アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」 作:ムテキング
今回は時系列が行ったり来たりして、また視点も何度も変更されていますが、勢力ごとの思惑などの話になっているためと、純粋に筆力の無さに起因しています。
「あれ、全部姫さんの指示なんだってな」
豪華客船の最下層、人目につかない暗がりの中、橋本正義はやりきれない顔をして端末で通話をしていた。
「あいつ、泣いて謝ってたぜ」
先ほどまで見ていた彼女の痛々しい姿が今でも彼のまぶたの裏に焼きついている。
その光景を思い出す度に胸が締め付けられる思いだ。
「悪ぃけど、もう姫さんにはついていけねぇよ」
他の仲間ももう彼女には愛想を尽かして去って行った。
俺だって、ここまで無茶やられちゃ、正直庇いようがないし庇いたくもない。
「あんた、もう終わりだ。やり過ぎたんだよ」
端末からは姫さんの声がまだ聞こえていたが、俺は遮るように通話を切った。
「せめて俺も償わなきゃな。こんな状況で何が出来るか分かんねぇけどよ。流石に何もしないで他クラスにトンズラってのも夢見が悪すぎるからな」
自分でも柄じゃないとは思っているが、せめて傷ついた彼女を支えるぐらいしなきゃ男が廃るってもんだろう。
こうして橋本正義は名前の通り、正義を成すために覚悟を決めた。
Aクラスは混乱の極みにいた。
過酷な環境の中で行われるこのサバイバル試験。
苦心してひたすら耐えてる生活。
むやみに出歩けばどうなるか、それは二日目発生したあの惨劇、Dクラスの女生徒が坂道をどこまでも転がり落ちる光景を目にしていた彼らには明白であった。
しかもそれを引き起こしたのはこの場にいない戸塚弥彦であった。
勿論意図して起こしたわけではない。
口論の末に掴みかかってきた彼女を振り払ったため起きた事故である。
だが、幾ら麓付近とは言え、麓までは数十メートルある。
洞窟の前にある急な坂道、いや崖といっても差し障りがなさそうな急勾配な坂は、不用意に足を滑らせると彼女のようなことになるのだ。
故に、Aクラスの生徒達は洞窟から一歩も出ずに縮こまり、Cクラスから齎された味気ない携帯食料をただモソモソと食べて寝るだけの生活を強いられていた。
それなのに、5日目の朝、厳しい顔をした真嶋先生がやってきて、試験の失格とDクラスへの降格を通達されたのだ。
更に、慰謝料として260万ポイントの支払いが発生し、全員の口座から分割して強制徴収されたのだ。
何が起きたのかまったく分からないまま、船へと戻る失意のAクラス。
こんな時に皆を鼓舞してくれる葛城と、そしてそれを盛り上げる戸塚は昨晩から姿を消していた。
そしてAクラスは船に乗り込んでから、今回の説明をするということで、会議室に集められた。
「葛城康平と戸塚弥彦は重大な詐欺、暴行、いじめなどを行っていることが判明したため、昨夜付けで退学処分が下された。それによってクラスポイント600ポイントの没収、そして詐欺に遭ったクラスへの賠償と補填として400ポイントの移譲、また、いじめ被害にあったクラスへの賠償として100ポイントの移譲と260万プライベートポイントを支払うことになった。これによって、クラスポイントが0になり、Dクラスへの降格が確定した」
真嶋先生の口調は淡々としていたが、それゆえに生徒達へ現実に起こったことなのだと感じさせた。
「あの、本当に葛城君や戸塚君がそんなことをしていたんですか?」
葛城派の男子生徒が恐る恐るといった感じで質問した。
「ああ、残念ながら本当だ。複数のクラスから証言や暴行時の動画の提出などがされている。それにはこの試験直前に撮られて改竄の暇もなかった動画もあり、証拠能力が極めて高いと判断された。この暴行はいじめ問題にも直結していて、4月に説明したとおり、この学校ではいじめ問題には敏感でな。既に理事長の耳にまで入っていた。更に試験を利用した重大な詐欺まで行っていたことが判明し、退学処分が妥当という判断になった」
