ハリボテ怪獣ハンドメイドン   作:破壊光線

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第十八話:アロン・アール・ファレーノ

 お祝いムードだった街は一変、暗澹とした空気が漂い、あれだけ屋台が並んでいた広場と宿には騎士団を援助するための物資で埋め尽くされている。街の人たちも騎士団のバックアップとして、誰一人避難することなく駆け回っていた。

 そんな状態で戻ってきた俺たちは、戦況を聞きたいと質問攻めにされたことは言うまでもない。

 元々コミュ力がないカミシモはともかく、俺は疲労で動けず、レタンは元気がないし、アロンは塞ぎこんでいる。ただ一人、ピノが街の人たちの質問に答えていた。

 

「ああ~終ったあ~」

 

 宿に戻ってきた瞬間、ぼふっとベッドの上に倒れる窓口担当。

 誰も喋らないから騒がしいのが一人いると安心するぜ。

 

「この後、どうする?」

「騎士団の援護だろ?補給がなくちゃ力を発揮できねえ。イケメン団長、数に物を言わせて耐久戦やるつもりだしな。その前に色々聞きたいことがあるけど、なあ、アロン」

 

 全員の視線がアロンに集中する。注目の的になった人物は、珍しく俺の後ろに隠れるのではなく、全員を無言のまま睨み返した。

 しびれを切らしてピノが立ち上がったその時。

 

「伝令!魔王モノ・ヴァレルとの戦闘を終え、騎士団が帰還します」

 

 偵察兵らしき人が叫びながら街中を走り回っている。これで一安心かな。凱旋パレードでもやるのだろう、宿の外を見ると街の人たちが集まっている。

 魔王との戦闘の後だ、兄の安否を確かめるべく、レタンが飛び出していった。

 

「兄上!」

「ったく、しょうがないな☆レタンちゃ~ん、待って~」

 

 おちゃらけモードのピノと一緒にカミシモも外へ出ていく。ちょっと待ってて俺も行く。

 しばらくして、街の人たちが待ち望んていた騎士団が帰ってきた。しかし、誰一人として歓声は上がらなかった。

 

「……急襲騎士団、帰還しました。魔王モノ・ヴァレル一次撃退、完了。封印解除まで時間が、あります。皆さんは今のうちに至急非難を、戦えるものは力を貸して」

 

 満身創痍となったレタンのお兄さん、エンカ・ヴィニルから告げられたのは敗北の事実だった。

 仲間に担がれ、ボロボロとなった騎士団長の前に、力なく妹がふらふらと歩み寄る。

 

「撃退?封印解除?兄上、何を仰るのですか?魔王は、魔王は討伐されたのでは……」

「すまない、レタン。魔王は、倒せな……かった。だが、一度戦って、戦力は分かったし、取り巻きの軍勢も倒せた。残るは魔王だけ。これから、再び作戦を立て直して……」

「負け……た?兄上が、騎士団が?」

 

 騎士団が負けた。連携も取れていて、素人の俺から見ても分かる強さだったのに。

 レタンが愕然とその場に崩れ落ち、人々はうつむいたまま家に帰っていく。

 騎士団の人たちも街に建てられた拠点へと戻り、俺たち五人がポツンと残されるだけとなった。

 沈黙を破ったのはピノだった。

 

「……ヤバい状態になったな。どうするよ」

 

 レタンは魔王と戦った森の方角を見つめている。視線の先には兄の仇がいるのだろう。

 

「どうするもなにも、私は兄上に協力する。戦わなくても自分にできることはある。私は君たちと一緒に戦って、それを知った」

 

 手を強く握りしめ、何かを堪えながらもレタンは俺たちに向かって腰を折る。

 

「戦闘に参加しなくてもいい、それでも私たちにできることはあるはずだ。協力してくれないか」

「物資調達とか情報伝達とかの後方支援ならOKな、戦闘は無理だ」

「君たちに、従う」

 

 レタン、ピノ、カミシモ。この三人は騎士団に協力するらしい。

 俺はこの中で一番役に立たない自信がある。でも支援してくれるありがたみは知っている。力になれるなら協力したい。この街は俺が異世界で初めて訪れた場所だ。みんな良くしてくれたし、魔王に滅ぼされてほしくない。

 

「特に役に立たないと思うけど、俺も力になれるなら協力するよ」

「よし、いつものメンバーが揃いつつあるな☆役に立つかは別として」

 うるせい。

 

 して、問題はアロンだ。レタンは沈黙を維持したままの彼女に向かって。

 

「アロンはどうする。君の実力なら申し分ないはずだ。昼間の様子からして、あの魔王と戦いたいのだろう」

 

 コカトリスをシバけたのも、ゴーレムと渡り合えたのもアロンがいたからだ。

 全員の期待を受け、アロンが口を開いた。

 

「……どうして、どうしてそんな前を向けるんですか?次負けたら死ぬかもしれないのに。なら最初から諦めて逃げて何が悪いんですか?自分にできることで戦いに参加する。アタシはそんなことしたくない、戦いなんかしないで平和に暮らせればそれでいい。こんな力なんか別に欲しくもなかった!」

 

 コカトリス、ゴーレムと数多くの魔物に大ダメージを与えたアロンの魔法。ドメイドンの着ぐるみの中から撃ったとはいえ、それが効かなかったのだから、そのショックは計り知れないのだろう。

 バチン。

 ピノがアロンの頬を叩く。

 

