ハリボテ怪獣ハンドメイドン   作:破壊光線

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第六話:怪獣は動けない

 レタンのゴブリン討伐依頼、残念ながらマジだった。

 だから俺たちは町はずれの森の中にいる。

 

 ルレーフの森と呼ばれるこの場所は比較的暖かく、木々の間から木漏れ日が差し込んでいるため割と明るい。旅人が通れるような道もできているので、散歩するにはもってこいだ。人の管轄下にありそうだから強力な魔物は現れない……といいな。

 自信が無いのに何故来たのかって?タウロスサンドと新しい服に買い与えられたから断る事なんてできませんでした。

 買収された俺をアロンが睨みつける。

 

「だから早く行こうって言ったのに」

「ゴメンって。てか、アロンも美味しそうにタウロスサンド食べてたじゃないか。かぶりついているの見たんだぞ」

「う、だって美味しそうだったんだもん」

 

 先頭レタン、最後尾のピノに聞こえないよう、小声でアロンと喧嘩する。エイジン様は街で仕事があるんだと。

 で、なぜ商人で非戦闘員のピノがいるのだろうか。

 

「ついでに薬草を採取しようと思いまして。今なら頼もしい護衛もいますし」

 

 異世界人たくましい、じゃないと生きていけないのか。でも俺は護衛としてカウントしないでね。言葉通り見掛け倒しなので。

森の中を歩いているが魔物が出てくる気配はない。ぜひこのまま草むらの影とかでのんびりしていただきたい。

 ちょっと暇になってきたな。

 

「ピノさ、薬草ってどんなやつが取れるの?」

「お、ソーサク一緒に集めてくれるの?ピノちゃん嬉しい。えっとね、この辺だと確か……薬草と毒消し草、あと煙り草が採取できるかなっ☆」

 

 なんかどれもゲームでできそうな名前ばかりだな。特徴は無いのか。

 

「薬草って言っても色んな種類があるし、この辺は黄色い花と赤い木の実がついているタイプがメジャーだよ。それっぽいのがあったら教えてね。毒消し草は……たしか日陰に自生する紺色の葉っぱだったかな」

 

 薬草と毒消し草は名前通りのものとして、煙り草ってどんなやつなんだ?

 

「ソーサクさん、これです。この白い綿みたいな、ふわふわしたものがついているのが煙り草です」

「お、アロンすごいじゃん、もう見つけるなんて。これを細かく刻んでばらまくと、辺り一面に霧が立ち込めたようになるんだ。モンスターの視界を奪えるから、よく冒険者が奇襲するときのお供で売れるんだよね」

 

 霧が立ち込めるのか、特撮で怪獣が歩いているときに土埃が舞い上がるが、それに使えそうだな。俺も集めておこっと。

 そんな感じで不真面目三人組は道草を食いつつ、さらに奥へと入っていく。すると先行していたレタンが足を止めた。

 

「静かに……この先にいる」

 

 茂みの奥を覗くと、四体のゴブリンがスライムを取り囲んでいた。

 レタンこの後、どうするの?

 

「正々堂々と……」

「スライムとゴブリンを戦わせて漁夫の利を狙うのがいいと思いまーす」

 

 ピノに賛成しよう。ゴブリン対スライムなんて地球なら絶対に見れない。いい機会だし、しばらく観察しよう。

 ゴブリンは俺とアロンを襲った個体と同族らしく、身体は緑で尖がった鼻と大人の腰くらいの大きさだ。手に武器を持っているが個体ごとに違うのは、どこかで拾ってきた武器なのかな。手入れもされていないし。

 かたやスライムも緑。ゴブリンの汚い緑と違い、スライムは鮮やかな黄緑だ。楕円形の身体をゼリーや寒天のようにぷるぷる振るえさせて、四体相手に威嚇している。

 

「ちょっと、あれ可愛いんだけど」

 