その言葉に呆然として立ち尽くす生徒、くずおれて顔を押さえて泣き出す生徒、憤りを露わに椅子を蹴り飛ばす生徒など、皆様々な反応をしていた。
そんな中、一人の女生徒が前に出てきた。
黒川あかねであった。
彼女は、この坂柳派と葛城派に別れたAクラスの中で、どちらの派閥にも与しないいわゆる中立派と呼ばれる集団をとりまとめていた真面目で大人しい女性であった。
そんな彼女は普段の物静かな態度とは違って見えた。
「Aクラスの皆さん。今回の件は私の責任です。本当に、本当に申し訳ありません」
それほど大きくないのに、後ろの方の生徒にも聞き取れるほどよく通る声で彼女は謝罪の言葉を述べ、頭を90度まで下げてきた。
「え、どういうこと? あかねちゃん、何があったの?」
普段黒川あかねとよく一緒に居て仲良くしている少女、山村美紀が黒川あかねの元まで来て頭をあげさせようとする。
だが、黒川あかねは一向に顔を上げようとしない。
よく見ると、彼女の足下にポツリ、ポツリと水滴が落ちているのが分かった。
それを見たAクラスの生徒達は彼女に何が起きたのか優しく問いかけた。
「実は、この試験が始まる前、船に乗る数日前ですが、坂柳さんに教えられたんです。無人島で特別試験が行われることを」
その発言にAクラスだけではなく、教師である真嶋先生も驚いていた。
「そこで、坂柳さんに言われました。葛城君と戸塚君を監視して、彼らを貶めろと。何か不正な事をしていたら問題にしろと」
そこで黒川あかねは真嶋先生に頼んで彼女の端末を返してもらい、中に保存されていた音声データを流した。
『ええ、今回のバカンスですが船に乗った後に無人島に下ろされてサバイバル試験が行われます。そこで極限状態になった彼らは普段はしないようなミスをするでしょう。そこをついて欲しいのですよ。勿論船の中でも彼らの事を監視しておいてくださいね。案外迂闊な戸塚君ですもの、豪華客船で浮かれて面白い事をしてくれるかもしれませんよ、フフフ。大丈夫です、今回程度なら些細な問題にはならないでしょう。ですが彼らの頭を押さえる事は出来ます。何時までも派閥争いをしているようでは貴方たち中立派も安心できないでしょう。それともお断りになりますか? 良いのですか? あなた、好きな方がいらっしゃるそうですね。その方の立場も悪くなるのではないでしょうか? 良い判断です』
その音声は間違いなく坂柳有栖の物であった。
そしてその言葉は到底看過できるものではなかった。
「私が断り切れず坂柳さんの指示通りに彼らを糾弾してしまったためにこんな事になってしまい、これは全て私の責任です! 本当にごめんなさい。何度謝ろうが許して貰えないし、許してもらおうなんて考えてはいません。ですが、私が全部悪いんです!」
黒川あかねはとうとう膝をつき、崩れるように頭を地面につき、慟哭しながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返し繰り返し謝罪を続けた。
Aクラスの生徒達は黒川あかねに非はないことは既に理解していた。
戸塚が普段からAクラスである事で選民意識が高く、他クラスを貶していたし、何より船から下りる直前にDクラスへの一方的な暴行を行っているのをその場で見ていた生徒も多数いるのだ。
そして、本来ならそれを諫める立場である葛城はその時に何も注意や謝罪などしていなかった。
恐らくあれも今回の問題になっているのだろう。
そして、そんな彼らを糾弾するのは例え同じAクラスといえど、否、同じクラスだからこそそれを正すべき立場であるべきであろう。
こんなクラス間闘争などという狂った状況でなければ、優等生として生きてきた彼ら彼女らの倫理観が黒川あかねの行動を支持するであろうと判断していた。
