ハリボテ怪獣ハンドメイドン   作:破壊光線

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第九話:劇団が来た

「おーい、ソーサク、このチャックを引っ張ればいいんだな」

 

 レタンが怪力にまかせてネオザウラのチャックを開き、俺の変身を解いてくれた。

 ピノ達が戦利品としてコカトリスの羽をむしり取っている間、俺は今後の研究として尻尾からドラゴンの鱗をいただいた。

 それらを街に持ち帰ったのだから、よくぞコカトリスを倒してくれた。と広場のあちらこちらから歓声が巻き起こり、俺たちは英雄としてもてはやされることになった。

 

「いやー、皆さんのおかげで助かりました。ありがとうございます。ささやかですが、お楽しみください」

 

 街総出でお祭りが開かれ、広場には用意できる最大限の御馳走が並び、ぜひ食べてほしい。と街の人達の優しい視線が俺を追いつめた。

 善意に押し殺されそうになりつつ、料理の手を伸ばすと料理のほとんどに鳥肉が使われていた。まあ、俺には関係のないことだ。

 

 非常にかっこ悪い戦闘をした俺からすれば、素直に胸を張れるはずもない。その動機もレタンのような誰かを守りたいではなく、着ぐるみ怪獣からブレスを吐きたい。という不純の塊みたいなものなのでなおさらだ。結局、適当に料理を食べ、程よく愛想笑いを振りまいて祭りをやり過ごし、逃げるように宿屋へ退散。

 アロンが宿に戻り、部屋の鍵を受け取ると首を傾げた。

 

「あれ、部屋の鍵が変わってる?」

 

 俺たち四人はパーティを組んでいると思われたらしく、胡散臭い笑みを浮かべた店員に案内される。

 そこはアロンが宿泊していた部屋じゃなくて、豪華で大きなVIPルームに変わっていた。中央の大部屋の窓からは街の広場が一望でき、凝った装飾のテーブルにはフルーツが置かれていた。左右を見渡せば、ふかふかのベッドが備え付けられた五つの個室を発見。

 至れり尽くせりってやつだ。貴族とその従者が宿泊しそうな間取りを見てピンときた。

 

「もうしばらくこの街に滞在しろとでも言うのか」

 

 ごめんなアロン、旅立ちはもう少しお預けのようだ。

 

「そんな……」

 

 二重の意味で罪悪感が増したのは言うまでもない。

 

「みんなありがとう。そして無茶を言って申し訳なかった」

 

 これから個室でくつろごうとしたときのレタンの言葉である。

 確かに俺たちは無茶をした。

 ピノ曰く、本来コカトリスは中堅クラスの冒険者でようやく勝てる相手らしく、普通なら俺たちのパーティだと倒せない相手だ。戦力外多いし……。

 

 ピノは一人だけ逃げ出せるポジションにいたし、レタンは殉職する勢いだった。んで、俺はコカトリスが漠然と危険なんだろうなぁ。くらいしか思ってなかった。戦ってもどうにかなるだろう、んなことよりもネオザウラのツイビームを発射したいと思ってた。

 

 となると一つ疑問が残る。アロンだ。

アロンはコカトリスが危険だと分かっているし、魔法職なのに前線で戦う俺と同じ場所にいた。コカトリスから見つけにくい位置にいたとはいえ、危険度的には俺と大差ないだはずだ。

 レタンやピノ達とあまり話さないし、俺が賛同したらあっさりと仲間に加わった。もっと反対してもいいだろう。何故反抗しなかったのか。

 

「アロンって実は超強いとか?」

 

 考えても何もわかんねーや。

 そんな彼女を探して辺りを見渡すと、ピノやレタンから隠れるように俺の後ろでちょこんと座っている。

 ん、頭を差し出してきたぞ。撫でろってこと?頑張ったし、いっか。

 

「えへへ」

 