「いい加減にしろよ、みんなお前みたいに力が無いから嘆いてんだ」

「……勝手に期待しないでください」

 

 アロンは逃げるように去っていく。

 

「……騎士団が、兄上が負けたのは私もショックだ。だからこそ妹の私が戦わなくちゃいけない。兄が負けたんだ、妹が仇を取りたいと思うのはおかしいことなのか」

 

 ピノの時とは違い、レタンははっきりとアロンに向かって言い放つ。アロンから返事はない。だが、立ち去る直前、彼女が一瞬だけ立ち止まった気がした。

 それから俺たち四人は騎士団のサポートに回った。傷ついた人たちの手当をして、武器の調達やら準備に駆り出され、クタクタになって宿に戻ってきた時にはすでに夜。

 食事と水浴びをして、そのまま四人でぶっ倒れて眠た。アロンは最後まで帰ってこなかった。

 

 

 

 誰かが俺の身体を揺さぶっている。

 うるさい、疲れているんだ。朝の陽ざしも差していないし、ニワトリの声も聞こえない。まだ夜中だろうに、気持ちよく寝かせてくれ。

 

「ソーサクさん……ソーサクさん起きてください」

 

 その夜、俺の安眠を妨害したのは。

 

「えあ、アロン?」

 

 行方不明となっていたエフェクト担当だった。

 いったい今までどこで、みんな心配していたんだぞ、とか思い浮かんだ言葉のうちどれから片づけるかを考えていると。

 

「し、静かに。皆さん起きちゃいます」

 

 俺の唇に人差し指を当てて、覆いかぶさるような態勢になり耳元で囁いた。

 

「夜風に、当たりませんか?」

 

 ちょっと待ってくれないか、寝起きで何にも考えられないんだ。

 返事を聞こうともせず腕を引っ張り上げると、寝ぼけて無抵抗な俺を連れ出した。

 

 街にはポツポツと明かりが灯り、無休で騎士団の人たちが働いている。アロンは人気のない、それこそカミシモが好きそうなルートを選んで街の外へと向かう。

 歩けば歩くほど灯りから遠ざかっていくにつれ、布団で得た温もりを忘れ、俺の意識も覚醒へと向かう。

 

「どこへ行くんだよ、真っ暗だぞ」

「……大丈夫、アタシに付いてきて」

 

 アロンはカバンからテトランプを取り出すと、慣れた手つきで明かりの強さを調節、すぐに二人分の影ができた。一つは完全なる人型。もう一つは背中に大きな四角い影ができている。

 

「どうしてカバンなんか持ってるんだよ」

 

 最初に二人で宿の個室で紹介された旅用のものだ。

 アロンは右手でランプを持ち、左手で俺の裾を握りしめ、お構いなしに街道を進んでいく。

 

「それ以上行くと街から出るぞ。アロン、いったい何がしたいんだ?」

 

 気が付けば門の前、その先は真っ暗で何も見えない。怪しんだ俺はアロンの腕を振りほどく。

 振り返った彼女の顔は街のほのかな明りに照らされていて、赤い目は俺を見つめている。だが、そこからは何も読み取れない。俺に何をさせたい。

 相手の意図が分からず、俺も口を紡ぐ。しばらく二人で見つめ合うと、アロンはすぅーっと息を吸って。

 

「……逃げませんか?」

 

 アロンの声は震えていた。

 

「一緒に逃げませんか?アタシと、二人で。騎士団は負けた。魔王に勝つ術はない、なくなった。このまま全滅するなら二人で一緒に……」

 

 その震えた声で懇願する。

 思い返せばアロンは街を出たがっていた。ゴブリンを倒した後、街の中でタウロスサンドを食べる前も、ピノからこの服を買う前も。できるだけ人目に付かないようにして。

 

「ピノやレタン、カミシモはどうするんだよ?置いていくの?」

「……はい。あなただけならわたし一人で何とかなります。今まで隠していたけど、魔法には自信があります。これでも昔は魔法で人を助けてたんですから。例えばすごく無口な女の子とか、他にもいっぱい」

 

 カミシモは忍者の里からこの街へ飛ばされてきたと言った。レタンも騎士団に入れずこの街にやってきた。ピノは冒険者を諦めて商人としてこの街にいる。

 でもアロンは違う。彼女の魔法は騎士団の一部隊と同じくらいの力を持っていた。アロンほどの腕があればきっと。

 

「わたしの魔法があれば一生困らないと思います。いえ、困りません。魔王には負けちゃったけど、逆を言えば魔王でなければ何とかなります。どこか、誰も知らない場所に、二人で……二人だけで暮らしましょう。ソーサクさん」

 

 戦う人がいない街で、アロン一人があれだけの魔法を使いこなせたのか。何故、あそこでピノが引っ叩いたのか。何故、俺を誘ってくれたのか。

 いつぞやの演劇を思い出す。英雄ファレーノ兄妹と魔王モノ・ヴァレルの一幕。

 

「アロン……ごめん」

 

 それまでも、それ以降も魔法を完璧に使いこなしていたアロンが初めて暴発した、たった一度の事故。

 

「残念だけど」

 

 あれが事実なら重要な人物がいたはずだ。ダイン・アール・ファレーノ。おそらく、その人は……。

 

「俺は君のお兄ちゃんじゃない」

 

 おそらく甘えてきたり、後ろに隠れたりしたのは惚れていたわけじゃなくて、兄を重ねていただけなんだろうな。

 

「初めまして、アロン・アール・ファレーノ」

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