逆に、クラスの派閥争いの為に、黒川あかねを脅迫までして実行犯へと駆り立て、そしてこのように傷つけた坂柳有栖の方が倒すべき悪であろう。
自分の手を汚さず、派閥争いなどに関与せず静かに過ごしていた黒川あかねを人身御供とするその悪意に、吐き気が催される。
「おれ、坂柳の事、勘違いしていたようだ。Aクラスのためにと言っておきながら、結局自分が上に立ちたいだけなんだな」
坂柳派の男子生徒が吐き捨てるように口にする。
それをきっかけに周りの生徒が思い思いに坂柳への悪意を言葉にしだす。
「そういえば、なんで坂柳さん、ここにいないの? Dクラスの人が言ってたじゃん。参加は強制だって。あの坂から落ちてった子、明らかに風邪引いてたわよ」
「理事長の娘だからだろ。だから贔屓されてるんだよ」
「考えてみれば彼女がこのクラスなのも変だよね。頭は良いかもしれないけど、性格終わってるし、あまり言いたくないけど身体だって丈夫じゃないんだから」
「親の七光りで女帝気取りか。本当に良いご身分だな」
「黒川さん可哀想。彼女何も悪くないじゃん」
「悪いのは全部坂柳だっての」
「お、おい、お前ら落ち着けって。なぁ?」
「なんだよ、橋本。お前、まだ坂柳の肩持つのか」
「いや、森重。違うって。俺だってこれに関しちゃ納得いかねーよ。だけどまず黒川のこと考えてやらねーとだろ」
橋本の言うとおり、黒川あかねは今もまだ土下座のまま謝り続けている。
彼女の友人である山村美紀が必死になだめているが、それでも顔を上げようとしない。
橋本はそんな黒川のそばに膝をついて言葉が強くならないように心がけて話しかける。
「なぁ黒川。俺はお前が悪くねぇとまでは言わねぇ。やっちまったもんは取り消せねぇからな。だけど、今はこれからの事を考えなきゃいけねぇ。だから顔をあげてくれ。俺だって姫さん、いや、坂柳と連んでたんだ。悪いのは俺も一緒だ。だからさ、失ったもんをこれから取り戻そうぜ。どこまでやれるか分からないけど、このまま坂柳の掌の上で踊らされるだけなんて悔しいからな」
橋本の言葉に、それを聞いていた坂柳派の生徒達も黒川に謝り、そしてやり直そうと言葉をかける。
そしてそれは中立派、そして葛城派だった生徒達にも広がっていく。
葛城と坂柳、今までAクラスを率いてきた二人がいなくなり、Aクラスは初めて一つに纏まることができた。
「私、何が出来るかはまだ分からないけど、坂柳さんがもう一つ特別試験があるって言ってたの。無人島試験で葛城君達をおとしめれたらそっちの試験は好きにしていいって言われてたから。だから好きにしようとおもうの。今度はAクラスの為に頑張るから。取り戻すから。だから皆さん、見ていてください」
目を赤くして、顔もぐしゃぐしゃで、だが黒川あかねの表情は決意に溢れていた。
Aクラスの生徒達はそんな黒川あかねを支えていこうと、同じ思いを抱いたのだった。
そんな美しい光景を、真嶋先生はあの時何が起きたのかを思い出しながら、苦笑して見ていた。
その取引はサバイバル試験初日の昼に行われた。
「龍園、これが契約書だ。確認しろ」
Cクラスと契約を結びたいからと葛城康平に呼び出された。
そこには同じく呼び出されたCクラス担任の坂上先生もいた。
生徒側はAクラスの葛城康平と戸塚弥彦、Cクラスの龍園翔と山田アルベルトの4人だ。
葛城から契約書を受け取った龍園は時間をかけて契約に穴がないかチェックをしている。
彼は何度も感心するように小さく声を上げながら熟読している。
龍園は時間をかけてチェックした契約書を坂上先生に渡し、俺たち教師にも問題ないか確認をお願いしてきた。
なので、俺も葛城から写しを手渡され、チェックする。
提案はCクラスが200ポイント分の物資を提供する代わりに、Aクラスは対価としてAクラスの生徒全員が毎月2万プライベートポイントずつをCクラスに支払うというシンプルな物だ。
