アクア「MEMちょのために高校を紹介したら彼女も着いてきた件」 作:ムテキング
「厳正な調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした、か。厳正な調整、ね。つまりランダムな抽選じゃなく、厳正なる規則性のもと、優待者が決められているという事だよね」
今し方届いたメールを見ながら黒川あかねは思考を巡らせてる。
ここは朝まで借り切った会議室で、壁中にプリントアウトされた資料や写真、メモ書きなどが所狭しと貼り付けられていた。
ホワイトボードにも隙間なく書き込みが行われ、周りではAクラスの生徒達が重要度の高い順に書類を分類している。
その中心になっているのが、元Aクラスを新たに率いていく黒川あかね、そして元Dクラスの外村秀雄である。
「あかねたん、Bクラスの園田正志が中学時代に書いていた日記が手に入ったので印刷するでござるよ」
「ありがとう、印刷終わったら読むから纏めておいて。もう第一回目までの話し合いまで時間が少ないから私のグループを最優先でお願い」
「言われるまでもなくそうしてるでござるよ。おっと同じくBクラスの鈴木英俊の痛々しい設定ノートが彼の妹さんから送られてきたでござる」
その様子を元Aクラスの生徒達は恐怖の眼差しを向けて見ている。
「最初はなんでD、いやCクラスの奴を呼ぶんだって思ったんだけど」
「ヤバすぎだろ、あれ。なんであんなに簡単に情報集めてくるんだよ」
「私、彼に買ってきたエナドリを渡したら、お礼にって私がお気に入りに登録していた同人誌の電子データを端末に送ってきたのよ。お気に入りに入れたの昨日なのに」
「黒川さんが学年一の情報屋だって言ったときは何言ってんだって思ったけど、過小評価過ぎるだろう」
外村秀雄は昨晩から元Aクラス以外の生徒の情報を余すことなく調べあげ、黒川あかねに提供していた。
そして黒川あかねはその全てを脳にインプットし、取捨選択をし、どのような人間なのかを本人以上に理解していくのだ。
「ふむふむ、シンキングって言ってたから単純な人狼ゲームだとつまらないと思ってたけど、優待者に規則性があるとなると話は別かな。最悪は全グループを見ていく必要があるかと思ってたけど、思ったより早く終わりそう」
黒川あかねは片手で届いた園田の日記を速読しつつ、規則性について考察していく。
「だとするとやはり怪しいのは“何故干支なのか”と、“一度クラスの関係性を取り除け”って所かな」
数分で3年分の園田の日記を読み終え、ゴミねって感想を付け、無造作にゴミ箱に投げ捨て、今度は鈴木の中二ノートを手に取り、更に思考を巡らせる。
「ふふ、鈴木君なかなか愉快な人ですね。ディテールがしっかりしてきた。もう彼のこと完璧に演じれそう。干支か、名前に干支のモチーフ? いや全然関係ないグループもあるし、となると順番とか? ちょっとごめんなさい、うちのクラスの優待者まだ分かりませんか?」
「えっとまだ、あ、連絡来ました。優待者は3人です、メール転送します」
「3人か。やっぱり公平になるように人数は全クラス同じなのかな。へー、この3人か。確かこの3人のグループは・・・そうか、そうかそうか。なんか分かっちゃった。後はこの仮説を実証すれば・・・ねぇ、ちょっと全員集めて貰えるかな?」
そしてピーマン体操の鼻歌を歌いながら黒川あかねは元Aクラスの生徒達が集まるのを待つのだった。
そして第一回目のグループディスカッションが始まる。