 美少女から頼りにされるのは嬉しいが、一緒に戦った仲間を露骨に避けるのはいかがなものか。出来ればあの二人とも仲良くしてほしい。

 俺がどけばアロンはレタン達とコミュニケーションを取ってくれるのかな。いや、みんなで街を散歩するのはどうだろうか。当面の間はこの街で暮らすことになりそうだし、丁度いいのかもしれない。小さなお節介を焼こうと立ち上がる。

 

「明日、みんなで街を歩きませんか?」

「いいね☆ ピノちゃん賛成。明日は劇団が来るし、みんなで観に行こうよ。ね」

「そうだな剣を新調したい。今度こそ折れないやつを」

 

 ピノとレタンから賛同を得た。

 これでアロンも友達ができるといいけど。

 

「えっ」

 

  ……アロンさん、能面みたいな顔で俺を見つめないで。ここまで人付き合いが嫌いだって思わないじゃん。

 

 

 

 次の日。

 俺たちが宿を出た瞬間、街の人たちに囲まれて世話を焼かれた。

 アロンは街を出たいと言っていたが、この様子だと今日街を発つのは、案の定不可能だったわけだ。本人も理解したようで、俺の後ろにピタリと引っ付いている。

 俺は開き直ってお昼を店主に奢ってもらい、レタンは三割引きで剣を売ってくれたなど、昨日に引き続き手厚い歓迎を受けた。

 無言のアロンを引き連れ、四人で適当に時間を浪費していると、街の外から賑やかな音楽が聞こえてきた。なんだこれは、レタン分かる?

 

「劇団が到着した合図だ。……そうか、ソーサクは初めてだったな」

 

 これが噂の。

 

「それじゃ、ピノちゃんテトランプを渡してくるから大人しく待っててね☆」

 

 ピノはゴブリンたちに奪われそうになった、例のライトを持ってパタパタと走っていった。

 しばらく時間が経ったがピノは戻ってこない。

 俺たち三人はどうしたのかと気になって、ピノがいるであろう劇団を探して街を歩く。

 人だかりの中に白くて大きなベレー帽を発見。

 

「レタン、アロン、あれピノじゃね?」

「おお、ソーサクよく見つけたな」

 

 あっちも俺たちに気づいたようで、遠くから手招きしてる。

 

「呼んでるみたいです。どうします?」

 

 アロンが小首をかしげる。

 何かあったのだろうか、面倒ごとなら避けたいのだが。

 

「きっと問題発生だ。行こう」

「待ってレタン。はぁアロン、追いかけよっか」

「……自分に正直な人ですね、ちょっと羨ましいです」

 

 俺たち二人は、人だかりへ駈け込んでいくレタンを追った。

 あの女騎士はどうしても善人ムーブをしたいらしい。せめてモンスターの討伐に巻き込まれないことを神様に祈ろう。でも神様がエイジン様だから無駄か。

 悲しいことに神様に見捨てられた俺とアロンがピノに献上されると、劇団の人たちが待っていた。

 見知らぬおじさんに、ピノが掌を向ける。

 

「こちら、劇団の団長さんです」

「初めまして、私は団長のランドです。お恥ずかしながら、移動中に魔物の仮装が壊れてしまいまして。本日の公演ができず、困っていました」

「はい、と、言うわけで、ソーサク、出番だよ☆」

 

 キャハッとピノのウインクを受けて考える。

 今度は何に巻き込まれたんだ。と。

 

 ピノの無茶ぶりを一言で表すと、劇で使う魔物の着ぐるみが壊れてしまったから、俺の能力で何とかして助けてほしい。とのことだった。

 なるほど、俺の能力なら怪獣の着ぐるみを一発で創れる。まさに適役だ。確かに面倒ごとだが。

 

「分かりました。怪獣の着ぐるみを作ることは俺の特技です。お任せください。」

 

 俺は乗り気だった。ここで実力を発揮すれば劇団に入団できるかもしれないし、なんてったって着ぐるみ怪獣の正しい使い方をするんだもの。やる気も出てきますわ。

 

「おお、ありがとう」

 

 凛々しく答えて団長さんと握手する。ちょっとだけレタンの気持ちが分かった気がした。

 

