕事を紹介して貰えるかもしれない」

 

 よし、今すぐ支度しよう。何から始めればいい。

 底をついていたやる気メーターの針が振り切れた。とりあえず飯でも食ってくるかと布団から出ると、ホテルのドアが勢いよく開かれてドレス姿のピノ登場。

 

「レタンさーん、団長さんから借りてきました!劇の衣装ですが立派な礼服です」

「よし、ソーサク着替えてアロンを説得してくれ」

「了解」

 

 ピノから丁寧にたたまれた衣服を受け取って、広げてみる。裾がツバメの尾のようだ。こ、これは燕尾服じゃないか。どこか中二心くすぐられる礼服に着替え、アロンのいるドアをノックした。

 

「アロン、入るよ」

「騎士団の方々がいらっしゃいましたね。これでもう戦うことはないです。よかったです」

「ああ、これでハッピーエンド。それで、だ。俺たちが今までの功績をたたえられて表彰されるらしい。俺たちが必死こいて慣れない戦闘をしてきた努力が報われたんだよ」

 

 その一言でアロンが青ざめた。俺なんか地雷踏んだかな。

 

「嫌です。行きたくありません」

 

 こっちもこっちでカミシモ以上の対人恐怖症だった。

 

「確かに俺たちは着ぐるみ怪獣の中で喚いていただけだ。コカトリスのトドメはレタンだし、ゴーレムの魔術師を倒したのはカミシモだ。つまり俺たちは大した手柄もない。あの二人が表に立って賞を貰って終わり。俺たちはいつものようにボーっと突っ立てるだけ。な、簡単だろ?」

「……ふーん、そんなこと思ってたんですね。戦闘中、わたしは魔法の調整していたり、息苦しい中で最適な魔法を考えたりと忙しかったのに。誰のせいで空中に吊るされた挙句、クルクル回りながら魔法使う羽目になったというんです、ええ?」

 

 ごめんなさい。

 

「だいたいわたしは魔法使いです。後衛です。どうしてモンスターのの真正面に陣取って魔法を使わないといけないんですか? 騎士のレタンがわたしたちの後ろでサポートしてるんですか? 前衛の剣士が敵を引き付けて、後衛の魔術師が一撃をぶっ放す。これが基本ですよ」

 

 ぐうの音も出ねえ。だってアクションゲームで、防御力の低い魔法職が前に出てるようなものだもん。俺の怪獣、紙耐久だし。

 弱ったな、アロンから正論パンチを食らってしまった。言い返せないでいると、時間切れになったらしくレタンがノックする。

 

「ソーサク、大丈夫そうか?最悪、私が担いでいく。その時は遠慮なく言ってくれ」

「……着替えを、ください」

 

 どうやら観念したらしい。アロンはアロンで俺以外の人とあまりかかわりを持ちたくない、この弱点を見事に突かれたというわけだ。レタンに担がれるくらいなら、俺の後ろについて行った方がいいという事なのだろうか。よく一人で旅をしてこれたな。

 

「レタン、アロンの着替えを持ってきてくれ」

「了解」

 

 以前よりも装飾が派手になった鎧姿のレタンからコスプレ衣装……じゃなった、礼服を持ってきてもらい、アロンの部屋の前に置く。これで一見落着か。

 

「ソーサク、ありがとう」

「いやー、説教くらったよ。魔法使いを前線に立たせるなって。おっしゃる通りで」

「見てくれだけは立派なのに中身が残念過ぎる。ハリボテカイジュウだもんな」

「うるせいやい!剣すらまともに扱えないくせに、お前もメッキの騎士だ」

「ふふ、そうだな。私たちは同類だ」

 

 どこか満足そうにレタンが笑い、それにつられて俺もつられてしまう。しっかし、ハリボテ怪獣か。なんか、いいな。

 感傷に浸っていると、ピノが宿の扉を蹴飛ばした。

 

「おい、ソーサク、レタン!ヤバいことになった、これ見てくれ!」

 

 手紙の括りつけられた矢を突き出す。

 

『拝啓、ソウサク殿。これから家出する、探さないで候。カミシモ』

「あのバカ、逃げ出しやがった!」 

 

 対人恐怖症は腕相撲大会で克服していたと思ったのに。

 着替え終わったアロンがこっそりやってきて、その手があったか。などと小さく呟く中。

 

「感覚共有魔法で繋がるかな……」

 