辰グループの部屋は重苦しい空気に包まれていた。
いち早く部屋に待機していたは元Dクラスだった。
そのメンバーは3人、星野アクア、幸村輝彦、そして堀北だ。
星野と幸村は顔をこわばらせ、顔面に汗をしたたらせながら緊張して座っている。
それは何も部屋に室内制圧用のPDWを携えた厳つい自衛隊員がいるからだけではないであろう。
確かに部屋に入ったとき、その自衛隊員を見た星野と幸村はギョッと驚いたが、銃を携え、ピクリとも動かずに待機している姿は慣れてしまえば人形と一緒に、いややはりちょっと恐いと感じる星野と幸村だった。
だが、彼らが緊張している一番の原因は隣に座った堀北であった。
堀北は普段のクラスで見せる姿とはまるで違って見えた。
威風堂々と、自信溢れる態度で姿勢正しく椅子に座っているその姿は、実に堂に入るもので、威厳を感じさせるものであった。
そして元Dクラスに遅れて入ってきた元Cクラスや元Bクラスのメンバーも、自衛隊員と堀北の姿に威圧されてしまい、無言のまま椅子に座っている。
誰が話を切り出す? お前が行けよ。いやいやそっちが話せよ。そんな牽制が元Cクラスと元Bクラスの間を無言で飛び交っていた。
「ふむ、ちょっと良いかしら?」
「あ、ああ、どうした堀北」
重々しく口を開いた堀北に対し、星野は若干気圧されながらも切り返す。
「こうやって全クラスが変更されたのだから、クラスごとの呼び方は変える方が利便性の面でよろしくなくて」
「そうだな。確かに今後もクラスポイントの変動によってクラスが変わるのなら元Dクラスとか元Cクラスとかだとどの時点が元なのか分かりにくいか」
幸村も堀北の発言に一理あると同意する。
「そうだな、俺はリーダーの名前で呼び合えば良いと考えているが。元Bクラスは教祖様が率いてるから教祖クラス、元Cなら金八クラスだな。そして俺たちのリーダーと言えば」
「当然、この私、高度育成高等学校1年元Dクラス筆頭組長! 堀北鈴音である!」
「・・・ああ、堀北クラスでいいよ」
「よし、決まりだな。教祖クラスと金八クラスの皆様方、よろしく頼む」
堀北が恭しく頭を下げる。
それにつられてつい頭を下げようとした両クラスだが、「おい、ちょっとまてや。誰が金八先生だコラ」Cクラスの龍園翔が異を唱えた。
「いや、どう見ても若い頃の金八先生だろ。そっくりじゃねーか」
「いや、キャスバルよ。私は彼の事をエレドアと心の中で呼んでいたぞ」
「エレドア・・・ガンダムだと・・・ああ、08小隊に出てくる戦車兵か。まぁ似てると言えば似てるか。それとキャスバルってのは俺の事か?」
「その金髪に端麗な顔立ち、そしてその碧い目。何処からどう見てもキャスバル・レム・ダイクンの生まれ変わりであろう。だがアルテイシアは渡さないぞ」
「俺のアルテイシアは今頃家で食っちゃ寝してるだろうよ」
星野と堀北の軽快なトークに、流石の龍園はぶち切れそうになるが、この堀北相手、そして後ろで睨みをきかせる自衛隊員を見て、何とか怒りを抑えた。
「すまない、星野、でいいか。俺も聞きたいのだが、何故俺のクラスは教祖クラスなのだ?」
「ああ、元Bクラスは宗教やってるんだろう。いや、別に俺は誰が何を信じようが気にしないから大丈夫だ。一之瀬教だったか? 確かお前のクラスの白波という女生徒が言ってたぞ。一之瀬帆波はBクラスの神だってな」
その言葉に何か思い当たる節があるのか、Bクラスの生徒は頭を押さえながら「白波の奴・・・」と嘆息をもらす。