「なんなら怪獣役で劇場に出してもらえませんか? 故郷で同じような経験をしました。お役に立てるかもしれません」

 

 今回は戦闘じゃなくて劇、炎魔法で怪獣にブレスを吐くようなことはしない。倒れると大変なのは相変わらずだが、日本のヒーローショーで同じようなことをやっていたし、一人でもなんとかなるだろう。

 これならレタンやピノに迷惑をかける必要もなく、自己完結できると意気込んでいたら、意外な人物も名乗りを上げた。

 

「わたしも協力します。炎とか爆発とかの演出なら任せてください。魔法で何とかできます」

「君は……」

「アロンです。職業は魔法使い。よろしくお願いします」

「アロン? ほう、これも何かの縁だ。彼とは同じパーティで戦っていたようだね。うん、相性も良いだろう。こちらこそ、よろしくお願いするよ」

 

 アロンの気迫に押されたのか、ランドさんから許可を得た。確かに俺一人で何とかなるが、アロンを爆発担当に持っていけば、念願の特撮怪獣演劇も夢じゃない。いいぞ、この流れ。

 

「とその前に君のモンスターの仮装を見せて欲しい。今回のモンスターはワイバーンを予定していたから、翼の生えた凶暴そうなのがいいな」

 

 お客さんに見せる必要があるから先にクオリティを確認したいのだろう。任せておけ。

 翼が生えていて凶暴そうな怪獣か……。

 

「分かりました。それならこんなのはどうですか?」

 

 例のカプセルを使って宇宙怪獣に変身する。

 自動車の初心者マークのような頭に鋭い目。翼にはカギ爪が生えていて、ワイバーンにも負けないくらいかっこいい。人を食べるほど凶暴で、必殺技は口から放つなんでも切断してしまう音波カッター。

 その名も音波怪獣ガオスだ。どうでもいいが名前の由来はガオーって鳴くからである。

 本来は八十メートルほどだが、演劇仕様に合わせて体長は五メートル。俺が中腰になったとき、団長さんと同じくらいの背丈になるように合わせた。

 俺がガオスの着ぐるみを装備すると、団長のランドは予想どおり喜悦の声を上げた。

 

「すごい、これはすごい!劇団を長くやっているが、これほどまでリアルなモンスターは初めてだ」

 

 おほめ頂き光栄です。あとガオスは怪獣です。

 

「このモンスター、頭は動かせるのかな、口は開くのか?」

 

 開きません。俺が動かせるのは翼と足くらいです。あと怪獣です。

 

「何を言っているのか分からないけど、無理だということは理解した。それならこちらにも考えがある。おーい、カミシモ」

 

 音もなく女性が団長の横にひざまずいていた。彼女がおそらくカミシモだろう。

 

「……お呼び、ですか。え、知らない人」

 

 劇らしくかっこよく登場したけど、君もコミュ障なの?

 不安になりつつも気になるので、狭い覗き穴から必死にカミシモの様子を探る。

 服装は和服……いやシノビ装束だっけ。草鞋に帯、腰には小刀を装備。劇団の衣装なのかは知らないけど、肌の露出度がすごい。それにデカい、何がとは言わないが。クソ視界の悪さが悔やまれるぜ。

 

「カミシモ、彼は今回のピンチヒッターだ。モンスターの仮装をしてもらったんだが、口と頭が動かせないらしい。だから君の忍術で動かせると嬉しんだが」

「しばしお待ちを」

 

 頭部をチェックするためにカミシモが接近。ここでようやく素顔が分かる。と思ったんだけど、赤い仮面で隠れてご尊顔は拝めない。あの仮面、アロンの赤い服と似たような色をしているな。

 俺が人間観察をしているうちに、カミシモはガオスの頭部を触って、口をいじると。

 

「……できます」

 

 とだけ言った。

 団長さんはその一言で理解したらしく。

 

「ありがとう、カミシモ。ソーサク君、彼女はこんな人物だけど腕は確かだ。カミシモ君、コイツを飛ばすことは可能かな?」

「御意」

「糸を使った忍術が得意なんだ。それでガオスを引っ張ろうって訳さ。大丈夫かな?」

「もちろんです! むしろお願いします」

 