 毎度お世話になっているピノの魔法でカミシモと視覚の共有を試みる。

 待つこと数秒。

 

「繋がった!どこにいやがるこのおバカ!」

『ちょうどよかった、こっちに不穏な空気が、ある。来てくれ』

「誤魔化せると思うなよ、そこで待ってろ。アロンも来い」

「チャンスだったのに」

 

 窓のふちに足を乗せていたアロンを引き連れ、俺たち四人は宿屋を飛び出すと、その辺の馬車を捕まえた。

 緊急事態だからと、強引に運転手を説得させ、レタンが手綱を握り、ピノの案内に沿って走り出した。

 

 

 

 カミシモは街外れの森、以前コカトリスと戦ったルレーフの森近くにいた。

 忍者は木のてっぺんで遠くの方を見つめていたが、俺たちが来たと分かると降りてきた。

 

「この先……何かいる。邪悪な、何かが」

 

 俺も目を凝らすが分からない。言われて何となくそんな感じがするくらいだ。だが、レタンも何かを感じとったようで。

 

「ピノ、街に連絡を頼めるか?私も何か嫌な予感がする」

「りょーかい☆」

 

 俺の横でアロンが静かに杖を構える。平和ボケしている俺もただならぬ気配を感じてカプセルを握りしめた。しばらくしてドシンドシンと巨大な足音が鳴動する。

 レタンは接近する未知を睨んだ。

 

「ソーサク、変身してくれないか?」

「戦うの?この格好なのに?」

「今の状態で敵に見つかれば戦えない君とピノがやられる。なら変身し、アロンの魔法かなんかで怯ませて、それから逃げた方が生存率は上がると思わないか?」

 

 レタンの提案に反対する理由もない。確認もかねて俺がアロンへ振り向くと、重々しく首を縦に振った。

 礼服が汚れないよう、上着だけ脱いでカプセルを取り出し変身。特に準備もしていないので、着慣れたドメイドン辺りが丁度いいだろう。

 

 地面に寝そべり、アロンには口の中でスタンバイしてもらう。こっちの準備は完了。カミシモは尻尾の操演、ピノが退路の確保と街へ連絡を担当。あとはレタンに起こしてもらえば大丈夫だ。

 俺たちが戦闘準備を整えていると敵の足音が近づいてくる。一定のリズムで足音が響き、森の木がなぎ倒されて、その正体が明らかになった。

 

「ドラゴン、じゃん」

 

 体長推定50メートル。禍々しいオーラを放ち、大木みたいに大きな二本足で闊歩する。一対の巨大な翼、長い尻尾、ひょろ長い首。額にはヤギみたいな捻じれた角が二本生えていて、そのうちの片方は折れていた。

 幸いなことに相手はこちらに気づいていないのか、目もくれず街へと向かっている。色んな意味で不味いんじゃないか?

 そのオーラに圧倒されてか、アロンが声を捻り出した。

 

「……逃げましょう」

「街の人たちはどうするのさ?」

「逃げましょう……あれは、アイツは危険です。アタシたちの手に余る。ピノ、至急逃げろって伝えて、さあ早く!」

「お、おう。分かったよ」

 

 アロンが叫んだ。怒りか怯えか分からない。だが、これほどまでに鬼気迫ったのは初めて見る。それほど不味い状況なのだろう。

 事の重大さを悟って撤退しようとしたとき、ドラゴンの目がギョロリとこちらを向いた。

 

「気づかれた!」

 

 そりゃそうだ木の間に隠れているとはいえ、巨大怪獣が横になっていれば気づかない方がおかしい。

 ぶっつけ本番だけどやるしかない。

 

「起こすぞ、作戦通り一発入れて逃げる。それでいこう」

『レタン起こして! カミシモは口を開けて。ソーサクいくよ』

 

 いつになく攻撃的なアロンが叫ぶ。慣れた動作でドメイドンが口を開いた瞬間、おせーよと言わんばかりに特大の火炎球を放つ。一発、二発……最終的に一ダースほどに及ぶ火球は全てドラゴンに炸裂し、黒煙となって消えた。

 

「……今のは」

「なんだよ、あれ。桁外れじゃねーか」

 

 アロンの過去最大級の魔法攻撃が終わり、俺を含めてカミシモもピノも、その火力に唖然としていた。

 絨毯爆撃後の塹壕ように静まり返った中、煙が晴れる前に動いたのはアロンだった。

 

