アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」   作:ムテキング

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真嶋智也という男

高度育成高等学校、1年Aクラス担任、真嶋智也の朝は早い。

 

 

まだ日も登らぬ早朝4時に起床。

手早く洗顔と身支度を整え、着慣れたジャージを羽織ってトースターに食パンを2枚投入する。

パンが焼ける間にお湯を沸かし、レタスとハムとトマトで簡単にサラダを作る。

そしてパンが焼けるとたっぷりのバターを乗せる。

テーブルに置いてあるノートパソコンを開き、深夜に届いた大量のメールを処理しながら、トーストとサラダ、そしてインスタントのコーヒーで朝食を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくメールを処理し終えると、時刻はそろそろ5時になる頃。

真嶋智也は教員寮の自室から出る。

未だ外は薄暗く、誰も居ない道を足早に歩く。

行き先は学生寮だ。

1年の学生寮の前につくと、既にそこには複数の男女が揃っていた。

 

 

「真嶋先生、遅いですよ」

 

「すまんな。今日は特にメールが多くて処理に時間が掛かった」

 

 

男女の中の1人、紫がかった黒髪の少女、黒川あかねが真嶋智也を窘める。

彼らの集合時刻は早朝5時で、既に5分ほど遅れていた。

 

 

真嶋智也は欠員がいないかどうか揃っている男女を見渡して確認する。

 

 

「では、芸能部の本日の活動を開始する」

 

「はい。では、先ずは準備体操から始めます。外村君、お願いします」

 

 

真嶋智也の開始の合図と共に、芸能部の部長である黒川あかねが指示を出す。

指示を受けた少年、外村秀雄は用意されていたラジカセの再生ボタンを押す。

そのラジカセは随分とレトロで、黒人が肩に担いでいそうなほど巨大である。

勿論、大きさに見合うパワフルな音が売りの昭和のラジカセである。

キュルキュルとテープが回る独特な音が鳴った後、スピーカーから誰もが子どもの頃に聞いたであろうメロディが流れてくる。

 

 

「腕を前から上に上げて大きく背伸びの運動から~」

 

 

ラジオ体操である。

 

 

重低音たっぷりに鳴らされるラジオ体操に併せて、十数人の高校生達が一糸乱れぬ動きで体操を行っていく。

真嶋智也も彼らと共にそれを行う。

教師とは生徒の模範になる者である。

無様な体操をするわけにはいかない。

背筋を伸ばし、手の指先まで神経を張り詰めさせ、完璧な体操を披露する。

 

 

体操は第一、第二、そして第三を超えて、知る人ぞ知る第四までキッチリ行う。

第四は倒立や柔軟なども含む難易度が高い物で、生徒にはまだ慣れておらずふらつく者もいるが、真嶋智也は最後まで完璧にやり通す。

 

 

「私も最初に第四を見たときは無理だと思ったものです。ですが生徒である黒川と星野は問題なく熟していたので、指導者である私が出来ないというのは面目が立たないと、通っていたジムのトレーナーに頼み込み特訓をして完璧に行えるようにしました。(プライバシーを考慮して音声を加工しています)」

 

 

この仕事へのこだわり。生徒への真摯な態度こそが、彼がAクラスを担任する事になった要因ではないであろうか。

 

 

体操を終えた彼らは、若干上がった息を整えた後、次の運動を始める。

 

早朝ランニングである。

 

この広い高度育成高等学校の敷地を、彼らは列をなして走って行く。

真嶋智也は危険がないように、彼らの最後尾を走ってついていく。

 

 

彼も既に二十代後半である。

十代である彼らの体力についていくのは難しい。

だが彼は、「自分よりも十も年上の彼女ですら頑張っているのだから」と意味不明な事を言いつつ走り続ける。

どう見ても彼より年上の女性などいないように見えるが、彼には私たちには見えない何かが見えるのであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

10キロの早朝ランニングを終える頃には、そろそろ6時になる。

生徒の中には息も絶え絶えになって座り込む者もいる中、真嶋智也は気力を振り絞って立っている。

生徒には決して弱みを見せない。まさに教師の鑑であろう。

 

 

だが朝の活動はまだ終わっていない。

部長の黒川あかねは座り込む生徒達を鼓舞し、立ち上がらせる。

そして、発声練習を行う。

 

 

「姿勢を伸ばして!」

 

「あーあーあーあーあー」

 

「もっとお腹から声を出して!」

 

 

部長である黒川あかねは劇団ララライに所属する天才女優である。

彼女の指導は的確であり、半月前には素人同然であった部員を一端の演劇団員と遜色ないレベルまで鍛え上げていた。

 

 

部長の指導の下、生徒達の声は学生寮棟に反響し、空高く響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

発声練習が終わり、部長の黒川あかねに代わり、金色の髪と碧眼の男子生徒、星野アクアが前に出てくる。

 

 

「では次はダンスレッスンを行う」

 

 

彼はラジカセの側に置いてあったヒヨコを模したかぶり物を頭部に装着し、上ジャージを脱いで上半身裸になる。

現れたのは鍛え抜かれた細マッチョな肉体である。

 

 

「ではB小町の名曲、『サインはB』からだ」

 