シンプル故に穴はないと、即座に決めれそうではあるが、龍園は200ポイントで得られる200クラスポイントと2万プライベートポイントが対等であるかを恐らく時間をかけて考えていたのだろう。
「おい、葛城。クラスの了承は取れてるだろうな?」
「ああ、この試験は俺がAクラスを率いているからな」
プライベートポイントの永続譲渡、それは流動的なクラスポイントよりも時に貴重な物になる。もしクラスポイントが200以下になれば支払いが維持できなくなり、最終的に支払い能力がなくなると学校側に判断をゆだねられ、重い罰則が発生することもある。
特に今回の様なクラスではなく個人のプライベートポイントを使用する取引の際は、その個人個人の了承を得ているかが重要になるのだ。
この時の俺は真面目な葛城の事だから問題ないだろうと見過ごしてしまった。
それを後悔したのは4日目の夕方、再度呼び出しを受けてからだ。
呼び出しを受けた先には、Cクラス担任坂上先生と、龍園翔、そしてAクラスの黒川あかねの3人がいた。
「真嶋先生よ、話がちょっと違うんじゃないか」
龍園翔が怒気を孕ませた顔で文句を言ってくる。
「一体何が起きた? 俺はまだ何も聞いてはいないが。黒川、何かあったのか?」
俺は自分が担当している部で話しかけやすい黒川あかねに尋ねた。
「実は先生・・・葛城君が、葛城君が私たちの許可も得ないで勝手に私たちのプライベートポイントを取引に使ったんです!」
「何だと? いや、葛城は了承を得ていると・・・」
「そんなことは言っちゃいねーよ。俺も後になってその時坂上に頼んでいた録音データ確認したんだけどよ、奴はAクラスを率いているとしか言っちゃいねーよ」
確かに、良く思いだしてみるとそう言っていたような。だとすると・・・。
「このまま俺が何も知らずにAクラスからプライベートポイントを受け取ろうとしたら、そのままカツアゲで訴えられる所じゃねーか。嵌めやがったんだよ、葛城の野郎は」
「つまり、詐欺って事ですよ、真嶋先生」
龍園翔と坂上先生が俺に詰め寄るが、俺も何が何だか分からない。
あの真面目な葛城が? 何かの間違いではないか?
そんな気持ちで一杯だった。
そんなとき、黒川がおずおずと声を出した。
「あの・・・言おうかどうか悩んだんですが・・・実は葛城君と戸塚君、普段から暴力をふるったり虐めを行っていたんです」
「ど、どういうことだ。一体・・・詳しく説明してくれ」
「普段からAクラスである事を笠に着てDクラスの事を馬鹿にしたりしていて・・・それに島に降りる直前も、デッキにいるDクラスの人に暴力を振るって暴言を口にしていました。その時も彼らはそれを謝ろうともしないで当然のことのように振る舞ってて。私、こんな事をしているAクラスが本当に優秀なのか分からなくなってきたんです。間違いにAクラスもDクラスも関係ありません!」
「真嶋先生、これは問題じゃないですかね。そういえば、二日目にその戸塚君と揉めたというDクラスの女生徒が坂から転落して怪我をしていましたね。あれは女生徒が自分で転んだだけの事故として処理されていましたが」
「それ、違います。私も友達も見ていましたけど、口論をしていたのは本当ですが、戸塚君が女生徒へと腕を振るって転ばせたんです。それがあんな大事故になって戸塚君が自分は何もやっていない、悪くないって言い出して・・・。後から来て何も見ていない葛城君が戸塚君の言い分だけを聞いて勝手に単なる事故だと先生に報告したんです」
確かに戸塚弥彦はプライドが高すぎるところがあり、問題視はされていた。
だがそんなことまでやって、しかも葛城がそれをもみ消そうとしたなんて。
胃が・・・こんな時に・・・また胃が痛くなって・・・。
「あ、先生。戸塚君が船に降りる前に起こした暴行ですが、証拠があります。あの時、島の綺麗な映像を資料に残したくて動画を撮ってたんです。それで動画を撮ってるときに起きたので、ちゃんと映ってるはずです。私、保存したままで端末を預けたんで、証拠になるはずです」