『レタン! 障壁をお願い、アイツはこんなんじゃ倒れない!』

『わ、分かった。シルバー・ザ・ゴーン』

「ソーサク構えて来るよ」

「了解」

 

 頑張るぞドメイドン。俺も前屈みになりながら衝撃に備える。レタンの防壁に加えて、アロンも防御魔法を展開。これほどまでに強力な相手なのだろうか。

 などと考えていると、閃光と同時に煙の中心に穴が開いた。

 レタンの障壁をあっさりと打ち破り、アロンの防御魔法とぶつかった。火花を散らし、だんだんとアロンが押されていく。

 

『クソッ、アロン!これ以上は無理だ』

『大丈夫、大丈夫だから!』

 

 明らかに辛そうだ。防壁には亀裂が入り始め、今にも破れそうだ。敵の熱線はドメイドンの顔面に向けられているため、これが破れたらアロンに直撃する。

 

『カミシモ!アロンを助けてくれ』

『御意』

 

 次の瞬間、防壁が割れた。俺は何とか身体を動かし、ドラゴンの熱線はドメイドンの真横をかすめていく。けど、その衝撃で視界が揺れる。激突した衝撃を受けて初めて、バランスを崩してひっくり返ったことに気づいた。

 敵はどうなった、腰の痛みも忘れ、映像で辺りを見渡すと、アロンはカミシモに抱きかかえられていた。

 一安心したが、状況は何も変わっていない。俺は一人で起きられず、地面の上で芋虫のようにもがくしかできない。

 

『レタン起こして』

『もちろんだ。ピノ、何とかして時間を稼いでくれ』

『ピノだ、分かった。カミシモ、相手の視界を防ぐとかできないのか?』

『煙玉がある。任せて』

 

 煙玉で砂埃を起こすと、敵は警戒し手距離を取った。

 その隙をついて直立状態で起き上がる。

 

『尻尾攻撃、して。なんとかする』

 

 カミシモに言われるがまま一回転。右足で尻尾を蹴り上げ、相手の腰辺りに叩きつける。もちろん大したダメージはないが、カミシモ二発目の煙玉が炸裂。砂埃風に見せかけた目くらましは、十分に効果を発揮し、ドラゴンを一瞬だけ怯ませることに成功。

 問題はここからどうするかだ。

 

『誰か打開策はある? 助けて操演部、このままだとヤバい』

『糸で引っ張るか?』

『ダメに決まってんだろ、敵に掴まれたら最悪糸が絡まってゲームオーバーだ。だいたい引っ張って何するんだ。ソーサク、考える時間が欲しい。威嚇しろ!』

「ナンモミエナーイ!」

 

 ーーーーーー

 

 俺の演技に合わせて相手も威嚇する。

 クソ、敵ながら鳴き声がかっこいい。本家の咆哮に圧倒されつつ念話に耳を傾けると、攻撃したいアロンと他三人が口論になっていた。

 

『カミシモ、もう一回、アタシを口の中に』

『アロン。ダメだ。これ以上は』

『うるさい、ピノたちはとっとと逃げて』

『断る。分身で、みんな背負って、みんなで逃げる』

『逃げるったってソーサクどうすんだよ、逃げるにはアイツの着ぐるみ何とかしないといけないし、何とかしたら無防備な状態で襲われるぞ』

『ソーサクは心もとない状態で戦っているんだ、私たちが上手くやればなんとか』

『なるわけねーだろ、見てくれの怪物に相手がビビって何とかなってんのが現状だ。前衛のお前はともかく、ソーサクが落ちて、アイツが攻めに転じたらお終いだ』

 

 カミシモ、騎士団はまだか。

 

『騎士団から、連絡がついた。こっち向かってる。……時間を稼げば、なんとかなる』

『……分かりました。わたしが魔法で打ち合って、できる限り時間を稼ぎます』

 

 俺は動きながら相手からの狙いをずらすことに集中する。

 カミシモがアロンを担いでドメイドンの頭まで跳躍、再び口の中にスタンバイ。

 上あごの開閉と同時に火球を連発。弾幕を張って相手を牽制するが、ドラゴンにダメージはない。

 

『全然効いてねーぞ、大丈夫かアロン』 

『うらぁぁあああ』

『アロン?』

 

 獣のように吠えて魔法を乱射する。開幕の火炎弾がお遊びに思えるほどの猛攻だ。

 