「クソッタレが、俺の名前は龍園翔だ。そして俺のクラスはこれからは龍園クラスと呼びやがれ。二度と金八先生呼ばわりするじゃねえぞ三下が!」
「俺のクラスもできたら一之瀬クラスとだけ呼んで欲しい。俺は神崎隆二だ。よろしく頼む」
そうか、こいつがBクラスの参謀の神崎か。
こいつは一之瀬を盲信している信者の目じゃないな。参謀役ってのも頷ける。一之瀬帆波のぽわぽわした理想を現実の形へと落とし込むのが彼だろう。まだどことなく甘さが感じられるが、挫折を知りそれでも折れずに成長したら一角の人物になりそうだ。
どうやらこのグループはクラスのリーダー格が配置されたクラスなのだろう。
そして一之瀬ではなく神崎が選ばれているのは、学校側は一之瀬よりも神崎を評価しているという表れであろう。
堀北が選ばれているのは茶柱先生のせめてもの抵抗と考えるべきか。
俺も呼ばれている以上、上の方にはバレているようだが、他クラスの生徒側には堀北がリーダーに見えるように情報操作をしているからな。
そしてこれから来るであろうAクラスには、新たなリーダーとして君臨した彼女が・・・。
星野がそこまで考えたその時、部屋の扉が開かれた。
「ごめーん送れちゃって。でもギリギリセーフだよね」
Aクラスの彼女がやってきた。
「1年元Aクラス、黒川あかねと愉快な仲間達の到着でーす。よろしくね。って、あれ? あれれ? なんで堀北先輩がいるの?」
「私は高度育成高等学校1年元Dクラス筆頭組長! 堀北ぁ鈴音である!」
黒川あかねのおどけた言葉に、堀北・・・先輩が大音量で答えた。
そう、何故か袖を肩の付け根までまくり上げた女子制服を着て、堀北鈴音を彷彿とさせる黒髪ロングヘアーのウィッグを被り、そしてサングラスをした堀北生徒会長がだ。
「やっとツッコむ奴が現れたか」
「誰だってあんなのに関わりたかねぇからな」
神崎と龍園が頭痛を堪えるような仕草をしているが、それは俺らが昨夜通った道だ。
「いや、どう見ても堀北生徒会長でしょう?」
「今の私は堀北鈴音だ。それ以上でもそれ以下でもない」
そんな大人、修正してやれば良いのか? だが自衛隊員がどう動くか分からんから修正できないな。
「これが若さか・・・」
修正されてないのに言うのかよ。
「えっと、どうすればいいのかな。流石にこのパターンは考えてなかったよ」
あかねの想像を超えるって何気に凄いよな。さすが歴代最優秀の生徒会長。これが歴代最優秀とか悲しくなるな。
「昨日真嶋先生から説明されたが、この試験中は堀北会長は堀北鈴音の代役になる権利を購入しているそうだ。なんでも500万払ったらしい」
「生徒会長はシスコンって聞いてたけど、ここまでなんてね。人物像修正しておかないと」
「確かに私はかつて堀北学と呼ばれたこともある男だ」
かつても何も、今だってあんたは堀北学だろうが。
「戦いの始まりは全て怨恨に根ざしている、当然のこと。しかし怨恨のみで戦いを支える者に私を倒せぬ。私は義によって立っているからな!」
いやどう考えてもただの私怨だろう。妹が重症を負わされた意趣返しをしたくて代役になったんだろうに。だが都合が良い。少しでもあかねの思考のノイズになってくれれば。
「まぁ堀北先輩がいようといまいとどっちでもいいですよ。どうせ結果は変わりませんから」
あかねは陽気にそう言って空いている椅子へと座った。他の黒川クラスの生徒もそれに続く。
あかねは今日は最初から憑依してる。
もしかして、もう優待者について当たりを付けているのか?