 アロンの反応から女子受けは良いようだ。まあ、バスケットボールサイズの生物が威嚇しても怖くはないか。

 両者の紹介が終わったところで戦いに注目しよう。先に仕掛けたのはゴブリンだった。錆びたナイフをスライムに突き立てる。

プリンをフォークで刺したように、ナイフはぬるりとスライムの身体に埋まっていく。このままスライムの身体がぐちゃぐちゃになるかと思いきや。

 

「ナイフが……溶けている」

 

 俺の隣、レタンが驚いている。

 スライムの身体は酸でできているらしく、ゴブリンのナイフは跡形もなく溶けてなくなってしまう。そのままゴブリンの腕も取り込んだが、何の変化もない。

 レタンが目を細める。

 

「どうやらあのスライム、生物を溶かすことは出来ないようだな」

「グリーンスライムですね、あれ。金属とかレンガとか平気で溶かして食べちゃうんですけど、それ以外は無害な魔物です」

 

 ピノが言うには無機物は溶かせるが、有機物は溶かせないスライムらしい。

 鎧姿のレタンが突っ込んでいったら、今頃装備を食われて大変なことになっていただろう。

 

「じゃあゴブリンはスライム倒せないってこと?」

「うーん、スライムは火属性の魔法に弱いですが、ゴブリンが魔法を使うなんて無理ですね。ドローでしょ。あ、金属さえなければ、人間にも無害だしー、放っておいてもピノ的には問題ないかなって☆」

 

 ふざけた口調に似合わず博学な商人は、スライム対ゴブリンの戦いに興味を無くしたらしく、辺りを見渡して売れそうな物を探している。

 しかし何も見つからなかったのか。スライム対ゴブリンの観戦に戻ってきた。

 

「何か見つかった?」

「なーんにも。薬草、スライムに食われたのかな。あれ商人の敵だろ、可愛くねえ」

 

 薬草は有機物だからスライムの餌食にならないのでは?

 俺とピノが底辺魔物の戦闘に興味を無くし始めたころ、これまで沈黙していたアロンが声を発した。

 

「皆さん、今じゃないですか?ゴブリンの武器が無くなってますし」

「行くぞっ!ソーサク、アロン」

 

 レタンが飛び出した。ステゴロのゴブリンに剣をもって突撃するんですか。

 俺とアロンは二人で顔を見わせる。

 

「追うしか……ないんじゃないかな」

「え、無理ですけど」

 

 はあ。二人で大きなため息をついてレタンの後を追った。

 急ぐこともなかろうに、やれやれ。

 ノロノロと付いてくる仲間たちと対照に、かっこよく登場した女騎士レタンは、ゴブリン達の前に立ちはだる。

 

「街を荒らすゴブリン共め、覚悟!」

 

 武器を無くしたゴブリンたちは、狼狽えるばかりで攻撃する気配はない。

 対してシャキンとレタンが抜刀。

 

「なあ、アロン。魔物のゴブリンとはいえ、素手相手に剣で戦うのは騎士を名乗る者としてどう思うよ」

「作戦勝ちってことだと思いますよ」

「はあ、護衛役間違えたかな」

 

 女騎士は外野三人の言葉に耳も傾けずに単身で突っ込んだ。パーティを組んだ意味はあるのだろうか。俺としては戦いたくないので、できればこのまま一人でやっつけてくれることに期待しよう。

 幸いゴブリン達の注意はレタンに向いているし、何となくだけどレタンの使っている剣は質の良いものだろう。上級装備の一撃にゴブリンは耐えきれるはずがない。鎧も見た目通りなら、ゴブリンが引っかいても傷一つ付かないし、レタンが負ける道理はない。

 騎士レタンがオーバーキルして、俺とアロンはすごかったですね。とヨイショしてめでたしめでたしだ。

 

「剣がスライムに食われたら負けだけど……ま、大丈夫でしょ」

 

 レタンが剣を振り上げた。この間合いならゴブリンは避けられない。

 勝ったな。俺たちの出る幕はなさそうだ。ほら、今にも剣が振り下ろされて、ゴブリンが真っ二つ……。

 

 ドゴォッ! バキッ!