『待って、糸が……千切れる』

 

 カミシモから悲鳴が上がった。火球の熱に耐えきれず、プチっと糸がちぎれてドメイドンの口が閉じてしまった。しかし、アロンの火球は発射しているわけで。

 

『おい! ドメイドンの頭が燃えってるぞ』

『げほげほ、何で口を閉じたの!』

『来るぞ、シルバー・ザ・ゴーン』

 

 レタンが再び防壁を展開。ドラゴンが激突するが、みんなで気合を入れてなんとか持ちこたえる。

 

『レタン、筋力強化できない?』

『分かった、ゴール・ド・ラース』

 

 若干だが力が溢れてくるような気がしてきた。防壁が割れた直後、なだれ込んでくるドラゴンとがっつりと組み合う。鋭利な爪が食い込むが、ウレタンでできた皮膚が貫通するだけで、俺の身体にダメージはない。

 

『ソーサク破れてる!』

 

 しかし着ぐるみが破れれば、中に人がいることがバレてゲームオーバーだ。

 ドラゴンの腕をつかんで引き離し、カミシモと呼吸を合わせて尻尾を叩きつける。だが、それも読まれていたようで、掴まれてしまった。

 ブチッ。

 ドラゴンが尻尾を引きちぎり、黄色いウレタン製のふわふわした素材が露出。さらに尻尾を千切られた反動で、バランスを崩してしまい着ぐるみ怪獣はダウン。地面に叩きつけられて涙目になる。敵はどうなっている、ピノ。

 

『ヤバい、アイツ光線吐くつもりだ』

『変身解除! チャック降ろして』

『御意』

 

 ドラゴンの光線に合わせて、カミシモとその分身がボロボロになったドメイドンのチャックを降ろす。光線が着弾する寸前に身体が光り小さくなって、直撃は免れた。

 暴力的な光が収まって、俺が目を開けるとカミシモに抱えられていた。

 

「ソーサク、大丈夫か」

 

 ーーーーーー

 

 ドメイドンがいないと分かり、勝利の咆哮を上げるドラゴン。

 

「あ、あああ……」

 

 アロンは完全に戦意を喪失しているし、もう俺たちに戦う術はない。ピノとレタンに担がれて、立ち上がれる状態だ。このまま逃げ切れるのも怪しいところ。

 辺りは焼け野原。ドラゴンに次なる標的とされるのも時間の問題か。覚悟を決めたその時だった。

 

「第一陣魔術隊、放て!」

 

 凛々しい号令とともに、火球の嵐がドラゴンに向かって放たれる。アロンのそれと同じくらいの弾幕を受けてドラゴンが怯んだ。

 何が起きたのかと辺りを見渡すと、豪華な鎧と王冠のような兜を被ったイケメンが俺たちのところへ駆け寄ってくれた。

 

「遅くなって申し訳ない。ボクは急襲騎士団、騎士団長のエンカ・ヴィニル。君たちが街をコカトリスやゴーレムから守っててくれたんだね、ありがとう。あとは我々に任せて、避難してくれ」

 

 騎士団の団長さんってことは、アロンのお兄さんか。ギリギリセーフってところか。

 

「あ、兄上!私も戦います」

「……君の仲間は戦える状態じゃない。一緒に避難して手当してあげてほしい」

「しかし」

「我々の力は数だ。騎士が前に出て戦い、魔法使いが後ろで魔法を展開する。連携もままならいまま戦ったところで、足を引っ張るだけだ」

 

 座ったまま水筒を咥える俺の横で、レタンが拳を握りしめる。

 

「……すみません。撤退します」

 

 レタンは強引に俺を、カミシモが呆然とするアロンを背負い、ピノ船頭の元、一目散に逃げ出した。

 相手は何者だ?アロンの魔法をあれだけ受けても生きてるし、騎士団が出てきても退こうともしない。この世界のドラゴンはこれほどまでに強いのか?

 

「敵の増援を確認」

「問題ない、魔法部隊、撃てー」

 

 撤退する俺たちの背後、怒号と爆撃音が鳴り響く戦場でドラゴンが吠える。

 

「我が名は魔王モノ・ヴァレル、お前たちには興味などない。英雄アロン・アール・ファレーノを出せ。さもなくば死ね」

 

 俺たちが戦っていたのは、本物の魔王だった。

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