 

ラジカセから大音量で音楽が流れ、彼は踊り出す。

それに併せて、生徒達も一緒に踊り出す。

真嶋智也も同様だ。

 

 

「ウリャオイ!ウリャオイ!」

 

 

激しく、情熱的に、そして美しく踊る上半身裸のヒヨコ。その名は星野アクア。新進気鋭の若手俳優である。

そして彼は同じ事務所に所属する先輩である筋トレ系ユーチューバー、ぴえよんの弟子でもあった。

 

 

そして彼の指導を受けて踊る生徒達、その中心に現役アイドル、『B小町』のMEMちょの姿があった。

ジョギングを終えた直後は真っ青な顔をして息を荒げていた彼女だが、流石現役のアイドル。

ダンスの完成度は生徒達の中では一番である。

例え疲れで笑顔が引きつっていようが、そのダンスのキレの良さは、あっ、足がもつれてこけましたね、顔面から。

流石B小町の汚れ担当。キッチリ笑いを取りにいく姿勢には感服させられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンスレッスンが終わると、今度はモデルレッスンである。

 

 

彼らの中から見目美しい少女が前に出てくる。

彼女は若手人気モデルの『雫』である。

外部との接触が禁止されている高度育成高等学校に入学し、活動が危ぶまれていたが、芸能部へと所属することでモデルへと復帰を遂げている。

 

 

彼女はモデルの被写体として映えるポーズなどを指導していく。

部員の中には彼女の指導を受けてモデルデビューを果たした少女達もいる。

 

 

清い天使の様な顔と悪女のような顔の二面性で妖しく魅了する『桔梗』

 

 

小動物的な愛らしさで小さな子どもから大きなお友達まで幅広く大人気の『みーちゃん』

 

 

他にも鋭い顔つきと鍛え抜かれた細身の身体という独自性の強い外見でアクション俳優としてデビューが決まった『鬼頭隼』も、この芸能部の一員である。

 

 

他の部員達はマネジメントなどを主に担当するサポート部門の部員ではあるが、彼らも容姿が端麗な男女が多く、密かな人気を獲得している。

特に知的なメガネ男子の『幸村輝彦』は星野アクアとのカップリングで貴腐人達の妄想を膨らませ、影が薄く幸薄そうな『山村美紀』は彼女にバブみを感じてオギャる紳士達を大量に産みだしていた。

 

 

芸能部の公式ファンクラブで毎週販売されている、部員による公式部活動記録の電子写真集が既に合計50万部も売り上げていることからその人気が窺えるであろう。

星野アクアと幸村輝彦、鬼頭隼の3人がシャワーを浴びた直後の半裸スナップを掲載した第二号など、噂が噂を呼び、未だに販売数を伸ばしているほどである。

 

 

そんな彼らを指導してきたのが真嶋智也である。

既に芸能界で活動していた3人を指導するだけではなく、埋もれていた才能を発掘し開花させて世に発信した彼の手腕は正に天才的であろう。

 

 

真嶋智也のプロデュースが今後の芸能界に新たな時代を切り開く、そう感じるのは私だけであろうか。

 

 

「生徒の可能性を引き出し、開花させて、それを世に送り出す。それが教師の使命だと私は考えています。それを阻むものは例え学校の上司だろうが、理事だろうが、私は戦い、生徒達の将来を勝ち取って見せます。それがどんなに苦難の道だろうが私は諦めない。何故なら私は彼らの模範となる教師だからです。(プライバシーを考慮して音声を加工しています)」

 

 

そう語る彼の眼差しはとても熱く燃えていた。

 

 

そんな彼の1日はまだ始まったばかり。

そして、彼のプロデューサーとしての道もまだ始まったばかりである。

 

 

 

『高度育成高等学校 芸能部 活動記録 vol.1』

 

 

監督 五反田泰志

 

製作 鏑木プロダクション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壮大なエンディングテーマが俺の端末から流れてくる。

そして、職員室のテレビに映された国営放送のチャンネルからも同じ音楽が・・・。

 

 

 

「なんだこれは・・・」

 

 

喋った記憶がない台詞を熱く語る映像の中の俺の姿を見ながら、呆然として呟く。

 

 

何が何だか分からない。頭がおかしくなりそうだ。

 

 

「真嶋先生、ちょっとよろしいでしょうか」

 

 

俺の肩をサングラスを付けた体格の良い黒服の男が掴む。

 

 

「今の放送について理事長から出頭命令が出ています」

 

「ちがう・・・これな何かの間違いだ。あんな撮影、俺は何も知らない」

 

「ですが、真嶋先生の部屋からしっかり撮影されていましたよね。言い訳は出来ませんよ。今すぐ理事長室への出頭をお願いします」

 

 

俺は職員室にぞろぞろと入ってくる黒服達に掴まれ、なすすべなく引きずられていく。

 

 

「俺は!俺は何も知らないんだーーーーーー!!」

 

「ええーい!観念してついてくるんだ!」

 

 

そして真嶋智也は“今日もまた”理事長室へと引きずられていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一部始終を見ていた茶柱佐枝は思った。

 

 

「私が顧問じゃなくて本当に良かった」




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