 

 じゃなくて剣が真っ二つになり、さらに大爆発が起こった。どうして。

 

「け、剣が折れたぁ~、まただ。今回のは高かったのに」

 

 またってなんだよ、爆発にもツッコめよ。

 武器を失って狼狽えていたゴブリン同様、剣が折れた騎士が戦える訳がない。いや、相手が素手だからレタンも武器を折って相手に合わせたのか?これが異世界の騎士道ってやつか。

 

「何で鋼で出来た剣が一振りで折れるのさ!」

「知らない、私も知りたい!」

 

 ピノのツッコミに抗議するレタン。

 地面にはクレーターが生まれているし、斬られたはずのゴブリンは木っ端微塵に消し飛んでいる。あれ、剣の形をした魔法の杖です。って言われた方がまだ納得するんだけど。

 

「ソーサク~アロン~」

 

 涙目のレタンに呼ばれ、早くも俺たちの出番がやってきた。俺の能力は残念だが、こっちにはゴブリンを倒した実績を持つアロンがいる。

 

「わたし一人じゃ無理ですよ」

「お前魔法使いだろ!今までどうやって旅してきたんだよ!」

「知りません、わたしも知りたいです!」

 

 何なんだコイツら仕方ない。俺はポケットから変身アイテムを取り出して、例のごとくボタンを押す。

 今度はちゃんと戦えそうな怪獣にしよう。腕をムチにすれば振り回しているだけで攻撃できそうだな。

 身体を発光させ、二メートルくらいの大きさに身長を変化。馴染みつつあるスポンジの感触に包まれる。ムチを握りしめ、もそもそ動いて狭い空気穴から視界を確保しようと試みるが。

 

「ナンモ・ミエナーイ」

「クソっ、ソーサクは魔物だったのか!」

「あれ、ソーサクさんの能力です。見た目だけを魔物に変えられるみたいなの。本人はカイジュウって言ってた気がするけど、どっちにしろ驚くほど弱いって欠点があるけど」

 

 何だかアロンにバカにされているような……ま、気のせいだろう。口調も違うし。

 この怪獣は両腕がムチになっている地底怪獣だ。古代怪獣ポニーテールが主食で、名前はたしか……地底怪獣のドンでチドンだったはず。

 アロンが魔法を唱える隙を埋めて、レタンが態勢を立て直すまで俺が時間を稼がないと。

 行くぞ、地底怪獣チドン。

 

「グオオオ!ミエナーイ」

 

 直径5センチくらいの円から見える視界を頼りに、雄たけびという名の愚痴をこぼしてえっちらおっちら突進する。

 

「何だあれは……遅鈍だ」

 

 今度はレタンにバカにされているような……ま、気のせいだろう。

 ゴブリン達は怯えて動けないらしく、近づくことよりも歩く方が難しかった。

 

「ツカレター」

 

 ふぅと一息入れつつ、両手のムチを振り回す。ビシバシと地面を叩きつけるチドンのムチ。その度に土埃が舞い、雑草が飛び散る。レタンほどではないがその威力は見てわかる。ゴブリンに当たればかなりのダメージが期待できるだろう。

 当たればの話だけどね。

 視界が悪いうえに着ぐるみの構造上、腕が肩まで上がらない。長いムチは先端まで動かせない。小学生の振り回す縄跳びの方がまだ危険だろう。

 

「攻撃が……当たってない、だと」

「レタンさん。アレ、基本、何も見えないみたい」

「弱体化じゃん、見掛け倒しじゃん、自爆じゃん。ピノちゃんお得意の念話と感覚共有魔法、使えるかな」

「アタシ、魔法で援護した方が良いよね?」

 

 アロンとピノが詠唱を開始したようだ。

 直後、一気に視界が開けた。

 スーツで真っ暗だった俺の目の前に、TPSゲームのような映像が映され、怪獣チドンの後頭部が見える。ピノの視界が俺に共有されているようだ。

 

「ミンナ・ミエルー」

「お、感覚共有成功したみたいっ☆」

 

 ありがとうピノ!本当にありがとう。

 よし、これで反撃開始といこうじゃないか。オラこれでも喰らえ!