それを聞いた坂上先生は船に残っている職員に連絡を取り、黒川あかねの端末を取り寄せた。
『美紀ちゃん、島見えるって、楽しみだね』
『うん、夜とか星見えるかな』
『きっと凄い綺麗だよ』
黒川あかねの声と、この声は山村美紀か。
端末には船の廊下が映っており、他のAクラスの生徒の背中も見える。
そして映像が船からデッキに出るあたりで事が起きた。
『葛城さん! デッキですよ! 早く行きましょう!』
戸塚の大きな声が横から響いてきた。
映像の先には島を背景にDクラスの須藤と外村が三脚を組立て、大型のカメラを設置しているところが映っている。
『おい、弥彦、Dクラスが先にいるぞ』
『分かってますって、とっとと退けてきます』
そう言って、戸塚が横合いから走り出してきて、外村を左腕で払うようになぎ倒すところが映った。
外村はなすすべなくなぎ倒され、そして設置されていたカメラがデッキから落ち、下へと消えていったところまでくっきりと映されている。
『テメェ何しやがる!』
須藤が倒れた外村を抱き起こしながら、戸塚へと文句を発するが、戸塚はそんな彼らに嘲笑うような顔を向け、『お前らもこの学校の仕組みは理解しているだろう。ここは実力主義の学校だ。Dクラスに人権なんてない。不良品は不良品らしく大人しくしてろ。こっちはAクラス様なんだよ』と侮蔑の言葉を口にした。
Dクラスはここで揉め事を起こすのを嫌ったのか、そのまま引いたが、葛城と戸塚はそんな彼らに最後まで謝罪の言葉をかけることはなかった、
ただ、黒川あかねと山村美紀の、酷い、可哀想、後で私たちが謝らないと、という言葉だけ記録されていた。
また、持ってきた職員によると、同様の証拠データがDクラスからも提出されていて、紛失したカメラの件も併せて試験終了後に訴える予定であった事を伝えられた。
「これは・・・酷いですね。Aクラスの取るべき態度だとは到底思えません」
「クソだな、こりゃ。これならうちのロクデナシ共の方がまだマシだぜ。自分がクズだってことは自覚してるしな」
「真嶋先生、あのカメラ、かなり高そうですが幾らぐらいなんでしょうね」
「く、あれは確か外村の私物でニコン製のプロ仕様の望遠レンズで220万程、カメラも合わせると250万はしたはずだ。購入する際に俺も色々相談されたからよく憶えている。色々工面してこの夏前に漸く買えたと喜んでいた」
「そ、そんなにですか。どうやって、ああ・・・失礼、真嶋先生のご関係でしたか、私は何も聞いていません、龍園君も外村君に関しては忘れてください」
「ああ、例のアレか。まあアレには関わらねえ方がいいか。俺も何も聞いてないぜ」
「ですが、それだけの物、弁済せずに済ますことはできませんね」
俺は坂上先生と龍園翔へと何の反論もすることはできない。
ここまで明確な証拠がある以上、上へと報告する必要が出てくるだろう。
それに、戸塚弥彦に突き落とされたという女生徒、堀北鈴音は生徒会長堀北学の妹で、事故が起きたことを何処から知ったのか、自身の特別試験すら放り出してチャーターしたヘリで船まで駆けつけつきっきりで看病している。
彼は安全対策が徹底されていなかった事について激怒していて、私たち教師だけでなく、理事長にまで問題にすると言ったのだ。
更に堀北の家もかなりの名家、堀北学が入学する際に多額の寄付をされたし、堀北鈴音はその堀北家の次期当主だ。
坂柳理事長はもう終わりだろう。
調査委員会が動いているという噂も聞いているし、その上、今回の問題だ。
更迭は免れないだろう。
後は俺たちの処遇だが、ここで甘い判決をしよう物なら、坂柳理事長と同時に首を切られるのは確実だ。
ここに至っては致し方無し、か。
