アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」 作:ムテキング
「真嶋先生、予想通り連行されたようです」
あかねが職員室を監視していた部員からの連絡を受ける。
放送終了から10分、想定通りだな。
「では真嶋先生が戻ってくる前に本日の活動を始めようか」
『芸能部』が発足してから、もう半月が過ぎた。
この部が発足するにあたり、色々上の方が揉めたようだが、幾つかの制限をかけることで設立が叶った。
「真嶋先生が戻ってくる前に色々済ませないとね」
「他の代理の監視の人はやっぱり今日も来ないな」
「外出の時は来るけど、学内だと監視が甘いようだね」
部活中は顧問の真嶋先生による監視があるが、学内での活動の場合は真嶋先生が居ないときは監視がなくなる。
ただし、高育の敷地外へ外出して行う活動の場合は、真嶋先生が来れない場合でも他の職員が監視にやってくる。
本来は学内での活動でも外部とのやりとりがある以上、監視は必要らしいが、職員も本来の仕事が有るため、実際に代理の職員に監視されたのは最初の数回だけだった。
なので、俺たちは教師に知られたくない活動をする場合は、今回の様に真嶋先生が呼び出されるように手回しをしているわけだ。
「あーあ、真嶋先生、またお給料減らされるのかな」
MEMちょが心配そうな顔をしているが、真嶋先生はここ数年Aクラス担任を続けていて給与や賞与が他のクラスの担任より何倍もあるらしいので、ちゃんと貯蓄していれば大丈夫だろう、たぶん。
「とりあえず、先ずは売り上げやギャラなどの収入について話すか」
俺はパソコンで会計ソフトを立ち上げる。
「写真集の売り上げは今週も好調だ。また、モデル関連のギャラなども上がってきているな」
「確かに凄い金額だけど、幾ら売り上げてもこのお金はそのままじゃあんまり使えないんだよね」
櫛田がやれやれと肩をすくめる。
芸能部の活動で稼いだギャラや売り上げは、そのまま全額高育内のポイントへは変換できない。
全額ポイントに出来るのなら部員全員を1学期中にAクラスに移動できてしまうからだ。
クラス移動に必要な金額は2000万ポイントと、普通に考えると貯めるのは無茶である。
だが、芸能人からすれば、安くはないが貯めれない金額ではない。
ましてやこの部には今一番旬な天才女優である黒川あかねが所属しているのだ。
他にもアイドルのMEMちょや人気モデルの雫こと佐倉愛里もいる。
俺だってガチ恋や東ブレの後から出演依頼は増えているのだ。
なので、当然収益のポイント化や使用方法に制限が加えられた。
当然、働いて稼いだ正規の収入なので、全部高育が回収するなどというバカなことはされない。もしするようなら裁判沙汰だ。
部活動で稼いだ額は、別途用意された芸能部用の口座にプールされる。
そしてその中から、芸能活動部員は上限50万、サポート部員は上限30万まで毎月ポイントに変換できることになっている。
また、個人で幾ら稼いだのかとかは記録されていて、卒業時に残りの額から稼ぎの割合を計算して分配される。
なので芸能活動部員が毎月変換できる分を全部貯めておいても3年で1800万。
後200万を他から用意できるならクラス移動は可能とのことである。
ただし、部員が退学処分などになる場合は、芸能部口座にプールされた中から2000万を使用して取り消しにできる。
部員以外のクラスメイトなどには使えないが、それだけでも大きなアドバンテージを取れるだろう。
勿論、犯罪行為で退学処分の場合は取り消せないが。それを聞いたとき、神室の目が泳いでいたが本当に気をつけてくれよ。
「確かにこのままプールされた状態だと使えないな。だからこそ、外村、いつも通り洗浄頼んだぞ」
「はいはい、任せるでござるよ。真嶋先生の撮影といい、音声のでっち上げといい、本当に人使いが荒いでござるよ」
外村がぼやきつつ、自身のノートパソコンで作業を開始する。
「では、芸能部から色々と資材を、ブーゲンビリア貿易に発注するでござる。それでチャーターした貨物船のうち1隻タイ南部の海域で海賊に会う感じで、その損害を保険で補償してもらい、横流しするでござる。他にも熱河電影公司に海外ロケの際のホテルや現地スタッフを空発注して、キックバックを貰うでござるよ。それらは全て別途用意した2年生数人の口座に分けて送金してもらうでござる」
「手数料とかで半額ぐらいに目減りするが、貯まっていくのを眺めてるだけの倉庫の肥やしよりはマシだな」
「お金なんて結局使えなきゃ意味ないでござるからな」
こうやってプールされたお金の一部を外村の伝手を使い、マネーロンダリングして使用できる綺麗なポイントに変換しているわけだ。
ちなみにこれらのやりとりは全て真嶋先生のアカウントを利用しつつ、その上でバレないように通信偽装をしているので、最悪バレたとしても真嶋先生の首が月まで吹っ飛ぶだけで済む。
いくらかは真嶋先生の名義で作った隠し口座にも流れているしな。
卒業時までバレなければ迷惑料としてそれを真嶋先生にプレゼントする予定だ。
「大丈夫だ、問題ない。真嶋先生の次の仕事は鏑木プロデューサーに頼んでおいたから」
「もしもの時も安心だね、アクたん」
「では次に、報告だが、4月末に小テストがあるらしい」
「小テスト?」