 ガオスが飛ぶ、口が開く、頭が動く! 操演だ、操演技師が現れた。やった特撮だ。操演怪獣だ。すごいぞ異世界のヒーローショー。アロンのエフェクトと組み合わせれば、ショーをやりながら特撮も出来る。

 エイジン様ありがとう、本当にありがとう。貴方を信じて良かった。宗教があったら今すぐ信仰したい。聖典は怪獣図鑑でしょ?

 心の中で狂喜乱舞していると、団長さんが声を張り上げた。

 

「みんな集まってくれ! 今回の演目『ファレーノ兄妹のドラゴン退治』の変更点を伝える」

 

 ぞろぞろと劇団員たちが集まってくる。かなりの人数がいるんだな。

 

「えっ」

 

 アロンよ、人数の多さに怖気づいたな。劇が始まったらこんなものじゃないぞ。

 

「まず問題となっていたワイバーンの件だが、ここにいるソーサク君の仮装でいくことにした。それとアロンさんという魔法使いが、演出で協力してくれることになった。彼女にはワイバーンの攻撃を担当してもらう予定だ」

 

 あちこちから、よろしくと歓迎してくれた。

 お辞儀の一つでもしたいが、着ぐるみだと頭を下げれないので、アロンをコツいてチャックを降ろしてもらう。

 

「あ、チャック降ろしますね」

 

 変身解除、おおっと歓声が上がる。非常に気持ちがいい。

 劇団スタッフと挨拶を交わして、早速、劇の打ち合わせに入った。

 

「これがモンスターのセリフになるんだけど……」

「ガオスは人語を話しません。ここは絶対に譲れない。あと怪獣です」

「……そ、そうか。まあ、初めてだし、こっちでフォローしたほうがいいか。うん、舞台裏で魔王役が喋るとして……」

 

 一部俺の拘りがあったものの、打ち合わせはスムーズに進んでいった。

 俺の仕事はガオスになって暴れること。なんと火炎放射のおまけつき。原理はアロンの杖を舌に仕込み、威力を調整したら、戦え火を吐く大怪獣の出来上がり。音波カッターは怪我人が出るから無理だったよ。

 なおガオスを動かすには俺、カミシモ、アロンの三人が息を合わせる必要が出てきてしまい、結局。

 

「ピノさ、念話よろしく」

「あ、はい。分かりました。団長さん、わたしがガオスの仲介役やるんで、報酬上乗せしてくださいね☆」

「ああ、お金は弾もう。この公演は絶対に成功するぞ」

 

 ピノ、参戦。

 

「待ってくれ。私だけ仲間外れなんてあんまりだ」

 

 ここまで来るとレタンも何かやりたいと言い出し、ガオスの飛行中の操演を担当することになった。力に任せて糸を引っ張るお仕事である。

 最終的にスーツアクター、俺。指示だし及びガオスの鳴き声担当、ピノ。操演技師、レタンとカミシモ。エフェクト担当、アロン。計五名。ただの演劇にも関わらず、コカトリス討伐戦よりも豪華なチームが結成された。

 コカトリスを倒したパーティが劇をやる。という噂は街中に広まって、チケットは飛ぶように売れた。前評判が良かったのか、街で一番大きな広場を借りることも決定。演劇が一大イベントなだけあり、街全体の協力を得て、簡易的ながら舞台を作ることになった。野外ステージのくせに屋根付きだ。ま、操演的に屋根無いとガオス吊るせないからね。

 

「これほどの規模の劇は王都以来だ。みんな、はりきってやるぞ」

「おー」

 

 劇団の士気は高い。レタンやピノも初めての劇とあって、緊張はしているが、やる気に満ち溢れている。

 え、俺? 人生の絶頂期を迎えたと勝手に思っている。反比例してアロンのテンションが低かったが、まあいつものことだろう。




来たのは円盤ではないです
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