彼らと地球人が協力する光景を見たエルマは、ある出来事を思い出す。
それは地球人と異星人が初めて意思疎通を果たした瞬間……
1話完結
※クリア後のネタバレあり!※
時系列は5章以降~8章直前辺りを想定。
ゼノブレイドクロスDE発表を記念して。
リンちゃんのキズナクエスト2を元にした、プレイ当時の妄想を出力しました。
DEの追加ストーリーと矛盾するかもしれないし……発売前の今しかねえ!
「……確かにエネルギー効率が落ちているわね。」
「そうなんです、でもそっち方面は私達アームズは疎くて……」
「途中のエネルギーバイパスは問題なし……238番から250番ケーブルをチェックしなさい。どこかに問題があるはずよ」
「え、もうわかったんですか!? さすがエルマさん……」
惑星ミラ、唯一の地球人の街、NLA。
様々なトラブルを抱えながらも、地球を脱出した人々はこの街で懸命に暮らしている。
「ありがとうございます、すぐにチェックします!」
工業エリアの片隅で、1人の男性が頭を下げたかと思うと、慌ただしくその場を走り去って行った。
「あら? 忙しないわね」
エルマと呼ばれた女性は、走り去る背に軽く微笑んだ。
彼女はこの街の自治組織、BLADEの一員。褐色の肌に蒼い目と銀髪が映える美しい顔立ちをしているが、彼女の本業は戦闘。危険な原生生物や敵性異星人が跋扈するNLAの外で、これまでいくつもの重要任務をこなしてきた。
首から下を覆うのはグラナダGG製のインナースーツ。黒いボディスーツの上に、紫のガントレット、赤いロングブーツ型のレッグガードを装備し、上半身にはポンチョのような赤のハーフジャケットを羽織る。動きやすさを重視し戦闘用に設計された装備が、今の彼女の普段着だった。
(さて、リンを迎えに行かないとね)
突然の相談を片付けたエルマは、当初の目的地に向かう。野暮用で工業エリアにいた彼女は、同じく工業エリアにいるチームメイト……リンをランチに誘った。BLADEの任務、料理、新装備の開発……忙しい彼女を気分転換させるためだ。
(それにしても……この街もずいぶん様変わりしたわね)
待ち合わせ場所に向かう道すがら……ノポン人やマ・ノン人とすれ違い、エルマは感慨にふける。工業エリアと居住エリアの間、空に浮かぶマ・ノン人の巨大宇宙船――当人たちは小さいほうだと言っていたが――NLAの外観を大きく変えたそれをエルマは遠目に見上げた。
エルマチームが任務中に接触したノポン人やマ・ノン人、彼らと友好を結んだNLAは多くの住民が増えた。そのおかげか、他にもNLAへの亡命を願う異星人からコンタクトがあった。今頃はもう1人のチームメイトがそちらに向かっている頃だろう。
(チームと言う枠に囚われない……その自由な発想、私が見込んだ通りね)
エルマが試験場の入り口に到着した時……ある光景が彼女の目に留まった。
「ちょっと待ってヨ! もうすぐピザが届くんだからサ!」
「その前にこの書類をチェックして、待ってる間にできるでしょ?」
「しょうがないナー……」
入口の脇でマ・ノン人が地球人から書類を受け取り、それを自分の端末でスキャンしている。
(あれは……)
惑星ミラでは不思議な事に、異星人同士でも問題なく言葉での意思疎通が出来る。おかげでエルマ達BLADEはスムーズに彼らと交渉できた。だが文章については、各々の技術力で翻訳させている……というのがNLAの現状だった。
「……オッケーオッケー! 問題ナシ! このまま進めちゃうヨ」
マ・ノン人が書類にサインする姿を横目に、エルマは地球でのある出来事を思い出していた。
(地球にもあんな翻訳機があれば……いえ、私が持っていれば、もっと早く……)
それはエルマが地球で踏み出した最初の一歩……
――――――
エルマは地球人ではない。アレスと呼ばれる搭乗型人型兵器……ドールと共に地球に訪れた異星人だった。文字通り雪のように白い肌、紫に輝く目、煌めく水晶の髪……彼女を最初に発見した軍の兵士は、その幻想的な姿に見とれてしまったという。
彼女は某国の政府に保護され……軍の極秘エリアでアレス共々研究対象となった。壁も天井も真っ白な部屋に軟禁され、何らかの身体検査を受ける日々……その合間に研究者達の言葉に耳を傾けるが……
「○△◆×……」「◆△×○○……」
(ダメ……全然わからない)
言葉が通じない。
彼らに問いかけられても、エルマは首を横に振るしか無かった。
(私がこの星に落ちた事は奴らも察知するはず……早く情報を伝えないと、この星が危ない)
当時のエルマは焦りを覚えていた。自分のせいでひとつの星が……種族が、文明が滅びるかもしれない。もしそうなっていたら彼女は自分を許さなかっただろう。
(どうすればいいの……?)
