アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」 作:ムテキング
「哀、ふるえる哀、それは、別れ唄~♪」
部室棟の廊下に俺の歌声が響き渡る。
今日は生徒会の業務の一環で各部を視察している。
5月に入り、新入生の部活加入が落ち着いた頃合い。
そして新入生が今日からこの学校のシステムについて説明される日でもあり、それで部活内でも色々とトラブルが起きる可能性がある。
更に新入生による各部への賭け勝負が起こりやすいのもこの頃である。
なので各部を視察して、相談を受けたり1年生相手に過剰な賭けを持ちかけない様に指導する予定だ。
「あの・・・会長・・・いつもの事なのでもう歩きながら歌うなとは言わないんですが・・・」
そんな中、我が右腕である秘書官、いや、生徒会長書記の橘が躊躇いがちに声をかけてくる。
今日も頭のお団子が素敵だ。
やはりセシリア・アイリーンの様に秘書官たるもの、髪の毛は頭で纏めるのが伝統である。
生徒会に秘書官の役職があったならば・・・生徒会長権限で作れないだろうか。
そうだ、今度議題に挙げてみるか。案外すんなり行くかもしれん。
「どうした、橘秘書官」
「・・・書記です。いえ、百歩譲って歌うのは我慢します。恥ずかしいんですけど、もう今更なので我慢します」
「まどろっこしいな。要点を良いたまえ」
「ええ、もう我慢できないので言います。せめて、歌いながら腕を振るのだけは勘弁してください!」
「なん・・・だと・・・」
「いつもみんな、クスクス笑いながら見ているの気付かないんですか?」
確かに、女生徒達がそのようにしているのはよく目にするが、あれはガンダムの歌がカッコ良くて微笑んでいるのだと思っていたが、違うのか?
「いや、だがな、橘秘書官。この腕を振るのは歌を歌うときの正式な作法だと祖父上に習ったのだ」
「一体どんなおじいちゃんですか!」
「いや、私の祖父上は戦前旧陸軍の佐官で、大陸戦線では前線にて指揮を執って華々しい活躍をだな・・・」
「めちゃくちゃ軍人じゃないですか!」
俺もまだガンダムという至高の名作に出会う前、幼少の折にまだ元気だった祖父上と一緒に突撃銃のモデルガンを担いで“くろがねの力”や“加藤隼戦闘隊”などを歌いながら実家の庭を行進したものだ。
妹とは年が大分離れているため、祖父上の薫陶を受けられず、祖父上亡き後も1人で行進しながら歌う私のことを怪訝な顔をして見ていたが、もしやこれは一般的な事ではないのであろうか?
「もしや・・・普通はやらないのか?」
そういえば、父上も母上も困ったような顔をして見ていた気がする。
「はぁ・・・会長は変なところで常識がズレているんですよ。・・・・・・・・・どうしてこんな人を好きになったんだろう(ボソッ)」
「最後はよく聞き取れなかったが、確かに一般生徒はちょっと変なことをするなと思うときもあるな」
「変なのは会長の方ですからね。少しは自覚してください。私がどれだけ会長のイメージを良くするための印象操作に苦労してるか分かってるんですか?」
「だがな、橘秘書官よ。私は祖父上に国を背負って立つ立派な漢になれと言われてだな・・・」
「だからこそ、もっと世間のことを知るべきです!」
俺はなんとか威厳を保つべく反論するが、橘は遮るように声を上げる。
「例えば、一般の生徒達がよく食べるラーメンとか、一杯幾らぐらいだと思いますか」
「むむ・・・私の主食は芋とソーセージなのでラーメンはあまり食べないが・・・50マルクぐらいか?」
「なんでスラッとマルクが出てくるんですか。このガンダムキチのドイツ狂いが。しかも高すぎます」
高くても1200円、安い店だと500円ぐらいあれば食べられるらしい。
そんなに安くて利益は出るのだろうか。
「と言うわけで、会長はもっと世間のことを知るべきです。今度から私と一緒にいろんなお店に食事に行ったりお買い物に行きましょう。色々と私が教えてあげます!」
「あ、ああ。分かった。よろしく頼む」
橘秘書官の剣幕に押し切られてしまったが、確かに執政者たるもの、市井の生活を知るのも勉強になるか。
何故か顔を真っ赤にしてガッツポーズしている橘秘書官に俺は密やかに感謝の気持ちがわいてきた。
お礼に今度、オススメのガンプラとドイツ戦車のプラモデルを贈ってやろう。
そんな会話をしながら部室棟を歩いていると、外国語研究会の部室前で何やら揉め事が発生しているのが見えた。
「もうポイントがないとはどういうことでしょう。確か先月もそのような事を言われていましたよね」
「また来てくれた君には悪いが、確かにポイントはもうないんだ。悪いが帰って貰えないか」
「坂柳・・・もういい加減諦めなよ」
杖のついた小柄な女生徒が外国語研究会の部長へと文句を言っている。
話を聞く限り、部へ賭け勝負に来たがポイントが無いため断られているようだ。