「ああ、これは成績“には”影響しないテストで、毎年行われてるようだ」
これは今後の高育の学習内容を把握するために、上級生から過去に行った定期テストを購入しようとしたときに知ったことだ。
その上級生は「4月なのにもう気付いたのか。ほら、ちゃんと小テストもつけてやるぞ」と言って渡してきたのだ。
それを不審に思い、別の学年の生徒にも売って貰ったが、同じような反応をされて、小テスト付きで売って貰えた。
「その過去問からすると、その小テストと、1年生の最初の中間試験は毎年同じ問題が出ている。少なくとも過去2年は」
「Dクラスの弩級のアホ共がどうやって中間試験を乗り切るかと思っていたが、そもそも最初の中間は真面に学力を測るテストではないってことか」
幸村がメガネを光らせながら考察する。ちなみにどうやって光らせているのかは謎だ。
「そういうことだな。ちゃんとした学力テストは期末からになるようだ。それまでに学力を付けておけということだろう。ちなみに1学期の期末はかなり簡単な問題が多く混じっていて、ちゃんと勉強していれば最低でも50点は取れるようだから、まだまだ甘いラインではあるな」
「それで、今ここで話すとしたら、それをクラスに共有するかどうかって事か、星野」
やはり幸村は頭が良いな。
芸能部での様々な経験が彼の視野狭窄な短所が解消されていっているのが分かる。
「ああ、最初の中間試験での退学ではポイントが0以下にはならない。まぁこれも例年Dクラスが数人退学になっているから、逆転が完全に不可能にならないようにするためのセーフティネットだな」
「だからこそ、本当に使えないゴミを中間テストで始末するってわけね。でも堀北はこれじゃ退学にならないから私はどうでもいいし、勝手にやってちょうだい」
櫛田が面倒そうに手を振って、部室のソファに怠そうに寝転がってスマホを弄りだした。
佐倉とみーちゃんはそれを見て困ったような顔をしている。
櫛田は名無しの権兵衛、どうやら堀北というらしいが、そいつがどうしてもキライらしく、退学にできるなら何でもやるそうだ。
こうしてモデルで裏の顔を売りにするのも当初は嫌がったが、学内で猫を被り続けてストレスためても、最大でも479人にしか称賛されないが、モデルで人気が出ると何万という人達から称賛されるぞと説得して納得して貰ったのだ。
そして、もし堀北を退学に出来る機会があれば、出来る範囲で手伝うことになっている。
そんな今の櫛田の日課はインストグラムとツレッターの投稿に貰える「イイッスヨ」のカウントが増えていくのをニヤニヤしながら眺めることだ。
櫛田の本性を知った幸村は「やはり女は怖い」と言っていた。だからといってホモには目覚めるなよ。ただでさえ、今度の夏の祭典で俺たちの薄い本が出そうで戦々恐々としているんだからな。これ以上の燃料投下は勘弁してくれ。
だが、佐倉が俺たちのシャッターチャンスを虎視眈々と狙っているため、半分諦めてはいるが。
写真集の売り上げに貢献しているのが唯一の救いだ。
「一応、Dクラスでは3馬鹿をどうするかだな。赤毛猿は運動能力が飛び抜けているから、今回は様子見だが、問題は池と山内だな」
「調べた感じだと池氏は親が生粋の冒険家で、子どもの頃から無人島に1人で放り出されて数ヶ月放置とかで鍛えられているからサバイバル能力で今後期待できるでござる」
「やはり高育に受かるには受かるだけの理由があるって事か。一芸特化型だな。山内は何か情報はあるか?」
「山内氏は親が詐欺師でござるな。それで詐欺の技術などを幼少から仕込まれていたそうでござるが、統合失調症を患って誇大妄想な虚言癖になって落ちこぼれて親に見放されているそうでござる。中学時代には多数の偽名で複数の中学や高校に通っていた形跡が発見できたでござるよ。一応小学校では卓球をやっていて、偽名で通っていた高校では野球部に所属してインターハイに出場して怪我をしたのは事実らしいでござる」
「ほう、一応野球が出来たのか」
「でも万年補欠で、怪我をした理由は打ち損じて選手席に飛び込んできた球が居眠りしていて直撃した為でござるな。その時に病院行きになって偽名がバレたようでござる」
「・・・・・・・・・要らないな、クラスの引き締めの為に消えて貰うか」
「あのぉ、Aクラスはどうしましょうか」
Aクラスの山村が遠慮がちに聞いてくる。
「Aクラスは派閥ごっこしてるんだろう。しばらくはそのまま放置だな。最終的にどのクラスがトップになるかは分からないが、今の部員分布からAをDに移す方が安上がりだろうからな」
Aクラスの部員は今のところ4人だけで、Dクラスの方が多いからな。
「それに、坂柳、だったか? 余裕ぶって遊んでる自称天才少女様がどうなるかは見物だしな」
「是非プギャーしたいでござるな」
「ふふふ、アクアくんに楽しんで貰えるように頑張りますね」
いや怖いよ、あかね。一体何をするつもりなんだ。別に俺は外村と違って「今どんな気分?」なんて死体蹴りをする趣味はないからな。
「さて、それじゃ確認事項は一通り終わったな。まだ時間は多少有るだろうし、お金貯めるために、少し撮影でもして帰るか」
こうして俺たちの4月は過ぎていった。
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