 

「あー外したか。しかもゴブリンに飛びつかれたし、ちょっと笑える」

 

 はい、やっぱりダメでした。ピノさん実況してないで助けておくれ。

 ゴブリンがチドンの頭にしがみついて、いきなり頭の上辺りが重くなった。

 敵はプラスチック製の目を爪でガリガリと引っかいている。

 大抵、生物の目は柔らかいからダメージを与えられやすく、目つぶしで視界を奪える。ゴブリンにしては考えているな。

 だがチドンは着ぐるみだから目は固いし、元から視界は悪い。効果はほぼない。だって俺、実際に何ともないし。視界はピノの魔法だもの。

 

「キィイイ!」

 

 ゴブリンがチドンの頭を揺らし始めた。

 

「うわあ」

 

 バランスを崩して大きく後退してしまう。確か後ろにはアロンが!

 

「え、ソーサク、こっち来ないで。ああっ」

 

 アロンに向かって倒れてしまう。その直後、ブチッとチドンの頭に突き刺さる物音が。

 

「つ、杖がカイジュウの頭に食い込んじゃった!ダメ、魔法止まんない」

「ギャアア」

 

 次の瞬間、ゴブリンの悲鳴が響き、覗き穴と共有した映像から赤い炎が見えた。

 アロンの杖は、チドンの後頭部から口にかけて貫通し、先端から炎を放ったのだ。魔法は顔に張り付いていたゴブリンに直撃したらしく、黒焦げになった死体が落っこちる。

 

「火、火を噴いた! ブレス攻撃か?」

「強いじゃん、カッコいいじゃん、見た目通りじゃん!新種の魔物かよ!?」

 

 レタンとピノから歓声を受け、チドンはムチを振り回して突進。キィキィと悲鳴を上げ、逃げ惑うゴブリンたちに、チドンの火炎放射が襲い掛かる。

 

「ゴブリン全滅。最初はダメだと思ったけど、やるな」

「なるほど、私たちと出会う前はこうやって戦っていたのか」

 

 二人とも感心しているが、すごいのはアロンの魔法であって、着ぐるみ怪獣が戦いで役に立ったとは思えない。称賛されるべき魔法使いはなんて言うだろうか。

 

「あのー、ムチ、燃えてますよ」

 

 どうしてそれを先に言ってくれないかな。

 調子に乗ってムチ振り回して歩いていたら炎が燃え移ったようだ。ムチは作り物だから今まで気づかなかったけど、相当ヤバい状況じゃないのか?

 

「火ー消して、誰か!」

「暴れるなソーサクこっちまで被害が」

 

 ムチの炎が草原に燃え広がり、火事にでもなったらおしまいだ。

 ただでさえ悪い視界が黒い煙でさらに悪くなるし、着ぐるみの中に入ったら一酸化炭素中毒で死ねる。着ぐるみ……そうだ。

 

「チャック、背中のチャック降ろして」

「ちゃっく?ああ、この金属製のタグみたいなものか。分かった」

 

 レタンが背中のチャックをジィーと下げて、チドンの着ぐるみと燃えるムチは光になって霧散した。

 汗だくになってぶっ倒れる俺。全く、いつも思ってた以上の弱さを見せつけてくれるよな。

 

「ソーサク、何なんだ。今のは味方なのか?」

「あの魔物に変身できるかよ、火を噴けるんなら先に言っとけよな」

 

 レタンとピノから質問攻めに合う。ただ、俺が答えられるのは。

 

「知らん、俺も知りたい」

 

 疲れた。何も考えてたくない。今すぐ風呂に入りたいのと、できれば寝かせてほしい。

 地面に突っ伏した俺は、復活した生理的欲求と一緒に愚痴をこぼすのであった。

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