「いいえ、今日は1日。そして貴方は3年Aクラスですよね。それなのにポイントが無いことは無いでしょう」
部長は俺と同じクラスの生徒だ。だから確かにポイントは13万程入っているはずだ。
「どう言われたって無いものは無い。なんなら俺らの端末全部見せようか」
「つまりなんですか。あなた方は1日で全てのポイントを何かしらに使ったってことでしょうか」
「その件に関して君に言う必要性を感じないね」
「ーーーー! 私を誰だと思って!」
「ちょっと! 坂柳落ち着きなさいよ!」
杖を振り上げようとした女生徒。そしてそれを後ろから羽交い締めにして止めようとする友人であろう女生徒。
流石にこのまま見ているだけなのは不味いだろう。
俺は両者の間に割って入る。
「そこまでだ! 双方とも武器を収めろ!」
「堀北会長! 良かった、助かった」
外国語研究会の部長、名前はなんだったか。なんか似てるからオルテガでいいか」
「会長、声に出てます。彼の名前は佐藤君です」
橘秘書官が耳打ちしてくるがまぁ良かろう。
「オルテガよ、ドムはちゃんと拝領したようだな。後は私がなんとかしよう。もう安心して下がっているがいい」
「・・・佐藤です。もうなんかどうでもいいんで後は頼みますよ、堀北会長。・・・ポイント貯まったら絶対整形しよう」
オルテガが部室の中に戻って、廊下には俺と橘、そして新入生と思わしき女生徒2人が残される。
「私が、高度育成高等学校生徒会長。堀北学である!」
「今度はなんのキャラなんですか、会長」
「む、橘秘書官。男塾を履修していないとは情けない。ガンダムも良いが男塾もまた名作だ。今度全巻貸してやるぞ」
アニメや漫画は日本の誇る偉大な文化だ。
日本人たるもの、それらの名作を履修するのは当然であろう。
祖父上からも様々な名作の漫画やアニメを教えられたものだ。
あいにく妹には理解されなかったが。
「1年Aクラスの坂柳有栖です。会長のお噂はかねがね耳にしています。よろしくお願いしますね」
俺の挨拶に目を丸くしていた女生徒達、その中で件の騒動を引き起こしていた杖をついた女生徒が口を嫌らしく曲げながら自己紹介してくる。
ああ、思い出した。今年入学した坂柳理事長の娘か。
坂柳理事長にも困ったものだ。幾ら娘が可愛いからってAクラスへとゴリ押しで配属するなど。
本来なら幾ら頭が良かろうが、障害で身体能力が劣り、尚且つこの他者を見下す性格なら我が妹と同じくDクラス配属になるのが妥当であろうに。
それが問題になって今や坂柳理事長の立場が大いに揺らいでいるというに先ほどのオルテガへの態度、己の立場というものを全く理解していないのであろうな。
それにAクラスにはあの娘がいる。
生徒会に誘ったのだが残念なことに「部活があるから」と断られてしまった。
だがあれの実力ならば坂柳理事長が失脚すれば容易にこいつを排除するだろう。
現に今も監視を付けているようだしな。
「ポイントの賭けについては両者の同意の下に行われるものだ。無理強いをするようなら幾ら理事長の娘であろうが、問題にせざるをえないだろう」
「確かに、ちょっと熱くなりすぎましたね。分かりました、ここは引きましょう・・・ですが、会長。代わりに今度私と遊んでくださいね」
「なっ! あなた! 会長に失礼ですよ!」
坂柳の挑発に橘秘書官が声を上げるが、私はそれを手で制す。
「私は生徒会長として全ての生徒に対して平等であるべきと心得ている。なので私的な争いなどはしない。だが・・・」
「だが? 何でしたら勝負を受けてもらえるのでしょうか? 私はなんでも受けて立ちますよ」
「そうか。なら今度ガンダムについて語り合おうでは無いか! ガンダムの議論なら俺はいつだって受けて立つぞ!」
「・・・・・・・・・は?」
「そうとなっては俺も急いで戻ってスケジュールの調整をせねば! 日程については後ほど連絡をする!」
「ちょ、ちょっと・・・まっ」
「ではな、坂柳有栖! サラダバー!」
久々にガンダムについて熱く語り合えることに心がぴょんぴょんした俺は思わず高笑いをあげて、呆然と立ち尽くす坂柳達と橘秘書官を残し『シャアが来る』を大声で歌いながらその場を去ったのだった。
後日、視察を忘れて帰ったことについて橘秘書官からお説教を受けた。
坂柳「たかだかロボットアニメごとき、私にかかればどうということはありません。DVDを数本見れば良いのでしょう。密林でポチりましょう・・・え? ちょっと・・・は? 一体ガンダムって何本あるんですか!? アニメだけじゃない? もう訳が分からないです!」
自分から持ちかけた勝負故に引くに引けない状況に陥った坂柳有栖の明日はどっちだ?
堀北会長の性格が色々と愉快なことになっていますが解釈の違いということで。
今更この程度で怒るような原理主義の方はここまで読んでないでしょうし。
モチベ維持の為にも感想、評価お待ちしております。