アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」   作:ムテキング

25 / 58
お待たせしました、鈴音回です。
名無しの権兵衛と揶揄されてきた彼女にようやくスポットライトが当たったので初投稿です。


お労しやお兄様

お労しやお兄様。

 

 

こんな不出来な私ではお兄様の哀傷がどれほどの物かなど推しはかる事など出来ませんが、それでもあの晩に聞いたお兄様の慟哭は今でも私の心に深く残っています。

 

 

私は人よりも多少記憶力が良いので、赤子だった頃からの記憶がまだ残っています。

妹が出来たことが嬉しかったのか、お兄様は赤子だった私をよく構っていました。

仕事柄忙しい両親よりもお兄様と過ごす時間の方が長かったほど。

そういえば、夜泣きでもあやしてくれたのはいつだってお兄様でしたね。

いつも子守歌として歌ってくれた、『いまはおやすみ』や『永遠にアムロ』などは今でもそらで歌うことが出来ます。

 

 

転機となったのは、いつだって家にいて私と一緒にいてくれたお兄様が珍しく家を空けたあの日。

 

 

年を明けるともうそろそろ2歳になる頃、12月の25日。

数日ぶりに帰ってきたお兄様は酷く落ち込んでいて、出迎えた私にも見向きもせずにお部屋に籠もってしまわれました。

夜半に目の覚めた私が、お兄様のお部屋に向かうと、お兄様のお部屋から泣き叫ぶ声、物が投げられて壊れるような音が絶え間なく聞こえてきました。

心配してお部屋の外にいた母が驚きでかたまった私を両親の寝室まで連れて行って抱きしめてくれました。

お兄様の泣き声を聞いたのはあの日が初めてでした。それが悲しくて、私も母の胸に包まれて静かに涙したのを覚えています。

 

 

 

 

それから、半年、お兄様はお部屋から出てくることはありませんでした。

 

 

 

 

お部屋の中からはお兄様の泣き声や叫び声などがいつだって聞こえていました。

こうなる以前からお兄様に入ることを禁じられていたお兄様のお部屋。

全くお部屋から出てこないお兄様を心配し、一度その扉をあけて覗いたことがあります。

 

 

非常に大きなテレビ。

壁中に貼られたロボットのポスター。

そして同じぐらいの枚数貼られた長い黒髪の少女のポスター。

 

 

テレビではそのポスターの少女が歌って踊っていました。

そして、その前で奇抜な法被を着たお兄様は泣きながら、両手に持ったペンライトを一心不乱にぐるぐると回しながら叫んでいました。

 

 

哀、哀、と。

 

 

私はそんなお兄様の姿を見ているのが怖くなって、逃げ出してしまいました。

 

 

幼い頃の私はお兄様に何があったのか、それが分からず、やっとお部屋から出てきたお兄様にもどこか距離を取るようになりました。

 

 

お兄様が悲しみを振り切るようにお家のお庭を声高く歌いながら歩いている姿も、私は遠く自室の窓から見ていることしかできませんでした。

何故、何故なのですか。一体にお兄様に何があったのですか。

そんな思いが顔に出ていたのでしょう。お兄様が私をそれに誘うことはだんだんとなくなっていきました。

 

 

それでもお兄様は会えなかった半年間を埋めるように私に構ってくれました。

私の知らない誰かを忘れようとしていたのでしょう。

幼稚舎に入った私が帰宅すると執着するように側にいてくれました。

私が喜ぶだろうとプリキュアやアイカツなど幼女向けのアニメを持ってきては一緒に見ていました。

お兄様にはきっと退屈であろうそれを私のためにと我慢して。

こまっしゃくれた私にはそれらの面白さが分からず、さぞつまらない顔をしていたのでしょう。

そんな私を見て色々と気に入りそうなアニメを持ってきては私を楽しませようと過剰にはしゃいでいるお兄様がいました。

私にはそんなお兄様の姿が痛々しく感じてなりませんでした。

 

 

ある日私は、お兄様に何があったのか、それについて意を決して母に聞いてみました。

 

 

日頃から、あんな失敗作のことなど忘れてお前は立派な人間になるんだ、そう言って何故か優秀なお兄様を疎んでいた両親。

そんな母にお兄様の事を聞くのはとても勇気がいることでした。

はじめは忘れなさいと何度も言われましたが、何日もかけてようやく重い母の口を開けることができました。

そして知りました。

 

 

お兄様の初恋が悲恋に終わったのだと。

 

 

お兄様は一体どのような恋をしていたのでしょう。

そしてどのような結末を迎えたのでしょうか。

 

 

それを知ったのは私が小学校に入り、インターネットの使用を許されてからでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「B小町。アイ。それがお兄様の初恋の相手だったのよ」

 

 

寮の裏手に設置されたベンチに項垂れてポツリポツリと堀北は兄との思い出を語った。

B小町。確か同じクラスのMEMちょが加入しているというアイドルグループの名前だったか。

アイは聞いたことがないな。

端末で調べてみるとB小町メンバーのトップアイドルで、もう10年以上前にストーカーに殺されたと記事に書かれている。

 

 

「これが逆恨みである事は私だって理解しているわ。でもしょうがないでしょう。誰よりも大事なお兄様をあんなにも傷つけたのだから。これが普通の女性相手の恋なら優秀なお兄様なら傷つくことなどなかった。それが原因で両親にも見放されることもなかった」

 

 

それはどうだろう?

部活動紹介で見た会長が恐らく堀北の兄なのだろう。

見た限りそうとう愉快な性格をしていたようだし、うちのクラスでいうなら池と同じポジションだろう。

勉強の出来る池?

あまりモテる要素は感じないが。

それに両親に見放された理由もなんか違う気がするぞ。

 

 

「だからこそ、私は許せないのよ。アイが、B小町が、そしてアイドルそのものが!」

 

 

そしてまた堀北はさめざめと泣く。

 

 

「ああ、お兄様、お労しやお兄様」

 

 

ところで思ったのだが、堀北の兄とは一体何歳なんだろうな?

指折り数えながらそんなことを考えていた時、後ろから近づいてくる足音が聞こえた。

 

 

「こんな所にいたのか、鈴音。探したぞ」

 

 

どうやらお兄様の登場のようだ。




なお視聴者は綾小路君でお送りしました。

モチベ維持の為にも感想、評価お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。