「Aクラスの担任ではなく、1年担当の総括として判断を下す。葛城康平と戸塚弥彦は退学処分とする。罪状は詐欺、暴行、いじめで、証拠も全て揃っている。そしてAクラスは試験を失格とし、Cクラスには補填としてこの試験で得られるはずだった300クラスポイントと、そして賠償として追加に100クラスポイント、併せて400クラスポイントを移譲する。また、Dクラスの訴えについても当事者である二人が退学になる前にここで判決を下す。Dクラスの訴えは正当とし、AクラスからDクラスへ100クラスポイントの移譲、そして被害に遭った外村秀雄にカメラの弁済も含めて260万プライベートポイントを支払うように命ずる」
こうして2人の退学ペナルティである600クラスポイントも差し引かれ、Aクラスは全てのクラスポイントを吐き出すことになり、Dクラスへの降格が決定した。
俺は、これが全て彼女の謀略の結果だと理解していた。
だが、それでも俺にはこの判断しか下すことはできなかった。
俺は嵌められた葛城康平と戸塚弥彦の二人、そしてこれから苦難の道を進むであろうAクラスの生徒達に心の中で謝罪を行った。
それにつけても、胃が痛い。
そして時は遡る。
龍園翔は考える。
このサバイバル試験をどう乗り越えるか。
見るからに凶悪極まりない地形。
こんな島に、纏まりも落ち着きもないCクラスの馬鹿共を放り込めば、一週間も持たずに死体の山だ。
かといって、ただ単にリタイアしても旨みはない。
Cクラスの統治にも支障を来すだろう。
やはりあの提案に乗るか。
龍園は試験が始まる前に、不審なメールを受け取っていた。
差出人は不明。
参謀の金田に調べさせたところ、幾つかのアカウントを踏み台にしていたようで大分時間は掛かったが、最終的にDクラスの堀北鈴音まで行きつくことが出来た。
あの俺を嵌めてくれた女狐だ。
やたらプライドの高い女だが、陰湿な手は得意らしく、他にも色々ちょっかいをかけられていた。
それで奴に誰だか正体は割れてるぞと返信してやったら、実力は確かなようだわ、と舐めた返信をよこして来やがった。
こりゃ戦争か、と思っていたが、奴からのメールには続きがあった。
今回は共闘を持ちかけられたのだ。
どうやら奴にはAクラスに草がいるようで、今回行われる特別試験とやらで坂柳派から葛城派への攻撃が行われるという情報を得ていた。
そして葛城派も坂柳が参加しない今回の試験で大きく動き、主導権を取るべく動こうとするだろうと予測まで。
堀北の提案は、その勇み足をしたあのハゲの足を掬おうということだ。
わざと穴の空いた契約を持ち出し、それを葛城に修正させ、あたかも葛城側から提案されたという形にする。
そして本命は、クラスメイト全員からプライベートポイントを徴収するような、クラスメイト一人一人から明確な了承を得ないといけない内容を盛り込みむことだ。
それさえ認めさせれば、後は草がAクラスの中立派にいる正義感の強い奴に不正な取引がされていることをつげ、告発させる流れになる。
ミスディレクションというやつだな。
わざわざ大きな穴を見せ、それに注目させて本命を隠す。
ならば試験開始して直ぐに取引を持ちかけ、反対するようなら他のクラスへと持っていくといえば葛城達は焦り、全員から了承を得ないで締結しようとするだろう。
俺でさえ全員から了承を取るのは時間が掛かる。クラスが分割されている奴らなら更に必要なはずだ。
あとはこっちの話の持って行き方で思考誘導可能だな。
そして不正発覚後はAクラスから慰謝料としてガッポリとクラスポイントを巻き上げる算段だ。
Dクラスも可能なら援護をするとのことだが、そこまでは信頼してねぇ。
あくまでリスクを取らずAクラスのヒットポイントを削りたいのだろうな。
踊らされるのは癪だが、Cクラスにも旨みがあるがあるのは確かだ。
今回だけはのってやろうじゃねーか。
だがな、覚えておけよ堀北。
Aクラスを調理したら次はテメェの番だぜ。