「えっと、確か自己紹介からするんだよね。改めて、元Aクラスでリーダーをさせて貰う事になりました。黒川あかねです。短い間だけどよろしくね」
そしてそれに続くように元Aクラスの生徒から自己紹介を続ける。
俺たち、辰グループのメンバーは以下の通りだ。
辰チーム
黒川クラス 黒川あかね、西川良子、的場信二
一之瀬クラス 安藤沙代、神崎隆二、津辺仁美
龍園クラス 小田拓海、鈴木英俊、園田正志、龍園翔
堀北クラス 星野アクア、堀北鈴音、幸村輝彦
本来ならリーダー格を集めて高度な駆け引きを行う知能戦を学校側は想定しているのだろうが、黒川がメンバーにいる時点で結果は既に見えている。
なので、俺はクラスメイト達に俺たちのチームがまず最初に脱落するであろうことを伝え、それに動揺せずに冷静に試験に挑むように伝えてある。
順に自己紹介は続き、そして最後に堀北会長の自己紹介が終わり、グループディスカッションが開始された。
「まずは、このグループをどの結果に持っていくかを話し合おうと思うのだが「ちょっといいかな?」」
神崎がイニシアチブを取るべくいち早く話を切り出してきたが、それはあかねに遮れた。
「ごめんね、結果についてはもう決めてあるんだ」
「ああ、どういうことだ」
龍園が凄むが、あかねは一向に気にした様子もなく涼しげな顔のまま口を開く。
「私たちはここに話し合いに来たんじゃないの」
唐突にあかねの気配が切り替わる。
息苦しく感じるほどの存在感があかねから発せられる。
その圧倒的な存在感が俺たちの目をあかねから逸らさせない。
今日はまたとんでもないのを憑依してやがる。
「どのクラスが最強か。それを証明に来たんだ」
あかねは唐突に柏手を打ち、甲高い音が響く。
「優待者はアタナだ」
終わった。
もう、あかねは誰が優待者か見抜いただろう。
どんなに隠そうとしても、場の雰囲気と目を逸らせない存在感を演出し緊張状態にした上で意表を突く。そこに質問を挟み込めば、それを隠そうとする者ほど心が乱れてしまう。
そして他人をその人よりも深く理解する事の出来るあかねにとって、どれだけ小さな揺らぎでも感知することが可能だ。
感情を持つ人間である以上、誰であろうがあかねに隠し事など出来ないのだ。
あかねは、打ち合わせた手をそのまま口元へと寄せ、ニヤリと笑みを浮かべる。
そしてゆっくりとポケットから端末を取り出す。
「うん、証明完了かな。やっぱり君だったね。鈴木英俊君」
その名前を口にすると同時に、端末を軽くタップした。
すると俺たちの端末から通知音が鳴り響き、部屋のスピーカーからアナウンスが流れた。
『辰グループの試験が終了しました。辰グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないように気をつけて行動してください』
「終わった・・・だと」
龍園が呆然と言葉を零す。
その龍園の隣に座っている鈴木英俊は可哀想なほどに顔面を蒼白にして震えている。
そしてさほど間を開けず、次々と端末に通知が届き、他のグループも終了したアナウンスが8回続いた。
つまり、黒川クラス以外が優待者であるグループを全て終了させたのだろう。
「テメェ、証明完了って言ったな。つまり優待者の法則をもう見抜いてて、それを確認するだけにさっきの芝居を打ったって事か」
「ん、まぁそういうことかな。だけど、もし法則がなくても1年生なら誰が優待者であろうがもう見抜けるよ。全員もう憶えたから」
「けっ、やっぱりあんときは猫被ってやがったのか。劇団ララライの天才女優の名は伊達じゃないって事だな」
「演劇とか見なさそうなのによく知ってるね」
「意外と教養があるかもしれねーぞ。今回は素直に負けを認めてやるが、次はこうは行かねぇ。首洗って待ってろ」
そう言って、龍園は一人部屋を出て行った。
他者を観察し、他者になりきる憑依型のあかねにとって、人狼ゲームなんて質問一つで簡単に見抜いてしまえる。
事前に相手が誰か分かっていれば、まさに赤子の手をひねるようなものだ。
やっぱりこの試験であかねに勝てるわけはなかったか。
「残り3グループは必要経費だから好きにしちゃっていいよ。出来る物ならね。じゃあね、アクアくん」
そう言って、あかね達は部屋から出て行った。
全く、楽しませてくれるじゃないか。
ああ言われちゃ残り3グループ、是が非でも取ってやりたくなってくる。
「行くぞ、幸村。戻って作戦会議だ」
「ああ、意地を見せてやらないとな」
「新しい時代を創るのは老人ではない、ということか」
堀北学は彼らに新しい時代の訪れを感じるのだった。
「フ、これでは私は道化を演じただけだな。鈴音、早く戻ってこい。お前も自らの意思で変わるときが来ているのだ」
そして、悦に入っていつまでも一人語りをしている堀北学を自衛隊員は内心辟易しながら見ているのだった。
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