エルマはその日、ベッドの上で膝を抱えていた。幼き日の彼女は不安に耐えきれず、目に涙を浮かべた。どれだけそうしただろうか? 不意にエルマは扉が開く音を聞いた。慌てて涙を拭い、扉の方を見ると……
「◆◆△、◆◆△!」
自分より慌てている訪問者の姿が見えた。
「○×△×! △●■■……××……」
その女性はエルマのすぐそばに駆け寄り、顔を間近まで近づけた。かと思うと、すぐに申し訳なさそうにはにかみ……程々の距離に離れた。
(ひょっとして……泣いてるの見られた?)
恥ずかしいとも思いつつ、気遣いを嬉しく思ったエルマは彼女に微笑む……それは地球に訪れてようやくできた、初めてのコミニュケーションだった。
それから、その訪問者はエルマに様々な物を見せた。金属の紐で纏められた白紙の紙束とカラフルな芯を持つ木製のペン、カチカチと音を立てて針が動く機械、上下が白い青い球体……
まるで共通点の無い物を見せられたエルマは、戸惑いながら……その意図を汲み取る。
(興味を示せば……意思疎通のキッカケになるかしら?)
悩みぬいた末エルマが手に取ったのは……訪問者の首に下がっていた名札だった。
「◆△?」
「ちょっと貸してもらうわ」
エルマは名札をじっと見つめる……
(持っている人の顔写真……きっと身分を表す物ね。なら写真の横に書いてある文字は……)
次にエルマは紙束とペンを手に取り、真っ白なページに見よう見まねの文字を書き始めた。
M i r a T o r r e s
「……○△」
「これが貴方の名前?」
「△◆……△◆!」
エルマがその文字列と訪問者を順番に指さすと、彼女は力強く頷いた。そして自分の胸に手を当て……ゆっくりと名乗る。
「ミラ……ミラ・トーレス……×◆△■」
(うまくいったわね。今度は私に教えて?)
微笑む訪問者……ミラにエルマは自分が持っていた赤いペンを差し出す。
「■■?」
ミラが戸惑いながらペンを受け取ったのを見とどけ、エルマは自分を指さした。
「エルマ、私の名前はエルマよ」
そしてページの余白を指さし……いたずらっぽく笑う。
「……〇、△◆!」
ミラはゆっくり丁寧に、新たな文字列を書く……
E l m a
「これが……エルマ、私の名前?」
「△◆!」
その文字を撫でながらエルマが尋ねると……ミラは力強く頷いた。
それは地球人と異星人が、初めて意思疎通できた瞬間だった。
――――――
それからエルマは地球の言語を勉強し……地球の言語で知っている情報を全て伝えた。
(……もし翻訳機があったとしても1年も変わらないじゃない)
自分の後悔が殆ど無意味だと気づいたエルマは、自嘲気味に笑う……
「エルマさん、どうしたんですか?」
「なんだか悲しそうですも」
「あら、2人ともいつ来たの? 気づかなかったわ」
黒髪ボブカットに赤いヘアピン……チームメイトの少女リンと、丸っこくてクリーム色の体毛に覆われた体……ノポン人のタツ、待ち合わせしていた2人に声をかけられ、エルマはそちらに振り向いた。
「今来たとこです。それよりエルマさん、何か……悩みでもあるんですか?」
「悩み……そういうわけじゃないわ」
「ホントですも~?」
「ええ、昔の事を思い出してただけ」
心配する2人にそれは無用だと答え……ふと、リンを見つめる。
「ねえリン、あなたは機械工学の勉強……楽しかった?」
「え? もちろんです! お父さんやお母さんとの大切な思い出ですから」
リンは自信をもって答えた。それが今の彼女の誇りなのだろう。
「でもどうしてそんな事聞くんですか?」
「勉強したあの時間は大切な思い出……私はさっき、そう考えていたのよ」
エルマがミラや他の研究者達に地球の言葉を勉強したいと伝えた時……彼女達は喜んで協力した。おかげで今は地球人の仲間と共に、ミラの大地で生きていくことができている。
(翻訳機だよりだったら、きっとこうは思わなかったでしょうね)
「タツは勉強嫌いですも。それより早くご飯食べたいですも!」
「も~……食い意地張っちゃって」
欲望に忠実なノポン人らしさを見せるタツに、呆れるリン……仲が良い2人のいつものやり取りに、エルマはそっと微笑んだ。
(地球人はこの星で新たな友と出会えた。素晴らしい事ね)
異なる星の者達が集まり共に生きていく街NLA。エルマはその光景と、自分が地球人と初めて意思疎通したあの瞬間を重ね合わせ……決意を固める。
「ねえタツ、あなたに頼みたいことがあるの」
「も? なんですもエルマさん」
(私と地球人が互いの言葉を知ったように……今度はこの星で彼らと)
「私に、ノポンの文字を教えてくれないかしら?」