「おい、葛城。取引しねぇか?」
この判断は間違っちゃいなかった。
結果、Aクラスは無様に敗退し、俺らはBクラスへの昇格を果たした。
船に戻って直ぐ、黒川あかねから坂柳有栖への無人島試験の結果報告を横で聞きながら、坂柳有栖の付き人はあの密談のことを思い返す。
いつものように坂柳についていった人気がない夕方の教室。
そこに彼女はいた。
「ごきげんよう、“黒川あかね”さん」
坂柳は教室で待っていた二人のうち、女生徒の方に挨拶をする。
私は軽く会釈だけする。
「隣にいるのは鬼頭君ですね。中立派の用心棒だとか。よろしくお願いしますね」
その言葉に、鬼頭君も軽く会釈をしてくる。
そして坂柳は私へと視線をよこす。
「こちらは私の“お友達”の“神室真澄”さんです」
「ええ、話したことはないけど“神室真澄”さん、黒川あかねです。よろしくね」
「・・・はじめまして」
後は私はもう黙っているだけだ。
本当は関わりたくないが、今回は橋本ではなく私が一緒について行けと“あかね”に言われたのだからしょうがない。
その後、坂柳はあかねに葛城を嵌めるように脅しをかけていた。
あかねはそれに対して反対しているが、どの口がと思う。
結局は全てあかねの掌の上の出来事。
坂柳は見事に嵌められたのだ。
『は? 0ポイント? 獲得ポイントが0ではなく?』
「ええ、クラスポイントが0です。これでDクラス。最底辺へ真っ逆さまですよ」
『は? え? なんで? どうしてそんなことに?』
「坂柳さん言ったじゃないですか、クラスポイントはどれだけ下げてもいいと。だから頑張っちゃいました。」
『一体あの試験でどうやって・・・クラスポイント下がらないはずなのにどうやって?』
「それは、秘密ですっ、でも直ぐに分かりますよ。それに報酬は無しで良いよ。賠償金まで発生しちゃったから。あ、この後Aクラスは会議室に集まるように言われてるから、これで切るね。じゃあ良い夏休みを」
通話を終えたあかねは側にいた外村へと目をやる。
「大丈夫でござる。通話記録も、録音されていた有栖たんの端末データも全部まとめてすっきり削除したでござる」
「ありがとうね。それじゃ坂柳さん、これからちょっと酷い目にあうとおもうけど、二人ともメンタルケアよろしくね。流石に自殺とかされると困っちゃうし、彼女はまだ使えそうだしね」
「お任せあれでござる。有栖たんは拙者のストライクゾーンど真ん中でござるから」
「あたしは嫌なんだけど、絶対坂柳と一緒に針のむしろじゃん」
それにあかねはてへっと可愛く舌を出しただけで流した。
「坂柳有栖、確かに天才だとは思うよ。正面から戦えば凄く強いと思う」
だけどね、とあかねは続ける。
「だったら何もできなくすれば良いだけだよ。目と耳を封じ、手足をそいで、部屋に閉じ込めてしまうの。安楽椅子の名探偵はずっと安楽椅子に座らせておけば良い。全部彼女のあずかり知らぬところで終わらせてしまえば、こんなに簡単に嵌め殺せる。今頃パトロンの理事長も燃えさかってるだろうしね」
明るいその言葉に、心底彼女が恐いと感じる。
絶対逆らってはいけない存在だ。
「さて、これでAクラスは私の物。アクアくんにはもっと楽しんで貰わないといけないし、こっから巻き返さないとね」
あかねの雰囲気が変わる。
「さあ、蹂躙しますよ」 (BGM メフィスト)
割と長くなってしまいましたが、切りどころがなく一挙に掲載です。
最初、バズーカカメラって100万ぐらいかなって考えてたんですが、賠償金額を調べようとバズーカレンズの値段調べたら凄くお高いのを知りました。
それでも、葛城君と戸塚君の所持しているプライベートポイントを全部使って、38人で割れば一人6万ぐらいですむでしょう。
来月から山菜定食生活が待っているでしょうが強く生きて欲しい。
純粋に仲良くキャンプしていたBクラスが異色なんよ。
モチベ維持の為にも感想、評価お待ちしております。